第185話:発令! 第一号作戦(2)
※1/16 誤字を修正しました。
「―――撃て!!」
号令と共に200丁もの銃口が一斉に火を噴く。直径1センチ程度の穴から放たれた魔弾の精密度はお粗末にも高いとは言えず20メートル程度離れた対象物すらも狙った位置に当たらないなど当たり前だった。
だが、下手な豆鉄砲数撃っちゃ当たるという言葉があるように200もの銃口から放たれた弾のほんの僅かな数だが対象物へと当たりそして、魔弾を受けた者は次々と倒れていく。
魔弾は使用者の魔力を消費する代わりに使用者の魔力が続く限り撃ち続ける事が可能となる。当たった時の威力は実弾よりも低いが、速度や当たった位置によっては即死しかねない危険な魔法に当たる。だが、そんな即死させれるような魔弾を撃つことが出来るのは魔導士の上位しか扱えない上にそんな魔弾を撃てば魔力がすぐそこを尽きてしまうので、実戦で使う者はまずいない。
だが、『アモン』と名づけられたこの銃は、そんな常識をいとも簡単に覆してしまった。
魔法式を前もって内部に埋め込み、弾のスピードの命となる発火部分の魔力は魔法石を使い、使用者の消費する魔力は魔弾を作る時だけで、魔力消費量が抑えられた上に威力が高い武器となった。
そして、この武器の最大のメリット……それは、使用するのに訓練をする必要が殆ど無い事にある。
なにせ、トリガーを引けばいいだけの武器である。精度は元から低いので射撃訓練を行う必要は無く、必要と言えば魔力を底上げする訓練と、一斉射撃の合図や持ち運び方程度であった。
さらに、使用している魔族は元々魔力が高い種族が多く魔力の底上げは実質行わなくても良かった。
つまり、歩兵みたいに剣術、基礎体力、行軍など手間がかかることを一切する必要が無いのである。それ、その辺の雑魚でもコレを持たせるだけで手が付けられなくなると言っても過言では無かった。
欠点と言えば発火用の魔石の魔力や使用者の魔力が尽きれば撃てなくなるのと、作成時にコストがかかることであった、魔石は小さいサイズでもそれなりの値になるので、それを揃えるだけでも一苦労である。そういう意味ではまだまだ大量運用出来ないのが難点であろう。
だが、一戦だけそれも規模が小さい戦いでなら、そんな心配も無用だった。
「う゛っ!!」
「あ゛あ゛あ゛ッッ! 目があぁぁぁぁぁ!!!」
目の前で次々と倒れて行く敵。それを見て気分は高揚され攻撃は一層激しさを増す。初めて見る武器に敵はなす術なく倒れて行く。倒れた者を見て途端に後ろと逃げ出していくのを見るのは、魔族たちにとっては快楽にも等しい刺激を与え、逃げ惑う敵を見てまた気分を高揚させるのであった。
「くっ……引け!」
サヤの指示を聞く前に、既に味方は我先にと逃げ出していた。
「どうして……?」
サヤは目の前の光景に納得がいかなかった。
前回の敵の攻撃方法は遠距離からの攻撃だった。それが魔法にせよ武器にせよ、ある程度安全な位置から攻撃が出来る武器を敵が持っており、尚且つそれが一定の戦果を挙げた以上次も使ってくるだろうと考えた。
残念ながらサヤたち学園には敵の射程距離と互角の距離で使う事の出来る魔法や武器は持ち合わせていなかった。
そこで、考えられたのが近距離による肉弾戦だった。
武器の破壊力を考えるに、乱戦状態では味方すらも巻き込んでしまいかねないあの武器を使われる前に、こちらから近づいて近距離で魔法などを撃ち、殲滅しようと言うものだった。
だからこそ、彼女らは街を出て決戦を挑んだ。その決戦には学園の生徒たちに加え勇気ある市民が武器を持ち加勢をしてくれた。
行ける! 数ではこちらの方が多いと見た何人かは、僅かながらも希望を見た。
だが、それはまるでガラスのように脆く、そしてあっけなく崩れた。
開戦から僅か1分。僅か1分で味方は総崩れになった。敵から目に見えないほどの速さで飛ばされて来る魔弾の雨の前にあっと言う間に数十名が倒れて、そしてそれを見た生き残りは恐怖に怯え逃げ出していく。それは、ただえさえ恐怖に怯えていた生徒たちの心を打ち崩すのには十分な打撃だった。
「……逃げなさい! ……私が引きつける!」
傍にいた仲間にそう言い残すとサヤは敵の方へ突撃を開始した。
目に見えないほどの速さで飛んでくる魔弾であったが、サヤには魔弾の軌道が見えていた。これもクロウとの特訓の成果だろう。伊達にレベル70台では無いと言う事だ。
数発だけならそれで十分避けれた。だが、サヤが一人前に出ると話は変わった。敵の銃口200が一斉にサヤへと向き一斉に放たれる。毎秒数発撃つことが出来る『アモン』から魔弾が次々と飛び出し、たちまち数百とも千とも言えない数になってサヤへと襲い掛かった。
それを風魔法とご自慢の武器ナックルダスターで弾いて行き、なおも接敵を試み続ける。その様子に流石の魔族も焦りが見えた。
だが、忘れてはならない。魔弾も当然空気抵抗を受け失速をする。しかし、近づけば近づくほど空気抵抗を多く受ける前に敵へと到達をする……つまり、近づけば近づくほど威力が上がっていくのだ。
威力の前にサヤよりも先に、音を上げたのがいた。
―――パキッィ!
