第150話:第2次エルシオン防衛戦・前編
※ 6/22 誤字を修正しました。
「皆無事か!?」
久しぶりに見た我が家をのんびりと鑑賞する間も無く、戻って来た勢いそのままにバンッと激しくドアを開けるクロウ。
「あっ、クロウお兄ちゃん!」
「クロウ様!」
「クロウ!」
待っていましたと言わんばかりに真っ先にクロウに飛び込んできたのはフェイだった。他の皆もその後に続く感じでクロウの元へと集まった。
「あのね、お外から大きな音が聞こえてきて、夜なのにしゅういが明るかったのです!」
「ああ、俺も戻って来た時に確認したよ」
フェイからの報告に頭を撫でながら答える。もっともっととフェイは頭を摺り寄せ尻尾をフリフリと動かしていた。
こんな状況であったが、その光景を見た大人たちは少しだけ羨ましそうに見ていた。平和ボケでもしているのかよという声が聞こえてきそうであった。
「そういえばエリラは?」
辺りを見渡しエリラ以外の人はいることが確認できたが、エリラの姿は確認出来なかった。
「……申し訳ございません……実は先ほどから姿が見えないのです……」
そういったのはニャミィだった。
「見えない?」
「はい、夕食の時にはおられたのですが、その後部屋に戻ったのを最後に……部屋も確認してみましたがいませんでした」
「……分かった。エリラも心配だが今はこっちをどうにかしよう。で、今分かる限りのことを話してくれないか?」
「はい! つい30分ほど前です。突如街の南側が騒がしくなり、続いて爆音などが確認されました。それと同時に街の壁を越えて降り注ぐ火の球も確認しました」
「なるほど、状況は思ったよりも早く進んでいるのか……」
《マップ》を開きニャミィの話を聞きながら自分が見た光景と合わせてみる。
敵の姿は既に確認済みで、予想通り魔族だった。既に街の南を中心に前々回の襲撃にて被害が大きかった南側と西側は火の海に包まれており、更に今回は東地区も既に被害が出始めていた。このままでは北側にまで被害が及ぶのは時間の問題であろう。
「国の軍隊は一体何をしているんだよ……」
検索をかけてみると街の各地に兵士がいることが確認された。しかし、そのほとんどはバラバラで行動をしており、組織らしい行動をしている隊などは殆ど見られなかった。
「ガラムのおっさんはどこにいる? あのレシュードとかいう奴も一体どうしているんだ!?」
検索をかけて確認をしようとするが、どちらもヒットすることは無かった。つまり、彼らは今この街にいないか、はたまた既に死んだかのどちらかだ。
あの二人がすぐに死ぬとは思えない。そう判断したクロウは前者のこの街にいないという事を前提で考えを張り巡らかした。なお、死んだ可能性も一応は視野には入れている。
あの二人が居ない……ハルマネとエルシオンはほぼ同時刻に襲われた。このタイミングで二人が消えることは単なる偶然ではないはずだとクロウは考えた。非常事態のこの時に街の中心的存在であるギルドのマスターとエルシオンを守る軍の最高司令官が抜けるなどあってはならないことだ。特にガラムのおっさんに至っては二度目になる。そんな馬鹿みたいな真似をした理由は……。
一番手っ取り早い結論は「ガラムとレシュードはグルでさらに魔族ともグルでした」だろう。ただ結論を出すにはまだ早すぎる。大本の国の一部が行わせた可能性も無きにあらずだからだ。ただ、少なからずガラムは何かしら関与しているのは確実だろう。やはり2度も非常時にいなかったことはクロウとしても見逃すことが出来ないことだった。
これが終わったら一度本気で調べてみようとクロウは思った。
問題の魔族であるが、正直なところ直ぐに片づけることも可能だ。数は数百しかいない上に、ハルマネの時みたいにA級の魔族がゾロゾロという訳でもなくD級などの魔物が相手だったからだ。
ただ、ここで気になることが少しあった。いくら指揮官がいないとはいえD級の魔物相手に一国の軍隊がこんなに呆気なく負けるものなのだろうか? 今までが今までであったが故にその可能性も無きにあらずであるが、最前線になりつつあったこの街にDクラスにも負ける寡兵を置く理由はどこにも存在しない。
と言う事は……わざと…?
この街に寡兵を連れて来て魔族にフルボッコにされに来たと言う事になる。そうなって来るとレシュードも何か加担しているのはほぼ確定となる。
それを考慮したうえでこれからの行動を行う必要がある。
まず真っ先に片付けれなければならないのは、街に侵入した魔族だ。
まだ頭が痛かったが、幸いにも魔法を撃つ分には支障は無かった。ただ、大型の魔法を使うとなればまだ無理があるかもしれなかったが、今回はそこまで派手なのを使わないで住みそうだ。
クロウは全員を家の中に待機させると屋根に登り、そこから浮遊をし街の上空へと移動する。クロウの姿を確認したのか、何体かの魔物が群れを成しクロウの方へと向かって行くのが確認できた。その手には《爆炎筒》が握られており地上にいた魔物やこちらに向かってくる集団が一斉にクロウの方へと発射口を向ける。
「うわっ……あんなの集団で使われたら……」
クロウは街の守備隊が抵抗らしい抵抗を行っていない理由をここで理解した。
決して兵士が弱いだけが全てでは無く、技術力の差がこの戦況を作り出していたのだ。
(俺のイメージでは魔族が魔力など身体面で上回るのに対して、人間は技術力などで個々の身体能力差をカバーするってイメージが強かったんだが……これじゃあ、あべこべだな)
「―――――!!」
魔物の一体が合図らしき声をあげると、クロウに向けられていた発射口から一斉に火を噴き、中から火球が飛び出し一直線にクロウの方へと向かって行った。
当たったと思われた瞬間強烈な爆炎が発生し、さらに後ろから続いて来た火球がこれでもかと言わんばかりに次々と爆発し街の上空に小型の太陽でも生み出されたかのように真っ赤に燃えていた。
これを見た魔物たちは歓喜の声を上げる。誰もが確実に仕留めたと思った事だろう。
だが、この思いはすぐに打ち崩れることとなる。
太陽のような火球が震えたかと思ったら次の瞬間、一気に破裂をし巨大な火球は小さな火の粉となり四方八方へと散り、消えて行った。そして火球があった場所には仕留めたと思っていたクロウの姿がそこにはあった。
「グギャア!?」
何が起きたのか分からない魔物たち。クロウは傷一つ付く事無く立っており、魔物たちの頭では理解をするのは難し過ぎるようだった。
そんな彼らをよそ目にクロウは大量の魔法陣を生成する。今回の魔法陣は青色に光っており、色からも分かるように水系の魔法陣だった。
「お前らそんな武器を使っているから熱いだろ? 少し冷やしてやるよ」
魔法陣から人の拳程度の水が飛び出したかと思えば、次の瞬間にはクロウから一番近い位置にいた魔物たちの集団がいきなり弾き飛ばされ、そのまま落下をしていった。その中には頭が無い魔物や腕と胴体が分断された魔物の姿が数多く見られた。
魔物からしてみれば、魔法陣から何か飛び出したかと思えば次の瞬間には自分たちに届いていたものだから、落命していった物の大半は理解を許されないまま死んでいったものが数多くいただろう。
その光景を裕著に眺めている余裕などなく、それを皮切りに地上にいた魔物たちにも次々と水の弾丸が襲い掛かり始めていたのだった。
今週も先週ほどではありませんが、忙しい日々が続いているので投稿速度は落ち気味にです。
ですので、テンポ重視で一話ごとの内容を厚くするように心掛けたいと思います。




