第139話:校舎裏にて
クロウは苛立ちを隠せなかった。
「くそっ!」
思わずガンッ! と地面を蹴り上げる。ここは校舎の隅で誰も見ていないからこんなことが出来るのだが、皆の前ではしないように気を付けないといけないだろう。
「なんで分かってくれないんだよ……!」
身をもって体感させたはずだった。何千と言う魔物を相手に自分らの無力さを十分に感じさせたはずだった。
だが、俺が街を守るためにやったあの魔法が全てを駄目にしてしまったとでも言うのか!?
確かに一般生徒たちには十分なお灸になっただろう。目立った反乱分子にも一般生徒の前であれだけのことをさせておけばしばらくは大人しくなるだろう。
しかし、一般生徒たちに注意を向けすぎたが故に隊長格のことにまで頭が回っていなかった。いや、俺は俺といくらか面識のある奴と冒険者としてそれなりに活動をしている彼らなら分かってもらえると思い込んでいたにすぎなかったのだろう。
結果、下手に彼らに不満の残すわけにもいかず俺が折れてしまった。
これじゃあ、無理してまでレミリオンたちに罰を与えた意味がまるで意味をなさないじゃねぇかよ……。
「あいつらには申し訳ないな……」
確かに彼らは『生徒』であった『兵士』ではない。あのような罰もやり過ぎていたかもしれない。
でも、こうでもしないと駄目なんだよ。短期間で結束力も何もない彼らに連携をさせ、僅かでも生存率を上げる方法などこれ以外に早々思いつくものでもない。
「どうすればいい……?」
誰もいない校舎の隅の石階段に腰を下ろし頭を抱える。
俺が前に出て守れるならそれはそれでいい。だが、それが出来なかった時はどうすればいい。
戦況はいくらでも変わる。戦争などが無い平和な日常を過ごしていた俺でも分かる事だ。当然、参加したことも無い俺の頼りはスキルとステータス。そして本などから得た僅かな知識だけだ。
その程度しかないのだから当然、どこかでボロが出るだろう。今は上手くいっているかもしれないが、綱渡りな状況には変わりがない。
頭を無理やりにかきむしってしまう。自分と彼らのあまりの意識の違いに落胆と苛立ちがこみあげて来る。
「……大丈夫……?」
バッと顔を上げ声のした方を見てみると、そこにはサヤとリネアが立っていた。サヤは相変わらずの無表情だったが、リネアは心配そうな顔でこちらを見ていた。
ちなみに、この二人は魔闘大会の前に俺の家で特訓をし合った中なのでお互いに知っている中だ。
「……いつからいた?」
素で気付かなかった。完全に周囲への警戒が疎かになっていた。
「座ってから頭を抱えだした辺りから……」
ほぼ半分じゃないですかやだー。
「……ごめん……」
サヤが俺に対して頭を下げた。
「えっ……?」
「……私もクロウの考えは分かる……けど……怖かった……」
言えなかった……そういえば、さっき集まっていた時は一言もしゃべらなかったな……あの時か?
「……余計な口を出したら……本当に瓦解しそうで……」
……彼女でも怖いって思うことあるんだな。意外な彼女の一面を見た気がした。
「いや、いいんだよ。俺も考える所もあったしな」
「……無理しているでしょ……?」
「……していないと言ったら嘘になるな……慣れ無い事なんて簡単にするもんじゃないな……」
「……私はあなたの考えが分かる……だから……困ったらいつでも言って……力になる……」
「……分かった。ありがとうな、サヤ」
「あなたは私の師匠……弟子が困っている師匠を助けるのは当然のこと……」
「わ、私も出来る限り力になります! ですからクロウさん。気落ちしないでください!」
「そういえば、リネア。お前―――」
「……私が教えた」
「あっハイ」
俺が何を言おうとしたのか分かったのか。いや、そりゃあの場にいなかったリネアがあの話をしっていると言う事になったら、だれかが教えたしかないけどよ。
「……じゃあ、私は戻る……リネア……」
「は、はい!」
「私は隊長として任せられているから……クロウの事にまで……中々助けることは難しい……だから、あなたがクロウを助けて……」
「わ、分かりました!」
「……じゃあ、また後で……」
そう言い残してサヤはこの場を後にした。
その場に残っていたリネアは俺の横にまで来ると、俺と同じように石階段にちょこんと腰を下ろした。
「生徒の間では酷いっていう話が殆どですけど……クロウさんも無理にやっているんだなと私は思いました」
「? なんでだ?」
「だって、普段のクロウさんはとっても優しいじゃないですか! 私はクロウさんがあんなひどい事を進んでやる人とは思えません」
ああ……心が癒されていく。
誰かに励まされるってこんなに良い事なんだなと思っていた。
「今は駄目でも必ず分かってもらえます! だから気落ちしないでください! 私も出来る限りクロウさんを手伝いますので頑張りましょう!」
「……」
「……? どうしたのですか?」
「いや、普段不幸な子とか言われているけど……今は女神か何に見えるなって……」
「!? ち、ちょっと、何を言っているのですか!?」
思わぬことだったのか、反射的にリネアは立ち上がってしまった。
「わ、私はそんな人じゃないですよぉ」
顔を何故か赤くしてしまっている彼女は可愛かった。
「はは、さて俺らも行くか」
立ち上がると精一杯背伸びをしてみせる。先ほどの苛立ちが完全に消えたわけでは無いが、それでも少しだけ心が軽くなった気がした。
「ありがとうな、お蔭で少し楽になったよ」
俺は素直に彼女に礼を言った。
「い、いえ! とんでもありません! わ、私に出来ることがあったらいつでも言ってください!」
「ああ、そうさせてもらうよ。ほら、行くぞ」
「は、はい!」
さて、気合を入れなおして行かないとな!
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あっ、でも優しくお願いします(切実)
===2017年===
08/09:誤字を修正しました。