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【異世界転生戦記】~チートなスキルをもらい生きて行く~  作者: 黒羽
第5章:クロウのエルシオン開拓日記編
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第194話:気持ちの持ち方

「本当なの?」


 抑揚が無い声が聞こえた瞬間、この場にいたすべての人の動きが止まった。

 カイトたちが恐る恐るといった感じで後ろを振り向くと、そこにいたのは先ほどから一つも声を発していなかったネリーの姿があった。


「今、カイトが言った事全部本当なの?」


 目が完全に死んでいる。無理もない血の繋がった兄が死んでしまっているのだから。

 今頃、失言に気付いたのかカイトが「あっいや」と言いたそうな顔をしている。もっとも申し訳ないと思っているのはネリーに対してであって、クロウには微塵も思っていなかったが。

 ネリーが一歩、また一歩と前へ足を進める。カイトを始めとした特待生組はビビッて通路の端に移動し、ネリーとクロウの間に隔てる者はいなくなった。


「……」


 家族が死んだ者にどんな声をかければいいか。クロウは迷った。例え自分のせいでないにしても、今彼女の心が不安定なのは間違いない。ここで言葉を間違えると彼女は今後立ち直れなくなるだろう。それは前世で家族を失った自分が一番理解している。


 と言っても、それはもはや過去のさらに過去の前世でのお話。あの時とは感情も状況も全く違う。彼にとっては彼女がどうなってしまおうが、助けるのはあくまで最後であって、自分の家族が最優先だ。

 もし、彼女がここで自分にではなく家族に襲い掛かった場合、クロウは間違いなく彼女を倒すだろう。それは彼の家族に危険が迫ったからであり、彼にとっては当然の行動である。


「……もし、カイトが言った事が事実だとして、何故俺は今お前らの前にいる? そんなことをするメリットも動機も理由もない、それが全てを物語っているだろ? そんな馬鹿らしいことを俺がやる訳ないだろ―――」


 そう発言した後でクロウは思った。

 ここで、自分が否定した場合、彼女は一体どんな行動にでるのだ? 恐らく、ネリーも普段の状態であればカイトの戯言など疑いもしないで即座に否定しただろう。だが、そんな戯言すらも今の彼女は簡単に信じそうになってしまっている。

 今のネリーの心境は物に当たるときの感情に似ているかもしれない。怒りの矛先をどこかにぶつけたいのと同じことで、彼女は今、心に空いた虚無感を何でもいいから埋めたいのかもしれない。または、兄が死んだことへの怒りや悲しみを、向ける事が出来ても叩くことが出来ない戦争ではなく、形があるもの……ここではクロウに向けたかったのかもしれない。


 どちらにせよ、彼女は今、何でもいいから縋りたいのだろう。


 そして、その縋るものを拒否した瞬間、彼女には何も残らない状態になる。


 そんな状況に陥ったときに取る行動は限られてくるだろう。


「そう……嘘を付くのね」


 そういうと彼女は通路端に避けていたカイトに近づき持っていた剣をさっと奪い取った。


「いや、嘘ついてな―――


「お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。」


 あっ、これアカンやつや。

 クロウはネリーは完全に自己暗示モードに入っているが分かった。ぶつぶつと唱えるあの様子を見ると小説だったとしても寒気が襲ったものだ。もし自分だったらと。そして、今そのときのシチュエーションが現実となってしまったのだ。


 それにしても、特待生組のメンタルの弱さはどうにかならないものなのか。ネリーはまだ、同情の余地はあってもカイトになったら話にならないレベルだ。


「殺す」


 そして、突然こちらを向いたかと思えば、ネリーがこちらへと向かってきた。その瞳は相変わらず死んでいたが、その死んだ瞳の置くに感じる殺意はとてつもないものだった。

 その殺意に獣族たちも咄嗟に銃を構える。剣の届く範囲まで来たら間違いなく撃ちにかかるだろう。


「撃つな!」


 クロウはすぐさま獣族に撃たないように命令を下す。獣族たちが戸惑っている間にもネリーはどんどん近づいてくる。

 そして、ついにネリーの剣が届く範囲まで接近を許すこととなった。


「クロウ様!」


「手を出すんじゃないぞ!」


 ネリーの斬撃がクロウへと襲い掛かるが、当然クロウには当たるはずもない。力の差が歴然なのもあるが、普段の太刀筋よりも明らかに鈍かったのだ。


「ほら、殺したいんだろ? やってみろよ?」


「うるさい! 殺ってやる!」


 挑発するクロウにネリーは簡単に乗り、さらに攻撃は激しくなる。だが、対照的に剣速は遅くなっている。力で無理やり振っているのだから当然だと言えるかもしれない。

 そして、力によるゴリ押しがいつまでも出来るはずが無く。


「はぁ……はぁ……殺……す……」


 開始1分。すぐに息切れしまう始末だった。


「お兄ちゃんの……かた


「いい加減、目覚ませや!!」


 今まで防戦だけしていたクロウから強烈なキックが飛び出す。横から鞭のように繰り出された蹴りはネリーの身長の丁度中間あたりを綺麗に捉え、クロウはそのまますぐ横の壁へと押し込むかのように振りぬいた。当然、手は抜いてある。(全力で蹴った場合、風圧で周りの人どころか建物自体が崩壊する恐れがある)


