第190話:発令! 第一号作戦(7)
お久しぶりです。生きてましたよ?
取りあえず色々いいたいことはありますが、本編どうぞ。
「……ふう」
魔物の肉片が雨のように降り注ぐシーンはグロいの一言に限ると思う。赤黒い肉片と血の雨、そして内臓らしき物体が空から落ちて来るのを見てそう思った。
そんな情景に思い耽って(!?)いると突如、腕……というより全身に電流が走るような痛みが襲ってきた。
「イテテ……忘れてた……」
ものの見事にもぎ取られた腕。《硬化》付きであんなにアッサリと切り落とされるとは思いもしなかった。素が人間の皮膚だから防御力が底上げされなかったのかな?
それについてもどうにかしないと、と思いながら戦闘中に出来なかった腕の治療をしつつ、俺は魔物の体の一部だった肉片を調べることとにした。
なお、腕の治療は回復系魔法では無く再生魔法を使った。流石にごっそり持っていかれたら回復なんてできません。
再生魔法……生と死を操れないこの世界の魔法で、これを作るのは本当に大変だった。再生……というより創生に近いこの魔法は、この世界の魔法の摂理の穴をついた魔法と言えるだろう。
「さて……この肉片は持って帰って調べてみるか」
再生をしないか心配だな……鉄塊で覆っておくか、どこか辺境の地下にでも保管しておいた方がいいか? そんな、辺境の生き物たちが顔を真っ青にしそうな事をサラッと考えつつも、この肉片を調べてみる。触るなんてとんでもない。こんなどす黒い汚物みたいなの誰が触るかよ。
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アイテム名:魔力崩壊し始めた肉片
《説明》
魔力に汚染された物質。膨大な魔力を持っているが、物質がその魔力に耐え切れず崩壊をし始めた物質。崩壊時間の長さは物体の強さに比例する。
食べると魔力自然回復量が大幅に上昇する。ただし過剰摂取をすると汚染されてしまい肉体の崩壊へとつながる。
完全崩壊まで残り約2分
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魔力汚染……? てか、なにこれ? かなりエグイ物体……いや、そんなレベルのもんじゃねぇ、崩壊ってなんだよ崩壊って!? なんか下の方に完全崩壊までの残り時間とか書かれているんだけど? これ2分経過したら消えてしまうってこと?
試しに《倉庫》に入れて(入れたくなかったけどやむ得ない)メニューから見てみるとアイテム名の横に(2:03)という数字が浮かんでいた。恐らくだがこれが崩壊時間だろう。ただ、カウントはされておらず数字はピタッと止まったままになっている。
《倉庫》内では時間が止まるからだろう。
暫くの間待っていたが、結局、数字が動く気配は無かった。その間地面に放置された肉片は徐々にその姿を小さくしていた。例えるならドライアイスのような感じだろうか。氷じゃないドライアイスだ。というのも、肉片は解けるとかでは無く本当に徐々に小さくなっているのだ。
液体と言えば、先ほど俺が戦闘中に確認した液体だが、どうやらあれも魔力崩壊し始めた肉片の一部だったらしい、肉体が形を維持できずに崩れたということだ。《多重防壁》と衝突したときに耐え切れなかった物体ということだな。
……どうやら、これはかなり調べてみる必要があるようだな。
そう判断した俺は嫌々ながらも、小さくなっていた残りの肉片も回収した。
それにしても……こいつもウグラのとき同様、魔物化したのか?
まだ調べた訳では無いが、前にレシュードが飲みかけていたのがあるから、あれも一緒に調べれば何か分かるかもしれない。
魔力汚染というのも気になるし、やることは山積みだな。分身出来るなら分身したいです。スキルでどうにかなりませんかね?
