第16話:エリラの過去
※エリラ視点のお話です。
※8/30 以下を変更しました。
・誤字脱字修正をしました。
・序盤が誰視点か分からないという指摘を貰いましたので
大幅加筆修正をしました。(エリラ視点へと変更)
※8/31 以下を修正しました。
・誤字脱字修正をしました。
・領主や次男の名称を「祖父」「叔父」に変えました。
・後半の一部を加筆修正しました。
私、エリラ・フロックスはエルシオンから遥か遠くの地で生まれたわ。
当時、私の家はその地方で有数の貴族であり、私は当時の領主の長男の長女として生まれたの。
だけど、私の誕生は決してフロックス家の大半に取ってはうれしい出来事ではなかった。
それは当時、フロックス家で起きていた跡継ぎ問題が関係してくんだけど、そのとき領主は重い病気にかかっていて、跡継ぎを早めに決めようという話になっていたらしいの。長男が後を継ぐというのが自然な流れなんだけど、例外もあったらしいの。私の父は大した技量も知恵もなく、さらには自己中心的で気性が荒く、将来が不安だと言われていた。
対する叔父(次男)は様々な分野で領主である祖父に貢献をし、性格も誰とでも対等に接し家中も次男を後押しする声が高かった。
このとき私の父の年齢は24歳。叔父は21歳。どちらも子供がいてもおかしくない状況。この世界では後を継げる人がいるのと居ないのでは大きく違っていて、それは男でも女でも関係が無いらしく、必然的に跡継ぎが出来ている父も次期領主候補であることを主張し始めたの。
そんな中で私は育っていった。だけど次男を押す声が大半を占めている家で私は決していい目では見られなかった。
家の叔父派の人々は彼女に隙あればちょっかいをかけた。わざとぶつかりこけさせたり、お気に入りにしていたぬいぐるみをズタズタにしたり等とてもじゃないが子供にする悪行ではなかったわ。今考えても酷い話よ。
母は毎日父と一緒に過ごし私に構っている暇はなかった。母も本当は私にに構ってあげたかったのかもしれないけどそれは叶うことは無かった。
父も決して私に構うことなどなかった。まるで赤の他人のような態度だった。
幼かった私はこんな扱いをされるのは自分が弱いからだと思いこみ毎日必死になり勉強をしトレーニングを積んだ。毎朝走りこんで午前中は剣の訓練。午後は魔法の訓練に当てて夜は座学もした。
だけど私の境遇は変わることはなかった。むしろこれまで以上にしつこい悪戯を受けることとなった。力を付けたのを妬んだのかもしれないわね。
そして私が14歳のとき祖父は死んだ。当然ながら跡継ぎ問題で大い家は荒れたわ。
勢いとしては叔父の方があったが、跡継ぎとしての私がいる父にも分がありいつ紛争になってもおかしくない状況にまで来た。
この時になって父は私に愛想を振りまくようになった。一見すれば余裕が出てきたのかもしれないけど私は決してそうは思わなかった。その眼の奥には私をトップに成り上がるための道具にしか見えてないように見えたの。
そして私は家を出た。今までしつこく繰り返された悪質ないじめからそして権力争いから逃げ出した、なにより父が死んでから急に優しくなった自分の父に見切りをつけた。
私は遠くへ遠くへと逃げた。外の世界はわからないことだらけで、ほとんどが手探り状態だった。
私はは途中何度も死にかけながらも辿り着いたエルシオンで冒険者になった。
でも、元々気性が荒いのに加え家内での劣等感からの解放から私は事あることに力や自己中心的な動きをしてしまい、評判は良くなかった。考えてみれば父と全く同じことをしていたのよね。
冒険者になってから2ヵ月で私のランクはEに上がったけど、それ以上はギルドマスターであるガラムさんから性格を直さなければランクは上げないと言われ止まっていた。
