第151話:第2次エルシオン防衛戦・後編
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地上が魔物たちにとって阿鼻叫喚のような地獄になっているとき、クロウは魔法を撃つ片手間であることをしていた。
(エリラの奴……どこにいったんだよ!)
《マップ》を使いエリラを探すクロウ。実はクロウとしては真っ先にエリラを探したかったのが本音だったのだが、魔族の迎撃の方が第三者からの視点から見ればこっちの方が優先な上、レシュードレシュードやガラムの方は前々から怪しい行動をしていたので(なお、レシュードは別に変な行動を行ったわけでは無いのでそういう意味では完全に濡れ衣を着されているのだが)あいつらの確認を優先した。
……と、思っていたのだが死ぬほど心配しているのもまた事実で、結局魔族の掃討が終わる前に調べ始めるという行動に出てたのであった。
それと同時にレシュードもいないとなるとクロウは嫌な予感がしていた。
そして、その予感はあっていますよとでも言うかのごとく、マップにエリラの反応は見つからなかった。
検索範囲をエルシオンの街からさらに周囲半径10キロ圏内に広げてみたが、やはり反応は無かった。
(街にもいない、その周辺にもいない……となると……)
どこかに連れ攫われた……と言う事になるだろう。そうなるとレシュードがいない理由にもいくらかの仮説を立てることが出来る。
レシュードはクロウと一度会った際にエリラを手に入れようと動いた。恐らくだが、ガラムかまたは自分でエリラのステータスを覗いたのだろう。レベル98と言えばAランク冒険者でもまず届くことが出来ない領域だ。クロウの場合は隠蔽をしているため、ばれる可能性は低いがエリラの場合は筒抜け状態なので、この混乱に乗じてエリラを攫った可能性もありえる。
だが、ここで一つの疑問が生れる。エリラは《契約》でクロウの奴隷になっている。《契約》がある以上エリラを攫って自らの駒にしようとしても限界があるだろう。
レシュードからしてみれば、エリラを完全に操れるのが理想のはずだ。あとエリラの性格的に強制力が無い以上暴れるのは目に見えている。自分の傍に置き兵士として動かそうとするならば、手錠などの束縛品は邪魔以外に何でもない。だが、外せばエリラから倒される可能性が高くなるだろう。
(じゃあ、この可能性は無いだろうか……?)
一瞬、そのような結論が出かけたが、ハッと思い出し首を横に振る。
忘れてはならない。かつてクロウは自分自身でレーグの《契約》を強制的に外したした事を。(第112話参照)
勿論あれは俺だから出来た芸当であって他の一般人には出来る訳がない。だが、もしどこかであれを解除するスキルやアイテムの研究が行われていたらどうだろうか? 魔族は爆炎筒などと言う現代戦でも使えそうな武器を作っているような奴らだ。どんな技術に重点を置いているかは知らないが、その可能性は無きにあらずだ。
もし、そんなアイテムが完成していれば……。
そう考えると悠長にしていられる時間は無い。今すぐにでも何らかの手を打ちたい衝動にかられそうになるが、今処理をしている魔族を倒すこともしなければいけないし、ミュルトさんやソラの安否も気になる。
クロウの頭の中では一番の優先事項はエリラの捜索だったが、まずは魔物の撃破に集中することにした。
魔物の数は少なくなってきたが、身体能力が高い個体の魔物や魔族が地味に回避しているせいで時間がかかってしまっている。音速クラスの水の弾丸を撃ちだしているのだが、よく回避できているなとクロウは思った。
と言っても、クロウは民家や建物に被害が極力出ないように撃っているので民家の影でコソコソ移動すればいいだけなのだが。
じれったくなったクロウはここで魔法による遠距離戦を切り上げ、《マップ》を使い残党を片付ける作業に切り替えた。
そうして、約30分後にはほぼ全ての魔物や魔族を倒すことに成功していた。今回、街を襲撃した魔族たちの力は比較的に低かったこともあったので、短時間で片付けることが出来たのは大きかった。
街の被害状況は西地区及び南地区はほぼ全滅。東部と北部も一部被害を受けてしまっていたが負傷者や死者は前々回の襲撃よりは遥かに少なかった。全滅した地区に殆ど人がいなかったのもあるが、今回は守備兵たちのお蔭の部分もあったようだ。
