第184話:発令! 第一号作戦(1)
皆さん。新年あけましておめでとうございます。2016年も黒羽と異世界転生戦記をよろしくお願いします。
お年玉などはあげれませんが、少しだけ量を多めに新年1話目をお送りします。まぁ、もう正月過ぎているけどね(血涙)
クロウがギルドを立て直し終わる丁度その頃。魔法都市ハルマネに忍び寄る新たなる影の姿があった。
ハルマネより東に10キロ地点。そこには魔物たちが隊列を組み静かに立っていた。
「ホウコク……テキ ノ トシ ノ ヘイリョク カクニン。コドモタチ ノミ トノコト」
「ふむ……報告通りか。分かった下がっていいぞ」
報告にやってきたコボルトを下がらせ自らは参謀とこれからのことを協議する。黒い弾幕に囲まれた一室で魔族が2体、話をしはじめた。
「しかし、下位のほうなれど上級魔族である我らがこんな片言しかしゃべれないゴミどもを連れ添ってまともな兵力も居ない人の街を攻撃しなければならないのか……全く……」
先ほど報告を受けた身長2メートルにもなろう茶色の毛を全身に纏う狼男の口から思わず愚痴がこぼれる。
「そう嘆くのではない。今回は新型の兵器の試しを兼ねているのだ。我ら上級魔族が事細かく報告をせねばならぬかつ、戦う奴らは捨ててもいいゴミどもでなければならない以上、こうなるのも致し方あるまい」
黒色をした狼男がイライラを募らせる茶色の狼男を宥める。
「逆だろ! 普通、新しい兵器を運用するときはある程度訓練された優秀な部隊が行うべきだ! もし敵に兵器が奪われた場合、同じものを量産してきたらどうするというのだ」
「心配せぬとも、彼らに我らの武器は作れぬ。何せ我らの武器は天から送られた未知の兵器。未だに弓に頼っている人間どもには到底理解できぬまい。仮に作られたとしても量産する術も知らぬ以上大きな脅威にはなるまいて」
あくまで問題ないと言う黒い狼男の言葉に納得がいかない茶色の狼男。
エルシオンの略奪失敗と敵の砦の攻略失敗。全体的に見て今回の戦争で勝利を収めた魔族に取っては小さな事かもしれないが、彼の中では小さい事では無いように感じられた。
しかもどちらの戦いも聞けば、魔族はほぼ全滅したと言うではないか。さらに今回自分らが攻める予定の街も攻撃を仕掛けたはずの味方との連絡も付いていないときたではないか。
そして、着いてみるも味方の姿は無く。代わりに半壊状態となった街がぽつんと立っているだけだった。
「さて……そろそろ始めるとしようかの。人狩りの始まりじゃ」
黒色の狼男はそう呟くと弾幕の外へと姿を消した。後に残された茶色の狼男もこれ以上ここにいても仕方が無いと判断し、重い腰を持ち上げ外へと出た。
(今回、わが軍の兵数は240体。それに対し敵は実戦もほぼ無いガキが100名程度……前回、ハルマネを襲った魔族は1000体以上……)
もし、姿を消した味方部隊が全滅したとしたら。人間で言うCクラスやAクラスばかりで組まれた味方すら勝てなかった相手を我らは弱兵と新兵器のみで相手をしなければならないと言う事になる。いくら新兵器が強力だと言っても嫌な予感は否めない。
(しかも、今回の新兵器とやらはあの爆炎筒の小型バージョン……)
しかし、ここで撤退したらどんな仕打ちを受けるか分からない。行きは地獄帰りも地獄とはまさにこのことだろう。
(ああ……逃げ出したい……)
そんな事を心に思いつつ、茶色の狼男は黒い狼男の後を追うようにして付いていくのだった。
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「アルゼリカ理事長!」
バンッと勢いよくドアを開けたのはシュラだった。クロウがエルシオンに帰宅後は彼が主に生徒と理事長間の伝令を任せられている。
「ふぇっ!? な、なんですか?」
午前中から午後にかけての生暖かい日差しについウトウトしてしまっていたアルゼリカは弾かれたかのように反応する。
「大変だ! 西に魔族の軍勢が確認された! 数はおよそ300!」
そんなアルゼリカのことなど気にもせず、シュラは報告をする。
「まだ距離があるか数時間後には開戦している可能性がある! 既に応戦の準備は始めているが間に合うか合わないかは分からない。特に前と同じ遠距離攻撃が来たらやばいぞ!」
「急いで準備をしなさい。難民たちの報告通りなら私たちにはこれ以上後ろはありません。背水の気持ちで挑みなさい」
