第203話:開店(1)
いよいよ開店のときが来た。
欲を言えばチラシ配りとか開店アピールしてもいいのだが、まあ、そこは俺の個人的な商売だからいいかなと思ってしなかった。えっ、本音? 紙を大量生産するのが面倒なうえに、紙を作るのも金かかるし、配ったところでどれほどの集客が望めるか分からないし、そもそもこの店自体が冒険者をターゲットにした店でギルド内にあるから、宣伝する必要も無いし。
「き、緊張します……」
「大丈夫だよ。クロウ様もいるんだから!」
開業初日のメンバーは シャルとフェーレという獣族の二人だ。シャルは黒髪のロングヘア―に黒い目と見た目は日本人に近いようにみえる。勿論獣族特有の毛としっぽは除いてだが。
性格は非常に優しいが、実は獣族達の中で一番格闘戦が得意だ。スキルレベルでいうと「6」であるが、獣族特有の機動力を活かした戦いが上手いのだ。複数人に囲まれたとしても彼女なら何とか出来るだろう。
ちなみに怪力も獣族たちの中で一番高い。聞いて驚くな筋力だけならエリラと互角の勝負が出来るほどだ(身体強化は無しで)
そんな能力なので、獣族達の話し合い(物理)で一番最初に勝ち抜けた子なのだ。そして一番多いシフトを取った子でもある。
もう一人はフェーレという獣族だ。黄色の短髪に黄色の瞳、普段から元気な獣族で常にテンションが高い。この子は投擲が得意でそれで話し合い(物理)で勝ち抜けた子だ。……あれ? 投擲? ……殴り合いじゃなかったっけ?
え、えっと普段から元気な性格だからかココネには苦手意識があるようだ。嫌いとかいう訳では無く、一緒にいると調子が狂うらしい。言っとくが家の獣族たちは全員仲がいいからな、そこは譲らないぞ。
「そうだ、俺がいるから心配するな。だけど最後には二人でも頑張ってもらうからな。今のうちに慣れておけよ」
「「はい!」」
「よし、いい返事だ、じゃあ早速開店前の準備を―――」
―――ドガァン! ガラガラ!
「フハハハハハハハハッ!!!」
何かがぶっ壊れる音と共に聞きたくない声が辺りに響き渡る。
「久しぶりだな同士よ! 店を開くと聞いて応援に駆け付けたぞ! 三男! テルム・モルレスト! ムゥゥゥゥ―――」
「ギルドの壁ぶっ壊しているんじゃねぇ!!」
(ゴスッ)「ふべらっ!?」
勢い良く登場した筋肉馬鹿の顔面へ飛び蹴りをくらわし、ギルドの外へと退場させる。登場から僅か4秒の出来事の事である。
「……えっと……今のは―――」
「サァ? シラナイナー」
フェーレが心当たりがあるのか聞こうとするが、俺はしらを切る。いや切らせてくれ。俺はあんな奴とかかわりを持ちたくないんだ。
「フハハハハハハッ!!! ワシを忘れたとは言わせないぞ同士よ!」
「うるせぇ! 俺はお前らの同士になったつもりなんて一ミリ……いや、一ミクロもねぇからな!」
「何をいっておるブラザーよ! 【筋肉神】をスキルを身に着けているからには、我らは同士ではないか!」
「取りたくて取った訳じゃねぇよ! てめぇらのせいだからな!」
いや、核心を突くのであればセラさんのせいになるんだけど、流石にそれは言えないだろ!
「クロウ様そんなスキルを取っているのですか?」
「……ちょっと引きますよー」
「いや、取りたくて取った訳じゃないんだよ……」
「フハハハハ過程などどうでもよいのじゃ! さぁ、一緒にKINIK―――」
「やらねぇよ! 帰れ!!」
(ゴスッ)「キンニク!」
自ら突き破った穴から外へと飛び出していった男……テルムだっけ? 出来ればもう二度見たくないものだ。
「ワシは何度でもよみがえるぞ!」
……その願いは叶わぬようだ。
「ああ、もう分かったから少し落ち着け。じゃねぇとここでミンチにするからな」
本気を出せばテルムを殺すことは不可能じゃないだろう。だが、ここで血の池を見せる必要も無い。というか開店早々そんなことはご勘弁だ。それにシャルとフェーレ、二人の前でそんな事をしたくはないしな。
「……で、何の用だ?」
「いやぁ、ブラザーが店を開けたと聞いて応援に駆け付けたのじゃよ」
「それだけ? それだけの為にギルドの壁ぶっ壊したのか? あれ、直したの俺だからな?」
「心配ご無用じゃ、後で【筋肉鼓舞・その19834】を使って直しておくぞ」
そんなのあるの? てか、【筋肉鼓舞】万能だなおい。てか、数的に3万ぐらいあったよな。全部覚えているんだろうか。
ちなみに、後でマジで直していきました。一体どういう原理だよ……。
「そういえば、あのモヤシと弟はどうしたんだ?」
「ああ、兄者とレウスのことですか!?」
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「はい、頑張ってあと1回で腹筋3回達成ですよ! はい、頑張って! 気合の問題です!」
「むぅぅぅぅぅぅぅん……ボハァ!」 ←吐血
「あっあぁぁぁぁぁ、あと一回ですぞ! さぁ、血を吐いてないで頑張りましょう!」
「む、むぅぅゴハッア!」
(以下ループ)
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「兄者たちなら仲良く筋トレをしていますぞ!」
「あ、ああ……そうか……(嫌な予感しかしない」
「それよりも、同士よ! ここには筋肉増強剤はあるのか?」
「あー、プロテ……じゃなくて、一応あるぞ」
そう、あるんだな。作った理由なんだが、こいつらが実は関係していたりする。というのも例の長男を見て売ればいけるんじゃね? と考えたのが発端だ。そこからちょっと、プロティンを作ってみたのだが……
それがこれだ。
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アイテム名:筋肉増強剤・極
分類:食品(栄養剤)
効果:飲んだ者の筋力ステータスの成長にプラス補正をかける。
また、持続して飲むことで補正値が大幅に上昇する。
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いや、確かにプロティンにはなったよ。だけどさ、この効果は駄目だと思うんだよ。これ能力上昇値ってものがあるんだが、一年間飲み続ければ、レベルが1アップしたら筋力は15レベル分の上昇をしてしまうんだぜ?