その後、クロウはミュルトとソラの無事を確認したのち自宅へと戻ってきていた。なお、彼女らの家は被害が出てなく、二人とも街の中央にあるギルドへと向かっていたとのことだった。恐らくだがガラムの所へ向かうつもりだったのだろう。
その様子をクロウは遠くから見たのち、二人に話しかけることも無く家へと戻っていた。いつもの彼なら話しかけることぐらいはしていたと思うが、やはり心のどこかで焦りが出来ていたのかもしれない。
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暗い牢獄に響く痛々しい音と声。かれこれ1時間は経っているだろう。
レシュードから振り下ろされる鞭や棍棒などが音を上げるたびに血しぶきと共にエリラの呻き声が響く。
「……さて、改めて聞こうか?」
顔色一つ変えることなくそういうと、レシュードはむすりとエリラの頭を掴むとぐいっと顔を上げさせた。
エリラの体は真っ赤に腫れ、さらにその腫れた皮膚の上を血が伝わり、雫となって地面へと流れ落ちていた。エリラのすぐ足元には血の溜まり場が小さく転々と出来上がっており、そこに交じるような形でエリラの汗が同じように地面で溜まり場を作っていた。
全身で大きく息をするかのように呼吸をするエリラ。その顔にも傷がいくつかあり頬から流れる血が顎から滴り落ち、エリラの豊満な双丘の谷間へと流れ落ちる。服は既にボロボロで見えてはいけないものは既にオープン状態であった。
「どうだ? この苦痛から解放されたいか? 言う事を聞くんなら考えてやらんこともないぞ?」
殴りたくなるような笑顔でエリラに問いかけるレシュード。
「誰……が……冗談じゃ……ないわ……」
だが、それにエリラは頑固して応じなかった。体はすでに満身創痍であったが、その瞳にはまだ光が宿っており、意志はピクリとも動いていないのが分かった。
「ふん、いくら我慢し続けた所で奴がここを見つけれる訳が無いだろ、どんなに優秀な魔法やスキルを持っていようが無効化されているなら意味が無いからな、もっともあいつがこの事に気付いているかも分からないけどな、そうそう、例え気付いていても戻って来るまでに何日必要だろうな、そして何日かけてここを割り出すかな?」
まるで岩山のような意志をへし折ろうと、まるで心の中に問いかけるかのような声でエリラの耳元でささやく。悪魔とも言えるような声であった。これが親が子にやる仕打ちかと耳を疑いたい気持ちになる。
「……別に……見つけてもらわなくても……いいのよ……」
「なに……?」
思わぬ返答に一瞬耳を疑うレシュード、一方エリラは不敵な笑みを浮かべてみせていた。
「ここで……あんたについて……クロに迷惑を……かけるぐらいなら……潔く死んでやるわよ……」
「ほう……お前はもう二度と顔を見せなくてもいいと?」
「はん……この姿で何をみせろと……? ばっかじゃないの……?」
今までクロウに散々迷惑をかけてきた。初めて出会ったときは見下して、試験では殺すかのような殺意をぶつけ、奴隷となってでも生きる道をもらい、自分の立場も忘れて言いたい放題言ってきた。
でも、そんな自分でも彼は私を一人の人間として見て、主君と奴隷という関係をもまるで無いかのように接してくれて。そんな自分を好きと言ってくれた。
奴隷となる前、エリラは冒険者であった。その前は腐っても一貴族の娘としてそれなりの礼儀や生活を学んできた。
そんな彼女だからこそ、今の自分の有様を許すことが出来なかった。
だからこそ、彼女はその姿を見せるぐらいなら死を選ぶと言ったのだ。それは彼に迷惑をかけたくない思いと生きて会いたいという思いがぶつかり合う中での決断だった。
生きてもう一度会いたい。そして謝りたい。自分の立場も忘れ、かつての過ちを繰り返し、自分勝手な事をした自分をもう一度やり直したい。レシュードから拷問を受け続けている中でエリラはそんな思いを抱いていた。
一方、魔法もスキルも使う事が出来ないここをクロウが見つけれなかった場合も考えていた。そもそも自分勝手な発言をして、クロウを魔法学園へと向かわせておきながらこんな有様になって助けてくれるなど虫の都合が良すぎるとエリラは心の中で自分に対し嘲り笑っていた。
(……私って……本当……馬鹿だよね……)
そのため、もしこのまま時間が経って行くならば、せめて迷惑をかけないように死んでやると心の中で決めていたのだった。
そんなエリラを見たレシュードは急にエリラから背を向けると、例の拷問器具が置かれている場所を再び漁りだしていた。
「わかった……なら、せめて俺を楽しませてもらおうか……」
