第167話:試してみよう・後編
パァン!
軽い響きと共に小さな弾丸が飛び出す。秒速200メートルにまで瞬間的に加速した鉄の塊は真っ直ぐと飛んでいく。
その先にはその辺の素材を繋ぎ合わせた軽鎧が置かれていた。軽鎧と言ってもその装甲は剣を弾くほどの強さは持っている。
だが、そんな装甲ごときに小さな鉄塊は止められるはずもなかった。
バキッ! と何かが弾かれる音が聞こえ、その後バリィッ! という音と共に軽鎧はアッサリと突き破られ、その後ろに設置してあった土嚢に銃弾が突き刺さり、ようやく止まった。
「「……」」
目の前の光景に唖然とする獣族の女性たち。
魔力も加えなければ特別、力が必要という訳でもなく、見た目は鉄の棒を曲げ、そこに装飾を施した"ジュウ"
だが、その見た目とは裏腹に一度トリガーとクロウが言った引き金を引けば突如として腕だけ吹き飛ばされてしまうような衝撃と共に設置してあった防具を一瞬にして打ち破ってしまったのだ。
獣族がいままで扱って来た遠距離系の武器と言えば弓が代表的だ。あれでも当たり所が悪ければ一撃で生命を消し去ってしまうが、この"ジュウ"と呼ばれた武器は弓なんかよりも遥かに早くて、強かった。
もし、こんなのが自分に向けられれば……
自分たちは抵抗をする間もなく殺されるだろう。こちらが弓を引き絞る前に、魔法を唱える前に、ジュウと呼ばれる武器からの攻撃の前に成す術も無く……
「怖いか?」
クロウが獣族の大人たちの元へと近寄る。
自分たちにこんな武器を渡した主は撃ち抜かれた鎧を見ながらそう言った。
「……はい」
ニャミィが皆の心の声を代表して言った。
「そうか。それが正しい反応だろうな。だけど、その銃は規模としては一番最少の銃だ。威力もまだまだ小さい。皆には……そうだな、少なくともこれくらいのを扱ってもらうつもりだよ」
そういうとクロウは《倉庫》からニャミィたちが持っている銃よりほんの一回りだけ大きいが、形はほぼ変わらない大きさの銃を取り出した。
パァン!
先ほどと同じくらいの音が鳴り響いた。だが、軽鎧に当たった瞬間先ほどの光景とは全く違う別の光景を彼女らは見せられてしまった。
ズドォン!!
鎧に当たった瞬間、強烈な爆発が起き先ほどは穴が開いた程度の鎧が木端微塵に吹き飛ばされてしまった。
その光景に大人たちだけではならず子供たちまでも動きを止めて呆然とした。庭の隅っこで一人別メニューをしていたエリラもこの時ばかりは動きを止め、庭で起きた爆発をただただ見ていた。
パラパラと砕け散った鎧が地面に落ちる。その様子を見たクロウは無言で銃をしまった。
「……まあ、あれはかなり遠くから攻撃する用で近距離ではさっきみたいな銃を使うけどな」
「……あれを私たちが……ですか?」
戦いには殆ど無縁な彼女たちに行き成りこんな武器を持たせるのも無理難題なのかもしれない。
「そうだ。扱わないと駄目なんだ。これから先、何がどうなるかか全くわからない。これくらいは扱えるようになってもらわないと困るんだ。勿論そうならないようには極力努力するけどな……
「わ、分かりました……」
ニャミィたちも何も思わないわけでは無かったが、そんな状況では無い事ぐらいは理解していた。続けて起きたエルシオンへの攻撃。自分たちが直接交戦した訳では無いが、街の様子を見れば状況は一目瞭然だ。
今回は助かったが、次はどうなるか分からない。もし主人が居ない状況に自分らが立たされたら……。
そう思うと彼女らも自然とスイッチが入る。やらなければならない。それが自分らのためにも、子供たちのためにも、そして主人のためにもなるのならと。
「……ごめんな、こんなことさせて」
「と、とんでもありません! 自分たちのことを思って、このようなことをして下さっているのならクロウ様に謝ってもらう理由なんてございませんよ!」
ニャミィの言葉に周りの大人たちも頷く。
「そうか……ありがとうな」
クロウは素直に礼を言ったのだった。
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俺もやることはやらないとな。
俺は彼女たちに練習を続けるようにと指示をして俺は一人庭の隅で、あるものを飛ばす実験をしていた。
「……よし」
俺が取り出したのは、直径10センチほどの小型の飛行機だった。緑色をベースに赤色のラインを両翼につけたこの飛行機は、俺が持っている特殊スキル《飛行》を応用して作った試作品だ。
人に《飛行》の能力を付与することは出来なかったが、物には制限がありながらも作り上げることが出来た。
制限と言うのは、まず燃費が悪いこと。それと動きが遅いこと。そして、動きは指示しなければならないと言う事だ。
最初の二つはまあ、説明しなくても分かる事だろう。問題は3つ目だ。
動きを指示する……というのも《飛行》スキルをつけさせたものの、その動きは俺自身が指示をしなければならないのだ。
動きのさせ方自体はゲーム感覚で一機一機にここに行けと指示を出すだけなのだが、これだと移動できるのは俺が知っている範囲に限られるし。しかも直線で行くもんだから進行上に障害物があってもつっこんでしまうのだ。
まあ、これらの改良もおおよそ検討はついているからいいだろう。
で、なんで自分は空を飛べてかつ高速移動が出来るのにこんなことをしているのかと言うのは……今は秘密だ。だって面白くないだろ? どうせなら完成した後にお話をしようと思う。
「テストプレイと行きますか」
指示を出し終わると飛行機はゆっくりと飛び出した。
ゆっくりとだが確実に飛んでいく飛行機。いい気分だ。ライト兄弟もこんな気持ちだったのかな? と思ってのんびりと見ていた時だ。
……あれ? なんか様子がおかしいな。
俺が指示をした場所までは行ったが戻ってこない。俺の計算ではそこから元の場所に引き返すように作ったのだが、どこかでプログラムを間違えてしまっていたようだ。
飛行機は少しづつ加速しながら落ちて行く、そして落ちて行く先には
「―――あっ」
俺が気付いた時には時すでに遅しだった。
―――ドスッ!
飛行機は魔法を撃とうとしたエリラの横腹に綺麗に突撃をし、ぶつかった衝撃でエリラも一緒に飛ばされていた。審査員がいれば10点中10点は取れそうなぐらい綺麗な決まり方だった。
そのまま地面に滑るようにエリラと飛行機は落ちた。
静まり返る周囲。やがて、イテテとエリラがむくりと起き上がり、俺の方を向いた。
……あっ、アレはアカン。
俺の直感がそう訴えていた。
エリラは立ち上がると自分にぶつかった飛行機を広い上げ、こちらへと歩いて来た。
「いや……その……悪い、事故なんだ」
ジリジリと後さずりする俺とドンドン近づいてくるエリラ。目は笑っているように見えるが口は全くと言っていいほど笑っていない。
「そうよね。クロのことだからわざとじゃないぐらい分かっているわよ」
「じ、じゃあ―――
「でも、一発やらせてね♪」
「あっ、ちょっと待って、慈悲はn(ドスッ
気付けば俺の顔面に飛行機がぶつけられ俺は、そのまんま吹き飛ばされていたのだった。
「……平和ですね」
「……はいなのです」
ニャミィとフェイからそんな声が聞こえて来た。
これは平和とは言わないと思うのだが。
そう思いながら俺は地面へと落ちて行くのであった。