第191話:発令! 第一号作戦(8)
「お……おおぉ! 治った! 治ってるぞ!!」
「俺の腕が! 腕が治ってる!」
「よかったぁ! 本当によかったぁ!」
先ほどまで致死量のダメージを負って死にかけていたのが嘘のように元気になった人、折れていた自分の腕が治った事に驚きを隠せない者。治ったことを手と手を取り合い喜びを分かち合う者。様々な人がいたが共通している事は、嬉しいと言う事だろう。
「ああ、本当にありがとうございます!」
「神だ! 神がいるぞ!!」
手当をした俺に感謝する人もいた。その中には涙を流す者や、神に祈りを捧げてるような姿勢を取っている者もいた。
そんな、彼らに笑顔で答えつつ、俺は次の負傷者の治療へと移る。
先ほどの戦闘による負傷者の治療を始めること10分。既に数十人ほどの治療を終え、残るはごくわずかの者のみとなった。
治療の片手間などから調べた結果、今戦闘による死者は123名。負傷者68名。無傷だったのは後方にいた数人のみという悲惨な結果だった。
敵の銃弾と言う雨に私服という防具無しで突撃をすれば当然の結果かもしれない。魔法による遠距離攻撃を行う前に撃たれたのだろう。いくら命中精度が低い敵の銃とも言えど集団で襲ってくる敵には非常に効果的だったということだ。
更に死者の割合を見ると、一般市民が約2割。残りの8割は魔法学園の生徒だった。戦闘参加者の割合からすれば妥当な割合だが、それでも多すぎた。今回の戦闘で魔法学園の生徒の大半は戦闘不能となってしまった。これでは次回以降の戦闘ではもはや戦力としては使えないだろうな。
そうこう考えているうちに、俺の元に来た怪我人の治療は残り一人となった。
で、その一人が
「ぐっ……! 離せ! あんたの世話になんか……!」
「レミリオン様! 今は素直に治療を受けて下さい! 本当に死んでしまいますよ!」
……ああ、なんというか、またお前かよ。魔闘大会で治療してやった記憶がよみがえる。
いつかの従者のうちの一人がレミリオンと呼ばれた少女を押さえつけている。
しゃべれるからまだ平気だろうが、彼女はわき腹に二発銃弾を受けていた。当たり所が悪かったのか、出血量は多い。
彼女の顔色も大分悪い。あと10分もすれば危険かもしれない。そして10分程度では街まで運ぶことは困難だろう。そう考えると従者の判断は正解だと言える。
ただ、治療を受ける当の本人にはどう映るか。
「こいつに……治療を受けるぐらいなら……死んでやる……! あんたも……離しな!」
「嫌です! いくらレミリオン様の命令でも、それは聞けません!」
従者がグッと涙を堪えてこちらに振り向く。ちなみにだが、従者も傷を負っていたのを治療してあげている。結構な怪我だったが、それでも従者として主のレミリオンを運んできたのだろう。
「……あなたに助けられることはレミリオン様に取っては屈辱以外の何物でもないかもしれません……。ですが……お願いします!」
その時、ふと思い出した。そういえば、レミリオンに付き添っていた従者は二人いたはずだ。もう一人は……?
「……あいつも……きっとそう望んでいる筈です」
俺の疑問は最後に従者がぽろっと言った一言で解決した。恐らくだが……もう一人の従者はもうこの世にはいないのだろう。
「……」
しばし、考えた俺であったが、レミリオンの傍まで近づき座った。それを見たレミリオンが離せと従者にせがむが従者は頑なにそれを拒んでいた。
「いいから黙って受けろや、俺もお前の治療なんかしたくねぇよ」
思わずそんな言葉が出てしまう。
「なら―――
レミリオンが尚も断ろうと口を開ける前に俺は言葉を続けた。
「だけどな、ココで死んでどうするつもりだ? お前に付き添ってくれた従者を独りぼっちにでもするのか?」
レミリオンは自分の従者の方を改めて見た。従者は涙を流しながらもレミリオンを離すつもりはないようだ。その従者の様子を見てレミリオンも言葉を失った。
「もし死にたいなら、まずはお前の従者を説得してみせろよ。今回はそこの従者のお願いだから治療をしてやるんだからな?」
「……」
俺も進んで治療をする理由もないしな。
レミリオンは従者の方をじっと見つめる。それに対し従者は涙を流しながらレミリオンに治療を受けるようにと目で訴えかける。
「……っ……早くして! 私はあんたの顔なんか見たくもないのよ!」
やがて、負けを認めたのかレミリオンが、治療のお願いをした。それを聞いた従者は「レミリオン様ぁ……」と嬉しそうに涙を流していた。
「やれやれ……」
素直に受ければいいものを……と内心思いながらも、さっさと治療を行う。わき腹に出来た傷口は10秒程度で塞がった。悪かった顔色も治療が終わる前にはだいぶ良くなっていた。
「……ほら、終わったぞ」
俺が終わったぞと言うや否や跳ねるかのように飛び起きた。キッとこちらを人睨みするとそのまま礼も言わずに去って行く。
(礼ぐらいあってもいいだろ)
分かってはいたがいざ言われないとなると、ちょっと寂しい気もした。ただ
「ありがとうございます」
その礼は代わりに彼女の従者がしてくれた。
「お礼は何も出来ませんが、私にできる事があれば何でも言ってください。レミリオン様を助けてくれたお礼ぐらいは何とか出来るようにしますので」
そういうと従者はレミリオンの後を追いかけて走り去って行った。
「……あんな奴に、あんなのが付いていくなんてな……世の中分からないもんだな」
素直にそう思った。まあ、人の考え何てそれぞれだ。分からないこともあるか。
その後は、教師から礼を受けたり、治療を受けた人から沢山の礼を受けたり、治療者の友人らしき人に礼を受けたりと、とにかく感謝され尽くした時間となった。
と、このように俺のお蔭で助かったと言う人は沢山いた。だが、その反面で散って行った者も多く居る。そして散っていった中には俺の知った顔もあった。




