第211話:家建てます。一軒50万で(2)
「ここですか」
老婆に案内された場所には焼け落ちた家の跡が広がっていた。黒く煤けた柱や壁、もはやかつての面影は見えない家具、雑貨。その光景から燃えていた時の火の強さを感じ取れた。
「そうじゃ、ここは死んだ爺さんと一緒に住んでいた場所じゃ、出来ればここを離れたくはないからのう」
「なるほど……分かりました。では早速取り掛かりましょう」
「そうかい……で、何か月くらいかかるのかの?」
家を建てることは簡単な事では無い。小さな家でも3ヵ月以上かかるなどこの世界では当然のことだった。
「そうですね……大きく見積もって10分でしょうか」
「そうかい……今、何日と言った?」
聞き間違えたと思ったのか老婆は再度聞き直す。
「10分です」
言い間違えた訳では無いので同じ言葉を繰り返す。
「……わしもついにボケて来たかの」
「いいえ、ボケていませんよ。それじゃあ始めますのでちょっと待っててください」
10分で建てれる家……そんな家想像も出来る訳が無かった。「こりゃ騙されたわ……」と老婆が呟くのが聞こえたが無視しよう。というか恐らく、それだけ聞いたら誰しもそう思うからだ。
こういうのは言葉で説明するよりも見せた方が早い事が多い。
「……《門》展開」
俺の前に魔法陣が現れる。紫色をした魔法陣は一つでは無く無数に出現をした。そして、各魔法陣は中央にお互いを結ぶかのように線を引いていた。
「召喚魔法……『アーキルド・ドワーフ』……」
名を呟くと魔法陣が光出す。そして、魔法陣は自身の姿を崩し一つへと集約し始めた。やがて一か所へと全ての魔法陣の残骸が集まったその瞬間。パァン! と弾ける音と共にまばゆい閃光を放った。
まるで、目を潰すかのような光に老婆は、思わず目を瞑ってしまう。しかし、その光は余りにも強く、目を瞑っていたとしても明るさが分かるほどだった。
しばし間があったのち、恐る恐る目を開いた老婆。先ほど見えていた光の元となった魔法陣の残骸は跡形も無く消え去り、代わりにそこに立っていたのは背の低い男だった。
「……ようやくワシの出番かい、クロウ殿よ」
「ああ、約束通り好きなだけ建築をさせてやる時が来たんだよ」
「ふむ、それは楽しみじゃの、腕が鳴るってものじゃ」
老婆は何が起きたのか分かる事は無かった。ただ、まばゆい光が走ったと思えば見たことない男が立っていた。老婆が分かった事はたったこれだけのことだった。
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「今回は、この範囲でやってもらう。準備は出来ているのか?」
「ふん、この日を楽しみにしていたのじゃぞ? 材料も道具もデザインも当の昔に揃っているわい」
「そうか、じゃあ建築内容は全部任せるからな。頼んだぞ」
「承知」
アーキルド・ドワーフはそれだけ言うと早速、作業に取り掛かる。
「出番じゃぞ、お前ら」
そういうと、アーキルド・ドワーフが腕を前にすくうように腕を振る。すると小さな魔法陣が散発的に現れ、魔法陣から小さいドワーフたちが現れた。大きさはおおよそ15センチ程度。15センチ定規と同じくらいの大きさだ。数はおよそ30体程度いた。
現れるや否や、小さなドワーフたちは早速、建築場所の整備を始める。
その光景は驚くべきものだった。僅か15センチ程度の小さな生き物が自身の10倍以上はある、焼けた木材をひょいと持ち上げたのだ。そして、建築の邪魔にならない箇所まで持っていくと、その場に落とした。ドンッと重い音が響く。その音だけでも小さなドワーフが担いでいた木がかなりの重さがあるのが分かった。
そして、みるみるうちに瓦礫の山と化していた場所が整備されていく。
……えっ、いい加減説明しろって?
覚えているだろうか。俺がチート的な訓練で得たスキルの中に混じっていた《惑星創世》《次元作成》《門》の3つ。今回使用されたのは、そのうちの《門》だけだが、彼らが住む世界を作る為に《惑星創世》《次元作成》が使われている。
かつてセラから簡単に説明されたが、このスキルは別次元に独自の世界を作り上げる魔法だ。アーキルド・ドワーフ《惑星創世》で生み出された魔力の使役体『精霊』の一人なのだ。当然、他にも数えきれないほどの『精霊』がいる。彼はその一人に過ぎない。
そして、彼らは俺の眷属として別の次元の世界で生きている。俺は《門》を使って彼らを呼び出したのだ。普段は移動に使用している《門》だが、本来の使い方はこのように『精霊』を召喚するために使用するスキルなのだ。
アーキルド・ドワーフ。建築関係に特化した『精霊』だ。茶色い皮膚に濃ゆい眉毛とひげ。背は低いながらもずっしりとした体格。良く漫画やゲームなので見るドワーフそのままのイメージで作った。建築以外でも鍛冶も可能だが、それはまた別の『精霊』の方が得意なので、彼は得意という訳でもない。だが、先ほども言ったが建築関係に特化している分建築時の技能は驚くべき能力を発揮する。
自身の分身にも近い小型ドワーフを駆使して、恐るべき速度で建築を行う。その速度は通常の民家を5分で建築してしまうほどの速度だ。さらに某テレビ番組の匠顔負けの技術を用して作るので、彼が作る建物はどれもハイレベルな物ばかりだ。
ちなみにアーキルドはアーキテクチャー(日本語で建築を意味する英単語)をもじって命名した……えっ、センスが無い? それを言わないでくれ、泣きたくなってしまうだろ。
そんな説明の最中でも建設はどんどん進んでいく。気付けば骨組みは完全に出来上がっていた。
そして、そこから更に数分後。
10分ほど前までは瓦礫の山だった場所に、新築の家が建っていた。
召喚魔法! 憧れますよね。
という訳で、長々と使用していなかった(と言うか使わせなかった)クロウの切り札の一つの登場です。召喚魔法自体にはある程度制約がありますが、それはまた後日お話の中で説明します。
本当はもっと後に、出そうかなって思っていたのですが、昨日の後書きで書いていた通り落選して、改めて主人公無双、つまり自分の面白いように書きたいということで、登場させました!
当初は、クロウが一人で組み立て建設を行う予定でしたが、急遽入ってもらいました。
まだ、クロウ君のチートじみた行動は沢山思い付いているので、積極的に出していきたいと思います。




