第163話:混沌の始まり
※ 8/4 名称が間違えていたので、機関銃と一括りにしました。
「……」
俺は一言も喋らず、黙って空から地上を見下ろしていた。
目の前に広がるのは平野とそれを囲む山岳地帯。いわゆる盆地だ。
ここに人間が建設した巨大都市メレーザが《・》あった《・》場所だ。
メレーザがあった場所は瓦礫の山と化し、あちらこちらでまだ出火しているのか煙と火柱が見えた。大陸一堅牢と言われたシールメレス城はその面影を僅かばかりに残し、殆どは大穴が開いて黒こげになった中が見えたり、石煉瓦が崩れて雨さらしになっていたりなど見るも無残な姿になっていた。
高さ20メートルと言われた巨大な城壁にはあちらこちらに突破した跡があり、まるで責めて来た敵が「そんな高い城壁など我らには無に等しい」とでも固辞するかのように見えた。
城壁にあったカタパルトは殆どが無残にも粉々に破壊されていたり、燃えて灰になっていたりした。人類にとっては最先端とか言われていた技術の塊が無残なものだな……。
瓦礫の山中を歩く人が見える。この大惨事を生き残った人たちだろう。だが、その数は本当に極僅かで大量にある瓦礫と、人や魔物の死骸で今にも埋め尽くされそうなほどだった。
この様子を見るに恐らく襲ってきたのは魔族だろう。
爆炎筒とカタパルトじゃ話にならなかったんだな……歴史で大坂城に立て篭もった豊臣軍に対し大砲(当時は国崩しや大筒などと呼ばれていた)を天守閣に打ち込んで講和させた徳川軍のことを思い出すな。
難攻不落と言われた大坂城を一方的にフルボッコにしたのも力の差が大きかったが、こういった技術力の差もあったと言われている。
やっぱり、技術力か……個々の能力の差も多少はあったかもしれないが……城壁を軽々と超えて内部に降り注ぐ火球の姿が簡単に想像できてしまいそうだな。
そうなるとやっぱり、俺も小銃なんて生半端なもんじゃなくて機関銃ぐらいは用意しないと駄目かもなぁ……。
と、話が逸れたがこの光景を見たとき、俺はアルダスマンは事実上の滅亡をしたことを感じ取った。
王都がこのありさまではそう考えるのが妥当だろう。どこかに首都を移して臨時政権として生き残っている可能性もあるが、メレーザですらこのありさまではもはやそれも無駄なあがきであることは一目瞭然だ。
「……これからどうなるんだろうな……」
エルシオンも当然この影響を受けるだろう。他国が侵攻してくるか、はたまた他種族が殴り込みに来るか……。
他国に併合されるならまだ良いだろう。だが、他種族となると……ああ、阿鼻叫喚な地獄絵しか見えてこないな……もっとも俺がいる限りはそんなことさせないけど。
さて、結果は分かった。じゃあ戻るとするか。
本当は難民たちもどうにかしたいんだけど、手が無いからな……《門》を使えばいいだけなんだが、そんな代物を易々と一般人にかつ大量の人たちに見せる訳にも行かないしな……緘口令を敷くにしても赤の他人にそんな事を強要することも出来ないし。
物凄く後味が悪いこととなるが、仕方が無い。
せめて人手がいればなぁ……
そんな事を頭の中で思いつつ、俺は《門》を使ってさっさとエルシオンに戻る事にした。
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「ただいま」
「うわっ!? クロウ!? どこに行ってたのよ?」
「ちょっと色々と確かめにそこまで」
エルシオンに戻り、ソラがいた場所に戻ってみると取りあえずと壊れた建物の資材を使ってテントみたいなのを作らせていた所だった。ちょっととは言ったが片道200キロも離れているので、果たしてちょっとかどうかは分からないが。
そこにはミュルトさんやソラ以外の人物もいた。
「なんだ、おっさんもいたのか」
「……クロウよお主ワシに対しての態度が悪化しておらぬか?」
そういうのはガラムだった。あくまで表面上はいつも通りの様子だったが、既に俺の心の中は敵意丸出しor警戒モードになっていた。
当然だ。肝心な時に2回もいなくなり、さらにはエリラをレシュードに渡すためにレシュードを何らかの方法で事に乗っけたのだから。
だが、それを今ここで出すわけにはいかない。奴は一応ギルドマスターなのだから。こんな所で敵意むき出しに色々言っても無駄なことぐらい分かっている。むしろ俺の方が周囲から怪しい目で見られることになる。
