第134話:その犠牲は何の為に?・前編
1000万PV。改めて皆様に感謝です。本当にありがとうございます。
1000万と節目を迎えた訳ですが、特にこれまでとは変わらず、まったりと進んでまいります(笑)
普通が一番いいと思うのです。
※ 5/23 誤字を修正しました。
「これどうしようかなぁ……」
俺の真下に広がる大量の魔物の石造。なんというか、某お隣の大国の昔の王様が作った兵士たちの石造を思い出す。
俺がこれを地下に並べて保管しようものなら確実に後世で「悪趣味」のレッテルを貼られること間違いなしだろう。意地でもコレクションとかにはしたくないな。
だが、これを放置しているのも色々と不味いだろう。国のお偉いさんに見られたらどんな災いが起こる事やら……。もっとも、生徒たちや街の人たちは俺の姿をキッチリと見ている事だろう。
ああ……今回ばかりは言い逃れ出来そうにないな……。
すいません、セラさん。私は某見た目は子供、頭脳は大人な名探偵みたいに行った先行った先で問題ごとを起こす能力があるようです。
神様へこっそりと謝っておく。そのとき、何故か分からないがセラが頭を抱えている姿が見えたような気がした。
そんな神様の事を思い浮かべながら、俺はこの石造をどうするかを決めた。
壊すのはなんかもったいない気がするし、何かに使えるかもしれないので、回収して置くことにした。どうせ《倉庫》の容量は無限なんだから、どこか適当に一か所に集めて保管しとけば大丈夫だろう。
ここで、注意をして置かないといけないのは、普通の石化状態は体の表面が石化するだけで、命までは取る効果は無い。ただし、そのまま放置をした場合、餓死をするし、体の一部を壊せば皮膚が無い状態で空気に触れるのでなんらかの治療を行わない場合はそこから壊死する可能性は十分にある。もっとも、石化したときに皮膚細胞の最深部まで石化してしまうので、自然的に治る事は永遠に無いが。そして、《倉庫》には生きているものは入れる事が出来ないのだ。
で、俺のやった石化は体の内側から石化させるという何ともエグイ石化で、彼らは既に死んでいる。よって《倉庫》に入れる事が可能なのだ。
具体的な原理だが、放射線に近いものだ。ただ、DNAを破壊するとかそういうものではなく、ただ単に体を貫通する程度のものだ。しかし、そこに石化系の毒魔法を混ぜれば立派な兵器となる。
化学兵器顔負けの魔法だ。正直な所使うのはこれっきりにしようと思う。
ちなみに、なぜ《天上の裁き》と命名したかというと、その放射線もどきは天空魔法から生まれたもので、具体的に言えば解毒系魔法の応用版を転用したものだからだ。毒を以て毒を制すという言葉があるが、解毒魔法も毒を中和させるための毒を疑似的に取り込ませるもので、それを完全に毒へと応用したのだ。
さて、大分話は逸れたが既に生きていない魔族の石造を《倉庫》へとさっさと回収していく。リネアは皆さんのお手伝いをして来ますと言って皆の所に戻っていった。ただ、戻る途中で石造の一体がバランスを崩し危うく彼女が下敷きになりかけるというハプニングがあったのには冷や冷やさせられた。咄嗟に駆けつけて石造を蹴り飛ばすことで事なきを得たが、壊れたのがその一体だけでかつ、ピンポイントで崩れたので不幸と言われているのも、どことなく分かった気がした。
「「「……」」」
意気消沈とする生徒たち。彼らはけが人を運んだ後、俺の命令で学園の校庭へと集合をさせていた。
表情は暗く沈んでおり、まともに話している人はいなかった。
無理もないか、おそらくほぼ全員、自分が一番自信のある魔法を撃っただろう。それが全くと言うほど通用しなかったのだから。
自尊心とかそんなことを置いても、彼らにはこれからいつまで続くか分からない戦線へと向かうのだ。暗い気持ちになるなというのが無理と言えるだろう。
