第187話:発令! 第一号作戦(4)
「何故じゃ!? 何故あ奴らが我らと同じ武器を有しておる!?」
参謀であろう茶色の狼男は持ち前の爪で頭を掻き毟る。
無理もない。先ほどまで一方的だった戦いのはずなのに、気付けば魔族はその数を2/3にまで減らしていた。
そして、突如現れた人間の援軍は僅か10名程度。だが、問題はそこでは無かった。
「アレは天から授かった未知なる兵器では無かったのか!?」
上層部から天から授かった未知なる兵器と教えられていただけに、上層部を疑いたくなってしまう。
「……アレは我らのと同じようで違うものだな」
「何故そう言える!?」
狼狽する茶色の狼男を他所に、黒色の狼男は冷静に敵の持っている武器を見つめていた。
「確かに形はほぼ一緒に見えるが、精度、威力共に奴らの武器の方が上に見えるな……どうやら敵は我らの武器を……神をも超える武器を作ったと見える」
「お主はアホか!?」
黒色の狼男の言葉に茶色の狼男が猛烈に反発をする。
「アホはどちらだ! 見て見ろ敵の方が遥かに少人数であるのに、我らの兵を次々と倒しているではないか! もし、『アモン』が天より授かりし兵器であるならば敵は、その上の武器を作った以外に何があるというのだ!」
黒色の狼男の言う事も最もだった。
「少し冷静になれ。我らは新兵器の実験に投入されたのだろ? なら、我らのすることは一つ。これ以上被害が拡大する前に撤退をし、報告をすることだ。我が兵器では敵の兵器には勝てぬとな」
「ぐっ……!!」
茶色の狼男が苦々しくも納得したのを確認した黒色の狼男は指示を出す。
「撤退だ! 全軍撤退の準備をしろ!」
だが、黒色の狼男の声に反応する者はいない。代わりに聞こえてくるのは怒りの声と何かが弾ける音だけだった。
「……話を聞くまい。あ奴らは劣等種。もともと軍としての能力など皆無じゃて」
もともと、魔族は集団戦闘をする種族ではない。ゴブリンなど比較的弱い魔族は同族同士で動くことはあったが、他の魔族たちと集団戦闘を行う事など考えもしなかった。(ただし、持ちつ持たれずの関係があった種族はそれなりにいたがあくまで集団生活での場合のみである)
そんな彼らが集団戦闘を行うようになったのはつい最近のことだ。それまで決して協力し合うことが無かった彼らであったが、度重なる人や他種族との戦いにより疲弊したある魔族たちが始めたのがきっかけであった。勿論、それに反対する者もいたが、そんな彼らが次々とやられて行くのを見た者どもは手を組むことを選んだのである。そこから強い魔族がコミュニティを束ねるようになり、コミュニティ間での戦争、併合を重ねた結果、今のような巨大な集団になったのだ。
「チッ……仕方が無い。我らだけでも引くぞ」
「……いや、我は残る」
「なにっ……!?」
狼狽した結果、脳までいかれてしまったのかと黒色の狼男は思った。
「報告は主だけで十分だろ? どうせ戻ったところでこんな失敗をしては、先は無かろうて」
そんな思いを見切ってか茶色の狼男が答える。
「……残るのは勝手だがどうするつもりだ? 例えあの獣族どもをどうか出来たとしても、あれの指揮を取っている人はかなりの使い手と見えるが」
どこからともなく現れて一瞬にしてあの防壁を作ったクロウのことを黒色の狼男は強いと判断していた。
「ふん、弱気になってるの……まあ、よい。どの道、時間稼ぎぐらいはしてやらぬとならぬ。最後にひと暴れさせてもらう……」
そういうと茶色の狼男は戦地へと消えて行った。後に残された黒色の狼男は暫くの間立ち止まっていたが、やがて「くそが……」と言いながら舌打ちをすると離脱を始めたのであった。
「ふん、魔族も落ちぶれたものだ……」
後に残った茶色の狼男は先ほどまで自分の兵士であった屍の山を見ながら呟いた。もはや兵は最初の1/5にまで落ち込み敗北は確定的だった。
「せめて一矢は報いてやるか」
茶色の狼男はそう言うと自分のズボンのポケットから錠剤を取り出した。
その錠剤は私たちが普段目にしている白いのとは全くもって違い、まるで毒を思わせるような紫色をしていたのだ。
その錠剤をじっと見つめたのち、茶色の狼男はそれを一飲みするのだった。
すいません、一人暮らしの準備と企業研修が重なって中々筆が進みませんでした。3月中までには元の更新速度に戻れるように頑張りますので、もうしばらくご辛抱お願い申し上げます。