だから、俺も表面上は何も知らないように装った。《ポーカーフェイス》のお蔭でもあり俺はいつものように話をした。
「いや、肝心な時にギルドにいない偉いギルドのおっさんに何を言えと言うんですか?」
もっとも、周りも周知の事実は言わせてもらうけどな。
「うむ……手厳しいの……まぁ、よい。それよりもこやつらの情報を元にするとどうやらメレーザは魔族に攻められたようでの……今、軍の奴を一人出して確認させているのだが……小僧、レシュードは見なかったか?」
「さぁ? ギルドで会った以来会っていませんが?」
当然嘘を言う。
「そうか……そういえばエリラは元気にしているか? レシュードの奴諦めるとか言ってた割には気にしていたようだしの」
「ええ、元気にしていますよ。昨日も庭で一人黙々とトレーニングをしていましたし。それはもう、ちょっとは休めよとこちらから言ってしまいそうなぐらいにね」
その言葉にガラムの顔が一瞬引き攣ったように見えた。まぁ、そうだよな。エリラがいると言う事はレシュードに渡した作戦は破綻したことを表しているからだ。
それにしても、この程度のことで表情を変えるなよ……こいつ絶対詐欺師に向いていないわ。と心の中で思った。レシュードとギルドで会った時もニヤケ顔を一瞬さらけ出していたしガラムと話すときは顔をよく見ておいた方が良さそうだ。
「……ふむ、そうか。まあ、それは良い事だ。ミュルト、ワシはこれから本部に行って来る。済まないが今度は直ぐに戻れるとは限らないから留守をお願いするぞ」
「えっ? は、はい!」
ミュルトは一瞬ポカンとしたが、すぐに承諾した。まるで「いや、そんな話ありましたっけ?」とでも言いたそうな様子だな。
「またいなくなるんですか? 少しは街の復興を手伝ってくださいよ」
それとなく鎌をかけてみる。
「そういう訳にも行かぬわい。ワシはギルドマスター、この街の様子を本部に伝えなければならない。場合によっては各街に復興の手伝いをお願いする依頼も出してもらう必要もあるしな」
まぁ……そうだな。強ち間違ってはいないな。それなら……
「へぇ……でも、俺の感覚だとそれこそ国とかに助けを呼んだ方がよくないですか? 今は知りませんけどレシュードみたいな人がいる以上、まずは彼にお願いした方がよろしいのでは?」
「あ奴がどこにいるかは知らぬが国だけよりも大陸中から集めた方がいいじゃろ?」
「ふーん……まあ、おっさんの考えならそれでいいのでは?」
適当にほっぽり投げつつ頭の中では別の事を考えていた。
兵士たちの方が治安面でも安定するだろうし、何よりも纏まった数を用意しやすい。それに対し個々の冒険者となると数は運任せ。人によっては治安の悪化にもなりかねない。そして一番の問題は期限だ。冒険者たちを雇うと言う事は当然お金がかかる。もし復興に必要なほどの冒険者をかき集めた場合、その支払いは誰がする? 最初はギルドの方から出るかもしれないが、それは同時に後々にエルシオンに対してその分を徴収する可能性は十二分にある。例え100人規模で一日の生活に最低限必要なお金を払う……それも何日もとなれば莫大な費用になる。
同時に、食料の問題も重なる。冒険者が集まれば商人もここぞとばかりに出て来る可能性はあるが、もしそうでなければ? 特にエルシオンは龍族の勢力範囲に近い場所に位置している。国が事実上の崩壊をしてしまった以上、無防備なここに態々命を懸けてまで来る商人がどれほどいようか……。現に今ですら来ていないのに……。
結論から言うとガラムの奴がやっていることはメリットよりもデメリットの方が大きいことになる。まあ、ギルドマスターが国へお願いするなんてことは出来ないけど、むしろそれなら何もやらない方がいいのではないか?
もっとも、俺からしてみれば「今度はどんな事を仕掛けて来るんだ?」としか思えないのだが。
そうなると、早々にこれを付けておいた方がいいな……。
俺はポケットの中に手を突っ込むと、周りからは見えないように《倉庫》からある物を取り出す。
それは一見すれば、ただの平たい石のように見える物だった。大きさは数ミリ未満と小さなものだったが、俺から言わせてみればもっと時間があればもっと小さいのが作れたのにと、歯ぎしりをしたくなるような出来だ。
で、これは何かと言うと……
「さて……それじゃあボチボチ出ないといけないのう……じゃあ後は頼んだぞ」
ガラムが後ろを向きどこかへ向かいだした。
(そこだ!)