だけど当時の私はそれを直すことは無かった。
1年後彼に会うまでは。
昇格試験の時に見た彼の第一印象は「チビ」、「弱そう」であった。身丈に似合わない剣に、いかにも子供っと言った感じの冒険者だ。
受付の人からはわずか1日でクエスト10回分の依頼をクリアした期待の新人だと聞いていたので、どんな人かと思えば……正直残念でしかならなかった。
だけど、私の見解は全くの見間違えであった。
彼は私の一撃を簡単に回避するとそのまま私を放り投げて試合を終わらせたのだ。
屈辱以外に何でもなかった。それまで年下に負けたことなど当然無い、時には年上に絡まれても撃退したこともあるほどだ。
家を出てからかつてないほどの屈辱とランクが上がらない自分が重なり私の中で何かが切れたんだと思う。
気づけば体が勝手に動いていた。得意の突きで彼の首筋へと剣先を突き立てていた。やばいと正直思ったが動いた手はもう止められなかった。
だが、彼はそれを見向きもせずに指2本で挟んで止めて見せたのだ。そしてそのまま地面へと叩き付けられた。
さらに彼は驚くことに一瞬で手のひらに魔法を収束させ、炎の槍を作り出したのだ。あまりにも早い速度に私はもう何も考えれなかったおそらく詠唱速度は私が見てきた中でも断トツの速さだろう。
受付さんが来たおかげで彼は魔法を解いたけど、結局この事態はガラムさんに知られることになった。
そして私はギルドマスターに除名を受けたのだ。
終わったと思った。ブラックリスト入りはこれからの道に必然的に関わってくる。残された道は少ない、一つ娼婦館にでも行き身を売ること。または山賊となり悪事を働くこと。もう一つは奴隷市場へと売り飛ばされること。
ブラックリスト入りとはそれほど重大な意味があるのだ。人間の長い歴史の中でギルドという組織は重要な組織だ。そのギルドからの除名。
どうしよう。そもそもなんでこうなったの。どうして? なぜ?
私の中で答えの出ない自問自答がグルグルと周り続ける。
だがその時彼は動いた。
「あのガラムさん、その件なのですが何とか不問にできませんか?」
と。
この人何を言ってるの? と思った。だが彼の眼は本気だった。いくら我を忘れていたとは言えあんなことをした私を彼は助けようとしているのだ。
そうして出された答えたが彼の奴隷になることだった。
もちろん私は反対したかった。こんな年下のよくわからない子供の下で永遠に奴隷として動くなんて信じられないと思った。全力で逃げたいと思った
だがもちろん有無を言わせないギルドマスターの発言と行動で結局私は彼の奴隷になることでこの問題は終わった。
私の家にも奴隷はいた人族や獣族など様々な奴隷がいたが全員が人間としての扱いを受けていなかった。彼も私をそのように扱うのだろうか。私は恐怖に怯えた。
私はその恐怖から逃げるかのように彼に話しかけた。
「ねぇ、なんであな……ご主人様は私を助けたのですか?」
くっ、ご主人様とか言う言葉を使う日が来るとは……屈辱だ。どうせ男のことだから遊ばれるんでしょう。今はそんな歳じゃないけど成長したらそうなるだろうなと私は考えていた。
だが彼の答えは「別に理由はありませんよ」だった。
おかしい以外に何でもないと思った。その後同じ問いかけをしたがやっぱり答えは変わらず。彼の泊まっている宿に着いた。
そこでも私は奇妙な光景を目の当たりにした。
彼はなんと私の為に部屋を一つ別に取ってくれると言うのだ。当然奴隷身分の私は彼の部屋の隅で床に伏して寝るか外で寝るかのどちらかだ。獣族なんかになれば宿に入ることすらも許さないのに。
しかも聞けば彼と同じレベルの部屋とか言ってるし、ありえないよ!
