第180話:レウスの提案
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「……チッ」
俺は小さく舌打ちした。
くそ……完全に先走ってしまった。
「若いわりには大きな家に住んでいるとは思いましたが、まあそのような実力があるなら納得ですね。ああ、心配しないでください別に他人に話すつもりはありませんので」
俺の心を読んだのかレウスはそう言った。
「ん? そうなのか? それは有難いが何故だ?」
意外な反応だったので俺は思わず聞いた。
「強い人を敵に回したら速攻で消されることぐらいカラスにでも分かりますよ……まあ、テルムはどうだか分かりませんが」
一人でのたうち回っているテルムを思い出し内心シュールだなと思いつつ、何となく納得した。してしまったのだ。何故か「ああ……あいつだからな」と思ってしまったのだ。
「……まあ、誰にも言わないでくれよな……ばれたら面倒なんだ」
物分かりのいい人で助かった。これで「ばらさない代わりに~」みたいなことを言い出したらどこかで消す必要もあったかもしれないからな。まあ、それは最終手段だろうが。
今の所、力を見せるメリットは皆無なのでレウスの言葉は有難い。
「じゃあ、改めてそんな桁違いの強さを持ったクロウさんはこの事態をどう対処しますか?」
ああ、なんかそんな質問されてたな。
「どうするって言ってもな……孤立を防ぐなら間違いなく降伏だけど俺にどうしろと? 正直、こんな争いに参加したくはないぞ」
この街にそこまで執着する理由も愛着心も無い以上、家族の安全第一に行動するのが一番良い。家族の事を思うなら、出来るだけ安全な方が良いに決まっている。
「まあ、面倒事を見るのは好きですが、巻き込まれるのは私も勘弁ですね」
「巻き込まれるって……あんた、この街に来た時点で巻き込まれていないか?」
「いえ、まだ見ているだけですよ。だってテルムの行動が面白いですから」
レウスは満遍の笑みでそう答えた。
こいつ……腹黒い……。
先ほどのテルムへの追撃も見るにどうやらレウスは一種の「S」なんだろう。だから俺を呼んだのだろう(楽しそうと言う意味で)。
「さて、では巻き込まれる前に面倒事を起こしてみてはいかがでしょうか?」
相変わらず満遍の笑みを浮かべたままレウスは言った。
「? どういうことだ?」
言葉の意味をサッパリと掴めない俺は首を傾げる。問題を起こせば巻き込まれることは覚悟しないといけないはずだが……?
「クロウさんなら可能でしょう?」
そう言ってレウスは城壁を指さし
「アレをぶっ壊すぐらい」
と言った。
「……オーケー、一回整理しようか。門を壊すとはどういう意味だ?」
「何、簡単な話ですよ。籠れる場所を無くせばさっさと降伏するじゃないかと言う事です。まあ、その後の修繕などは知った事ではありませんが」
「いや、門壊したぐらいで降伏するか? あの様子だと市街地戦になってもやり合うぞ?」
「いえ、それはないでしょう。先ほどの会話を見る限り将兵は新人、周りの兵士らもあの噛みつきようから練度は高くないはず…で、この街の周辺は僅かに森が少々あるのみの平原で撤退する場所も無い……と言う事は、守備側は打って出るか、籠城戦以外の手は無い。そして、もともと数にも差がある以上打って出ることは自滅に近い。よって籠城して敵の士気を削る持久戦に持ち込む以外に勝利は無いのです。なら、その籠城を出来なくしてしまえば? 手を無くした軍と言うのはやけくそで暴れるか降伏するかの二択になるものです。この場合後者である確率は高く、また暴れた所で逃げ場など無いのですから討つことぐらいは容易いでしょう……と私は思うのですが?」
長々と話したが要は戦う意思を作り上げている物をぶっ壊して降伏させちまおうぜと言うことか?
口では言うのは簡単だが、そう簡単に事は運ばないんじゃね? 俺はそう思った。
第一、大事な事が抜けている。それは何を何から守ると言う意思だ。この場合「ラ・ザームからエルシオンの住民を守る」が該当する訳だが。それを言おうとしたとき
「あっ、戦う意思はこの場合は考えなくていいでしょう。彼らが新兵だとすれば、戦う意思が高いのはある意味当然と言えるかもしれません。なんせ志願して集まったのですから低い理由が無いですからね。ですが、訓練されていない以上、現実を見ればその理想は簡単に崩れると思いませんか?」
と、逆に言われてしまった。
何度も言うが俺は戦争を本やテレビ越しでしか見たことや聞いたことは殆どない。なので、実際兵士たちがどう思っているのかを想像するのは無理に近い。
「んー……」
「それにどうですか? 修繕を手伝うと言う面目で手助けをする代わりにお金をもらえば悪い話ではないと思いますが?」
「まぁ……それはそうだな……」
無駄な争いが起きなければお金も稼ぐことが出来る。一石二鳥ってやつか。そういう意味ではやってみる価値はあるのかもしれない。
「やるかやらないかはクロウさん次第です。それに行った所で先ほど言った通りになるかは分かりませんが、やらないよりかは良いと私は思いますよ……では、私はこれで、テルムがそろそろ復活しそうですので、もう一撃入れに行ってきます」
「お…おう……(汗」
キリッとした表情で何食わぬ顔で去って行ったレウスを尻目に俺はどうしようかと、レウスに出された案を真剣に考えるのであった。
「第一陣、攻勢用意! 目標、目の前、エルシオン! 魔導部隊! 援護用意!」
将兵の合図と共に一番最前列に布陣する兵士たちが一斉に抜刀をする。それと同時に後方に配置されている魔導兵も詠唱を開始する。
「容赦はいらない! 逆らうものには一斉の手加減をするな! 全軍とつげk―――
将兵は突撃を合図しようとしたまさにその瞬間だった。
―――ズゴゴゴゴゴゴゴ……!!
辺りに地響きが響き始めたのだった。
卒業研究などの影響で中々更新できませんが、少しずつでも行いますのでよろしくお願いします。
いつも感想、誤字報告をして下さる皆様ありがとうございます。返信は遅れるとは思いますが、すべてに目を通しているのでこれからもよろしくお願いします。