第212話:家建てます。一軒50万で(3)
12/06:誤字を修正しました。
12/10:一部表記を修正しました。
下らない。
何が、富国強兵か。
やっていることはただの侵略ではないか。
そして、富国といいつつ民からは税を取り立て、そしてそれを元に再び軍拡を行う。
何故、軍だけに金をつぎ込む? その金は元々は民のものだ。民のために使うのが筋ではないだろうか? 新たな人員、強固な城壁、強力な武器。そんなことより学校を建てろ、道路を整備しろ、氾濫を頻繁に起こす川を治水しろ。使わなければいけないことは他にもあるはずだ。
民は疲弊している。働いても働いても楽にならない生活。若い男性は徴兵され若者はどんどん少なくなる。気付けば腰が曲がり、真っ直ぐに立つことが出来なくなっても働かなければ生きていけない。
人は働くだけの生き物か? 違う! 勉学に精を出すのもよし、魔法の鍛錬に精を出すのもよし、のんびり生活するもよし、冒険者となり各地を旅するのもよし、恋愛するのも良し、若い子たちを育成するのもよし。喜怒哀楽、人により様々な生き方があるのが人間ではないか! それを他人が奪う権利などあるはずがない。いや、あってはならない!
私は決心をした。
罪なき人々を守るため。誰もが笑っていられる国を作る為。私は自らの命をかけ、戦うことを……
これは聖戦だ。人々を苦しめる王から人々を開放する聖戦である!
さぁ、立ち上がるのだ圧っせられし民どもよ!
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「私もぜひ一軒お願いしたい! お金ならすぐに払う!」
「いや、まて俺が先だ! なんなら追加料金も払う!」
「病弱な妻がいるんだ! どうか、私たちを優先してもらえませんか!?」
騒然とする店内。狭いお店の中は既に人で敷き詰められていた。そして、店の外にまであふれだす始末だ。ざっと見た感じ200人ほどはいるだろうか? 飲みに来た兵士たちが何事と騒ぎ、普通に買い物に来たお客は日を改めようと店を後にしようとするが、すでに出入りをする場所自体が人で埋まっており外に出ることが出来ず困惑をした。
「……えっと、これは何なのクロ?」
人が入り込んでいないカウンター側から状況を見ているエリラは、何故こんな状況になったのか理解できなかった。
「思ったよりか食いついたな。まぁ、まだ序の口だろう」
そう言いながらクロウは、前もって用意していた用紙を取り出し訪れていたお客に回していく。
「家を建ててもらいたい人は、ここにおおよその場所と支払方法を記入してくれ。順番は俺に提出した順にしていくから、早い方がいいぞ」
それを聞いたお客は我先にと用紙に記入を始める。そして、書き終えた者がまだ書き終えていないお客を跳ね除け、クロウへ用紙を手渡す。その後ろからまだ手渡せていないお客が、手渡したお客を後ろへと引きずり込み、前へと出る。その際限ないループで店内は、ちょっとした地獄絵図になっていた。
「こ、怖い……」
目の前で起きている惨状に素直な感想を述べるエリラ。この人たちには並ぶと言う意識は無いのだろうかとつくづく思う。もっとも災害時にもきちんと並ぶ日本人が異質で、今目の前で起きている光景が普通なのかもしれない。まぁ、これも日本人からしてみれば異質なのかもしれないので、どうこう言えるようなものではないだろう。
「あんまりアレなら、休憩室にでも戻っておくか?」
「いや、そういう訳じゃないけど……人の波ってこの事を言うんだね……てか、並ばせないの?」
「面倒。それにもうこの状態になったら収拾をする方が大変だよ。《殺気》でも浴びせて全員気絶させてやろうか?」
「い、いや、それはやめといてあげようよ……」
結局、この日人の波が絶える事はなく。ようやく人を捌き切った時には深夜を回ろうとしている時間だった。そして、こんな一日がおよそ一週間も続くことになる。後半になると流石に理解したのか人々が整列したりなど節度を守って行動するようになったのでいくらか楽になったが、それでも一日何百人と相手をすることになったので流石にクロウも疲れたと愚痴をこぼしていた。
もっともクロウ自身は家に帰ると、寄って来る獣族たちをもふって、夜は熱い夜を過ごすと、おい疲れたと言ってたやつは誰だよと言いたくなるぐらい元気だった。
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そんなこんなで、俺のもとに来たお客の数は、2107組み。中には宿屋を建ててくれ、鍛冶屋を建ててくれなど生活基盤を戻したい人たちもそれなりにいた。最初は断ろうかと思っていたがアーキルドに聞くと合点承知の助と言って引き受けてくれた。おい、なんであんたがその言葉を知っている、江戸っ子だったのかお前?
まあ、そういう奴らからは追加金を受け取ることで承諾してあげることにした。えっ、50万で引き受けないのかだって? 儲けれるなら儲けた方がいいだろ?
総売り上げはおよそ11億S、後払いオーケーにしたので、この数値そのまんま手元に入った訳ではないが、なかなかの売り上げだ。材料費と人件費はタダなので(材料は近くの森、人件費はアーキルドだけなので無し)そのまんま懐に入って来るというわけだ、旨いです。後払いは逃げられないか? という声が聞こえてきそうだが、実はあの書いて貰った用紙には魔法が仕込まれていて、書いた者が自動的にオーナーになるようになっている。そして、そのオーナーの位置は《マップ》を使えば一発で出て来る。ストーカー? 既に《マップ》でどの位置に、だれがいるか分かる俺に言われても困る話ですね。
まあ、要は支払いに応じなければ、それ相応の報いはいつでも受けさせることが出来るという訳だ。まぁ、支払う気がある人でお金を持っていない人にそんなことはしない。逃げる気満々の奴には容赦はしないけどな。
ちなみに、売り上げの一部をミュルトさんに渡そうとしたら、急に倒れてしまった。ナンデダロウナー?
その後、いつか建ててもらった家の借金もキレイに返してあげた(およそ2500万S)そうしたらミュルトさんが「もうギルドへ維持費とか売り上げの一部の上納とか必要ないです……」とげっそりした感じで言われた。「えっ、足りないですか?」と言うと「数年間は収入が無くてもやっていけれるからもういいです!!」と怒られてしまった(ショボン)
さて、話を変えて、じゃあこのお金はどうするの? と言われると正直使い道は無い。いや、あるっと言ったらあるのだが、そんなのは自分で集めればどうにでもなるものが多いので結構マジでどうしようかなと思っていたりする。まあ、万が一に備えて貯めておくとしましょう。今後も稼げる所では稼いでおくが、殆どは《倉庫》の肥やしになっていくのだろうな。
エリラにこの金額ってどれくらいすごい? と聞くと「一般の貴族より持ってるわよ……」とこれまたミュルトさんと同じくげっそりとした感じで言われた。今後も家を建てるために申し込みに来る人はたくさん来ると思うので、これでげっそりとされても困るんだけどなぁ……。
そんなこんなで、その後一ヵ月間、アーキルドは眠らずに家を建て続ける事になるのだが、本人は「やばい、ワシゃあもうすぐ死ぬのか? こんな幸せでいいのか?」と言って興奮気味に家を建てていた。興奮というか、狂喜というか狂気というか……とにかく、俺はアーキルドの顔の方が怖かったです。
売り上げの1割でいいので、私の手持ちに入りませんかね?(願望)




