第156話:エリラ救出作戦4
「おい! 俺がここに来た理由は分かってんだろ!? エリラはどこにいるんだ!?」
「ふん、知らんわ! 知りたければ力ずくで吐き出させてみやがれ!」
火花と甲高い金属音が洞窟内で響く。
「それは知ってると言ってるもんじゃねぇか、ならさっさと吐いてもらうぜ!」
レシュードの剣が左右から襲い掛かる。それを素早くバックステップで回避する。ブンッと空気を斬る音が響びいた直後に一気に間を詰める。
そのまま一気に剣をレシュードの懐に入れこみトドメを刺しに行ったがそうは簡単に問屋が下さない。
「甘い!」
レシュードが持っていた剣を無理やり引き戻し、クロウの背後から斬りかかるという物理法則を完全無視した攻撃を繰り出してきた。
非常に分かりにく構図だが、両手に持っている剣をクロス型に切りつけたレシュードが振り切った隙を突きクロウがその剣の上を越える形でレシュードの目の前にまで間を詰めたが、レシュードはまるで壁にでも当たって跳ね返ったかのごとく、いきなり腕を自分の方へ引き寄せ、その引き寄せをする中で後ろから斬るという飛んでもねぇぜ状態となっているという訳だ。
自分の背後に刃が迫っているのを感じていたクロウだったが、そんなの関係ないと言わんばかりにレシュードへと突撃を敢行した。
そして、クロウはいきなり刀を持っていた片手を離すと初速無しからのゼロ距離でレシュードの首元に抉りこませるかのような強烈な一撃を繰り出した。
―――ゴキッ!
何やら聞こえては行けない音が聞こえたかと思えばすでにレシュードの体は宙を舞っており、持っていた双剣は手放してしまっていた。
その刃先には少しだけ血も着いていた。みるとクロウの両脇下の服が一部切れており、そこから血が流れていた。一歩間違えていたら急所を斬られていたことだろう。
何故、そんな危険を冒してまでもレシュードを沈めにかかったか? やはり、エリラを助けたいという焦りがあったのかもしれない。
もっとも、そんな焦りが無くても行けると判断しての行動だったかもしれない。それはクロウ本人にしか分からないことだ。
==========
「さて、約束通りエリラの居場所を吐いてもらおうか」
「あが……が……」
「あー……殴った時に顎が外れたんだな、それじゃあ喋れないよな」
ゼロ距離&初速無しで顎を外してしまうほどのパンチを繰り出せるクロウもクロウであるが、それを顎が外れるくらいで耐えたレシュードもまたレシュードである。
―――ゴキン!
「あげぁぁっ!!」
クロウは無理やりもとに戻してあげると戻した痛みで、レシュードがゴロゴロと地面をのたうち回る。それが終わるのを待つことなくクロウは転がるレシュードをむすっと掴むと、そのまま地面へ叩き落としレシュードの顔に刀を突きつけた。
「さて、吐けよ。余計な事を言うと肢体をバラバラにするぞ?」
「チッ……分かったよ。話すからこの刀をしまえよ」
「はぁ? 片付ける訳ねぇだろ? 第一、お前は今の自分が命令できる立場だとでも思っているのか? 身を弁えろ」
「……クソッ、爺にそそのかされてこのありさまかよ……冥土の話にもなりゃしねぇ」
こんなはずでは無かったと悪態をつくレシュード。
「爺……ガラムか?」
「ああ、そうだよ」
「あいつと何を取引した? それも言え」
「それを言ってほしいならその刀をどk
「拒否権なんてねぇと思え、別にそんな情報無くてもこちらで調べることぐらい容易いんだからな?」
「そうか……なら!」
と言うと、いきなり刀の先を弾くと自分のポケットへと手を伸ばすレシュード。だが―――
クロウの刀がそれを許さなかった。
スパァン! と切れの良い音がし鮮血が飛び散った。
「あ゛あ゛あ゛!!!」
暴れようとするレシュードを溝の一発で静かにさせる。自分の腕を見ながら怒りに震えていた。そしてその視線の先には先が消えた腕と行き先を失った手が転がっていた。
と、そのときクロウはレシュードのポケットから何かが出ているのが見えた。拾ってそれをみてみる。
それは、錠剤だった。紫色をした錠剤はとてもじゃないが病気などを直してくれそうには見えなかった。そしてクロウはこの錠剤の事を知っていた。
(これはウグラの……!?)
魔闘大会の少し前にクロウがウグラの屋敷に忍び込んだ際にウグラが舎弟に見せていたあの錠剤だ。あの時はスキルで覗いても殆ど不明だった上に回収が出来なかったものだ。
(後で調べるか……)
クロウは自分のポケットに錠剤を押し込んだ。
「もういい。お前が何も言う気が無いのは分かった。だったらこっちで勝手に調べさせてもらう」
そういうとクロウはレシュードの首元を掴むと、そのままズルズルと引きずりながら部屋を調べ始めた。途中、何度もレシュードが暴れることもしばしばあったが、その度に無力化をし続け裏へと続く道を見つけた頃にはすっかり大人しくなってしまっていた。
その通路は上へと……つまり地上へと続いていた。先ほどの通路よりもひんやりとした空間で周囲も地層が露出していたのと変わり、石で綺麗に舗装をされていた。
その通路を一歩一歩奥へと進んでいく。ちなみにレシュードはと言うと完全に沈黙をしてしまっている。五月蠅かったのもあるが探索を邪魔されたくなかったので、気絶させておくという何とも適当な扱いであった。
通路を抜けると真っ暗な部屋に出た。周囲は荒い石で囲まれており、鉄格子が所々ありここが牢獄であることをいやが応も無く認めさせた。
その部屋の中を一歩一歩歩いていく。そして一番奥の部屋にたどり着いたときだった。
「エリラ!」
そこにはボロボロになって鎖に繋げられたエリラの姿があったのだった。