第153話:エリラ救出作戦1
落ち着け俺。
自宅に戻るや否や俺は自分の部屋に引き籠り考えを張り巡らす。
ニャミィが言うにはエリラを最後に確認したのは今からおよそ1~2時間程前。
襲撃があったのはエリラを最後に確認した時からおよそ30分後。そしてそこから俺が戻ってきて魔物を殲滅するのにかかった時間は30分~45分ほどだ。
街から半径10キロ以内にエリラの反応は無かった。移転系の魔法を使われていたらそれも納得できるが、チェルストで俺が他の世界(?)に飛ばされたときは、何百の魔物の血と巨大な魔法陣が必要だったはずだ。
前もって準備をしていた? いや、恐らく違うだろう。もし俺の仮説が正しいのであればレシュードがエリラの事を知ったのは今からおよそ1週間前。仮設のギルドで出会ったのが初めてだろう。そこから魔法陣を作って魔物を片っ端らから殺して……無理だ。1週間じゃ圧倒的に時間が足りない。
そもそもその辺にいる下級の魔物の血では無理な可能性もある。
それに、あの魔法は魔族の神が作った魔法だ。そんな魔法を街の近くで作ろうと考えるだろうか? もしばれたら言い逃れなんて出来ないぞ。少なくとも俺だったらしないな。
そうなると……走ってか? エリラを抱えて走って1時間程度で10キロの移動……十分可能か……。
なら、もっと遠くまでと思い俺は思い切って半径30キロまで検索範囲を広げてみることにした。ここまで来ると並大抵の人の魔力では枯渇してしまいかねない消費量だ。
だが、30キロまで広げても検索に引っかかることは無く、0件という文字が虚しく浮かぶだけだった……と、思っていたのだが、ここで意外な表示を見つけた。
「ん? これは……?」
それは0件と表示されたすぐ下に表示されていた。
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ヒット件数:0件
※検索不能範囲がありました。
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検索不能範囲、そういえばそんなものも作ったな。この表示は要するに「エラー」を表しており何らかの原因で検索範囲内で検索が出来なかった範囲があった場合に表示するようにしていたものだ。
作ったはいいが、これまでそんな事例が無かったので作った本人である俺もすっかり頭から消えていたな……。
検索不能範囲がある場所は街から15キロ程度離れた場所にあり、どうやら森に囲まれている場所からだった。
不能範囲は直径200メートルほどで綺麗な円形状に出来ていた。
こんな事例は見たことが無かったので最初は全く分からなかったが、分かった途端すでに体が動き出しており、何故か開けっ放しになっていた窓から飛び降りていた。
と言うのも、あの不自然なまでに綺麗な円形を見て思ったのは「人工物」じゃないかと言う事だ。もしそうならば、なぜここが調べれないかと言う事になるが恐らくスキルや魔法が使えないような結界が張ってあるあるのだろう。その体験はチェルストでしたし何より、そう考えるのが一番早いからだ。こうなれば、エリラの反応が無い理由も納得が行く、距離的にもありえそうな場所だな。そして森の中にあるとか隠してますと言っているようなものだ。
窓から飛び降りドンッと音と共に地面へと着地を決める。「アシクビ ヲ クジキ マシター」という声が聞こえてきそうな感じだ。
《飛行》で一気に街の外へと飛び出す。見られないか不安もあったが、そんなことを気にしている暇は無い。
そして、街の外に出ると反応が無い地点へと一直線に飛んで行くことにした。道中は何も起こることなく10分程度で目標のすぐ付近にまで移動することが出来た。
着いてみると森の中にあるには明らかに不自然な建物を見つけた。石レンガで作られた小さな掘立小屋みたいな感じだった。
中がどうなっているか調べるべく《透視》を使ってみたが中を見る事は出来なかった。やはり何らかの結界らしきものが張っているようだな。
仕方が無いので境界線ギリギリに降り立つことにした。そして、ついに検索不能範囲内へと足を踏み入れることに成功をした。特にこれと言った監視もなければ、罠もなさそうだ。深い森の中というアドバンテージを十分に生かし切れていないな。
もっとも、外れだったら元も子もないのだが。
試しに魔法を使ってみることにする。いつも通りに意識を集中し魔法を発動しようと試みた。だが、いくら魔力を込めようが魔法が発動する気配は無く数分後、結局俺は諦めて《倉庫》から武器を取り出すことにした。
だが、《倉庫》からも道具を取り出すことが出来なくなっていた。何回試そうとも一向に使える気配も無く時間だけが過ぎ行く。
時間が惜しかった俺は、咄嗟の判断で先ほどの範囲外へと出て《倉庫》からアイテムを出そうと試みる。するとようやく慣れた感じの感触と共に刀が現れてくれた。
「……と言う事は」
この結果を鑑みるに、どうやらあの小屋に乗り込むには武器を範囲外で出して乗り込むしかないと言う事になるな。恐らくスキルのアシストも無くなるから実質ステータス便りになる可能性が非常に高くなるということになる。
もっともこのステータスでは余程の不意打ちを受けなければ大丈夫だと思うが……。
一応、念のために予備の剣をもう二本取り出し背中に着けておくことにした。一部魔法錬成に頼っている刀なので脆くなっている可能性があったからだ。
「さて……乗り込むか」
俺は武器を構えると一歩一歩小屋へと近づいていくのだった。