第209話:課税
一人が行うと皆が行いだす。
こんな経験誰にでもあると思う。後から始めた理由は「面白そうだから」「皆と違うのが嫌」など本当に様々な事が多い気がする。
えっ、なんでそんな話をいきなり始めたかって?
シャルたち3名の獣族が夜這いを仕掛けて来た翌朝。お肌つやつやな獣族とちょっと眠そうな獣族と極端に表情が分かれていた。
理由は昨晩のお楽しみタイム以外の何物でもない。夜這いを仕掛けた獣族たちに囲まれた昨晩は色々と楽しかったです。3人相手とか無理と最初は思ったりもしたがスキル《絶倫》を持っている俺にはそんなこと関係なかった。三人とも大満足していた。
そう言えば、お楽しみタイムの途中で《中級技術者》と《精根尽きない者》の二つの称号とスキルを得ていた。
《中級技術者》……まあ、内容は何となく分かっていたが性的行為時に相手をある一程度満足させると取得可能となる。話していなかったがエリラの時は《初級技術者》を手に入れていたので、順当な取得だ。そういえば、これを取得した直後から彼女らの感度が良かったような……?
《精根尽きない者》……いや、なんだよこれと最初は思って見てみると、どうやら3人相手をして最後まで持ったことによる《絶倫》の類似的スキルのようだ。ただ、このスキルの恩恵を受けるのは性行動のみというのが非常に限定的で、《絶倫》の類似下位互換スキルであることが伺えた。正直いらん。そんなことより……
「……昨晩はお楽しみだったようですね」
「三人だけずるいです」
シャル達夜這い勢が残りの獣族たちから痛い視線を送られている。そしてその視線は決して俺は他人事では無かった。
「クロウ様~彼女たちに相手をしたのですから、私たちもお相手して下さいますよね~?」
うん。分かっていた。3人を相手したときにこうなることは覚悟していた。ただ。残り丸ごと相手するという訳にもいかないので「じゃあ順番で」と言うと、その順番を決めるべく外へ出て行ったことは言うまでもないだろう。
前世では童貞で死んでしまった俺からしてみると信じられない光景だ。逆に今後不幸なことが起きないか物凄く心配になる。
心配と言えばガラムの方だ。暫く動きが無かったが、どうやら行き先は人族の領土では無い所に移動しているようなのだ。この時点で既にグレーゾーンなのだが、じゃあ行き先は? と言われるとな……魔族領土みたいなんだよな。
うん、そうだね。黒確定だね。ただ、何をしたかと言われるとまだ何も分かっていない。そこは今後の調査次第だろう。
そんな心配を他所に順調に進んでいる店の営業。こんなに順調なら今後、色々な商品(俺が作ったボツ作品)を置いてみようと思う。
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「え……えっと……これは……?」
「売り上げの一部ですが?」
「いち……ぶ?」
ギルドのとある一室。そこで俺とミュルトさんは会っていた。
何を話していたかと言うといつかは話したギルドでの売り上げの一部をギルドに納めるためだ。
俺とミュルトさんの間にはテーブルが置かれてあった。そしてその上には売り上げの一部である金貨が積まれていた。
その金額、ざっと数えて500万S程度といったところだろうか。ちなみに売り上げの粗利(売り上げ金額から仕入れ金額だけ抜いた合計)は2100万Sほどだ。
売り上げの殆どは冒険者と職人からだ。初回だけあって飛ぶように売れたのが原因だろう。
「一応2~3割程度を渡しておきます。これで1か月は経営出来るのではないですか?」
「一か月どころか半年は持ちますよ。復興最中でなぜこれほどの売り上げを上げることが出来るのですか?」
「安く仕入れて高く売ったらこうなりました」
事実そうでした。大量生産可能な商品をそれなりの価格で売った結果がこれです。
「それを行うことが出来ないから皆さん苦労するんですよ……」
ミュルトさんは呆れたような物言いだった。
「……でも……ありがとうございます。それにしてもマスターは出立してから大分立ちますけどいつになったら戻って来るのでしょうね?」
「さぁ? どこかで道草食ってるんじゃないですか?」
