第202話:1モフリ
10/10:サブタイトルを間違えていたので修正しました。
10/11:誤字を修正しました。
獣族達の給料を1モフリに変更しました。感想欄で指摘された通り
5モフリだとクロウの手がいくらあっても足りませんね。
10/12:給料変更時にその他の部分への反映を行っていなかったので行いました。
「……という訳だ。皆にはそこで従業員として働いてもらいたいという訳だ」
ココネに呼び集められた獣族たちを前に、俺は例のギルドでの活動のお話をした。結局ココネに流されるがままになってしまったな。
「ふふ、ココネに呼ばれたから何の話かと思いましたが、その事でしたか」
話を聞いた獣族達の顔は「待ってました」といった顔をしていた。
「私たちであればいつでも大丈夫でございます。『むしろ待っていました』でございます」
ニャミィが元気に答える。他の獣族達も笑顔だ。
「ほらね~、皆さん楽しみにしていたのですよ~」
「……そうだな。やれやれ、お前たちは自分たちから危険地帯に身を放り出そうとしているのが分かっているのか?」
「あら? 武器を持って戦地に行くことの方が、余程危険地帯に身を放り出していると思いますがどうでございましょうか?」
「あっ、うんそうだね」
言われてみれば、戦場の方が危険だよな普通。あれ? 俺、感覚麻痺していないか? いや、違う! これは脳筋両親の血がそうさせているだけなんだ! きっとそうだ!(現実逃避)
「……まあ、皆が良いと言うならお願いをしようか」
人手はいるから結局誰かにお願いをしなければならないのは事実だしな。ただ、出来るだけ人族であるエリラ、テリュール、俺(!?)と一緒にさせるシフトを取らせる必要があるだろうな。
あと、セラからお願いされた対立の無い世界へのヒントがもしかしたら得られるかもしれないので、彼女たちにやってもらう意味もあるちゃああるな。
「じゃあ、シフトと給料の事も考えるか」
「シフトは順番で良いと思います~」
「給料でございますか? 別に私たちはそんなものは―――」
「皆の時間をもらうんだから、それ相応の対価は必要なんだ。まあ、タダ働きをさせるのは俺のプライドが許さないって事で一つな」
「はぁ……? でも、私たちは別にお金は必要ありませんよ?」
「それなんだよな」
別に彼女たちはお金を別であげているし、そのお金自体も最近使う事が無いということで、返されている現状もあるんだよな。欲しい物は大抵買ったとのことだ。
「……! そうだ、いいこと思い付いた!」
「どんなことでございますか?」
「……一日働くごとに"1モフリ"でどうだ? 使用するのはいつでもいい、溜まれば溜まった分だけ使用していいぞ?」
「「「!?」」」
俺の言葉に獣族達の眼の色が変わった。
「く、クロウ様! 私で宜しければ何日でも働きます!」
「わ、私もです!」
「ちょっと、私もです!」
「あらあら~皆さま積極的ですね~でも、私も働きたいです~」
私よ! 私よ! と目の前でちょっとした騒動が勃発してしまった。
説明をすると、モフリと言うのは俺と家族(主に獣族)の間で使われている単位の事だ。前回の事件(なでなでしてください事件)の後、俺が面白半分で決めたことなのだが、これは簡単に説明するとなでなでしてあげる時間を指しており、1モフリ=3分になる。
まあ、そんな事をしないでもして欲しければいつでもしてあげるのだが、報奨制度にすれば皆のやる気が上がるかなと思って言ってみたのだが、予想以上の反応だった。
というか、これ絶対決まらないパターンだ。皆やりたがって決まらないパターンだ。こういうときはあれだよな。
「これじゃあ決まらないですね~そうだ、アレで決めましょう~」
「アレでございますか」
そうそう、困ったときに一番蹴りつけるのが早いジャンケ―――
「「「殴り合いです!」」」
ズコーッ!
「……? クロウ様どうされましたか?」
「ちょっと待て! 何故そうなった!? そうちょっと平和的な決め方とかあるだと、あみだクジとかジャンケンとか!?」
「あみだくじ? じゃんけん? ……なんですかそれ?」
「……あっ、いやなんでもない、うん」
そうか、彼女たちもといこの世界では別の言い方だった……あれ? でもクジはまだしも、あみだもジャンケンも見たことないような……?