 ズドンと音が鳴り、周囲が僅かに振動が発生した。壁にはひびが入ったのが確認できた。一般市民はその場から逃げ出し、特待生たちは唖然とするしかなかった。


 壁にぶつかったネリーは、しばしの間壁にひっついてしまっていたが、やがて重さに耐えれなくなった壁の一部がはがれ同時に地面へと落ちた。


「……ったく、どうだ? 少しは頭が冷めたか?」


 地面にうつ伏せに倒れるネリーへクロウは問いかける。しかし、ネリーは何も答えなかった。


「本当は分かっているんだろ? カイトが言った事が違うことぐらい」


「……」


「……別にお前が正しいと思ってるならそう思っていればいい。それでお前の気持ちが満足するならな」


「……だったら……」


「?」


 先ほどまで無反応だったネリーから声が聞こえたかと思うと、急にワナワナ震えだしたのが分かった。


「だったらどうすればいいのよ! 私のこの怒りは!? 悲しみは!? 誰に? 何にぶつければいいのよ!」


「……俺は別に復讐をするなとは言って無い。さっきも言ったがお前の気持ちが満足するならな。だが、もしそれで俺の家族に悲しい思いをさせることがあれば……その時、お前は特待生の知り合いでも何でもない……ただの敵だ……その時は……消す……それだけは覚悟しとけ」


「……どうせクロウさんには分からないわよね……こんな別れ方とは無縁そうだもの……」


 ネリーが体を起き上げながら、自虐に近い言い方をする。


「そうだな。そんな別れ方したくもないし見る気もない。そんなもの昔に嫌と言うほどみたしな」


「えっ……それはどういう


「でも、それがどうした? それで諦めるのか?」


「……」


「嫌だろ? 嫌ならどうする? 俺みたいな強い奴にただ助けを求めるだけか?」


「……!」


「違うだろ? 本当に守りたい人がいるなら……それを守れるくらい強くなってみせろよ。他人の力に過信しているようじゃ、今後何回同じ目に遭うだろうな」


「……うっ……うう……」


 ついに折れたのか泣き始めるネリー。「おい」とどこからか声が聞こえたが、謎の打撃音により直ぐに聞えなくなった。


「悔しいか? 辛いか? もうこんな思いしたくないか? そんなの誰だって一緒だ。だが、その後どうするかはネリー、自分自身が決める事だ。同じ目に遭わないため、周りとの交流を絶ち、孤独に生きるかそれとも、それを承知でこのまま生きるか…はたまた他の方法を選ぶか……俺が言える事はこれくらいだ」


 それだけ言うと、クロウは獣族たちに行くぞと言い、再びアルゼリカ理事長のいる病室へと歩き始める。しばし唖然としていた獣族であったが、慌てて後を追いかける。その後ろ姿を涙ながらにネリーは見る事しか出来なかった。


「ああ、そうそう」


 思い出したかのようにクロウが言うと。今度は特待生組に近づく。そして何故か地面に伏しているカイトを持ち上げると、《威圧》を全開にして、更にご自慢の刀を《倉庫》から取り出すと、先端をカイトの喉へと突きつける。サクッと良い音がしたかと思うと、カイトの喉仏あたりから血がスゥと流れ出す。


「俺をバカにしたり、いちゃもんつけるのは別に構わねぇけどよ……俺の家族をバカにするならお前も敵とみなすからな? いいか。? 忠告はしたからな? 二度目は無いぞ?」


 カイトが何か言いたげな顔をするが、言うより前にクロウはカイトを放り捨てると、今度こそ獣族を従え歩みを止めることなく廊下の奥へと消えて行った。


 後に残されたものは、ただ茫然とする他なかった。

次回、いよいよアルゼリカ理事長の元へと行きます。恐らくそこからちょっとした昔話になるかもしれません。予定ではそこで本格的な戦記が入る予定です。これで本格的にタイトル詐欺はおさらばですね。(約3年近く連載しといてどの口がいうのか)

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