第133話:ハルマネ攻防戦5
※ 5/31 誤字を修正しました。
その日、街は光に包まれた。
突如として押し寄せる魔物と魔族の大群。兵士は全く戦わずに逃げ、街を守る者はいなくなった。きっと、このまま時が流れて行けばこの街は徹底的に破壊され、生き残った人間どもは一人残らず虐殺されるだろう。誰もがそう思っていた。
だが、一人の少年が放った魔法がその思いを全て打ち消した。
街の上空に浮かぶ巨大な魔法陣の中央に光が集束したと思った次の瞬間、光は爆発をしたかのように炸裂した。そして、その光は襲い掛かってくる魔物、魔族。そして街を全て丸呑みにしてしまった。
何も見えない。光に包まれた人々の視界は白一色で隣にいた人すらも確認できないほどだった。
その光は暖かった。また優しかった。ふんわりとも清涼とも何とも言えない光はすぐに消え、すぐに元の景色が戻ってきたが、包まれた人々には悠久の時のように感じていた。
この時の不思議な感覚とその後に見た光景を人々はこの日を生涯忘れる事は無く、いつまでも鮮明に覚えていたという。
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「……っ」
急に視界が真っ白になったかと思えば、すぐに消えた。
余りに急なフラッシュを目に受けたせいかチカチカする。リネアは目をごしごしと擦り、何が起きたのか自分の目で確かめるべく周辺を見渡した。
目の前には青空が広がっていた。一瞬思考が止まってしまっていたが、すぐにクロウに抱えられていることを思い出し慌てて下を向いた。
地面を見た瞬間リネアは自分の目を疑った。
あれ程地面を覆い尽くすかのように進んでいた魔物や魔族の姿は無く代わりにあったのは、無数の石像だった。
その石像の形は疎らでまるで何かを模っているかのように見えた。角みたいに尖っている石像もあれば、四本足で歩いているような物。かと言えば二本足で立っている石像もあった。街から離れるに連れ手に大きな物を持っているように見える石像もあった。
リネアは最初、突如として出て来たこの石像が何なのか本当に分からなかった。
だが、時間が経つにつれ、石像の形などからアレは何なのか薄々感づいていた。しかし、認めたくは無かった。と言うより認めれなかった。
もし……もし、自分が思っている事が本当なら、自分を抱えている師匠がやった事はとんでもないことだったからだ。恐らく長い歴史を見ても無いであろうこの出来事を。
「……クロウさん……アレは……?」
聞くのがとてつもなく恐ろしく感じた。だが、聞かずにはいられなかった。
光を放出した魔法陣を閉じ、目の前の光景をしっかりと確認したクロウは淡々と答えた。
「石化した魔族の姿だ」
「石化した……魔族の姿……?」
「そうだ……。もう二度と動くことは無いだろう石の塊だ」
「これは……クロウさんが……?」
クロウは頷いた。
「《天上の裁き》……術者の視界に入り、術者が敵と認識した者だけに半永久的な石化の状態異常をかける魔法だよ」
リネアは身の毛がよだつのを感じた。自分が師匠と思っていた人は自分のずっとずっと前を歩いている人だと言うのを改めて感じ取り、それと同時に恐怖を感じていた。もし、これが自分に向けられていたかと思ったら……。
暑く無いのに顔中から汗が噴き出る。寒くも無いのに手足が震える。今まで散々周囲から不幸な人と馬鹿にされ、自分自身もそう感じていたリネアだったが、この時ばかりは、自分は本当に幸運だと感じらずにはいられなかった。
一方、生徒たちも目の前の現実を受け入れきれずにいた。
一瞬で何千といた魔物の姿が消え、代わりに何千もの石像が姿を現したのだから、これを受け入れろと言う方が無理かもしれない。
呆然とする生徒たち。と、そのときだった。
「いでぇよ゛……いでぇよぉ゛……」
ハッと我に返り声がした方を見てみると、そこには頭から血を流して地面に蹲る生徒の姿があった。すぐそばには棍棒をもっている魔族の石像が転がっていた。
血を流して倒れている自分たちと同じ生徒の姿を見ても、しばらく受け入れる事が出来ずにいた。信じたくない心と現実の光景が心の中で葛藤する。夢なら冷めてくれ。と心で思う。
だが、そんな葛藤にも終わりが告げられる。
「お、おい! 大丈夫か!?」
一人の生徒が現実を見る事を選択し、倒れている仲間の元へと駆け寄る。それを皮切りに続々と現実に引き戻されていく者が現れだす。
「誰か! こっちに来てくれ!」
「担架を誰か持ってきてくれ!」
そんな声が聞こえて来る。だが、それに答える者はおらずただあわあわと、慌てふためく生徒だけが増えて行く。
こんな時にどうすればいいか。そんな訓練を受けている訳でもなければ学んでいる訳でもない。魔法学園とは魔法を教えるところ。故にそれ以外の事には殆ど疎かったのだ。
「……落ち着け」
サヤだった。彼女もまた目の前で起きた現実を受け入れ切れていなかったが、それはそれと頭を切り替え行動に移っていた。
「取りあえず、けが人を運ぶぞ手伝え!」
今度はシュラがけが人を運ぶために人手を求め呼びかける。このあたりの行動はやはり、冒険者としての知識と経験の違いといえよう。
そうやって、特待生の冒険者たちを中心にけが人を運び始める。近くで石化している魔族たちがいつ動くかも分からない恐怖に怯えながらも手を動かしていく。
そんな彼らを上空から見ていたリネアは自分はこのままでいいのかなと思っていた。
「クロウさん。私たちは降りないのですか?」
その問いにクロウは首を横に振る。
「俺がやるだけじゃ意味がない。ここはあいつらに任せる事にしておく」
もともと、クロウだけでもこの戦いは十分に勝てた(周囲の損害を考えなければもう少し早く勝てた可能性も)
なのに、クロウはあえて生徒たちに戦わせた。何故か? それは彼らにこれが戦いだと見せつけるためだ。
自分らが学んできた魔法が効かない。それは魔法だけを学んできた彼らにとってどんなに屈辱的か。どんなに恐ろしい事か。恐らく今回の件で彼らは思い知ったことだろう。
恐らく、この出来事のせいで二度と戦線に立てないほどのトラウマを植え付けられた者もいるだろう。そんな彼らがそのまま腐るのかそれとも再起するのかは自分自身が決めることだ。
「あいつらも思い知っただろう……自分の感情だけで動けばどうなるかを……」
怪我をして運ばれていく生徒の姿を見ながらクロウはそう呟いていた。
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