そんな彼らをよそ目に俺は教師たちから怪我人などの報告を受けていた。
ちょっと、気がかりなのが俺に報告をしている教師はそんな感じはしないが、何人かの教師が明らかに俺を警戒していた。
被害を出した事への不信感か、それともあの時見た俺の姿にびびっているのか……。どちらにせよ、良い事では無いな。
「―――以上より死者7名。負傷者10名です」
「……分かりました。報告ありがとうございます」
「……クロウ君。これからどうするつもりだい?」
「……取りあえず出発は延期ですかね。へっぴり腰の国の兵士たちが逃げて、尚且つ敵に襲われる可能性があるこの街を放置するわけにはいきません。国の方にもそう伝えてもらえませんか?」
「ええ、分かりました。その辺は私たちの方でどうにかしましょう。問題は―――」
俺と話している教師の目が一瞬生徒の方を向く。それにつられて俺も思わず目を動かしてしまっていた。
「彼らですね……」
「そうですね」
「こんな子たちを戦場に連れて行っても案山子にすらもならないと思うが……」
「そんなこと最初から分かっています。亡くなった生徒には悪いですが出発する前に、こんな戦いが起きたのはある意味幸運だったのかもしれませんね。取りあえず今日はもう解散させて一晩時間を上げましょう。あんなことが起きた直後でまともな思考が働いているとは考え難いですからね」
その意見に教師は頷くことで賛成をした。そして、生徒たちに翌日再びここに集合することが伝えられたのち解散命令が出された。
疲れ切った様子の生徒だったが、何とか重い腰を上げぞろぞろと帰宅していく。
そんな中、特に集まれと言ったわけでは無いのに、俺の所に来る人たちがいた。
「クロウ……話がある」
「?」
カイトと……それからテリーとネリーだった。なんか珍しい組み合わせだな。
「クロウ……お前、分かっててやったな?」
「? 分かってて……? 何のことですk―――」
「とぼけるな!!」
カイトの手が伸び、俺の胸元を掴むとグイッと引き寄せる。カイトの顔は鬼の形相で真剣そのものだった。テリーやネリーも決して穏やかとは言えない顔でこちらを睨んで来ていた。
「お前分かっているのか!? 7人だぞ! 今日の戦いで死んだ奴が7人もいるんだぞ!? ……いや、あんなの戦いじゃねぇ! ただの公開処刑だ!」
「……ええ、ある程度は予想していましたよ。ですから前日に《契約》で《自動防御》を付けさせたんじゃありませんか」
「そんな事は分かってる! 問題はそのときに参加していない奴が戦いでどうなるか知っていたかと言ってるんだ!」
カイトが言っているのは俺の命令で校庭に全員を集めさせたときに、ボイコットをした奴らのことをいっているのだろう。
「……勿論ですよ」
今日の戦いに参加すれば、《自動防御》を付けていない生徒がどのような目に遭うかも分かっていた。分かっていたからこそ、強行したのだ。
「てめぇ人の命をそんなに簡単に扱いやがって……ふざけるなよ!」
さらに怖い形相を浮かべ俺を問いただしにかかるカイト。
「クロウ君……カイト君のいう事はもっともだと僕も思うよ……。君一人であんなことが出来るなら最初から行っていればよかったのだから」
テリーがカイトを援護する形で言った。テリーの言葉にネリーも無言で頷く。
さて、どう説明しようかと頭を悩ませる俺に、更にやっかいな奴が姿を現した。
「居たわ!」
声のした方を向いてみると、腕に包帯をグルグル巻きにしたレミリオンの姿がそこにはあった。彼女もボイコットをした身であったため、《自動防御》の援護をもらえずに負傷をした一人だ。
幸い腕の怪我だけで済んだので、それ以外はピンピンしているようだ。
俺は、そんな彼女の姿を見て、さらに頭を悩ませるのだった。