突如、サヤの手に激痛が走った。何事と見てみれば拳に付けられていたナックルダスターが粉々に砕り、ナックルダスターを砕いた魔弾の後ろから来ていた魔弾が何もつけていないサヤの拳に当たったのだ。
いくら魔力で威力軽減がされようとも完全には殺しきれない。
体勢を崩されたサヤに新たに数百の魔弾が襲い掛かった。
胸、腕、お腹、太股、足……体中に魔弾を受けたサヤは苦痛に顔を歪めた。当たり所が悪かった場所からは出血もしていた。
「ぐっ……! ……ま、m―――
「《炎津波》!!」
尚も前へと出ようとしたサヤの前方から、突如として火柱が立ち上がり、そして火柱はまるで波のように峰を撃ちながら魔族へと襲い掛かった。
「何をしているんですか!? 逃げますよ!!」
後ろからサヤの手を握りしめ、そのまま一気に街の方へと引っ張っていく。
「……リネア……!?」
サヤが突撃をする様子を見ていたリネアは、咄嗟にサヤの後ろをつけていたのだ。
「……! ……頭……!」
振り返りながらリネアの顔を見たサヤの目には頭から大量の血を流すリネアの姿だった。いくらサヤの後ろを付けていたとはいえ、サヤに向けられた魔弾はその精密の悪さから後ろのリネアにも飛んでいたのだ。サヤよりも防御力の低いリネアも忽ち数発の銃撃を受け、そのうちの一発が頭にヒットしたのだ。運よく貫通せずに弾かれたのだろうが、その出血量からかなりの衝撃だったと推測される。脳震盪を起こして倒れてしまってもおかしくは無かっただろう。だが、それでもなお魔法を唱えサヤのピンチを救ったリネアの精神力に流石のサヤも驚くしかなかった。
「いいから逃げますよ! あなたが死んだらどうするのですか!? 他の人に簡単に任せられない役を背負っていることを忘れないでください!」
サヤよりも数歳年下のリネアに説教をされたサヤは、だけどと反論しようとしたが、リネアの怪我を見てその言葉はどこかへと消えてしまった。こんな怪我をしてまでも自分を助けに来たリネアを怒ることはサヤには出来なかったのだ。
「! 急いでください!」
ハッとサヤが後ろを振り返ると、先ほどの炎の津波を逃れた魔族がこちらへと追撃を開始していた。既に何体かはこちらへと銃口を向け撃って来ていた。
少しだけ距離を取ることが出来たので即死するようなダメージこそ無いものの、それでも受ければかなりのダメージ量になる。
そして、そのうちの一発があろうことかリネアの蟀谷にヒットした途端、リネアの体勢が大きく崩れ、そのまま地面へと倒れ込んでしまった。
「……リネア!」
一発耐えたリネアもさすがに二発目は耐えられずに、その意識を手放してしまった。
「くっ……!」
考えている暇は無い。気絶しているリネアを背負いあげると、担いだまま走り出そうとした。
だが、リネアを背負いあげる僅かの時間を敵が待ってくれるはずが無かった。
タァン! と銃口から放たれた魔弾はサヤの太股を捉え、当たり方が悪かったのか貫通をしてしまったのだ。
「ああッ……!?」
膝からすべきこむかのように地面に倒れこむサヤ。撃たれた方の足は痙攣を起こし、走るどころか歩くことすらも困難な状態になってしまった。
そんな彼女たちに無情にも次の攻撃が襲い掛かってきた。
ここまでなの!? サヤがそう思った次の瞬間
「《土壁》!!」
地面が盛り上がり目の前に巨大な壁が一瞬にして出来上がり、彼女たちを狙っていた魔弾は全て壁に当たり消えて行ってしまった。
何が起きたか分からないサヤ。そんな彼女の耳に知っている声が聞こえて来る。
「ギリギリか……大丈夫か?」
サヤの前に立ったのはサヤと同世代ぐらいの黒髪をした少年だった。
「待ってろ、今治療をするからな」
少年が、スッと両手を出すと、そこから緑色をした綺麗な光が溢れ出て、そのままサヤとリネアの体をそっと包み込んだ。するとサヤとリネアに出来ていた傷はあっと言う間に塞がれ、まるで何もなかったかのように再び、元の綺麗な肌が姿を現した。
「……!!」
サヤは何も言わなかった。いや、何も言えなかった。ジーンとした感情が体をゆっくりと駆け巡り、悔しいのか嬉しいのかなんとも言えない感情が彼女の中で渦巻き、混乱した。
だがそんな心の中でも彼女は一つだけハッキリとしていることがあった。
―――約束通り彼は駆けつけてくれた。
やがて、心の混乱が少し収まったときサヤの口からは彼の名前だけがこぼれていた。
「……クロウ……」
クロウはニッコリと笑顔で彼女に微笑むと、次の瞬間には真面目な顔つきとなり、立ち上がる。
「待たせたな」
クロウはそれだけ言うと《土壁》を取り除き、こちらも同じく何が起きたか分かっていない魔族たちと対峙をした。
「……悪いが、今回の相手は俺じゃないぜ……」
彼はそれだけ言うと片手を上げた。何があったのか分からない魔族であったが、自分らが狙っていた獲物が健在と分かるが否や、再び一斉に銃口を向けた。
だが、それよりも前にクロウが動いた。
「撃て!」
その瞬間、再び戦地に銃声が鳴り響いた。
===2017年===
08/09
・誤字を修正しました。
・一部表記を修正しました。