第154話:エリラ救出作戦2
やっと、少しずつリアルが落ち着いてきました。と言ってもまた別の方向から、忙しさがやってきており、泣きたい気分です。でも私は負けませんよ!
……ですからバイトに寝坊して遅刻しかけたことは許して下さい何でもしますk(割愛
「……」
暗い牢獄の中、エリラはボロボロになっていた。
既に全身には《不治の剣》によって数えきれないほどの切り傷が生れていた。唯一の救いはレシュードが最後に遊ぼうと考えている顔には、まだ傷が入っていないことぐらいだろうか。
「もう終わりか?」
「……」
反応を示さないエリラにレシュードは舌打ちをする。回復薬の一つでも持ち込んでおくべきだったと後悔をしていた。
その理由は床に広がる血の池が指し示していた。全身からの出血により既にエリラの意識は途切れ途切れになっていたのだ。幸いエリラの回復力が高いのか現在、出血はしていなかったら、これがもし止まっていなかったのなら、恐らく1時間以内に命尽きてたことだろう。
一番の楽しみを行う前に力尽きられては元もこうも無い。身体の傷物を見る趣味があるレシュードにとって無反応な人形に傷をつけても意味が無いということになる。
「チッ、今死なれたらせっかく爺の話に乗った意味がねぇじゃねぇか」
仕方が無いので一旦拷問を止めどうしようかと考える事にした。
拷問が止まったとき、エリラの意識も僅かに回復をしていた。下を向いたまま僅かに瞼だけを開き、そこから見える自分の体を見て心の中で嘲り笑っていた。もっとも口に出す力などはもはや残ってはおらず、端から見たら動かない玩具のように彼女は見える事だろう。
その時だった。ズドン! と大きな音が響いたのと同時に牢獄全体が僅かに揺れ、天井の隙間に溜まっていた埃がパラパラと地面へ落ちて来た。
「なんだ一体!?」
ダッダッダッと何かが走って近づいてくる音が聞こえて来る。その音は徐々に大きくなり牢獄のある部屋に何者かが入って来た。
「ホウコクデス!」
レシュードの部下であろう物は立ち止まると敬礼をした。その見た目は人間みたいに二足歩行で立ってはいたが、装備のしたから見える皮膚は全身毛むくじゃらで顔は犬のような顔をしていた。人間と見比べてもかなり小柄な大きさだったが、体格はガッチリとしており弱そうというイメージはつけにくかった。
「なんだ!」
「シンニュウシャデス! レイ ノ コゾウデス!」
「なんだと!? もうここに気付いたと言うのか!?」
「ゲンザイ チカ ヘト オリ セントウチュウ! ゴメイレイヲ!」
「チッ、分かった先に行ってろ!」
そういうと報告しに来た生き物は回れ右をすると来た時同様走って出て行った。
「相変わらずコボルトの言葉は分かりにくいな……次はもっとまともな言葉を話せる奴にさせるか」
コボルト。その名前は人間がとある魔物に付けた名称だった。ずる賢く、武器を使いゴブリンと同様武器を扱う魔物として一般的に知れ渡っている魔物だ。
そして、その魔物が今、レシュードに話しかけ報告をした。さらにはレシュードの命令に忠実に従う姿まで見せていた。
そう、今や彼の周囲に人間は彼のみしかおらず彼の周りを固めるのは知能がある魔物で他ならなかったのだ。
「くそっ……どうやって割り出しやがった……!」
魔法もスキルも届かないここが絶対にばれるとは思わなかったレシュードの思考はやや混乱していた。そして、この混乱がある一つのミスを生んでいた。
「いや……そんなのはどうでもいい! あいつが現れた以上、生きては帰さん!」
そういうとレシュードもまたコボルト同様、走って牢獄を後にしていった。
もし……彼がここでエリラを利用すれば、また結果は違ったものになったかもしれない。エリラはどう思っているかはさておき、クロウ自身はエリラの事を大切に思っているのは間違いない。じゃなければ態々こんな森の奥深くにまで追って来る理由がないからだ。普通の奴隷なら見捨てて終わりが関の山だろう。
だが、猛将が上の短気が仇となってしまった。
このとき、既に彼の頭の中からエリラの存在などすっかり飛んでしまい、どうやって侵入者を殺すかと言うことに頭が行ってしまっていた。
例えば……エリラを人質に取る……などの作戦などを立てればよかったのかもしれない。だが、彼は自らが持っていたカードを墓地へと送ってしまっていたのだ。
そのため今のレシュードの手元に残っているのは配下になっている魔物の集団と自身の力のみだったのだ。
そして……相手が悪すぎた。レシュードが今から戦おうとしている者は、この世の常識を完全に捨てた人間であり、人間ではない者だったからだ。
==========
コボルトから発せられる言葉は意識が朦朧としていたエリラにも聞こえていた。そしてその後にレシュードが発した言葉から『例の小僧』がクロウであると確信をしていた。
普通この状況で助けが来たら、それは囚われた人にとっては希望の光となるものだろう。
だが、エリラにとってクロウが来てくれたことは何とも言えない感情を抱かせていた。
(……また……また助けられるの……?)
捕まる一週間ほど前、彼女はクロウの前で大きく啖呵を切ってみせた。守ってみせる。勝ってみせると。結局決裂した形でクロウは魔法学園へと向かっていったが、そのことを知ったとき彼女の中では謝らないとと謝罪の気持ちが芽生えたのと同時に『約束は守ってみせる』と心の中で決めていた。
だが結局自分は父親に捕まり、見るも哀れな姿になるまで好き勝手に痛めつけられ、今度はクロウに助けられようとされていた。
その事がエリラの心の中に、自分自身への怒りと情けなさを生み出していた。自分は大切な人にまで迷惑をかけるだけの存在なのかと。
"今すぐ死にたい"
エリラは率直にそう思った。だが、そんなことは彼が許さないことぐらい分かっていることだ。
なら、どうするか?
エリラの中で答えは一つだった。
"変わりたい"
好き勝手な自分を、弱い自分を。
エリラは心に決めた。もし、クロウが……いや、誰でもいい、何でもいい、ここから生きて出れたならば、もう一度やり直したい、クロウに迷惑をかけた分、今度は自分で恩返しをしたいと。
その思いが、死んだ魚のようだった瞳に再び光をともしていた。そして、それと同時に両目から洪水のように涙があふれ出て来た。
「……ごめん……ごめん……」
それは、彼女なりの彼への謝罪であったと同時に、今まで自分自身が行ってきた行動への懺悔の言葉だった。




