第130話:ハルマネ攻防戦2
「《拡散火炎弾》斉射準備!」
目の前に広がっている敵の山に片っ端に標準を定めていく。
「掃射……始め!」
クロウの合図と共に無数の火球が魔法陣から飛び出し狙いを定めた魔物へと次々と飛んで行く。上空から降り注ぐ火球に魔族といくつかの魔物はすぐに気付き回避行動を開始する。
だが、火球は空中で破裂。そこから小さな火球が大量に生まれた。
空中で炸裂し無数の小さな爆弾を生む兵器。通称「クラスター爆弾」その強力な威力は水上から上陸する部隊にとって最も恐ろしい兵器と言われている。
日本ではクラスター爆弾禁止条約によって自衛隊からはその姿を消しているとのことだが、残念ながらこの世界ではそんな条例は無いので躊躇なく作ることが出来る。クロウは「技術って怖いな……」と作りながら呟いたとか。
そんな兵器を模して造られた火球は着弾と同時に爆発を引き起こし、直撃した魔物は勿論、周囲の魔物たちまでもが木端微塵に吹き飛ばされて行く。
この攻撃に知性のある魔族やいくつかの魔物の動きが止まる。だが、知性が無くただ突撃するだけの魔物はその動きを止めることなく突き進んでいく。
「チッ……」
クロウは舌打ちをしてすぐに空中を蹴り上げ猛烈なスピードで移動を開始する。空を飛べるのは極僅かな上級魔導士だけなあって、たまたま飛んでいるクロウを見た魔法学園駐留魔導兵は「アレ? あんな奴隊にいたっけ?」と首を捻らせたとか。
もっとも空を飛べる人はいても、クロウの速度で飛べる人など、いないに等しいのだが。
クロウが空を飛んでいるとき、真上を飛びながらも気付いていない人たちがいた。ハルマネを守っている守備兵たちだ。
どこからともなく現れた魔族たちに右往左往と慌てふためく兵士たち。
まさか敵がこんなところに現れるとは思ってもいなかった。さらに彼らの殆どは実戦経験が一度も無いような新兵ばかりの寡兵だった。
僅かばかりの実戦経験がある兵士たちは魔物たちの数に圧倒され我先にと逃げ出す始末。クロウが放った攻撃すらも気付かなかったそうだ。
そんな役立たずの兵たちを無視してクロウは勢いそのままに、魔物たちの目と鼻の先に着地をした。
「ガウッ!?」
行き成り目の前に落ちて来たクロウの姿を見て、突撃ばかりしていた魔物たちの一団が反射的に動きを止めた。
「【樹龍型】《桜花》」
《倉庫》から漆黒(刀)を取り出したと同時に桜の花びらの形状をした魔力の塊が集まり、次の瞬間一気に放出した。
まるで桜吹雪を思わせるような光景が辺り一面に広がる。だが、その光景と反してその威力は鉄すらも切り裂く威力を持っており、さらに花びら程度の大きさであるが故に目や服の中へと入りこみ、ズタズタに切り裂いてゆく。
目を斬られたオークの一体が痛みに耐え切れずに地面に倒れジタバタと転がりまわる。オークより小さめの体をした魔物はその巨体に潰され、近くにいた魔物はオークが持つ棍棒によって突き飛ばされ、それが連鎖反応のように次から次へと広がっていく。
ドミノ倒しに遭っている魔物たちを尻目に、何人かの魔族がクロウへと襲い掛かった。その中にはアスモデウスなどA級のさらに上位にあたるS級にも匹敵する魔族も混じっていた。
アスモデウスのレベルはおよそ60。しかし、魔族のレベル60は人間のレベル100に匹敵すると言われており、個体数こそ少ないが、一体で軍の小隊一個を潰したと言う逸話があるほどの強力な魔族だ。
「シネェ! ニンゲンガ!!」
アスモデウスを始めとする魔族が一斉に各々の得意とする攻撃を繰り出し始めかけたが
「邪魔だ! 消えろ!!」
《硬化》させた腕を全力で振り上げると辺りに突風が吹き出し、その風に押し負けた魔族たちが魔物たちの集団の中へと吹き飛ばされて行く。
だが、何体かの魔族は耐え抜きクロウへと肉薄をした。
それに対しクロウは剣、魔法、《龍の力》を使って応戦する。
複数の魔族に集られるクロウであったが、その視線の矛先は戦っている魔族には無かった。
(早く来いよな……)
街の方をチラッと見ては魔族を吹き飛ばすといった行為を続けるクロウ。街からの狙撃ではいずれ魔物たちが街へと群がると判断したクロウは接近戦を試みていた。
だが、街からの攻撃が無くなったと思った軍の端っこにいる魔物や魔族たちが再び攻勢に出る。そして、その動きは《マップ》を半透明状にして常に表示しているクロウもすぐに気付いた。
(くそっ! 城壁から応戦するしかねぇか……)
接近戦は失敗だったと判断したクロウは、群がる魔族たちを吹き飛ばすと街の方へと退避を開始する。と、その時、クロウの上を通って行く火球がクロウの目に飛び込んで来た。
「しまった!」
ドンッ! と地面を蹴り上げると、一瞬で追いつき、そして街の方へと飛んでいく火球に対してまるでボールでも蹴るかのように蹴って見せた。
カッと一瞬光ったかと思った次の瞬間、空中で火球は炸裂をしそこから生まれた強烈な爆風がクロウを一瞬で飲み込んでしまった。
遠くから飲み込まれるクロウを見て喜ぶ魔族たちがいた。火球を撃った魔族だ。手にはかつてエルシオンのギルドを木端微塵に吹き飛ばした《爆炎筒》が握られている。
《爆炎筒》の量産に成功したのか、持っている魔族の数はおよそ200。街からの反撃に動きを止めていたのだが、それ以上の反撃が無いと判断したのか、再び攻撃を開始したのだ。
撃った魔族は確実に死んだと思った。だが、その思いはすぐに裏切られることとなる。
爆炎によって発生した煙が吹き飛び一瞬で消えると中から、傷一つ付いていないクロウの姿が見えた。どうやら蹴る直前に《多重防壁》で爆発に飲み込まれるのを防いだようだ。
その姿に驚く魔族たち。だが、今度は攻撃をやめることなく次々と発射をしていく。
これに対しクロウは《誘導火炎弾》を火球に向かって発動をした。言わば対空ミサイルみたいな感じだろうか。
魔法陣から放たれる火炎弾は次々と火球にヒットして爆発を起こす。連射をする《爆炎筒》だったが、クロウの《誘導火炎弾》の方が連射力を上回り、今度は逆に《爆炎筒》を持つ魔族たちへと火球が降り注ぐ結果となった。
この猛攻に200ほどいた《爆炎筒》を持つ魔族は一瞬で土塊へと還っていった。
そして、対空攻撃を失った魔族たちに新たな敵が登場する。
「何……アレ?」
「アレ……クロウか?」
その敵は目の前の光景に唖然としていた。それはたった一人の人間が魔族たちを空から次々と倒していく光景だった。
彼らは魔法学園の生徒たちで作られた部隊。
アルゼリカ先生の助力により、彼らはついに西の戦地へと結集したのだった。
===2017年===
08/09:誤字を修正しました。