道草どころか人のいないはずの場所に向かっておりますが。
「……まあ、帰ってこないのは仕方がありませんね……ところで聞きましたか?」
「何がです?」
「その反応を見るに聞いていないようですね……どうも復興の目途がある程度経ったところでラ・ザーム帝国の税率を適応させるとのことですよ」
「それが? 当然だと思いますが……?」
「まあ、その行動自体は当然でしょう。問題はラ・ザーム帝国の税率が適合されることです。知っているかもしれませんが、彼らの国の税は非常に高いです。そのような税率をいきなり適応させるというのなら、市民の反発は必至でしようね」
「そんなに高いのですか?」
高い事は知ってはいたが実際どこまで高いかは知らない。レウスからちょこっと聞いたぐらいだ。
「低くて他国の2倍。酷いものでは4倍近くまで差が開くこともありえます。さらに他国では無い税もありますので、市民の負担は実質3倍~5倍程度まで跳ね上がる事でしょう」
「はぁ?」
思わず素が出てしまった。日本で例えるならいきなり消費税率が24%~40%に跳ね上がったのと変わりがない。段階的にならまだしもいきなりこんな高い税金を払えなんて言い出せば、そりゃ文句の一つもでるよな。いや、そもそもそんな高い税を課せれば経済自体が冷え込みかねない。
「既にラ・ザームの支配下になったいくつかの地方では高い税が課せられたとの報告もあがっており、そこの住民たちは反発しているそうです」
「……一揆に繋がらないといいですね」
「いっき? なんですかそれは? 反乱では?」
「あっ、えっと同じ意味ですよ。ただ言い方が違うだけです」
一揆って言わないんだな……実際は一揆と反乱って違う意味だけど、ややこしくするのもアレなのでここでは反乱と言わせてもらおう。
「それにしても、俺みたいに家持っていたり家族持ってたりすると高いのですよね?」
「私も全てを知っている訳ではありませんので、詳しくは分かりませんが、高くなるでしょうね。特に土地税は高いらしいですよ」
「うへぇ……奮発して高いの買うんじゃなかったよ、今更後悔しても遅いけど」
「売ればよろしいのでは?」
「まあ、それもそうなんですけどね……色々あって売る気にはならないんですよね」
既に数多くの家族が住んでいる家を売る気にはどうもなれない。まあ、あまりに税金が高い時は郊外にでも住むことを考えておこう。
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ラ・ザーム帝国のとある地方の片隅にクロルパルスと言う都市がある。
静かな田舎の地方でありながら、この街だけは人が多く、活気があった。ラ・ザーム帝国領内の中で一番課税が無い地方都市ということもあり、住みたい人は少なくは無いそうだ。もっとも住みたいのはラ・ザーム帝国領内で新参者だけで、古参者にはあまり人気が無いようだ。
その理由は、「他の皆も……」という悲観の共有から来ているようだ。「自分だけ~」が嫌と言った方が分かりやすいだろうか。兎に角自分だけ楽をするというのが嫌いな人たちなのだろう。
で、その都市の中心部には、都市を管理する役所があった。役所と言っても、その実態は実戦でも耐えうる強固な砦となんら変わりはない。
都市自体も周囲は堀で囲まれており、その更にその外側には簡易的な櫓なども建設されている。兵の数はおよそ500人程度だが、それ以上の戦力を感じさせていた。
そんな、都市を収めていたのは現ラ・ザーム帝国皇帝の弟にあたる、ミロ・ザームという青年が納めていた。
皇帝の弟が何故帝国の地方都市にいるのかというと、現皇帝との不和が原因とされている。兄である現皇帝と事あるたびに揉め、結果として地方へ異動という名の左遷を受けてしまったのだ。
そんな事情があるからか、この都市に集まる者は自然と帝国に不満を持っている者が多く集まるようになった。その不満を持っているのが新参者であったことは言うまでもないだろう。
国に不満を持つ国民と、現皇帝に追い出された弟。この二つを利用する者があらわれるのも時間の問題だったのかもしれない……。