「は、はい!」
一通りの報告をしたシュラが理事長(未だに半壊)から出て行ったのち、アルゼリカは机の引き出しから手のひらサイズの水晶玉を取り出した。
「……」
暫くの間じっとその水晶を見つめていたアルゼリカだったが、不意に首を横に振ると、水晶を元にあった場所にそっと戻した。
「……彼ばかりに頼ってはいられないわ……でも……」
かつての光景を思い出し、思わず口を押える。突然襲ってきた吐き気が収まるまでじっと何も考えずに待つ。やがて、吐き気が収まりふぅとため息を吐き、そして思い立ったかのように再び机の引き出しを開け、中から水晶を取り出した。
「……」
そこからは何も言わなかった。ただ無言で身の回りの整理を済ませるとアルゼリカは速足で理事長を後にしたのだった。
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「全員準備を急いで! 敵はいつ攻撃を開始するか分からないわ!」
「それくらい分かっているさ。さあ、僕の真の実力を今度こそ見せるときだね!」
「うっさい! そんな事を言っている暇があるなら急ぎなさいバカッ!」
「ば、バカだと……!? ぼ、僕にそのような卑劣な言葉をかけるとは……だg(ドスっ
「……うざい……」
またしてもスピンをしそうだったセルカリオスをワンパンで沈めるサヤ。
「あー、セルカリオス様ぁ!」
「ちょっとぉ! 何をやっているのよ!」
そんな沈んだセルカリオスを介護する女子(自称:セルカリオス親衛隊)たちに白い目で見られるサヤ。だが、当の本人はそんなのどうでもいいと軽く無視をし、自らの武器であるナックルダスターの最終チェックを行う。
「……やる事は変わらない……勝つ……」
そんな彼女を遠くから見る人が二人いた。一人は青髪のロングをした少女、もう一人は縦まきロールが特徴的ないかにもお嬢様と言った感じの少女だ。
「……サヤちゃん怖いね……」
「なんといいますか……クロウさんが離脱した後からずっとあんな感じですわね」
「なんというか……良く分からないけど心配だね……無理して敵に突っ込んだりしないかな?」
サヤの親友でもあるセレナは不安な眼差しで見つめる。
「彼女なら大丈夫でしょう。あんな感じですがきっと心の中はいつも通りだと思いますわよ?」
「だといいんだけど……」
ローゼの言葉にも不安を隠せないセレナ。もっともローゼもまた表面上はいつも通りだが、内心では決して平常とはいい難かった。
(私、大丈夫でしょうか……?)
ただえさえ前回の戦いで完膚なきまでに叩かれ、さらに今回は前回の主戦力である(と言うか、実質彼一人で戦っていたが)クロウが居ないのである。不安になるのも仕方がないのかもしれない。
背中に熱くも無いのに妙な汗が流れる。気付けば手もぐっしょりと濡れておりそれが、今のローゼの心境を物語っていた。
他の人も似たような感じだ。「死にたくないよぉ!」と叫ぶものがいれば、それを半泣きになりながら押さえつける者。部屋の隅で緊張のあまり吐いてしまう者などもいた。戦うなどもっての外だ。こんな状態で戦えるか! 誰もが心に少しは思っていただろう。だが、そんな考えはすぐに消え、自分は生き残るにはどうすればいいのだろうと、自分の事ばかりを考えるのであった。
そんな中、周りと同じように不安になりつつも自分の準備を着々と進める少女がいた。
「魔法具よし、クロウさんから貰った回復薬もよし……と」
装備品の確認をし終えた彼女は最後に、ポケットから一枚の紙を取り出した。広げてみるとそこにはややこしい魔法式が書かれており魔法を多少なりとも心得ている人でも「なにこれぇ?」と言いたくなるような量が書かれていた。
だが、十数歳程度の彼女は、それをいとも簡単に読み取り自分の記憶している魔法式と間違いが無い事を確認し終えると元あったポケットへとすっと戻した。
「……大丈夫…………勝てる……」
大切な師匠の顔を思い浮かべながら準備を整え終えた少女は待機場所へと移動をするのだった。
1月2日つけで20歳になり、成人式があるなぁと思いましたが、そんなことはどうでもいい! それよりも卒業研究や! 就職や! 小説や! 状態です。
20歳になったと言いましたが、心はいつでも18歳(!?)の黒羽です。ちなみにバイト先の先輩からお誕生日と言ってエロ本(新品)をもらいました。なんでやねん!