《空間魔法》と《風魔法》を同時に使用。空気を凝縮しゴムのような空間を作りだしその上にコレを乗せ風魔法で弾き飛ばす。シュンと一瞬風切音が鳴ったかと思ったら次の瞬間には、それはガラムの腰辺りにピタッと張り付いた。
(よっしゃ!)
心の中でガッツポーズを取ってみせる。幸いにもガラムは勿論周囲の人にも気づかなかったようだ。GJやで。
ガラムに張り付けたのは小型の盗聴器だ。あの大きさ故に1時間程度しか録音は出来ないが、防犯カメラ同様俺の《倉庫》にデータとして転送すればまだ盗れるので問題は無い。作ったのは補助装備を作っているときにだ。
仕組みは空気の振動を伝えるだけなので、比較的に簡単に出来たのだが、データを蓄える部分と発信する部分が中々小さくならなかったので、あれほどの大きさになってしまったわけだ。あと、先に断っておくがアレは魔法で何とか出来ている訳で、実際の盗聴器などはもっと複雑な筈なので間違って覚えてしまわないように。
さて、あれで出来るだけ情報を掴めるといいのだが……服に付いているから脱がれたら終わりなので、これとは別の手を打っているが、それはまだ未完成なので作成が急がれるな。
ガラムが去って行ったあと、ミュルトさんは険しい表情でガラムが去って行った方を見ているのに気付いた。
「? ミュルトさん? どうしたのですか?」
それに気付いたソラがミュルトさんに問いかけた。
「……いえ、何でもありません……」
明らかに何でもない訳ないだろと突っ込みたくなるような顔だったが、すぐにいつものミュルトさんに戻っていた。
「それよりこれからどうすればいいのかしら……一番の問題は彼らを養えるほどの食料などが準備できないのよね……開墾を始めてまだ間もないし、この前の襲撃で損害も受けているし……」
それとなくミュルトさんが話題を逸らした。うーん……何か隠しているようだけど、ここでは不味いかな? 後で二人っきりになれた時を見計らって聞くことにしよう。……決してやましい気持ちは無いからな!
「何とかするしかないじゃないですか! 最悪狩猟でも何でもしますよ」
「ありがとうございます。ソラさん。ですが一人だけでは駄目ですよ。クロウさんもお願いできますか?」
「ええ、いいですよ。開墾などの方ももう一回俺が作り直せばいいだけですし、何とかなると思いますよ」
「ありがとうございます。皆で頑張って行きましょう!」
「はい!」
「オーケー、オーケー。何としましょう」
ミュルトさんの声にソラは元気に答え。俺もそれなりに返しておいた。
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こうして、アルダスマン国は事実上、滅亡をしてしまい、エルシオンやハルマネなどアルダスマン国にあった各地の都市はそれぞれ窮地に立たされることになった。
だが、本当の戦いはこれからだった。
個々の能力のみならず、技術力でも圧倒的な差が開いたことを確認させられた各国は慌てた。どの国でも防衛のための技術研究や魔法研究が盛んになり始めたのはこのころだったとされる。
これから人間はどうなるのか。
人以外の種族は何を思うか。
そして、なぜこれほどまでに魔族は強力な兵器を作る事が出来たのか。
世界はいよいよ混沌の時代へと突入しようとしていたのだった。
―――第4章:アルダスマン国の崩壊 … fin
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・第3章及び4章の被害報告
・戦闘参加者:約48,000人
・魔族:約5,500人(魔物含む)
・人族:約41,000人(隣接地域兵力含む)
・龍族:約1,500人
・死者:約57,000人(内、非戦闘参加者およそ30,000名)
・怪我人:約100,000人(内、非戦闘参加者およそ75,000名)
・行方不明者:約20,000(内、およそ9割が非戦闘参加者)
という訳で、第4章はこれにて終了です。お疲れ様でした。
次章はクロウが家族を守るべく色々やっちゃいます(主にチート系で)。予定ではのぼのぼとは行きませんが、小休憩程度の章になればなと思います。まぁ、戦闘が無いわけじゃないのですけどね。
あと、異世界転生戦記が一周年を迎えました。(7/27にて一周年達成)
ここまで来るとは思いませんでしたが、来れて良かったです。まだまだやりたい話は沢山あるのでこれからも皆さんよろしくお願いします。
以上、では次章で会いましょう。黒羽からでした。




