第149話:牢獄の中で
===???===
「……っ」
暗闇の中でエリラは目覚めた。
「……ここは……?」
辺りを見渡そうと顔を上げ、体を動かそうとしたときあることに気付いた。
「あれ、体が……?」
バッと視線を上に上げるとそこには、自分の腕があり、さらにその腕の手首には手錠がかけられていた。暗闇のせいで良くは見えなかったが、どうやら手錠は天上から吊り下げられているようだった。
慌てて外そうともがこうと足を動かしたとき、少し動いたところでジャラという音と共に、何かに動きを妨げられてしまった。
見ると、足首にも手首同様手錠がかけられており身動きが取れなくなっていたのだ。
「ちょっ、何よこれ!?」
どうにか外そうと、身を動かし続けたが鎖が擦れる虚しい音だけが響く。力任せに壊そうともしてみたが不可能だった。エリラの力でも壊れないとなると見た目以上に硬くて丈夫な物なのだろう。
見てみると、エリラがいた場所は牢獄であった。だが、ただの牢獄で無い事にすぐに気付いた。
何故なら、部屋の中にはエリラが見たことも無いような凶悪な武器を始めとした拷問器具が数多くあったからである。
「な……なによ……ここ……」
エリラの背筋に今まで感じたことも無いような寒気が流れる。
「ようやく目覚めたか」
暗闇の中から一人の男が現れた。軍服に身を包み腰には指揮棒の代わりにもなっているレイピアが腰に付けられていた。
その男はエリラもよく知っている男だった。茶色い茶髪のこの顔を見るたびに僅かだが怯えてしまう。
「……お父さん……」
「ふん、お前から父親と言われるようなことはした覚えはないな」
「これはどういうことよ! 説明しなさい!」
動けなくても魔法なら撃てる。そう思ったエリラはすぐに詠唱を始めたがすぐにやめてしまった。その様子を見ていた父親……レシュードはニヤリと笑っていた。
「気付いたが、察しがいい奴だな」
「なんで……魔法が……」
「俺みたいに魔法が苦手な奴には最高の場所だぜ、魔法が使えないと言うのは素晴らしいものだな。魔族の技術は素晴らしい物だ」
(魔族……!?)
「ちなみに言っておくがここではスキルも使えないからな。それにこの場所は絶対にばれない位置にある。魔法もスキルも封じられたここを小僧は見つけることが出来るかな?」
「……クロを甘く見ないことね」
「……気に入らないが、まあどうでもいい。さて……単刀直入に聞こうエリラよ、俺の配下になる気はないか? 《契約》をすることになるが、立場は今とは比べられないほど優遇してやる」
「あなたの配下に? どこの口がほざいているのよ。そんなの真っ平ごめんだわ。第一、私はクロと《契約》している以上、あんたが口を挟める事じゃないわよ」
「そう、普通ならな……だが……」
レシュードがポケットから首輪を取り出した。首輪は黒が主体となっていたが、その中央を赤い模様が走っており、禍々しい雰囲気を漂わせていた。
「これはな、今ある《契約》を強制的に解除する能力を付けたチョーカーだ。これならあの小僧との《契約》をけし、俺の隷下にすることなど容易いわけだ」
「……なr!」
「だがな……少し問題がある……これは主の了承は必要ないが奴隷自身……つまり、お前の承諾が必要になる。……チッ、そこまで作らせろよあの爺が……」
舌打ちをした後の言葉や先ほどの「魔族」の言葉に次々と疑問が浮かぶエリラ。だが、何か言おうとした瞬間、レシュードの方が話をし始め、思うように話せないことに苛立ちを覚える。
「まあいい、さて、改めて聞く」
レシュードの顔がエリラの顔に近づく、それを黙って見つめるエリラ。
「どうだ? 俺の方に戻って来る気はないか? お前自身は気に入らないがお前の力には目を見張る物がある。その力を俺の為に振るうならば、今の奴隷などと言う下らない身分など消し去り一国一城の主にもさせてやる……さぁ、どうだ?」
奴隷から一国一城の主。夢のある話かもしれない。恐らくこれが罪人などの悪人なら喜んで飛びつくかもしれない。だが、エリラの答えは当然既に決まっている。
「ペッ」
ビチャと音と共にレシュードの顔にエリラの唾がかかり頬を伝って流れ落ちて行く。その様子を見たエリラは清々したような顔で言い放った。
「ばっかじゃないの? あんたみたいなクソの下でこき使われるのと、クロの元で生きていくのを比べるとでも思ったの!? そんなの比べる価値すらも無いわ! そんな一国一城の主なんてゴミよ! ゴミ!」
その言葉に、レシュードの顔付きが変わった。今まではどことなく父親としての心が残っていたのかもしれない。だが、エリラから受けた仕打ちによりその心は完全に消え去ってしまった。
「そうか……まあ、予想はしていた」
レシュードはエリラに背を向けると、そのまま部屋に置かれてある器具の傍に移動した。
そして、ゴソゴソと辺りを暫く漁ったのち、一本の鞭を取り出した。鞭にはまるでバラの棘のような小さな歯が無数に付いており、受ければ打撃攻撃と同時に出血間違いなしだろう。
「さぁ、お話はここまでだ。お前が黙って俺に付いてくると言えば良かったものを……こうなれば、無理やりにでも言う事を聞かせないといけないようだな」
エリラへと徐々に近づいて行くレシュード。その姿に一瞬だけたじろいだエリラだったが、すぐに持ち直しレシュードを睨み付ける。
「さて……お楽しみの時間だ」
外が漆黒の夜に包まれ、月の明かりだけが煌々と輝いていた辺りにバチィンと鋭い音と悲鳴が突如響いたのであった。