勿論、トレーニングは必要だが、飲み続ければ飲み続けるほど、成長値が上がるんだぜ? もちろん才能なんか関係ない、そこにあるのは買うお金と飲んでトレーニングを行う努力のみだ。前の世界のプロティンの効果が霞んで見えるレベルだよこれ。
作成できるのが俺だけなので量産は出来ないから、そんな急激な成長をしない程度に売りさばくようにしようと思う。テルムが世の中にこれ以上増えたりでもしたらと考えると身の毛がよだつよ。
「でも高いぞ? 値段は7000Sだ」
「な、七千!?」
そういってびっくりしているのはフェーレだ。まあ、そうだよな。7000Sと言えばそれなりに良い宿屋に1週間泊まれるお値段だ。日本円にして70,000円相当になるので、この値段がいかに高いかは察しがつくと思う。
これくらい吹っかけておけば、まあ大量買いする奴はいない―――
「よし! 全部買った!」
「……What?」
ナンカ イヤナ コトバ ガ キコエタ キガスル ケド キノセイ ダヨネ?
「ここにあるの全部買わしてもらうわい!」
「マジデスカ……」
「えっ……と、確かこれは15個ありましたので……105,000Sになりますが……?」
「問題ないわい! ちょっと待て、今出すから……むぅぅぅぅぅぅぅん!!」
そういうと、テルムはポケットから魔法の鞄を取り出した。どうでもいいが、財布を出すためだけに変なポーズをとるんじゃない。
「よし、開店祝いじゃ受け取れぇぃ!」
そういうとテルムは自分の財布から一枚のコインを取り出す。
「……白金貨?」
「「ふぇっ!?」」
俺は何枚か持っているので特に不思議に思わなかったが、後ろの二人にとっては目玉が飛び出すような金額だろう。人族の中で買い物などもしているのでお金の価値はそれなりに分かるのだろう。
忘れている方に説明すると白金貨は一枚で1,000,000Sの価値があるつまり、プロティンを買っても余裕でお釣りが帰って来るのだ。
「釣りはおらぬぞ! これで筋トレが捗るわい!」
「気前いいな」
「同士に良くするのは当然じゃい!」
「だから同士はやめろっつうんだよ。違うからな。でもお金は有難く頂いておこう。サンキューな」
「よいってことよフハハッハハッ! では、ワシはこれにて! 帰って兄弟で鍛えさせてもらうわい!」
そういうと、テルムはギルドを出て行っ……出て行く前にポーズを取ってから出て行った。
テルムが去った後はまるで嵐が過ぎ去ったように感じた。ギルドで一連の出来事を見ていた冒険者は口々に「なにあれ?」「変な奴だったな?」「あいつあの変態の仲間なのか?」と感想をこぼしている。
お金をもらたのは嬉しいのだが、正直に言おう。周囲の視線が痛すぎるのでもう来てほしくはない。
「……クロウ様……」
「……なんだ?」
シャルが非常に言いにくそうな顔でこちらを見ている。やや間があったのち、彼女は一言だけこういった。
「……子供の教育に悪い人は余り近づけさせないでくださいね」
「……はい」
なんでだろう。俺は悪くないはずなのに……。
開店前から疲れたわ……。
最近、書きたい衝動に駆られて更新頻度が上がっているなと思います。この調子を維持できるように頑張りますね。
感想、誤字脱字報告いつもありがとうございます。
出来る限り早めに返信で来たらと思っていますので、これからもドシドシ書いていってください。




