第21話:武器製作
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「さて、事情を詳しく説明してくださいね?」
俺の前にいるソラは仁王立ちをして先に行かせないといった雰囲気を醸し出していた。彼女はこの街では有名なBランクパーティだ、そのため周りの視線も自然と集まってくる。
「仲間から聞かなかったのですか?」
あの3人には説明したんだけどなぁ、エリラが。
「いえ、あの人たちは何も言っていませんでした。知らんと」
おい、あいつら……説明しなかったなわざと、どうやら面倒事を見るのが好きなようですねぇ。俺は顔に若干の青筋を浮かべながらBランクパーティの残りの3人の顔を思い出した。
特にあの男2名はソラが暴走しているのを完全に楽しんでやがったもんな。ウィズとか言う女性はたぶんあの顔から察するに渋々と言ったところか、あくまで過程だが。
はぁ、これからギルドに報告して、鍛冶屋の設備を詳しく見て、それからエリラに炎狼に使った魔法を教えてあげたり……そこにさらにこれかよ……。
「いいですけど、先にギルド報告があるので、それから宿屋でいいですか?」
「構いませんわ」
「では、宿屋《猫亭》に先に行っておいてください」
できればエリラに説明を受けてください。そして納得してください。
ソラはわかったと言うと《猫亭》に向かって歩いて行った。後に残った人たちから「ソラちゃんと何かあったんかい?」という質問を受けたが「巻き込まれただけですよ」とだけ言って早足でギルドに向かうことにした。嘘じゃないよな?
そして再びギルドでも問題ごとに巻き込まれました(泣)
「えっ、これって」
受付嬢の目の前には炎狼の牙とコアが置いてある。コアとは転異種のみが持っている特殊な核で綺麗な球体をしている。色は様々で大体各属性にあった色をしている。炎狼の場合は真っ赤な色をしている。
「見ての通り、炎狼から取れたコアです」
その言葉にギルド中の冒険者が一斉に立ち上がり受付に押し寄せて来た。人の波とはこのことを言うのだろうか。
俺の予想通りかなりやばい代物見たいだな。ゴブリンのコアでも一個10万Sはするからな(過去に2個ほど見つけた経験から)
かなり珍しい物なので国が買い取るとか、魔法研究に使うんだな。ちなみに俺は解読済みなので喜んで換金しました。
武器の素材にも変換出来るんだけどゴブリンのはあんまりよくなかったからな。
それに比べてこの炎狼のコアはかなり使えるものだ。本当は見せたくない物なんだけど稀少な天転異種が現れた場合は報告が義務。倒した場合はコアの提出も義務になる。隠しているのがバレたらブラックリストでは済まされない。国への反逆と見なせて見つかるまで追いかけられるとか。
このままだと面倒な事に間違いなくなりそうなのでコアを取るとそのまま跳躍してカウンターの奥に飛び降りた。
「すいません、受付嬢さんとりあえずガラムさんに匿ってもらいますので、あとはお願いします」
そういうと俺はギルドの奥へと消えて行った。背後から色々声が聞こえて来るが無視だ無視。でも受付嬢さんには本当にすまないと思っている。マジでごめんなさい。
「で、逃げて来たと」
「はい、どうすればいいですかね?」
「どうすればって……まいったなこれは……」
「正直、私逃げれませんよね?」
「そうだな、こんな高ランクのコアを手に入れたんだから国が黙っていないだろう」
やっぱりか。俺としては国と関わるのはゴメンなんだけどな。まあいざとなれば逃げるけど出来ればそんなことしたくないしな。そんなことやっちまったらエリラまで巻き込んでしまう。
「しかし、まさかお前みたいな若造がこんな奴を倒すとはな、討伐難易度はAクラスに匹敵するはずなんだが」
「たまたまでしょう、遠距離から魔法を撃ったら何とかなりましたし」
「それで何とかなるお主が恐ろしいわい」
ま、そうですよね。とりあえずコアはこちらで預かるとガラムが言ってくれたので俺は手渡して全力で逃げることにした。
これが後日さらに面倒な事を引き起こすとは思わずに。
「何とか巻けたな」
