第208話:我慢出来なかったようです
大人の獣族達の性欲に身の危険を感じてから気付けば二週間が経とうとしていた。
お店の経営は意外と上手くいってる。主に売れるのはポーション関係だが、その他にもちょっとした小物(護身用ナイフや調味料などの日用品)もよく売れるのだ。主なお客は兵士と冒険者で、市民が来ることはあんまりない。まだ復興最中と言う事もあるだろうが最大の理由は「男性の腕を力だけで外した挙句、その男性のズボンを切り裂き公共の場で下半身を露出させた獣族が店員をやっている」と言う噂が広まっているのが原因だ。そりゃあそんな人が店員やってたら来たくないよな。「獣族が」ってのも重なったおかげで市民からの評判はあまりよろしくない様子。
反対に、兵士や冒険者などからの評判はいいようだ。勿論噂を聞いて近づきたがらない人もいるが、人間からしてみれば最高性能ポーションが格安で売られているからだ、自分の身を考えるなら買わない手はないだろう。さきほど言ってた護身用ナイフも俺が作った駄作かつ粗悪品だが能力はそこら辺で売ってるのよりも高性能だ(だから多少高くても買ってくれる)
あと、意外なお客さんで職人がいる。例えば調味料を買いに来る料理人だ。材料自体はありふれた物ばかりだが作っているのが俺(+俺のスキルを付与した状態の獣族)なので高品質なのが出来るので高くても買って行く人があとを絶たない。作り方を教えてくれ! と土下座してまで頼む人もいた(前に言ったが土下座はこの世界では土下座をするなら死んだ方がいいと言われるほど屈辱的な動作だ)で、俺の答えはノーだ。理由は簡単。売り上げが落ちるから以外にない。と言うのが本音だがそれを言うのは忍びないので「いいですけど《錬金術》のレベルが"8"ないと作れませんよ? とさりげなく断っておく。もちろんスキル"8"に到達している者などお客の中で誰一人としていないので誰も作れない、つまり俺のところで買うしかない。と言う事になる。それを聞いた瞬間、がっくりとして帰る者もいれば「弟子にしてください」と頼み込むものなどその後の動作は人それぞれだが、最終的には「使いながら作ってやる!」と言いながら買い占めて行く人が大半だったりする。
研究をするのは別に構わないけど、材料を知った瞬間どんな顔するだろうか見てみたいものだ。実は道端に生えているような草が材料の一部にあるしな。
……まあ、一生かかっても"6~7"とかが精一杯と言われているし、出来る奴なんか一握りしかいないだろうから材料すら分からないっていう結果が高いような気がする。
そんなこんなでお店の方は好調なのだが……俺としてはそんなことより、獣族達にいつ夜這いされるか分からない方という全く違う方面で不安を抱えている方が気になって仕方が無い。
あの日以降、獣族達の行動が気になって仕方が無いのだ。ふと気が付けば周囲に獣族達が集まって物欲しそうにするわ、夜中にトイレに行こうとしたら全速力で逃げる獣族をみかけるやらで安心できる暇が無い。
求められることは嬉しいんだけど、そのうち後ろから刺されそうで怖いんだよ。いや、この場合は後ろから襲われる(性的に)なんだけど。
テリュールもテリュールで獣族が群がる中に飛び込んだり、そういう話になるや否や「じゃあ全員でらn(以下規制)」などいって煽る始末。(なお、本人は非常に楽しんでいる模様)
ちなみにテリュールはそう言う話自体に興味は無いのかと聞くと「興味はあるけど、エリラからクロウを取れる自信は無いし、せっかくこっちに来たんだからもう少し色々な人を見てみたいから今はいいかな」と言った。なんだろう……向こうの世界で俺の服に向かって思いっきり吐いてしまった人の発言とは思えないね。そういえば、あの服どうなったんだろう……まあ、思っても確認しに行こうとは絶対に思わないな。例え行けたとしても。
俺はどうしたいのかと言うと、前にも言ったがエリラ以外とそういう関係を持つ気は今のところないのだが……彼女たちの気持ちもなんとかしてあげたいのも、また本音だ。別に嫌々ながらとかそんなのじゃなく、俺で良ければ相手をしてあげたいのだ。ただ、昔(前世)からの感覚だろう、そういう交わりをするのは結婚している相手とかだけという感覚が抜け切れていないのもまた事実だ(こんな性格だから前世で童貞だったのかもしれない)
そんな事に頭を悩ませていたある日のことだった。
「クロ……彼女たちはどうするつもりなの?」
いつも通り、寝床に就こうとしたときエリラが聞いて来た。彼女たち……言わずも知れた獣族達のことだろう。エリラも彼女たちのことには気になっていたようだ。
既にベットに入っていたエリラの横に俺は腰を降ろしどうしようかと頭を抱えた。
「どうするかか……逆に聞くがエリラならどうする?」
「い、意地悪な質問ね……」
「それはお互い様だろ?」
エリラとはあの日以降、何回か交わった。その時は匂いを外に逃がさないようにして、音も漏れないように魔法をかけていたのだが、どうやら最初がまずかったようだ。一度分かってしまったらなかなかそう言った感情から抜け出せれないのだろう。
「私は……」
エリラがベットから起き上がると俺の横に来て同じように座った。そしてふぅと息を整えると意外な言葉を発したのだ。
「彼女たちの相手もしてあげるべきだろ思う」
「えっ、それは―――」
「勿論、本音は私だけというのはあるよ。でも……もしクロが私を気遣って悩んでいるなら……」
私は我慢するよと口で言う事は無かったが、代わりに目で訴えて来た。一見すると大丈夫だよと言いたげな表情だったが、エリラは自分では気づいていないのだろうか。エリラの左手が俺の腕をギュッと掴んでいる事を。
口では大丈夫と言いながらもはやり心のどこかでは不安があるのだろう。そのまま私から離れて行くのではないか? という声が聞こえてきそうだった。
「エリラ……不安なんだろ?」
「えっ……」
つんつんと俺の腕を掴んでいるエリラの腕をつついてみせる。事に気付いたエリラは慌てて俺の腕から手を離した。様子からみるに気付いていなかったようだ。
「心配するなって……エリラから離れるなんて俺は少しも思っていないさ」
「……ありがとう……」
「当然だろ? 俺はエリラの事が好き……いや、愛しているんだから」
「あ、愛って……」
愛と言葉を聞いてエリラは顔が赤くなった。そういえば好きとは言っても愛しているとは言った事なかったっけ?
