第142話:幻想人形操り・前編
※ 6/2 誤字を修正しました。
「……全員配置についたな?」
校庭の真ん中に出来上がる長方形の陣。名前は……確か「横陣」だったはずだ。
横陣。部隊を横一列に並べる最も基本的な陣形だ。ただ、あくまで基本であって、この陣形で平野などの障害物が無い地形で戦うのは自殺行為に等しいと言えるだろう。何故なら縦陣で陣を突破されれば左右に隊を分断され各個撃破をされる恐れがあるからだ。
したがって横陣は防塁や馬防柵をなどの地形を利用して使う事が一般的だ。
本当は方円の陣とかの方がいいのだが、方円は円形に陣を作り上げ大将が中央に陣取るので、大将つまり俺が真ん中に行くとなると必ず文句を言う馬鹿が出るし、そもそもそんな高度な陣形を全く練習をせずにやれと言う方が無理である。それに俺一人が知っていても出来る訳が無いので却下とさせてもらう。
練度、知識の無さから自然と基本的な陣形である「横陣」になってしまう。まあ、これは仕方がないことだよな。
「さて、これから模擬戦を行うが……最初に言っておく。これは模擬戦と言う名の“実戦”だ。大怪我をする可能性もあれば最悪……命を落とす可能性もある」
生徒たちの間に緊張が走る。急に顔が引き締まった者もちらほらと見えたので、俺は心の中で「まだ甘ったれているか」と嘆いた。
まぁ、その生温い考えを徹底的に直してやるからな。
「だから死ぬ気で戦え。こんな所で死ぬようじゃ実戦に出ても命は直ぐに消えると思うんだな」
「それはいいけど、一体誰が相手なんだ? まさかエアーでやれとは言わないよな?」
どこからともなく野次らしき声が聞こえて来た。その言葉に笑う生徒が多数。うん、まあそれやれっていったら俺も笑うわ。
「今から戦うのは俺が実際に戦った戦いの布陣、戦力を再現する。残念ながら市街地戦だったので戦況までは再現できないが、それでも十分な再現度になるはずだ」
それだけ言うと、俺も自分の位置へと移動をする。そして、自分の位置に来る、くるりと反転をし生徒たちの方を向いた。
「では……はじめ!!」
俺は両手を天に向かって振り上げるとそのまま、地面へと勢いよく叩き付ける。俺の手が着弾したところを中心に魔法陣が生れ、さらにそこを中心に数え切れないほどの小さな魔法陣が生れる。
すると、俺のすぐ後ろの地面が盛り上がりだした。そして、同じような盛り上がりが校庭のあちらこちらに発生をする。その高さは2メートルもなかったが、それが生徒たちを囲うように生成されていくのを見て、大きさ以上の恐怖を生徒は覚えたかもしれない。
やがて、ある程度時間が経つと今度は逆に盛り上がった地面の一部が沈みだした。そしてその沈んだ土の中に何かがいるのが見えた。
大ざっぱ形から徐々に綺麗なラインへと変貌を遂げ、ある所でその変化は終わりを告げた。
出てきたのは、大きさ1.6メートル程度のゴーレムだった。それが生徒を囲むように生成されており、その数は優に500はあるだろう。
急に現れた土くれのゴーレムたちの姿にたじろぐ生徒たち。だが、恐怖の時間はまだ始まったばかりだ。
(出来るか……!?)
《魔力制御》をフル活用し全てのゴーレムたちに一斉に指令を送る。歩くや攻撃するなどの基本的な魔法陣は予めゴーレムに内臓させているので、あとは俺が状況に合わせて多種多様な動きを指示していけばいい。
>>スキル《人形操り》を取得しました。
>>スキル《指揮》を取得しました。
久々だな脳内アナウンス。《人形操り》を取得した瞬間、俺の視界にマップが現れ俺が動かしているゴーレムを表しているらしきマーカーが大量に現れた。
何なんだこれは? と、思っていたが、すぐにそのスキルを理解した。
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スキル名:《人形操り》
分類:戦術スキル
効果:自信が作成した人形を自由自在に動かすことが可能となる。
スキルレベルが上がればより細かい動き、一度に操れる量を増やすことが出来る。
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スキル名:《指揮》
分類:戦術スキル
効果:部隊を指揮する時に指揮する味方全体にステータス上昇の効果を付与する。
スキルレベルにより付与効果は上昇する。
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流石チートや。だが、悠長にしている余裕はない。早速このスキルにあやかることにしよう。
そうして、早速スキルでゴーレムを動かそうとしたのだが、動かした直後、ズキィッと頭の奥に響くような鈍い痛みが襲ってきた。思わず手を止め頭を抱えてしまう。
(何なんだこれは……?)
ゴーレムを動かそうとしたらいきなり頭が痛くなったが……もしかして、一度に操り過ぎているのか? スキル説明にも操れる量について触れているところを見るとその可能性は十分にある。
試しに動かすのを数体だけにしてみる。すると、問題なく動かすことが出来た。
なるほどな……だけど、そんな数体だけを悠長に動かしている余裕はない。
痛みを覚悟し、一斉にゴーレムを動かしだす。すると、収まっていた頭痛が再び襲いだす。
歯を食いしばり痛みに耐える。ゴーレムたちは徐々に生徒たちとの距離を縮め始める。それに合わせるように生徒たちがじりじりと後ろへと下がっていく。
「何をしているんだ! 応戦しろ!!」
俺の声に弾かれるように各々が魔法を唱えだす。
応戦している様子を見ていたかったが、俺の方も人の事は言えない。何故なら目の前にまでゴーレムが迫ってきているのに完全にスルーをしているからだ。
彼らばかりを地獄に行かせるのもあれなので(と言うか、後で文句を言われないようにする)、俺の近くにいたゴーレムの戦闘力は彼らが戦っているのよりも遥かに桁違いの戦闘力を擁してる。
その強さは普段の俺なら難なく倒せるレベルだ。だが、今の俺はゴーレムを操っているために神経を費やしており、そこに頭が割れそうなぐらいの頭痛と戦っているので、簡単には行かなそうだ。
近づいてくるゴーレムの攻撃を回避しながら一体、一体確実に削っていく。だが、俺の周りには既に数百単位のゴーレムが群がっており既に、俺の位置からでは生徒たちの様子は分からなかった。
さて、この戦いはあのエルシオンを襲撃した龍族の2回目の攻撃を再現したものだ。
あの時は、俺の遠距離射撃で問答無用に沈めたが、もし俺がいない状況または、魔法を撃てない状況で都市内に侵入された場合、このような状況下に陥ると仮定をし動かしている。
「……死ぬんじゃないぞ……」
生徒たちの事を考え呟いたが、何故かそれは自分自身に言っているようにも聞こえたのは、きっと気のせいでは無いだろう。
自分で作り出した状況に苦笑をしつつも、俺だけが楽をする訳には行かないよな、と痛む頭を誤魔化すかのように自分の体を動かすのであった。
久々にスキル取得をした気がします。
補足:方円の陣は防御的な陣形で陣形の形上、移動には適していないため、迎え撃つ形となるのが基本のようです。