「と、とにかく決め方はそっちで決めていいけど、怪我だけは気を付けてくれ。いや、出来ればもっと平和的な決め方を求め―――」
「「「こっちの方が早いと思いますが?」」」
「あ……うん、もういいや、気を付けてな」
「「「はーい」」」
そう言って外へと出て行く獣族(女性)たちの後ろ姿を見送りながら俺はポツリと呟いた。
「……なぜそうなった」
主な理由は俺にありそうだが。
今度、ジャンケンとか教えていた方が良さそうだ。
結論:脳筋の血は伝染する
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その後、獣族達の健全な話し合い(物理)でローテーションは決まった。彼女たちがボロボロになりながら笑顔で報告に来たときは、唖然などを通り越して、寒気がした。最初はあんなに嫋やかだったのに何故こうなった……
これは子供たちにも感染する前に手を打たなければならないだろう。あっ、いや前に男の急所に全力ヘッドスライディングを決めたフェイを見てると、もう手遅れな感じがする。
いや、なんとかなる。あれはきっと無邪気な心がそうさせてしまったんだ、きっとそうだ(本日2度目の現実逃避)
と、兎に角、色々言いたいことはあるが、取りあえず人手は何とかなったので、次の準備に取り組もうと思う。
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「……えーと、クロウさん? これは一体……?」
「ん? これですか? 冷蔵庫です」
「れいぞう……こ?」
翌日、俺はギルドに顔を出していた。やることは内装作業だ。外形だけ作って内装まで手が回らなかったので今日は内装作業だ。
既にギルド自体は復旧して依頼やその他手続きを行える状態になっている。まだ、日は経っていないので出入りする人自体は少ないが、時間が経てばまた人も増えて行くことだろう。
「食べ物を冷やしておく装置です。冷やすことで保存期間を延ばすことが出来るんですよ。まあ、例外もありますが」
「へ、へぇー」
ミュルトさんは良く分かっていないようだ。うん、中世レベルの世界に近代的な装置を持ってきたもんだから仕方ないな。
で、なんでこんなものを……と、言えばまあ、職場用に一つ置いておこうって思って突貫で作ったよ。(家には設置済み)
それをテナントスペースの奥に設置したときに、ふと思った。
「……思ったより狭いな」
休憩室とかも作ろうと思ったら思ったよりも小さかった。まあ、学校の教室ぐらいのスペースしかないから、当然ちゃっ当然なのだが。
で、どうしたかと言いますと、サクッと地下室を作って解決した。えっ、どうやって作ったかって? そんなの魔法で(以下略)
ミュルトさんは慣れたのか「へー地下も作ったのですか」と軽く流していた。
その後、商品棚を設置してカウンターを設置してとよくある店内の装飾をしていたときのことだ。
「ふん、お主商売でも始める気かボケ」
どこかで聞いたことがある声が準備を進める俺の後ろから聞こえて来た。
「……なんだ、誰かと思えばナイフの投げ方も分からないじじいかよ」
「誰がじゃボケ! こう見えても《投擲》レベルは6じゃぞボケェ!」
「6ぐらいで自慢してるんじゃねぇよ。レベル10の俺からしてみれば雑魚同然だ。で、何の用だ?」
「お主に用など無いわボケ!」
(いや、話しかけたのお前からじゃん……)
つるっつるの頭にこの口癖。忘れる訳が無かった。相変わらずのようだな。
話しかけているのはトル・アランシュ。前にエルシオンに竜王(笑)が攻めて来た時に、商売のコツを聞こうと取引を持ち掛けて見事に返されたことがある。
「……まあ、いいか。そうだよ商売始めるんだよ。そういえば、あんたには何も教えて貰えなかったからな」
「ふん、小僧に教えるものなんざぁ何もないわボケ」
「相変わらずだな。まあ、張り合う気は無いから別に教えて貰わなくてもいいけどな、経験に勝るものは無いってか、自分で勝手に覚えさせてもらうよ」
「分かっているならワシの所に来なくてもよかろうがボケ。ワシのの所に来る方が間違えておろうが」
「あー……確かにな。まあ、あんたは商人としては失敗だろうけどな」
「なんじゃとボケェ!」
「当然だろ、あんな良い商品をタダ同然で作り方を教えてもらえたんだぜ?」
「だから、アレは誰が考えても高価な素材を―――」