だが彼は反対を押し切り私の分の部屋を借りた。
彼は「明日さっそくCランクの依頼を受けるからしっかり休めよ」と言って自室に戻っていった。私は彼が借りた部屋に入りベットに飛び乗った。
頭の中がグルグルする。彼は一体何なんだろう、奴隷に対等の部屋を与えるって、聞いたこともないよ。
彼は本当に何となくで私の助けたのか……だとしたらとんだお人好しだよね……ほんと馬鹿な人よ……
でも何でだろう、悪い気がしない。むしろ心地良い気がした。
その日、私は人生で一番ぐっすりと眠りにつくことが出来たと思う。
翌日も彼には驚くしかなかった。火魔法も使えれば水魔法も使える。ありえない、普通相対している属性の魔法は一人では使えないのに。
さらにレッドリザードンを一瞬で瞬殺してしまった。おかしすぎる……この人は一体何者なんだろう……
宿に戻っていてくれと言われたので戻って来た。何でだろうあの氷の風景が頭から離れない。水魔法でも上級クラスに入る氷生成をあんな一瞬でしかも広範囲、さらにはレッドリザードンを一撃で倒せるほどの力を持っている。
私はとんでもない人の奴隷になったのかもしれない。
突然の痺れに私は我に返った。見てみると彼が戻ってきていたのだ。いつのまに戻って来たのだろう。
そして彼は90万はやると言って私に渡そうとした。
当然断ったわよ。ありえないよ奴隷にそんな大金を渡すなんて余程のことがないと渡さないのに。私がそれを言うと、彼は はぁ? と言った顔をした。いや私がおかしいの?
「はぁ、知るかよ、第一な俺はお前を奴隷にしているが、お前を奴隷だと思ったことはねぇ! 俺とお前は対等だ」
……えっ対等? この人何を言ってるの? 自分と奴隷が対等だとでも言うの? いや違う彼の中で私は奴隷とではなく対等な人として見ているのだ。
「第一、くだらねぇんだよ奴隷とか俺としてはさっさと解除して二人で仲良くパーティ登録にでもした方がいいわ」
パーティ登録。私も冒険者になりたての頃は憧れていた。でも結局誰とも組まなかった。いや組んでくれなかった。今となればわかるけど私の性格はパーティ内で亀裂を起こすと思われたんだと思う。
彼は私を解放したいと言った。それだけならさっさと売り払いたいとも聞こえないこともない。だけど彼は仲良くパーティ登録した方がいいと言ってくれた。
なんでだろう、嬉しかった。
彼も奴隷のことは前から知っていたようだけど、彼はそれでも「家畜と扱う方が間違っている」と言い切った。ほんととことんおかしい人ね。
そして私は気づいたら彼に謝っていた。何となくそうしないといけない気がしたのだ。彼は気軽に許してくれて、最初に会ったように再び手を差し出した。
今度はしっかりと彼の手を握った。彼の手は私より小さいはずなのに何故か大きくそして暖かく感じたのだった。
「あっ、そうだ忘れないうちに……」
彼はそう言うと倉庫から鉄と宝石を取り出した。さっきの報酬で買ったんだろうけど鉄は何に使うんだろう。そう思ったら彼は目の前で行き成り鉄をぐにゃりと動かすと見る見るうちにチェーンを作り上げた。そのチェーンは今まで見て来た中でも一番の美しさだった。
さらに彼はそのチェーンに宝石を付けだした。やがて宝石は翼の形をした金に囲まれているという見たこともないデザインへと変わっていた。
そしてそのネックレスを私に着けたのだ。
一瞬世界が止まったような気がした。彼は自分のせいで不便な思いをさせていると感じていたらしいのだ。
ネックレスを見ながら色々な感情が心の中で回っていた。
今まで一度もプレゼントなどを貰ったことが無いなかったからだ。母からも貰ったことはない。
私は今まで感じたこともない優しさを感じていた。故郷でもエルシオンでも今まで味わったことの無い優しさ。
そして、気づいたら私は彼に飛びついていた。不思議とそうしたいと思ったからだ。
私はようやく心の拠り所を見つけたんだ……
彼女は彼の腕の中でそう思いながら涙を流した。
エリラの過去を軽く書いてみました。もちろん彼女のお話はまだありますが、今は主人公無双を引き続きお楽しみしていただくと嬉しいです。
本日も読んで下さった皆様本当にありがとうございます。これからも応援していただけると嬉しいです^^
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字などありましたら報告お願いします。
===2017年===
09/11:誤字を修正しました。




