第143話:幻想人形操り・中編
※ 6/4 誤字を修正しました。
※ 6/5 誤字を修正しました。
「あの野郎嘘つきやがったな!」
「しゃべってる暇があるんなら一つでも多く魔法を撃てや!」
「くそっ! ……後で絶対文句言ってやる!」
迫り来るゴーレムに魔法を撃ちつけ、懐に入って来る前に得意の近接攻撃でゴーレムを迎え撃つ。数はおよそ数百。一人が二体破壊すればほぼ全滅する程度の数だ。だがシュラたちからしてみれば、このゴーレム軍団は無限にわき続ける湧き水のように感じられただろう。何故なら。
「―――《魔弾》!」
「―――《火球》!」
―――ズガガガガァン!
魔法が次々とゴーレムに当たって行く。命中率はほぼ100%に近いだろう。だが―――
―――ミシミシ……ドスン!
魔法を受けたことにより一時的に停止するゴーレムであったが、しばらく待ったのちに何事も無かったかのように動き出す。
「ぜ、全然効いていないじゃねぇか!」
そう、彼ら一般生徒程度の魔法ではこのゴーレムを破壊するどころか、傷を入れるのすらも一苦労なのだ。だが、そんな中でも一際目立つ動きをする者たちもいた。
「―《風剣》」
風を纏った拳がゴーレムの胴体を襲った。ドンッという音と言うよりもドガァンと砕ける音と破裂する音が響き、ゴーレムの胴体に巨大な穴が開く。その勢いのままゴーレムは後ろへと吹き飛び、後方にいた別のゴーレムに直撃して二体共々一緒に転び、砕けた。
「――――――《広・火弾》!」
一つの魔法陣から一斉に火の玉が飛び出し、各方向へと飛んで行く、そして、ある程度広がった時に
「―――砲!」
真っ赤な火の玉がゴーレムの集団へと落ちていく、前にリネアが使ったのは一点集中型で敵単体に使う魔法だったが、今回は広範囲に広がった後、そのまま敵の集団へと落としていく拡散型だった。
(前回の魔法については第73話参照)
火球を受けたゴーレムは次々と砕け散っていく。通常、火属性の魔法は土系の敵には相性が悪い。だが、それを取って補うほどの威力がその魔法にはあったのだ。
「……腕を上げたね……」
「サヤさんも相変わらずすごいです」
クロウが前線に立っているため臨時でサヤの配下に入っていたのだが、この二人のコンビがこれまた強烈なコンビとなっていた。超接近タイプのサヤが前で戦い、後ろからリネアが援護する。これが型にはまり、彼女らの周囲にはゴーレムだったはずの土塊の山が出来上がっていた。
「……勝負する……?」
「いいですよ。負ける気はありませんけど」
「……ふふ……後悔させてあげる……」
「その言葉、そっくりそのまま返しますよ」
こんな状況下であったが、二人には余裕があった。サヤが薄らと笑うとリネアも負けじとニッコリと笑顔をし返す。そして、互いに負けじとゴーレムを次々と倒していく。
「なんだよあいつら……」
「レベルが違い過ぎるだろ……」
戦いの一部始終を見た特待生や生徒たちは自分たちと桁違いに強かった彼女たちを見て愕然としていた。
同じ年齢の生徒がこんなに戦えるのに……と悔しがる者もいた。しかも片一方はついこの間まで「不幸」とあだ名を付けて見下していた人なのだから、その悔しさも何倍に跳ね上がっているだろう。
「! おいっ前! 前!」
サヤたちの動きに見とれ動きが止まっていた生徒の頭上にゴーレムの巨大な手が覆いかぶさっていた。周りの声でそれに気付いた生徒であったが、時すでに遅くゴーレムの重い一撃が生徒に振り下ろされていた。
―――ガァンッ!
だが、ゴーレムの振り下ろしは生徒に届く事無く、直前で弾き返されてしまった。その反動でぐらりとバランスを崩し、そのまま尻餅を付いてしまった。
「た、助かった……」
《自動防御》のお蔭で命拾いをした生徒であった。このようにゴーレムの攻撃は生徒までは届くことが出来ないでいたので、戦局はサヤとリネアの活躍もあってジリジリと押し気味だったのだが、そうは簡単に問屋が降ろさなかった。
―――パキィン!
「ひぃ!」
どこからともなくガラスが割れた時のような音が鳴り、さらに同じような音があちこちから聞こえ出していた。
「―――――《しょ
とある生徒が魔法を撃とうとしたとき、その生徒の動きが一瞬止まったかと思えば、いきなり地面へと崩れ落ちた。
「や、やばい!」
「誰か助けるんだ!」
《自動防御》は術者の魔力を吸い上げる。たまに誤解される時があるので、補足をしておくと、《契約》により生徒たちは《自動防御》を使えるようになってはいるが、この魔法を使用する時に消費する魔力はほかならぬ、生徒たち自身の魔力を消費している。決してクロウが肩代わりをしてもらっているとかは無いのであしからず。
ただえさえ《自動防御》は魔力の消費量が激しい。普通の《自動防御》を生徒の魔力で使用をしようものなら、ゴーレムの攻撃に耐えれる回数は数回が限界だろう。
クロウが改良を加えているとはいえ、それでも耐えれる回数は数回から十数回が限界であることは間違いない。
そして、魔力が足り無い状態で攻撃を受けてしまえば《自動防御》の障壁は叩き割れ彼らの身を守る結界は崩れ去ってしまう。
そう、先ほどあちこちから聞こえて来ていたガラスが割れるような音は、この障壁が叩き割れる音だったのだ。
そして、割れたと言う事はその生徒自身の魔力が尽きかけていると言う事を指し示していた。その状態で尚も魔法を撃とうものなら魔力枯渇を起こし倒れてしまうという訳だ。
地面に倒れた生徒の上にゴーレムがやって来る。
周囲にいた生徒は何とかしてゴーレムを止めたかったが、自分らも目の前にいるゴーレムに手一杯で援護射撃は不可能だった。
倒れた生徒はなんとか立ち上がろうともがくが、力が上手く入らないのか立ち上がるために体を支えている手や足はまるで生れたての小鹿のように震えていた。
そんな中、無常にもゴーレムの巨大な拳が振り上げられる。
「あ……あ……いや……」
倒れた生徒の目からは涙が流れていた。だが、そんな事など関係ないと言わんばかりにゴーレムの腕がピタリと止まったかと思えば、一気に振り下ろされた。生徒は思わず目を瞑り藁にすがるかの思いで祈った。
―――ガァン!!
「……え」
だが、振り下ろされたはずの拳が結局、その生徒に当たる事は無かった。覚悟していた攻撃が来なかったので、恐る恐るといった感じで目を開けると。
「……ギリギリだったな」
そこに立っていたのは額から血を流しているクロウであった。