第123話:Can you protect?
※ 4/27 誤字を修正しました。
急遽国からの指令により学生らによる部隊作成に理解できないアルゼリカ先生は自分が直接聞いてくると、メレーザに向かう準備をしてクロウを呼ぶようにと教師に命令、言わなければクビという強迫をされたので、他の教師たちに内容を説明し、すぐにエルシオンに向かうこととなった教師。
内心、不服だったが、一家全員路頭に迷うようなことにはなりたくなかったので渋々了承をすることに。
エルシオンまでは通常の速度で行けば一週間はかかる。そこで彼は早馬を用意しての強行を開始した。
そして、時間にして48時間、つまり二日でエルシオンに到着したのだった。
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「……で、俺に役が回ってきたと?」
ギルド(仮設)に家を聞き出し、飛んでも無く豪華なお屋敷に思わず後ずさりをしてしまいながらも、クロウの元にたどり着いた教師はクロウに会い、学園の生徒のみで構成された部隊編成とアルゼリカ先生に言われた事とを全て話した。
ちなみに、その時クロウは獣族の大人たちを集め、ある訓練を行っていた真っ最中だった。今回の襲撃の件を考え、エリラ、テリュール以外にも戦力が必要と判断し今まで、殆ど戦闘訓練を行っていなかった獣族の大人たちに訓練を行うことを決めていた。
しかし、もともと獣族は俊敏性に長けた種族ではあったが、筋力は人間の平均以下であった。しかもクロウの元にいる獣族の大人は全員女性であった為、筋力はさらに低かった。
俊敏力は高いので隠蔽戦などでは有利に戦えそうだが、全身を阿保みたいに硬くした魔物などには相性が最悪なので、クロウは別の攻撃方法を考案して実践中だったのだが、丁度そこに例の教師がやって来たという形だった。
「ええ、私は戦争というものに参加したことが無いのでアルゼリカ理事長が何故、あなたを選んだかは定かではありません。ですが、アルゼリカ理事長はあなたを推薦されました。一つ、ここは力を貸しては貰えないでしょうか」
こんな大役無理だろと教師は内面思っていたが、その思いは表面出すことは無かった。初老と中年の境目を歩いている教師であったが、その辺りは年の功とでも言うべきなのかもしれない。
「……」
クロウは教師を見らずに自分の右後ろにある壁をジーと見ていた。もちろん全く話を聞いていない訳でもないし、ふざけている訳でもない。
というのも、クロウの見つめている壁の反対側には先ほどまで同じ部屋にいたエリラを始めとした獣族などが全員待機している部屋があったからだ。
《透視》スキルでジッと壁の先を見るクロウ。壁の先では一体何の話だろうかと、壁に耳を立てているエリラや獣族の様子が伺えた。
「……? どうしましたか?」
「ん……いや、ちょっとな。それで返事だが―――」
教師に緊張が走る。これで来てもらえれば自分の役割は終わりを迎えるが、断られた場合は今度は生徒たちの命を預かるであろう別の人を自分で探さなければならないからだ。
「―――無理だ」
言葉を聞いた瞬間、教師はがっくりと項垂れた。ただし心の中だけであり、顔や姿勢は相も変らぬ姿であった。
「無理……と言われますと、何か理由でも?」
「ああ、理由はいくつか存在するが一つは俺がいなくなった後のこの家を誰が守るかだ。見ての通りこの家は大きい。そしてそれなりの数が住んでいる。俺がいなくなった後にここは一体だれが守ればいい?」
「……絶対とは言えませんが冒険者を雇えばよろしいかと。それくらいならこちらで手配出来ますが」
「はぁ? 本気で言ってるの? 知っているか? この町ってさ、今冒険者は俺を含めて二人しかいないんだぜ?」
事実、この町にいる冒険者はクロウとソラだけだった。他の冒険者はこんな危険な街に近寄って来ないのだ。
こういうところだと、稼ぎ場所だと言って一人や二人は火事場泥棒でいたりするのだが、それすらもななかった。「全員『命を大事に』作戦でもしてるんじゃね?」とクロウもぼやいていたり。
「自信の無い奴らがこの町に来た所で役立つ訳ないだろ。それにそもそもそんな奴らを雇うつもりは毛頭ないからな」
要するに「チキンはいらねぇ!」と言うことだった。そもそもそんな奴らを雇うぐらいならエリラに守らせた方が良いのだが。
「二つ目は不確定要素が多すぎる。いくら絶対的な守りを作り上げても、いつそれらを上回るか予測も出来ないような時を開けるなんて俺には出来ない」
龍族だけならまだ問題は無い。しかし、今回は魔族や人間までもが介入してきている。最初に龍族が襲って来た時に魔族が使用していた武器(爆炎筒)を量産されて数で撃たれたりしたら結果は目に見えている。当然、クロウはその対策もしているが、これだけを対策しても他の手を打たれたらどうしようもないと言うのが現実だった。
さらにエリラの父親の存在もクロウが拒否した理由の一つでもある。エリラはかなり恐怖心を抱いていたようだし、出来るだけ傍を離れるのは今はやめておいた方がいいだろうとクロウは考えていた。
我ながら過保護だなとクロウは心の中で苦笑していた。ただ、それ程までに守りたい存在であるのもまた事実であった。
「では……あなたは生徒たちはどうなってもいいと?」
「じゃあ、あんたは家の者がどうなってもいいのか?」
「……」
「あんたは生徒が大事かもしれないが、俺はそれよりも大事な者を守りたいんだよ。俺の体は一つだ。ならどちらかを切り捨てなければならない。教師をやっているならこれくらいは分かるだろ?」
「ぐっ……」
なおも食い下がりたかった教師だが、クロウの言っていることも正論なのも事実だった。どうしようと教師が悩んでいたその時であった。
「行けばいいじゃない」
クロウと教師が声がした方を向いてみると、そこに立っていたのはエリラだった。
後ろのドア付近では獣族たちがどうしようと慌てているのが見えていた。
どうやら、全部聞いていたようだ。
「何のために毎日クロから訓練を受けていると思っているのよ。私にだって守る事は出来るわよ」
エリラが胸を張って答える。思わぬ所からの助け船だ。と教師は咄嗟に判断し追い打ちをかけにかかった。
「家の方もこう言っていますし、一つ信じてみてはいかがでしょうか? 大切な人なら信頼することも大事だと私は思いますが」
「信頼しているのと力があるのは別問題じゃねぇかよ……」
クロウは聞こえない程度にぼやいた。
「ほら、サヤやローゼさんたちの事も大事でしょ?」
そうだなとクロウは言ったはもののクロウの顔色は変わる事はなかった。そして唐突にこう切り出した。
「……エリラはさ、龍族数百人に対してさ守れる自信はあるのか?」
クロウは座っていた椅子から立ち上がり、エリラと向き合っていた。
英語のサブタイトルとか初めてでした(汗)
英語力全然ないので合っているか不安ですが後悔はしていない(キリッ)