第169話:正義の筋肉3兄弟(?)登場・後編
前回の前書きで書いた通り今回もネタ回です。
後悔もしていないし反省もしていない(キリッ
「「……」」
あまりに予想外な光景に色々な意味で絶句する俺とミュルトさん。
えっ、てか何こいつら。上半身裸でポーズ決めているあたり、場所を弁えないと職務質問待ったなしだと思うのだが。
この時、俺は既にこいつらがあの手紙を出した奴らであろうことはおおよそ検討がついていた。
そりゃあ、こんな濃ゆい内容の手紙と光景を見せられれば否が応でもくっつけられるわな。
だが、それでも一つ言いたいことがある。
「……何あのもやし……?」
それは、ポーズを決めている変態3名の中で唯一ひょろっとした体形をした奴のことだ。
筋肉? どこにあるの? 体脂肪率一桁未満と同時に筋肉量も一桁未満だと思うのだが。
「……っ、きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
と、ここでようやく現実に戻ってきたミュルトさんが顔を真っ赤にして叫びだした。すぐに顔を手で覆うと俺の後ろに逃げるように隠れて来た。
……ミュルトさん意外と初心なんだな。
「フハハハハ! どうだ我ら兄弟の筋肉は! 素晴らしいだろ! あまりに素晴らしすぎて輝いて見えるだろ!?」
そういわれると輝いているような……いやいや! なわけないだろ!
「変態! 変態! こっち来ないでください!!」
俺の後ろで来ないでと叫んでいるミュルトさん。
「なにぃ!? 輝き過ぎて見ていられないだと!? フハハハハそうだろう! なんせワシもサングラスをしないと3分で目が筋肉になってしまうほどだからな!」
今のをどう聞いたらそんな言葉に聞き取れるんだよ!? てか、目が筋肉になる!? 怖いわ!!
「ごはぁ!!!」
「今度は何!?」
見ると長男と名乗っていた男が……何故か血を吐いていて倒れていた。
……っえ?
「兄じゃぁぁぁぁぁぁ!!! レウスよ! 何秒じゃ!?」
「7.8881秒。いつもより0.0001秒長く持って新記録樹立です」
「うぉぉぉぉぉぉぉ! やったぞあにじゃぁっ!」
「やっ……た……ごふっ!!」
「ぬぉぉぉぉぉ! さあ兄者もう一度決めますぞ! 今度こそ夢の8秒台を目指そうではないか!」
「ストップ! ストップ! ストッォォォォォォプ!!!!!」
入る隙間が全く無かったが、いくら何でもこれは止めないとやばいと判断した俺はここで、止めさせた。
「む? お主どうしたのじゃ?」
「色々言いたいけどまずはそいつ死にかけてるよ!? ポーズ以前にまず助けろよ!」
「大丈夫ですよ」
そういったのは次男と言っていた二番目に筋肉がある男だった。
「どこが!?」
目の前には血でちょっとした水たまりを作って倒れている男の姿……どこをどう見たら大丈夫なのか理解に苦しむ場面である。
「いつもの事ですから」
そういって、グッと手でグッジョブサインを出す次男。
「いつものこと!?」
いつもなの!? この惨状がいつも!? ちょっと感覚麻痺していない!?
「そういうこじゃ! さぁ、兄者よ! 『逝こう』ではありませんか!」
違う! そっちの『逝く』は違う! 天に召されてしまう方や! あかんパターンの奴や!
「……ああ、父上の姿が見える……」
「はは、何を言っているのですか兄さん。父上は10年前に死んでいますぞ。幻覚でも見ているのですか?」
それ幻覚じゃない! 走馬灯や! 死にかけているんだよ!
「……ぐふっ(ガクリ
それだけ言うと長男は目を閉じて力尽きたのであった。
「「「……」」」
「兄じゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「くっ、何故ですか。今まであんなに元気だったじゃないですか!?」
いやいや死にかけていたからな!? えっ、てか、死ぬあの直前が平常時だとでもいうの? だとしたらどんな病弱だよ長男!
「テルム、血が足りていないようです。至急輸血を!」
「よしっ、任せろ!! ムゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」
そういうと、何か先ほどとは違うポーズを取るテルム。すると胸筋あたりから謎の光が浮かび上がり。やがてビーム(?)となって飛び出した。そしてその光は長男を包み込み回復していk―――
「ごはっ!!」
……事無く、再び長男は血を吐いていた。
「しまった! これは【筋肉鼓舞・その29636】だった!」
えっ、何それ。そんな恐ろしい響きの鼓舞とか聞いたことないんだけど。えっ、てか29636? 最低でも同じのがあと29632個あるってこと?
―――スキル《筋肉鼓舞》を取得しました。
―――特別条件《筋肉神への道・初級》を満たしました。
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スキル名:筋肉鼓舞
分類:筋肉スキル
効果
・胸筋から光を出し、その光を浴びさせることで様々な効果が生み出される。
・効果は本人が新たなポーズを作ることにより増えて行く。
・使用時に消費するのは魔力でなく体力を消費する。
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称号:筋肉神への道・初級
取得条件
・筋肉スキル系を一つでも取得すること。
効果
・筋力ステータス大アップ
・筋肉について有難り教えを説く事が出来るようになる。
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いらねぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇ!!!!!!!!
俺はこの時ばかりは《理解・吸収》を恨んだ。というよりこれを授けたセラさんを恨んだ。くそぉっ! 見たら覚えるのを忘れていたよコンチクショー!!!!
「こっちじゃ、さあ次こそ! ムゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
先ほどと同じ光を発し、長男の顔色がよくなりだした。
そして、光が止んだと同時に長男は目を開けた。
「……ハッ、私は……」
「兄者あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そういうと、テルムは目覚めた長男を抱きしめた。
うん……普通なら感動する(?)場面なんだろうけど、なんでだろう。しょっぱい涙しか出てこない……。
ま、まあ、何はともあれ、これで長男は助かっt―――
―――ボキボキボキィッ!!!
……ボキ?
「あ、兄者あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
見ると長男は物凄いエビ反りを決めている状態で力尽きていた。それを見た瞬間俺は悟ってしまった。いや、悟らざる得なかった。
(……ああ、抱きしめられて骨が折れたんだな……)
その時の俺の目はおそらくこれ以上にないほど、遠くて暖かい眼差しをしていただろう。
「どうでもいいですけど、早く服を着てくださぁぁい!!!」
ミュルトさんの悲痛なお願いも目の前の惨状の前に虚しく響くだけであった。