とりあえず俺は《猫亭》に戻って来た。はあ……まだ面倒な事が残っているんだよな……。
俺は重い足取りで自分が借りている部屋に入る。
そこにいたのは仁王立ちをしている般若と正座をしている赤猫だった。
……という例えは置いとくか。はい仁王立ちをしているのはソラで正座をしている赤猫……赤髪をしたエリラです。
えーと、これはどういう状況なんだ? 呆然としている俺に気づいたエリラとソラがこちらを見てくる。ソラはちょっと申し訳なさそうに、エリラに至っては顔を赤くして半泣き状態である。なにやったんだエリラに。
ソラがこちらに近づいてきて俺が話しかけるよりか早く、頭を下げた。
「ごめんなさい。私、何にも聞かないで」
「あっ、いやいいですよ。元々は私の昇格試験が原因ですからね」
「いえ、それでもエリラちゃんをギリギリ冒険者としてやっていけれる道は残してくれたので感謝しきれません」
あ、そうか、俺が冒険者だからエリラも部下と言う形で冒険者なんだよな。まあ俺としてはあのままだったら後味悪いと思ったからで、別になんてことなかったんだけどな。
「わかってるよね? エリラちゃん?」
エリラがビクッと震えると顔を縦に大きく振る。うわぁマジで何やったんだろう……
「ごめんなさいね、本当は何か返したいのだけど」
「いえ、それよりも他のメンバーの名前を知りたいですね」
「え、そういうことですなら」
ソラはBランクパーティのメンバーの名前を言い出した。
Bランクパーティのリーダーは男のうちの一人のモルドと言う男らしい。この世界では比較的珍しい黒髪で背中に大剣を持っていたやつのことだ。
そういえば俺も黒髪だけどレイナとアレスの髪は確か青と茶色だったはず。転生者ということがかかわってくるのかな? いや黒髪は少ないが平民や貴族まで幅広くいる。だから関係は無いな。
そういえば、俺って限りなく人だよな? 龍の角とかも生えていないし、皮膚も肌色だし。まあじゃなかったら人の中に入れないしな。
もっとも《変化》を使えば自由に姿をいじれるが。
もう一人の名前はバーズというらしい。こいつも前衛役らしく武器は格闘らしい。そういえば武器らしき物を持ってなかったな。
最後のあの女性はウィズ、あいつはシーフ系だな。腰に短剣二つ、それからブーツの中にも仕込んでいたからな。
とりあえず名前ぐらいは聞いておかないとな。まああいつらとは関わりたくないな。もう視線が嫌だったし、ソラに嘘ついて俺の所に連れてこさせたのも何となく嫌だな。
俺も力を隠したけど、冒険者が他の冒険者に自分の力を簡単に教えるわけないもんな。スキル持ちのやつは簡単に見て来るが、それでも情報は少ない方がいい。
とりあえずソラとの隔たりは消えたからよしとするか。ソラも「何かありましたら出来る限り力になります。エリラちゃんのことよろしくお願いしますね」と言って宿を後にしていった。うーん、あの戦闘さえなければほんといい奴だよな。エリラよりも歳下なのにしっかりしていて、そういえば俺の力については言及して来なかったな。忘れていたか覚えてないかかな?
さて、こいつは大丈夫なのか?
「……エリラ……大丈夫?」
「うう、いい゛ところに゛ぎでぐれた゛ぁ゛……」
そういうとマジ泣きしながら飛びついてきた。前言撤回、あの人は恐ろしい子だ。間違いない。俺はエリラを慰めながらそう思っていた。エリラがこんな顔になるなんて早々ないからな。
次の日、俺はギルドに顔を出さずにエリラと一緒に昨日もらった鍛冶屋に来ていた。
改めて見るとよく作ってくれたよな。炉、鞴、金床を一通り整えてくれている上に鍛冶屋のマニュアル本まである。印刷技術がないこの世界では高価なはずなんだけどな。
いや違うな、俺からお金を取るからいいのを揃えたんだな。
さらに倉庫を見てみれば鉄や鋼なども一通り揃っていた。さらに錬金術に必要な道具までそろえてやがる。おいあいつここで店でもやれってのか?
開く予定はないが、生活用品とかは売れそうだな。
さて、まずは実験だな。俺はエリラにしばらく中を見てもいいから待っていてくれと言った。だがエリラは「見ているわ」と言ってどこか行く気がないようだ。
まっ、別に見せても問題ないよな?