「クロウ様!!」
そんな事を考えていると、背後から声をかけられた。振り向いてみると獣族たちが、こちらに駆け寄ってきていた。全員、心配そうな顔をしていた。まあ、原因は俺の腕だろう。
「クロウ様……その……腕……」
案の定、腕に付いて聞かれてきた。まだ、再生途中で手首までしか回復していないが、取りあえず「大丈夫だよ」と一言言った。
それのどこが大丈夫なの? と獣族は言いたげな顔をしたが「そうですか」とそれ以上聞くことは無かった。かわりに、その次に発した声は謝罪だった。
「……申し訳ございません……お力になれなく……」
そういうと頭を下げて来たのはニャミィだ。他の獣族も頭を下げる。中には半泣き状態になっている者もいた。
「いや、謝る必要は無い。アレは完全に予想外だったからな仕方が無いことだ」
そうフォローしたが、それでもやはり腕の事もあるからか、沈んだ表情のままだった。彼女たちからしてみれば、いざと言う時に主を守れなかったのが悔しいのだろう。
「ほら、腕も回復してきたし何も問題ないからさ、元気出せよ。そんな顔俺は見たくないぞ?」
そういうと先ほどよりも、少しだけ再生された腕を振りながら笑顔で言ってみせた。腕が抉れた状態で笑顔で腕を振る……なんだろ、物凄くシュールな光景に見える。
「えっ……クロウ様……腕が……?」
その時、初めてニャミィたちが腕が先ほどよりも再生していることに気付いた。
「……あっ、そう言えば再生魔法のこと話していなかったけ? 時間はかかるがこうやって体の一部を再生出来るんだよ」
「「……」」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」」
彼女たちの叫び声が静かだった平野に響き渡る。
「な、なんでございますかその魔法は!?」
「そ、そんな魔法、き、聞いたこともありませんよ!?」
獣族たちの反応は、ほぼ予想通りだった。彼女たちはだんだんと再生されていく俺の腕に食い入るように見つめていた。
「まあ、だから俺なら別に腕が切れても時間さえかければ元に戻るんだよ。だから別に心配しなくてもいいぞ?」
再生出来る事を知ったからか、先ほどまでお通夜に行く人のような雰囲気だったのが、再生魔法の珍しさも重なり幾分明るくなった気がする。
「さ、流石クロウ様でございます……」
「私たちには到底無理なお話ですね……」
「まぁ……」
「「クロウ様ですからね」」
おい。
結局最後はそれで納得するんかい!
―――特殊条件【理解を諦められた者】を取得しました。
アッハイ。
結局、俺も納得するしかなかった。俺っていったい……
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腕がほぼ元通りになったのを見計らって俺らは一応街に向かう事にした。獣族たちもいるからサッサと帰ろうかなとも思ったが、リネアたちに会わないで戻るのも悪いと感じたので顔を出す程度はしておくことにした。それに、こんな開けた平原じゃ《門》をだす場所も無いしな。
まぁ、彼女らに何か悪影響を与えようものなら市内引きずり回しの刑にでもしてやろうかな? そんな物騒なことも視野に入れつつ(あっ、勿論しないよ……多分)、彼女たちには防衛のために危なくなったら撃っていいと指示をしておく。
だが、街に向かう前に俺らは足を止めることになった。
と言うのもすでに俺らの後ろでは傷ついて倒れていた人たちを救護している街の人の姿があったからだ。
俺と魔物が戦った場所は負傷兵がいるところよりも前だったので獣族たちの影に隠れて気付かなかったのだ。
そんな人込みの中から一人の少女が走り寄って来る姿が見て取れた。
「クロウさん! よかった……無事だった……!!」
リネアだ。紫色の髪が特徴的な彼女だが、彼女の顔をつたる涙が見えるとやはり顔の方に意識がいってしまう。
彼女は走っている勢いのまま俺に飛び込むような形で飛びついて来た。
「サヤさんから腕が切れたと聞いて……私……もしクロウさんの身に何かあったら……どうしようかと……」
泣きながら言ってるせいでよく聞き取れないが、俺を心配してくれたことだけは分かった。
「ああ、ごめんな心配かけたな」
獣族たちの視線が少し痛いが、自分の身を案じているリネアを無下に扱う事など出来る筈もなく、彼女が泣き止むまで暫くの間待っていた。
そして、泣き止んでから初めて腕の事に気付いたのか、俺に聞いて来たが「さあ? サヤの見間違えじゃない?」と適当にはぐらかしておいた。いや、どっちにせよサヤに問い詰められそうだから今、答えをはぐらかしてもしょうがないんだけど。
「そういえばサヤは?」
辺りを見渡してみるが、彼女らしい姿は見受けられなかった。
「それが……クロウさんの戦いが終わったと言った後から姿が見えなくて……」
「? どういうことだそれ?」
《マップ》を広げてみてみると、街の中で反応があった。よくよく見るとアルゼリカ理事長も一緒にいるようだ。
生きている事は分かったので、そんなに心配をしなくても大丈夫かなと思ったが、そういえばアルゼリカ理事長の動きが先ほどから全く無かったことを思い出し、やはり心配だから見に行こうと思った、その矢先だった。
「クロウ君!!」
