第136話:その犠牲は何の為に?・後編
お待たせしました。後編です。
※ 5/26 誤字を修正しました。
レミリオンの体が宙を舞う。逆さまになった体は、そのまま一回転するかと思われたが、本来頭がある場所に足が来た瞬間、レミリオンの体は急に軌道を変え真っ直ぐに地面へと向かって行く。
「―――あっ!」
周りにいた人々が気付いた時には時すでに遅く、彼女の体は豪快に地面へと叩き落とされていた。しかもご丁寧に怪我をしている腕から地面に落としており、何とも言えない嫌がらせ付きでだった。
勿論わざとだ。クロウによる背負い投げが綺麗に決まった瞬間だった。
「「……」」
突然の出来事に周りの空気が静まり返った。一瞬の出来事だった。レミリオンが最後まで言おうか言わないかのほんのわずかな時間でレミリオンは地面へと叩き落とされていたのだ。時間に換算すると2秒~3秒程度の早業であっただろう。
「い゛ッ……!」
静まり返った空気を最初に破ったのはレミリオンの呻き声だった。見るとレミリオンが怪我をした腕を庇いながら地面に蹲っていた。
「……お前、いい加減にしろよ?」
俺はそれだけ言うと、地面に蹲っているレミリオンの体の正面を無理やり俺の方に向かせると今度はこちらが胸元を掴み、引き上げた。分かっているとは思うが決してやましいことはやっていない。第一、それなら毎晩エリラの胸が当たっていr(以下略)
そんな事は置いといて、背負い投げのダメージと腕の怪我への追撃に苦痛を浮かべるレミリオン。だが、俺はそんな事など気にもせずに続ける。
「俺の言う事は聞かないと言っておきながら今度は責任取りなさい? ……ふざけているんじゃねぇぞ? ああ゛ッ!?」
《威圧》スキルが自然と発動され周囲にとてつもない重圧がのしかかる。カイトたちはその威圧に腰を抜かし地面にへたり込んでしまう。怖くて目を背けたいのか首が僅かに動いていたが、それすらも許さない強烈な威圧により固まってしまっていた。
俺の丁度後方にいる教師も、その重圧に耐えられずにいた。
だが、これでもまだいい方だろう。恐らくだが本気の《威圧》をやればここにいる奴らは全員確実に失神してしまうだろう。で、なぜ大丈夫かと言うと《不殺》スキルの効力が同時に働いているからだ。
痛みなどのダメージ量をコントロール出来るこのスキルは、精神へのダメージ量すらもコントロール出来てしまう。それにより気絶をしないように設定をすることにより、気絶をしなくなると言うことだ。
だが、裏を返せば気絶をしたくても出来ないと言うことになり、本来なら耐える事の出来ないプレッシャーをずっと受け続けなければならないのだから、これ以上の苦痛は無いであろう。
「てめぇら勘違いしてねぇか? 司令官が守るべき対象は『指示を聞く兵』であって、決して『味方の兵』じゃねぇんだよ。俺が気に入らないかどうかは知らねぇが、その程度の理由で部隊の全員が集まる集会を平然と欠席した奴なんかが守る対象になるとでも思っていたのか? で、なんだ? 更に今度は『自分らを守れ?』……言う事を聞かないで自分勝手な行動をする奴は戦場では屑同然なんだよ!! むしろ消えていた方がまだ役立つわ! そんな奴らを守る義理がどこにある!? 結局、てめぇらは自分らの都合がいいように勝手に解釈をしては甘い汁を吸おうとしているだけなんだよ……分かるか!?」
「ひぃ……」
俺の《威圧》に完全に押し負けているのか、レミリオンの口から情けない声が漏れたように感じた。それを確信付けるかのように、レミリオンを掴んでいる腕から、彼女の体の振動が伝わって来る。
「俺が最初から本気を出さなかったから死者が出た? 違ぇよ……てめぇらが戦場を舐めすぎていたんだよ!! だから昨日の集会をボイコットをしたんだろ!? その結果が今日死んでいった奴らじゃねぇか!! 昨日の集会に出ていればその命は今日も続いていたんだぞ!? それを見す見す手放したのは小さい理由で来なかった奴らじゃねぇか!!!!」
ミシッと俺の足元を中心に地面にひびが入る。ちなみにこれは何かしらの演出では無く、純粋にステータス任せで地面を踏んづけているために起きている現象だ。
「知っているか? 軍を作り上げる際、兵士たちには普通決まり事を課せるんだよ。その中には色々な事が書かれてあるがその中に『部隊の行動を乱す者には処罰を与える』と言うのが大体入っているんだよ。処罰は色々あるが、大体が打ち首じゃなかったっけ……? さて……自分勝手な行動をし、命令を聞かず、さらに大将に暴力を振るったあんたはどうなるんだろうな?」
瞬時に《倉庫》から刀を取り出しレミリオンの首筋に刃をあてる。僅かに皮膚がサクッっと斬れそこから血が流れ出していた。
「……! ……!」
レミリオンに刀を付きつけられた瞬間、チョロチョロと言う音が微かに聞こえて来た。どこから聞こえてきているんかと思えば、レミリオンの股から太もも、足へと何やら黄色い液体が線を作って地面へと流れ落ちていた。
どうやら、恐怖のあまり漏らしてしまったようだ。
「ふんっ!」
そんな彼女の姿に完全に切れてしまった俺は、彼女を掴んでいた腕を離してあげる。重力に赴くがまま彼女は自分の漏らした液体の上へとドサリと落ちた。
周囲を一瞥する俺。俺と目があった教師やカイトたちは自然と後ろへと下がっていく。その情けなさに、もはや何も言う気が起きなくなってしまった。
「……ああ、そうそう。お前さっきリネアを俺が好き勝手に動かしたとか言っていたな? 残念ながら彼女は自分の意志で俺の部隊に入ることを決め、あの時自分の意志で、反撃していた俺を下げようと掴まっていた。下らねぇ勘違いをしているようなら……次は容赦しねぇぞ……いいな!?」
涙目になりながらも、こくこくと無言で頭を上下に動かすレミリオンの姿を確認した俺は、最後にもう一度周囲を一瞥すると教師に向かって。
「……明日レミリオンを始め集会に出なかった生存した生徒全員に処罰を下す……いいな?」
と言った。教師たちももはや誰一人として先ほど俺を見ていた警戒のまなざしをしておらず、ただ純粋に恐れのまなざしをしていた。
(……恐怖体制か……したくねぇなぁ……)
教師の顔を見ながら、俺は自分が嫌っている恐怖による強請をしていることに心の中で苦笑をしながら、校庭を静かに後にしたのだった。
如何でしたでしょうか? 皆さん色々な意見があるかと思われますが、私はこうなって当然の事をレミリオンはやったと思っています。「意見を言う」と「勝手に行動する」のは全く違う事ですよね?
ちなみに前回の補足なのですが、レミリオンが最後に「一人失った」と言っていたのは、彼女に付いていた二人の生徒のうちの一人を指しています。もう一人は前回、レミリオンを止めようとしていた生徒です。