鉄を炉に流し込んでさっそく作ってみることにする。ちなみに燃料は俺の魔力だ。石炭とかの燃料じゃなくてもこの炉は魔力を熱に変換する設備が整っている。最初こそ微調整に多少戸惑ったが慣れたら後は予定通り作っていく。
それにしても熱い、最近暑い所に良くいくよな。まあ魔法を唱えれば問題ないんだけどな。エリラは俺の様子をじっと見つめてくる。汗でぐっしょりとなっていたが、全然気にしていないようだ。
やがて目の前に出てきたのは細い一本の剣だ。レイピアをイメージして作り上げてみたんだがどうだろうか。
「エリラどうだ?」
俺はエリラに手渡して感触を確かめさせる。言われた通りエリラは出来たばかりの細剣を持つと慣れた手つきで素振りをする。
「すごい、これ軽いし手にしっくり来る、売れるんじゃない?」
「いや、売らない。知っている冒険者に貸すのはいいかもしれないけどな」
戦争に使うとか嫌だからな。進んでそんなことしたくないわ。
「よし、じゃあここからが本番だ。エリラ、どんな剣が使いたい?」
「……えっ?」
「最近、魔法ばっかりだっただろ? もともと剣が得意だったんだからそっちも伸ばして損はないだろ? でももう細剣はダメだな。敵の装甲を貫けない可能性が高いからな」
剣を使わなくなった理由はそこにある。Cの上位にはエリラの剣はすでに通用しなかったのだ。関節ならまだ多少は通じたんだが、刃がすぐにダメになるので結局使わなくなった。
「私のを?」
「当然だろ?」
自分に作ってくれるとは思ってなかったのか一瞬ポカンとしたが、すぐに立ち直り自分が使いたい剣を話した。
かなり特徴的な剣だが結論から言うと両手剣だな。片手剣よりも長くしかし、大剣よりも短いのがいいとのこと、そうなるとクレイモア系辺りかな? あれはヨーロッパの長剣の中では小ぶりだったらしく、長さは1メートルほどらしい。。もともと細剣は貴族の礼儀作法の一つとして取得していなのをそのまま使っていただけらしい。
さっそく俺は作り始める。使用するのは鋼を中心とした剣だ。エリラは水との相性がいいので素材も水系の魔物の素材を使ったものを造る予定だ。残念ながらこの近辺では小型の素材はB,大型はCぐらいしかいいのが無かったので威力はやや落ちるかもしれないが、それでも十分な力を発揮するはずだ。
俺は前もって作り上げていたスキルを発動する。
「―――スキル《SLG》発動」
俺の目の前に半透明の画面が表示される。右上に俺の《倉庫》にある素材が表示されており、真ん中には小さな円形にボックスがいくつも表示されている。
これは俺の《錬成》スキルと《倉庫》、さらに《神眼の分析》を合わせたスキル《SLG》だ。これを使えばどの素材がその素材に一番適合に適しているのかを確かめることが出来るようになる。ちなみにこの画面は他人には見えないようになっている。
指で操作することも出来るが、俺の場合は面倒なので頭で動かせるようにしている。
今回はただの確かめだ。素材の組み合わせ自体は何通りも試しているから問題ない。あとは武器の種類に適しているかだな。武器の形によって合わない場合もあるからな。その時は素材の量を変えたり、入れる順番、組み込み方を変えることもある。
それなら今度試せよと思うかもしれないが、そこは好奇心だ、早く試したくて仕方ないんだ許してくれ。
幸いにも両手剣とこの素材の相性は良かったようだ。俺はドンドン素材を加えていき剣の形を作り上げていく。
1時間後、その剣は出来上がった。
きれいな青色をした刃、握りの部分には俺らでいうテーピングを施しており、汗をかいても滑らないように施している。水を吸収する素材を使用しているので、水につけた直後でもすぐに乾くようになっている。そして鍔の部分には俺がつくった宝石がはめ込まれている。深海のような色をしており俺の特性の能力もついている。
「すごい」
後ろから見ていたエリラも出来上がった剣を見てそれが只の剣でないことを感じ取ったみたいだ。
剣を受け取り振ってそれを確信したようだ。
「……どうだ?」
