第197話:子供は誤魔化せない
「あっ、クロウお兄ちゃんおかえりなさいなのです!」
帰って来るや否や恒例となりつつあるフェイのダイブに迎えられる。
いつもなら、この後頭をなでなでしてあげてるのだが、今回はちょっと違った。
「くんくん……? お兄ちゃんいつもとちがいます?」
「違う……? 何が?」
フェイの言葉にヘロヘロになった(色々な意味で)獣族の大人たちがビクッと震える。フェイから放たれるであろう爆弾発言から逃れるべく持ってた銃を壁によりかけると、そのままこそこそと部屋の奥に逃げようとする。
「おかあさんたちの匂いがします! これは抱き付いていますです?」
子供とは無邪気である。親(大人)の気持ちなど関係なしである、奥に逃げようとした大人たちの中で何人かが吹いたであろう音が聞こえた。
「それはな。お母さんたちにもフェイにいつもやっていることをやってあげたんだよ。ほらこうやってな」
そう言ってフェイの頭を撫でてあげる。えへへと笑顔になるフェイ。大人たちから「ちょっと何言ってるの!?」と言った声が聞こえてきそうだ。
えっ、フォローすると思った? する訳ないじゃん(笑)
普段、俺が大人を撫でているようなシーンなど見たことない(したことない)ので、子供たちは「えっ」ときょとんとした顔で大人たちを見る。性感という言葉を知らない子供たちからしてみれば、大人たちがしてもらう理由など見当たらないので疑問に思うのも無理ないだろう。
「親たちもして欲しいっていうからしてあげたんだよ。可愛いよな」
「「クロウ様!?」」
味方すると思われていたであろう、俺が次々と爆弾発言を飛ばしていくのでもはや大人を守る盾は存在しなくなり、大人たちは顔真っ赤に顔を隠し、オロオロする始末である。正直可愛い。
「じゃあ、お母さんたちも皆でなでてもらうのです!」
無邪気とは恐ろしい物だ。フェイからしてみれば、皆で仲良く……みたいな感じで言っているのだろうが、大人たちからしてみれば、まさに「穴があったら入りたい」気分だろう。
「も、もうどうにでもなれよ!」
恥ずかしい気持ちに耐えれなくなった大人の獣族の一人がこちらに走って来た。そして、顔は真っ赤で目を瞑ったままの状態で俺に飛びついて来た。その時の顔はまさに >< だったのを俺はハッキリと見た。多分忘れる事は無いだろう。
フェイがいるにも関わらず、その横に顔を持っていき俺の胸に顔を埋める始末。
「慰めて下さい! この気持ちを慰めて下さい!」
この行動は流石に俺も予想外だった。そしてこれを皮切りに。同じく空気に耐え切れなくなった獣族たちが次々と俺に突撃してくる事態となった。状況としては先ほどの流れと全く変わらない。普段の彼女らならまずこんなことにならないだろうが、あんな事の直後だったのも重なり再びおしくらまんじゅう状態になってしまった。
「だぁぁぁぁあああ、何だよこの状況はぁ!」
「クロウ様のせいです! クロウ様があんなこと言うからです! 責任取って下さい!」
「俺!? 俺のせいなの!?」
「クロウお兄ちゃんせきにんとるです!」
「フェイ! お前分かってないで言ってるだろ!?」
初めて体感する状況に子供たちはただ単にポカンとするしかなく、大人たちは恥ずかしいであろう状況に悶え、フェイは良く分かってないだろうが非常に楽しんでるようだった。
「ナニコレ?」
騒ぎを聞きつけたテリュールがやってきた。あっ、なんか嫌な予感が……
「私も混ざる!」
そういうとテリュールはピョンと跳ねると、そのまま獣族のせいで絨毯みたいになっている俺のところへとダイブを繰り出して来た。柔らかい胸と鍛えられた筋肉が俺の顔面に襲い掛かる。嬉しいのやら痛いのやら良く分からない気分になった時間であった。
結局、理性を取り戻した大人の獣族たちが一斉に自分らの部屋に逃げていくことで、事態は収束したが、その日、大人の獣族が部屋を出る事はなかった。
エリラが訓練で庭に出ていて本当に助かった。エリラが来たらどうなってたか……うん、考えないようにしておこう。
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「入るぞ」
「あっ、クロウ君」
病室に戻るとアルゼリカ理事長が目を覚ましていた。
「無事目を覚ましたようですね。体は大丈夫ですか?」
「はい、サヤさんから聞きました。ありがとうございます」
うん。身体の方は問題なさそうだな。では、本題に入らせてもらいますか。
「どういたしまして……さて、アルゼリカ理事長」
「? はい、なんですか?」
「最近、何か悩んでいませんか?」
「……いえ、特には」
「嘘は駄目ですよ。アルゼリカ理事長が倒れた理由の一つは急性胃潰瘍という病気だと思います。聞きなれない言葉かもしれませんが、れっきとした病名です」
「……クロウ、それはさっき言ってた"すとれす"と……何か関係があるの……?」
「ああ、大アリだ。急性胃潰瘍とはタバコや酒などの嗜好品を多く摂取することでなるんだが、それ以外にもストレスが原因で発症することもある。ストレスというのは普段からある程度はあるんだが、心配事や不安なこと悩みなどが重なると体に悪影響を及ぼすようになる。その一例が今回の急性胃潰瘍という訳だ」
「……」
「アルゼリカ理事長は確か、国の軍隊で指揮をしたこともあると聞きました。しかし、今回の戦いでは指揮は全て俺らに任せ自身は指揮を取らない……普通に考えてみれば俺らよりも実際に部隊を動かしたことがあるアルゼリカ理事長が指揮を取る方が皆も納得するはずだ。にもかかわらず指揮を行わなかった理由……これは俺の予想ですが、アルゼリカ理事長。あなたは戦で自分が指揮を取る事により死者が生れることを恐れていませんか?」
「……っ!」
「アルゼリカ理事長が指揮を取った事がある戦は知りませんが、一番直近での大きな戦いと言えば龍族との戦争ですか? そこで何かあったと考えるのが妥当と思いますが」
「……それは」
「まだ、ありますよ。俺が今回ハルマネに来た理由は前に渡した魔法道具に反応が来たからです。あれはアルゼリカ理事長が持っている筈ですよね? あれを使った後に倒れたと俺は予想しました。まあ、たまたまと言ってしまえばそれまでですが、俺はそうは思えませんでした……もしかしたら、理事長は自らが判断を下すことに相当な抵抗と重圧が重なりに重なったのが、急性胃潰瘍という形で出たと俺は予想しますが?」
「……完敗ですね」
俺の話を最後まで聞いていたアルゼリカ理事長は、一呼吸置いてそう答えた。
「私は魔法学園の理事長となる前はアルダスマン王国軍の国軍として各地を転戦としていたわ」
彼女はそういうと自らの過去について語り始めた。