そういって、レシュードは一本の剣を抜きだした。刃には赤い液体がついており、絶えることなく流れ下りており、ただの返り血では無い事が見て取れた。柄には悪魔を思い浮かべる顔が模られており、その剣が放つ不気味な雰囲気を一層際立たせていた。
「俺が好きな女ってどんなやつか分かるか?」
唐突な質問だった。レシュードは剣の刃先とエリラのほうを交互に見比べるかのように見ていた。
「……知らない……」
「なら教えてやろう」
不気味な剣を片手にエリラへと近づくと刃先を二の腕辺りに押し付ける。
「俺は別に股を開くやつだとか、そんなもんには興味ねぇんだわ。なら何が好きかと言うとな……」
いきなり剣を自分の方へと引くように剣を動かすレシュード。刃を押し付けていた部分の皮膚がスパッと綺麗に切れ、痛みでエリラの顔がゆがんだ。
「こうやってな、女の傷物にするのが好きなんだわ。それも一時的なもんじゃねぇ、一生残る傷がな」
「……?」
「これは、《不治の剣》と呼ばれる剣で主に処罰などで使うもんで拷問には普段使うことは無い。だが、それはあくまで男のときはでな……綺麗な女の時にはよく使われるんだよなこれが」
不敵に笑うレシュード。
「この剣で切られた傷痕は生涯治る事は無い。どんな魔法でもな……お前のお母さんもこれで全身傷だらけになっていたんだよ」
「な……!?」
「気付かなかっただろ? まあ、傷付きの女なんで俺の威信に傷が付くから普段は服で隠していたがな、それでも結構我慢していたんだぜ? 本当は腕とかも傷つけて見たかったんだよ、さて、お前は別に俺の何かという訳でもないからな……せいぜい楽しませてくれよ」
「ひっ……!」
エリラも女であることは間違いが無い。貴族出身でもあった彼女はレシュードの言った意味を即座に理解をした。
この時代、女は十中八九と言えるほど顔やスタイルがまず見られていた。性格など二の次である。特に公の場ではそれが顕著に表れ、女の兵士がいた場合、公の場などに出れる……つまり出世するためにはまず、見た目が大事だったのである。ちなみに男は実力主義と地位主義が混ざり合った感じといえよう。つまり容姿は二の次であったのだ。
で、体のどこかに傷が付いていることは女としてはタブーだった。そんな世界の為傷を隠す魔法アイテムとかも頻繁に売られている。そんなこの世界での理想の形とは、我々で言う『二次元』クラスのレベルと言っても過言では無かった。
そんな中でレシュードの趣向は変態の域を超え異常とも捉えられることだと言えよう。
「さてと、続きと行こうか」
「ぐっ……!」
「ここで死ぬんなら姿なんでどうでもいいんだろ? まあ、ゆっくり、ゆっくりと楽しませてもらおうか、フハハハハハハハハハ!!!」
レシュードの笑い声は暫くの間止むことは無く、その声はエリラに更なる地獄への道を予感させるものになっていた。
今回の第151話はかなり色々言われる覚悟で書きました。私が小説を書く上で意識している一つに「実際はここまでやる可能性もあるんじゃない?」とある一種のリアリティーを意識しているようにしています。そこに「魔法などによる自分たちは体験出来ない事」を妄想で考え、交差させていたりします。ですので、私の小説には「いや、この話いらねーだろ」と言うものが数多くあります。まあ、ほとんどは【見切り発車】な部分だったりしますが(泣)、その見切り発車も含めて、私自身も「この先はどうなるんだろう!?」とワクワクして書いていたりもします。これが楽しいからやめられないのですけどね……勿論、しっかりと考えて書いている伏線や話も数多くありますけど、時間が経つにつれ「あれ……これどっちだっけ?」と言うことにもしばしばありますが(泣)
で、結論を言いますと【レシュードにもともと付けていた性格の設定を掘りまくった結果が今回の回なのです】! エリラファン人がいましたら全力で謝ります。本当にすいません。ですが、これも前々から少し考えていたことで、あんまり見ないよなとふと思って走ってしまいました。
ちなみに、リアルの私にはこんな趣味は一ミクロンもありません。恐らく見たら怒りがこみ上げるかグロテスクさに負けトラウマになっているかのどちらかでしょうね。小説だから出来ることだなと書きながら思いました。
こんな小説ですが、これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。リアルが元に戻ったら更新スピードも感想返しもしたいです。




