第170話:成長早き家族たち
「……では、この手紙はあなた方からと言う事で間違いないのですね?」
「そうじゃ、ワシの舎弟が届けたもので間違いないぞ」
語尾に「マッスル」を付ける舎弟とかどんな存在だよ。そんなツッコミを内心で入れつつ、俺は彼らとお話合いをすることになった。
……ただ、一名を取り除いて。
「19876! 19877! 19878! 19879! 19880!!」
「「……」」
ギルドの隅っこで筋トレと称してシャトルランをしている三男のテルム。
「あ、あの……テルムさん……?」
ミュルトさんが困った顔をしながらテルムに話しかけようとするが
「ああ! 今は駄目じゃ! あと10116回待って下され!」
と言ってきっぱり断りやがった。
「え、えっとですね、こちらも忙しいもので手短に済ませますので取りあえずお話を―――
「駄目じゃ! 今止まると、息まで止ままってしまうから駄目じゃ!」
……どうやら聞く気は無いようである。てか、動きを止めたら息まで止まるって……お前はマグロかよ。
「まあ、テルムは置いときまして、取り合えずこれはこれでよろしいですか?」
兄弟の中で一番まともそうなのは、この次男のプロレウスぐらいか。
ちなみに長男はと言うと、先ほどのダメージによりベットに寝かされている。さっきちょっとだけ称号を覗いてみたら《貧弱神》とか《スペランカーマスター》とかもうツッコミどころ満載の称号となっていた。
てか、スペランカー(ゲームの方では無く名詞で『無謀な洞窟探検家』を意味するらしい)ってなんでそんな言葉が……称号……まだまだ奥が深そうである。
「はい……ですが、いいのですか? 街の復興及び定期的なモンスター討伐……しかもそれを超格安で受け持って下さる……どう考えても割にあいませんよ?」
「まあ、あの馬鹿が言い出した事なので、私は何となくついて来ただけですし、兄は無理やりですし」
「は……はぁ……?」
物凄く困っているなミュルトさん。いや、多分内容で困っている訳ではないだろう。何故なら超格安で付近の治安を守ってくれるのだから有難いことこの上ないだろう。
ただ……
「……ところでそろそろ服を着てくださいませんか……目のやり場に困ります」
そう、彼らは依然上半身裸のままでいるのだ。正直よくミュルトさんは我慢していると思う。さっきはあんな叫び声を上げて俺の後ろに隠れていたのに……。
「いえ、これが私たちの正装なので」
「上半身裸が正装ですか……」
「いえ、来ているじゃないですか?」
「えっ?」
「空気と言う名の服を私たちはこれさえあれば問題ありません(キリッ」
「「……」」
「20987! 20989! 20990! ……アレ? 今何回じゃったけ? ……よし、始めからじゃい!!」
……駄目だこいつら……早く何とかしないと。
俺とミュルトさんはそう強く思ったのであった。
==========
―――パンッ! パンッ! バンッ!
「……どうですか?」
「うーん……3発中1発か……大分精度は上がってきているけど、まだ出来るはずだ。実弾の銃は反動があるからそれを計算して撃ってみるといい。でも短期間でこれくらいの成長すれば十分だ。頑張ったな」
「はい! ありがとうございます!」
「よし、じゃあ次」
「はい! お願いします!」
俺の合図で次々と的に鉛の弾丸が打ち込まれていく。もっとも的を狙ったと思われる弾丸の殆どは周囲に積まれた土嚢に突き刺さって行くが、3発に1発の確率で当たるので、2,3日でここまで来たら十分だと俺は思う。
なお、最初の効果音で変な事を想像した人……きっとあんたは溜まっているんだろう。
それにしても、銃を持った獣族……漫画やアニメの世界でしか見られなかった光景が今、自分の前で行われているのを見て改めて異世界なんだなんと実感するな。
ふと、目を移すとエリラが一人黙々と剣を振っている様子が見えた。
ここ数日。ずっとあんな感じだ。朝早くから素振り、筋トレと実にハードなメニューをこなしている。夜も俺と一緒にベットに入っておきながら、夜中にこっそり抜け出している所も多々見ている。
自分から進んで行っているので、特に何も言っていないが本当によく頑張っているな……。あとでエリラには特製のケーキでもごちそうしてやることにしよう。たまにはいいよな?
お蔭で、彼女の剣戟にもより一層の磨きがかかったようだ。色々なスキルや称号を取得していたので、その効果もあるのだろう。
最近自分のことは殆ど行わず仕舞いなので、ここいらで俺も奮起しないとなと思ってしまう。やった事と言えば新兵器の開発ぐらいで後は殆ど手が付いていない。称号は……いや、考えないようにしよう。
「クロウお兄ちゃん!」
フェイが相変わらずの笑顔のまま俺に駆け寄ってきた。
いい笑顔だ。疲れも吹っ飛んでしまいそうだ。
ただ、剣を片手に持っているので光景自体は非常にシュールなのだが。
「どうしたんだ?」
「お相手をお願いしたいのです!」
どうやら、手合わせをしたいらしい。
フェイも短期間で驚くほどの成長を見せている。スキルレベルも既に「3」になっていたし子供は本当に成長が著しいと思う。
「分かった。テリュール、悪いけどこっちを見てもらえないか?」
「わかった。気を付けてね」
テリュールもすごかった。
魔法は小さいころから覚えださないと出来ないとか言われていたのだが、その飽くなき探求心が彼女の才能を開花させているようだ。
回復魔法に加え補助と攻撃。さらに銃による遠距離射撃の上達も早い。
……俺もチートだと思うが、それ以上に周りの成長も早い気がする。
……やっぱり、俺も頑張らないとな。気付いたら追い抜かされていそうで怖い。
「クロウお兄ちゃん! 早くなのです!」
向こうでフェイが元気に手を振っていた。
「ああ、今行くよ」
さて、俺も頑張らないとな。
俺は改めて気合を入れなおし、フェイが待つ場所へと歩いていった。