「ああ、言い忘れてたがあれの材料は普通のポーションと全く一緒だからな?」
あれとは前に商売のコツを聞こうとしたときに取引品として差し出そうとした治癒薬の事だ、アレ自体はどこにでもある治癒薬と殆ど変わらない。ただ、作った人物のスキルレベルが高いだけだった。
だが、トル・アランシュはこれを「高価な素材を使ったポーション」として一蹴したのだ。
「何―――?」
「まあ、作れる奴は限られるから、そういう意味では高価なアイテムだけどな」
「……ふん、ワシは騙されんわボケ。そう言って今までだましてきた奴をこの目で見てきているんだからのボケ」
「……あ、うん。もうそれでいいよ。いいから、なんでここに来たんだ?」
「ああ、そうじゃったわボケ。ギルドに用があっただけじゃよボケ」
「あっそう(なんで俺に話しかけて来たんだよ」
「……ふん、今に見てろ商売なんざ8割以上が失敗する世界だ。そんな中で知識もない若造がどこまでやれるか……ボケ」
(あっ、今、口癖入れ忘れてたな)
「……もっとも、最近は挑戦する輩自体がいない腰抜け状態じゃがの、そこだけは買ってやるわボケェ!」
「なんだそれ? 褒めてるのか?」
「褒めるわけが無かろうがボケェ!」
それだけ言い残すとトル・アランシュはギルドの奥へと姿を消していった。
「……ツンデレか?」
いや、じーさんにモテるとかマジ勘弁願いたい。俺にそんな趣味は無いぞ。やっぱりモテるならかわいい子たちにモテたい。いや、実際はエリラがいれば十分なんだけどな。
1時間ほどしたのち、トル・アランシュはギルドの奥から姿を現し、こちらを一瞬だけ見たかと思うとそそくさとギルドを出て行った。
その後に奥からミュルトさんが現れ、こちらの進展状況を聞きにきた。
「調子はどうですか?」
「んー、予定通りですね。明後日には開店出来ますよ」
「そうですか、それは良かったです。所で……」
「はい?」
「トルさんと何かあったのですか?」
「いえ? ちょっと言い争ったぐらいで他には」
「何かあったんじゃないですか。さっき帰り際に『あの小僧に才能と根性があるか確かめてやるわいボケェ』と言って出て行ったので恐らくクロウさんの事だと思うのですが」
あのジジイそんなことを言っていたのか。
「まあ、商売するとなると同業者になりますから敵になりますかね」
「そうですか……ああ見えて、根は多分いいと思いますので、あまり敵視しないであげてください」
「多分……?」
「えーと……多分です、はい。そこは自信ありません」
そこは自信ねぇのかよ!
「そ、それよりも明後日には開店するということですか?」
(露骨に逸らした……)
「そうですね、まあ、準備が出来たらなので早くてという感じですが」
「……大丈夫ですか?」
「はい?」
「えっと……従業員に獣族を雇っているのですよね?」
「従業員だけに?」
「「……」」
「……すんません、今のは忘れて下さい」
「えっと……は、はい」
どうやら親父ギャクはこの世界でも寒いようだ。
「まあ、色々と気を付けないといけませんが、彼女たちがやる気になっているの大丈夫ですよ」
「そうですか……奴隷たちがやる気あるのですか?」
「そうですね……おかしいですか?」
「いえ、とても大切にされているのですね……生き物を大切に扱う人、嫌いじゃありませんよ」
ミュルトさんが笑顔でそう言ってくれた。おお、なんか本当に大丈夫な気がしてきたぜ。
……俺って単純な男だな(遠い目)
「わ、私は仕事がありますので、これで……クロウさん頑張って下さいね」
「はい、任せておいてください」
こうして、俺が商売を行う準備は無事に整ったのであった。
という訳で、次回より本格的に商売の時間です。
ちなみに1モフリはとある感想を見て思い付きました。感想の内容通りではありませんが、これで勘弁してください(土下座)
それと、活動報告を見ている人は知っていると思いますが、感想返しをまた始めたいと思います。 近い所から順番に返していますので、古い感想は遅くなるかもしれませんが、待って下さると嬉しいです。(そもそも、そんなに古い感想を書いた人自体が覚えてくだっしゃるのでしょうか……?)
感想帰ってこねぇんじゃ書かねぇよ! って人もこれを機に書いて下さると嬉しいです。
詳しい事は活動報告に書いていますので、是非ご覧になってください。
では、次回もよろしくお願いします。