「……すごい、初めて扱う剣なのに今まで扱っていたかのように軽いわ。以前装備していたレイピアよりも軽い……けど、なんでも斬れそうって感じがする」
「それはよかった、じゃ次だ、ちょいとその剣に魔力を送って見れくれ」
「剣に魔力を送る? どうやって?」
「魔力を手のひらに集める動作があるだろ? あれを剣に流すようにするんだ」
言われた通りエリラは魔力を込める。すると剣から微かな光が溢れだした。
「……よし、そのまま前方に振って」
ヒュンと言う音と共に剣が振り下ろすと前方に水のショックウェーブを放った。
水の衝撃波は真っ直ぐと飛び、壁に激突し消えた。
「うん、結構威力があるな」
壁には前もってアースウォールで壁を張ってあったので傷はついていない。だがその威力は本人が身をもって知っただろうな。
「これ……魔法剣!?」
「そうだよ、魔力を前方に放つのは慣れれば無詠唱とほぼ同スピードになるし、剣に魔力を乗せたまま戦っても問題ない。魔力を乗せれば乗せるほど切れ味、貫通力、強度、重さを自由に変更出来るはずだ」
俺の言葉を聞きながらエリラは再び剣に魔力を込め、振ってみる。世界にも20本程度しかないと言われている魔法剣が今自分の手元にあるのだ。次第に慣れてきたのか楽しいのかかなりのスピードで振り出した。うぉい、両手剣握るの久しぶりなんじゃないのかよ? めっちゃ早いんだけど。
やがて、満足したのか軽く息を乱しながら剣を下ろした。
「これ本当にもらっていいの?」
「もちろんだ、エリラの為に造ったんだぞ?」
エリラはしばらく剣と俺を交互に見ていた。
「……わかった」
よし、これでエリラの分は終わりだな、後は俺かと思いどの武器にしようかと考えていると、ふと後ろからエリラが俺に抱き着いて来た。いやだから身長差があるから胸が……
「……ありがとう、大切にするわ」
そういわれたら離すに離せれないじゃないか、なんやかんやで何故か寝る時もこの姿が恒例になっている。
これを聞いたら壁ドンマスターがやって来そうだな。そういえば最近、宿屋の人も気づいているのか受付の少女が若干顔を赤めながらこちらを見ている時がある。エリラのベットの方は誰も入っていないから感づいたんか、それとも奴隷だから床で寝かせているのかと思っているんだろう。もちろんこの人の場合は前者だと信じているんだろうな。
エリラが初めてやってきたときの会話を一番間近で聞いていた人だからな。
結局、その後5分ぐらい動かなかったので、俺の方が言って動かした。いや、残念そうな顔で見ないでください。
その後、俺の剣とその他、魔法札などを作っていたらあっという間に夜になってしまった。やばいこれ超ハマリそう。材料があるうちは色々な物を試してみるとしますか。明日も早く来てやるかと思い、宿屋に戻って来たのだが
宿屋に戻ると丁度誰かが出てきていた。よく見るとギルドの受付嬢じゃないか?
俺は受付嬢を呼び止めると、受付嬢は俺の方に走ってきた。
「はぁ……はぁ……いました クロウさん……」
「あ~、あのすいません本日は面倒事を押し付けて」
「い、いえ、あんなことで疲れていたらギルドの受付なんて出来ませんよ」
「で、どうしたのですか?」
「あっ、す、すいません。えっと明日ギルドに来ていただけますか?」
「うげっ、コアの件ですか?」
「それもあります。それとガラムさんが鍛冶屋の請求のこともあると」
「あ、そうかわかりました。明日の朝に行けばいいのですね?」
「はい、よろしくお願いします」
受付嬢さんはそういうと仕事終わった~と言いながら去っていこうとした。そういえば受付の服じゃなくて私服だ。
と、忘れないうちに聞いとかないとな、今頃間があるが俺は受付嬢の名前を聞いた。受付嬢は「そういえば言っていませんでしたね」といい俺に名前を教えてくれた。「ミュルト」だそうだ。
そして、受付嬢……ミュルトは今度こそ去って行った。
俺はミュルトを見送ると、明日はどうなるかと頭を悩ませるのだった。
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