第196話:モフモフは素晴らしい
「申し訳ございません」
「ん? 何が?」
アルゼリカ理事長に会ったのち俺はさっさと街を後にした。
ちなみに、俺にしがみ付いていた医者らしき人たちのことだが、俺が挙げたポーションで全員無事に復活したのは《透視》で確認できた。オマケではあるが、そのポーションの残りを医師たちが血眼になって奪い合っているのも確認できた。
その様子を見た俺は、俺の所に来るのも時間の問題だと判断して、さっさと病院を脱出することにした。
脱出する方法は至極簡単。窓からのダイナミック入室があるなら、ダイナミック退室もあるだろう。ということで、その辺の廊下の窓から飛び出しました。勿論、獣族も一緒です。
飛び出す直前「マジで?」といった顔を獣族がしたのは忘れる事は無いだろう。森の中で生きて来た彼女らにとっては取るに足らないことらしく、体操選手風に軽々と飛び出していった。まあ、1階だから大したことなかっただろう。
飛び出した後は一直線に街の外へとダッシュするのみ。一直線とは比喩ではなくリアルだ。流石に民家をぶち抜くわけにはいかないから、屋根の上を走らせてもらった。……あれ? 前にも民家の屋根を走った記憶が……? ま、まあその話は置いといて、先ほども言ったが、森の中で育った彼女らにとっては民家の屋根なんかは平地と変わらないのかスイスイと進んでいく。某忍者漫画の移動シーンに負けず劣らずの素早さだった。
流石、あの子供たちの鬼ごっこの相手をしていただけはあると思った。
で、最後にぶっ壊れた外壁にから平地へと飛び降りて、無事脱出成功したわけだ。ちなみにぶっ壊した窓は放置してきました。
それで、《門》を使って帰ろうと思った矢先で、冒頭に戻るわけだが、何か不味いことでもしたっけ俺?
ニャミィが頭を下げると他の獣族たちも頭を下げる。うーん、本当に何も思い浮かばないのだが。
「沢山の人間族たちの前で出しゃばった真似をして、本当に申し訳ございません」
「あっ、そのこと? 別に気にしていないぞ?」
「しかし……」
「むしろ俺は嬉しかったけどな」
「えっ?」
獣族たちは驚きの表情を浮かべた。
「だってさ、逆に考えてみろ? あんな沢山の人の前で一寸の迷いも無く俺を庇おうとしてくれたんだぜ? やろうと思っても簡単にやれることじゃねぇよ」
「クロウ様……」
「それに命令した訳でもないしな……」
事実、あのとき彼女たちは間違いなく俺の為に怒ってくれた。それも人間の街の中でだ。勿論、普通はないし、あってはならないことかもしれない。
でも、それがなんだと言わんばかりに彼女たちは己の身を守るための武器を俺を守るために使おうとした。いや、銃で撃ったら駄目だろ? と反論する声があるかもしれないが、咄嗟の行動にその人の本音が現れると言う通り、彼女たちの本音を体現してくれたと俺は思った。
「だからさ、謝る必要なんかねぇよ。むしろ……ありがとうな」
こういうのを面と言うのは照れ臭いものだ。俺は恥ずかしく思いながらも彼女たちに言った。
「お礼……ってわけでもないけどさ、俺に出来る事ならなんでも言ってくれよ。出来る限り叶えるからな。まぁ、別に普段から言ってくれてもいいんだけどな」
「えっ……えっと……では……」
獣族の一人が恐る恐るといった感じで前に出ると、頭を下げてこう言った。
「……頭を撫でてもらえませんか?」
「えっ? い、いいけど」
そんなことでいいの? と野暮を入れかけたが彼女が、それと言うのだから素直にやるべきなんだろう。どんな撫で方をすればいいのだろうと撫でる前に思ったが、いつもフェイにやるやり方で、優しく撫でてあげた。
「ふぇぇぇぇぇ……」
撫でた瞬間、気が抜けるどころか魂まで抜けたと錯覚してしまいそうな声を上げられ、一瞬撫でている手を止めてしまう。
「あぁ、やめないでください~続けて下さい」
「アッハイ」
言われるがままに撫で続ける俺。撫でられている彼女は「ふにゃぁぁぁぁぁ」とこれまた気が抜けような声を発しており、顔はまるで蕩けそうな表情を浮かべていた。
「あっ、ずるい私もお願いします」
「私も!」
「私もお願いします!」
今撫でている獣族に続くような形で、続々と獣族たちが撫でて欲しいと申し立てる。
「私が先です!」
「あーずるい私よ!」
いや、まて、これ今どんな状態だよ。俺に撫でてほしいとばかりに俺を囲うかのように集まる獣族。端から見れば俺が獣族におしくらまんじゅうされているように見えているかもしれない。気分は満員電車に乗っているようだが、獣族特有の柔らかい毛と、女性らしい柔らかい肌がぶつかりとっても気持ちい。たまに胸が当たるのが尚グッジョブだ。
これは後に聞いて知った事だが、女性の獣族の頭と尻尾は一種の性感らしく、好きな人にそこを撫でられることが快楽の一種であるらしい。言われてみれば、前にサヤとセレナがある獣族の尻尾などをモフモフしていたときも、気持ちよさそうだったような……?
だが、この時はそんな事を思い出すことは無く、皆を順番に撫でつつ傍に寄り添う彼女たちの柔らかい毛と肌と胸を堪能したのだった。
結局、その場にいた獣族全員を撫でてあげるという結果になり、気付けば小2時間ほど、その場で時間を潰してしまうのだった。
……実に素晴らしい時間だったと後で思いました。あの時感想を聞かれたらこう言っていただろう。
"モフモフは素晴らしい"と。
200回目と言う事でマイルドなお話にしてみました。
私も一度でいいから猫に囲まれてみたいものです。




