第131話:ハルマネ攻防戦3
昨日は投稿できずにすいません。
お詫びにエリラが何でもしてくださいまs
※ 5/18 誤字を修正しました。
生徒たちが到着したことにクロウもすぐに気付いた。
目の前にいる魔族や魔物を風の魔法で切り刻み吹き飛ばしてから、回れ右をして街の方に逃げ出す。もちろん全力で魔物たちは追うのだが、クロウの速度に(やや力を入れて60キロ)ついて行けるものなど一匹としていなかった。
そして、クロウと魔物との間に数百メートルの差が生まれる。そのままクロウは呆然と立っていた生徒たちの元へと駆け抜けた。
生徒たちはボーと何かを見ていた。それが、これまで見たことないような魔物の大群にか、それともその大群相手に戦っていたクロウを見ていたかは人それぞれだろう。
「全員いるな!」
いつの間にか自分たちの前に来ていたクロウの声で、生徒たちは我に返った。
「お、おいクロウ……さっきのアレh―――」
カイトが全員の心の代弁をするかのように問いかけるが
「余計は話をするな! いるかって聞いているんだ!」
クロウの声によっていとも簡単にかき消された。
普段のクロウなら答えている質問だろう。だが、クロウはあえて厳しくしていた。ここは戦場と言う意識を植え付けさせるためだ。
本当なら彼一人でもどうにかなる規模であろう。だが、それをせずにわざわざ生徒たちを集めさせたところにもその意図は伝わるであろう。
「……問題ない。いるよ……」
サヤが代わりに答えた。ここでの「いるよ」とは昨日集まった生徒は勿論のこと、ボイコットした生徒たちも含めてのことだ。
彼らはリーファの部隊に編入をさせている。と言うか、リーファにしか任せられないと判断したのだ。特待生の部隊には入りたがらないだろうし、かといってセルカリオスに任せるのは些か心もとない。そう考えたクロウの命令だった。そのため一つの部隊だけ40ほどの大所帯となっており、この中にはレミリオンも混ざっているが、当の本人は既にクロウの事など意も介さずに迫りくる魔物たちに見入っていた。
そんな彼女の話は置いといて。
「よし、各自横列に隊列を組め! 急げ!」
言われるがままに生徒たちは隊列を組み始める。こうしている間にも刻一刻と迫ってくる魔物の大群。その大群を見て、ある者は恐怖を覚え足が竦みそうになってたり、ある者はあんな奴らすぐに倒してやるぞ! と、その自信はどこから来るのかと聞きたいぐらい自信満々な人もいた。彼らはまだクロウの強さを分かっていない愚か者か、それとも只の馬鹿か、分かってやっているのか……。
そんな中で各小隊の隊長を任せられた特待生たちの顔は一名を覗いて全員似たような顔付をしていた。
「……チェルストの時よりも多くねぇか……?」
「分かっているわよそれくらい」
「「……」」
「……やるしかない……」
セレナ、カイト、ローゼなどはかつてチェルストでの戦いよりも遥かに多い魔物たちの数に思わず苦笑いを浮かべ、テリーとネリーに至っては言葉も出せない状態だった。
セレナとシュラは目の前の魔物たちに怯えているような素振りは見せていなかったが、顔や手から噴き出している汗が彼らの緊張度を表していた。
サヤはやや緊張した顔をしていながらも、武器であるナックルダスターの確認を行っていた。どうやら他の人たちに比べ少しだけ余裕があるようだ。そんな中、唯一の例外がいた。
「AHAHAHAHAHA~奴らなんて僕の魔法で一発で消してあげるよぉ!」
「「キャーセルカリオス様ぁ! かっこいい~!!」
物理法則を完全無視した得意のスピンをかますセルカリオス。その後ろでは律儀に隊列は組んでいるものの完全に意識が敵を放っておかしな方向に向かっていた。
「あの人……もう一度焼かれたいのでしょうか?」
顔は普通通りだったが、その背後からはドス黒いオーラが吹き出ているリネアが、手のひらに小さな魔法陣を作りながら言った。
「リネア……バカは放っておいてこっちに集中しろ……」
クロウに呼び止められたリネアはすぐに反応して再び魔物と向き合った。
「魔法陣展開!」
クロウの指示で、ローゼたちが詠唱を始め、それを確認した他の生徒たちも詠唱を開始する。
戦争での魔導兵の役割は補助と援護射撃だ。そのうちの援護射撃は一斉射撃が多かった。一発一発の威力は低くとも全員で一斉に打てば敵を倒すには至らないにせよ、ひるませることぐらいは可能だからだ。理想は全員で一つの魔法を作り上げ、強力な一撃を撃った方がいいのだが、そんな練習などしている筈もなく、また行っていたとしても一朝一夕で出来るような生温い魔法ではない。どれくらい大変かと言うと
それなりに熟練した力を持つ魔導士が数年かけて仲間と共に作り上げる物と言えば分かるだろうか?。その変わり、威力は格段に向上し戦争では大事な戦力の一つとなる。特に魔法耐性がない龍族との戦いには重宝されている。
ただ、誰か一人でも欠けるとすべてが駄目になるので、運用は非常に難しいと言えよう。
「「「――――」」」
(……アレ? そういえばアルゼリカ先生は?)
他の生徒が詠唱を開始したとき、ふと気付いたクロウは周囲を見渡した。だが、クロウが求めているアルゼリカ先生の姿はどこにも確認出来なかった。
クロウはアルゼリカ先生が連れて来たものと思っていたのだがどうやら違うようだった。
(……そういえば、指揮が取れないとか言っていたっけ?)
全校集会の時のアルゼリカ先生の言葉をふと思い出す。
(別の先生かそれとも生徒たちだけで来たのか……?)
色々な考えが頭の中に浮かんだが、首を横に振り不要な考えを振り払うと目の前の事に集中をする。
《衝突まで残り300メートル》
魔法の有効射程範囲はスキルレベルによるが、レベル3~4なら80~100メートル程度の距離しか届かない。よってさらに引きつける必要があった。
《衝突まで残り200メートル》
「さあ! 我が魔法よ! その力で奴らを薙ぎ払うが良い! HUHAHAHAHAHA!」
そこかの悪役みたいなセリフを飛ばしている声が聞こえて来る。今すぐぶん殴りたり衝動に駆られるが今はあんな奴の相手をしている暇は無かった。
どんどん、距離を縮めて来る魔族。やがて大きめの魔物の顔がハッキリと分かるほどになった時、クロウの声が響いた。
《衝突まで残り100メートル》
「撃てぇぇ!!」
数百個の魔法陣から無数の魔法が飛び出し、その魔法は全て魔物の大群へと吸い込まれていった。
―――ズドドドドォン!!
魔法は余すことなく魔族と魔物たちを巻き込んでいった。