「どうしたんだよ、今更赤くなってさ」
軽めの口調でエリラをからかうように、笑いながら言った。
「だ、だってさ……愛してるなんて……ねぇクロ……もう一回言ってくれる?」
「……あ、愛しているよ」
ナニコレめっちゃ恥ずかしいのだけど。
「ふふふ……愛してる……私もよクロ……好きなんて言葉じゃ足りないぐらい……いえ、愛しているでも足りないぐらい、あなたの事を愛してます」
そういうとエリラはぎゅっと俺を抱きしめて来た。それにこたえるかのように俺もエリラを抱きしめる。
「……どうしたんだよ急に……」
「んーなんだろう……嬉しくてつい……この街に来たときはこういうときが来るなんて思ってもいなかったからかな……」
「あー、なるほど。確かに最初に出会った時のエリラじゃ無理だろうな」
「ちょっ、さらっと酷くない!?」
怒っているような怒っていないような声でエリラは答える。ただ、抱きしめた手を離すことはなく、そのまま会話は続いた。
「いいじゃないか、今は幸せなんだろ?」
「う、うん……とっても幸せ……」
「じゃあ、それでいいじゃないか」
「……うん……」
暫くの間抱きしめ合っていた俺らだが、ふとした瞬間に二人同じタイミングで離れた。
何故なら視線を感じたからだ。それも窓などの外側では無くドアがある内側の方からだ。
「……土壁」
廊下側の見えない場所に土の壁を発生させる。逃げられないように。そして怪我が無いように慎重に。
ドアの向こう側から声がする。魔法を唱え終わりゆっくりとベットから立ち上がり、入口へと足を向けた。
ドアノブを捻りドアの開けると、そこにはシャルを始めとした獣族3名が息を荒くして座り込んでいた。もう一度言う。息を荒くして座り込んでいた。
「……何をしていたのかな?」
「え、あっ、その……えっと……」
あわあわする獣族2名。そして―――
「クロウ様!」
ピョンと俺に飛びかかる子が1名。
「私たちもお相手をお願いします!」
息を荒くしながら懇願するシャル。
何をしていたのかはおおよそ見当がつくが、それはあえて伏せさせてもらおう。そしてシャル、君は自分が何を言っているのかわかっているのかい?
シャルの飛びかかり攻撃をふわりと受け止める。だが、それをチャンスと言わんばかりにガシッと首に巻き付くように体を引き寄せると、そのままシャルは自分の唇を俺の唇に押し当てて来た。……えっ?
離そうとしたが彼女の力は予想以上に強かった。それに加え無下に出来ない心もあったのだろう。数秒間俺は彼女の柔らかい唇を体験することとなった。
やがて彼女から口を離した。地面に座り込んでいた獣族2名は一瞬の出来事に何が起きたのか理解するのに全神経を費やしているのかピクリとも動かなかった。
「エリラさんだけずるいですよ……私たちも……お願いします……もう、我慢の限界なのです……」
しっぽをパタパタ振りながら艶めかしい顔をこちらへと向けて来る。その様子は、飼い主に待てをされて餌を我慢しているペットのようだった。
あっ、これやばい。目がマジだ。漫画とかで例えるなら目がハートの状態に近い物を感じる。
「クロ……」
エリラがベットから立ち上がると俺に近づいて来た。てっきり助けてくれるものかと思ったのだが……
「後で、私も相手してね」
それだけ言うとエリラは土壁で塞がれている通路から反対側の窓側へと走りだし、そして窓をバンッと開けたかと思うと、そのまま外へと消え去って行った。
「……えっ?」
何が起きたか一瞬分からないかったが、次第に事を理解してくると同時に変な汗が出て来た。おそらく彼女は理解したのだろう。これが止められるものではないと。そして自分はここにいてはまずいと。
「ふふふ……エリラさんから許可も出ましたしいいですよね~?」
いいですよねと聞きながら、既に服を脱ぎ始めているシャル。答えは聞いていないようだ。
「も……もうどうにでもなれやぁ!!」
一声そう叫ぶと俺は夜通し3人の相手をすることになるのだった。
そして、これを皮切りに暫くの間3人を始めとする夜這いをかける獣族を相手しなければいけなくなったことは当然と言えば当然の結果であったのだった。
私はブラックコーヒーは苦くて飲めませんが、今なら飲めそうな気がします。
……冷静に考えれば彼女たちは2週間、目の前にご馳走があっても食べれない状態が続いてたと考えると、よく我慢したなと私は思います。