今度は男性の声だ。見るといつの日か、特待生組をフルボッコにした時にお世話になった救護の先生だった。
「クロウ君! 色々聞きたいことが山積みだが、今はそれどころじゃない。頼む! 助けてくれないか!?」
「助ける……? なn―――
言いかけると、俺は口を止めた。先生が言いたいことが分かったからだ。
その答えは先生の後ろにあった。
運ばれていく負傷者たち。ピクリとも動かない生徒に声をかける生徒たち。先生が言いたいことは一目瞭然だった。
「……ああ、分かりました。手当の手伝いですね」
「! ほ、本当か!? 早速お願いをしたい!」
本当は助けるのも癪なんだけどな(ある一部の生徒を見て)。負傷者の中には一般市民も多く混ざっているようだし、面倒なので今回はまとめて助けてあげることにした。
「でもその前に、負傷者を一か所に集めて下さい。場所はどこでも構いません。こんなに広範囲にかつ大人数をまとめて治療とかできませんからね」
「わ、分かった。ではここでいいな? すぐに集めて来る!」
そういうと先生は速足で負傷者たちを運ぶ人たちへ声をかけに行った。
その呼びかけに応じて集まりだす人たち、しかし、中には先生と言い争った挙句俺とは正反対の街の方へ運んでいく人もいた。
割合的には、あんな少年に出来る訳がない。と言うのが6割、獣族がいるから嫌だと言うのが4割ってところか。
人間より耳がいい獣族たちにはダダ漏れだろう。
「……あんな奴らのこと気にしないでいいからな?」
別にあんな事を言われるのは初めてではないが、念のため、一言言っておく。
「……はい、分かっています」
彼女たちは淡々と答えたが、どうしても運ぶ人たちの意によって街へと運ばれていく負傷者たちを思ってか、しかめっ面となる。負傷者たちからしてみれば一秒でも早く治したいならこっちだろうにな。俺の腕の再生を目の当たりにした直後では尚更そう考えるだろう。
と、そんな事を考えていると俺の元に続々と負傷者たちが運ばれてきた。当然、「こんな少年が本当に?」と怪奇的な目で見る人もいれば、「獣族(又は奴隷)の近くになんか行きたくない」と不快な目で見る人もいたが治せるならと言う事で、渋々運んできたと言う人も多くいるように見える。
ただ、出血が激しかったり重症の負傷者を街まで担架も無しに(あるのはあるが数が絶対的に足りない)運ぶのがリスクが高すぎるし、本当に死にかけの人もいて藁にでもつかむ思いで来た人もいるだろう。
「さて、始めますか」
そして、俺の回復魔法を目の当たりにして驚いたり腰を抜かしたりする人が出て来るのは、もう間もなくのお話である。
また、この治療で沢山の民を助けて「聖者」と言われるようになるのも、もう間もなくのことであった。
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「はぁはぁ……! アルゼリカ理事長!!」
負傷兵が運ばれてくるのを前にごった返す街中をひた走るサヤ。人と人の間を掻い潜って走るその様子は、某アメフト漫画に出て来る主人公顔負けの動きだ。
「くっ……一体どこに!? 開戦前はいたのに!」
大通りは一通り探索した。城門付近も一通り調べた。なのに探している人は見つからなかった。
焦りが出始めた頃、ふとした瞬間にサヤの動きは止まった。
止まった場所は脇道に繋がる小さな道だった。この道の先は行き止まりで、人の往来もほとんどない寂れた道だ。
だからこそ、その道の先で倒れる人の姿を彼女は見逃さなかった。
「……アルゼリカ理事長!」
駆け寄ってみると、アルゼリカ理事長はうつ伏せに倒れておりピクリとも動いていなかった。
そして、倒れている顔付近には赤い液体が散らばっているのが見て取れた。
急いで彼女を抱きかかえる。息こそしていたが、顔色は悪く口からは血を吐いていた。手から感じる体温も低く、襟や胸元部分は湿っており大量の汗を掻いた後があった。
「しっかりして……! アルゼリカ理事長!」
サヤの必死の声も、今のアルゼリカ理事長には届かなかったのだった。
という訳で、前書きにも書きましたがお久しぶりです。
気付いてみれば前回の投稿日より一か月経っているんですよね。
一人暮らしの準備や、ネット環境を整えたりと色々していましたら、随分と開けてしまいました。許してヒヤs(その後彼の姿を見たものはいなかった。
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と、言うのは置いときまして。あっ、すいませんブラウザバックしないでください。マジですいません。
あと、書くモチベーションが上がらなかったのもありますね。(ネタはあっても書く力が沸いてこない)。
これを機にまた、復活目指したいと思います。久しぶりの更新でしたが、特に何もなくて申し訳ありませんが、これからもどうかよろしくお願いいたします。
では、また次回で会いましょう!
オマケ
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称号:理解を諦められた者
取得条件
・一般人の常識を超えた何かをやってのける
・周りに訂正されることを諦められる。
効果
・精神耐性が上がる
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