第119話:猛将、レシュード・フロックス
「……よし、これでいいな」
自宅の地下にあるミニ工房にて、俺はエリラの武器【蒼獣】を弄っていた。
―――スキル≪共鳴≫を取得しました。
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※スキル≪共鳴≫
分類:特殊スキル
効果
・媒介を通すことで離れている相手と通信を取ることが出来る。ただし、スキル所持者のみ発信が可能。相手は一方的に聞くだけしか出来ない。
・相手が一定状態になると特殊信号が出せる。
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「で、こいつをこれに設定して……」
≪RPG≫のお蔭で錬成や合成に失敗することなく次々と素材を組み合わせて行く。色はこれまでと同様、青色を使っている。
「……よし、出来た」
新たに生まれ変わった【蒼獣】を見て、我ながらいい仕事をしたと一人、自己満足をしていた。
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※武器【蒼獣】
分類:両手剣
付加効果
≪対炎獄耐性≫ new!
・≪対火耐性≫の上位互換。持っていればマグマダイブしようが平然としていられる。ただし離した瞬間……あとは何も言うまい。
≪斬撃強化・真≫ new!
・≪斬撃強化・改≫の上位互換。鋼鉄を紙のように斬ることが出来る。ただし武器の耐久が上がったわけでは無いので、そんな物を斬れば一発で駄目になる。
≪対魔物≫≪対人間≫
・指定種族を攻撃する時に威力が向上する。
≪???≫
・召喚系魔法。
・スキル《共鳴》の追加効果によりクロウが任意のタイミングで発動可能。
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エリラのレベルが90を超えたので、それに見合う武器を作ったつもりだったのだが……正直に言おう。素材的に圧倒的な耐久不足だった。
≪斬撃強化・真≫などいい例だろう。このスキルの性能を限界まで使おうものなら、この武器の数倍の硬度は必要になるだろう。だが、鉄素材や上位互換にあたる鋼鉄素材ではここあたりが限界だ。
今度、暇があったら調べておこう。そんな暇あるかわからないけど。
そういう意味では俺の刀も完全に強度不足だけど、俺はそもそも魔法をよく使うので問題は無い。それ以前に剣の使い方が完全に異世界の世界の使い方になっているから、強度なんていらないのだが。
さて、もうそろそろ昼頃だな。
ギルドに顔を出す時間だ。時間が足りるか心配だったが、なんとかエリラの剣の強化は間に合った。前々から試行錯誤していたのが功を奏した。ぶっつけ本番だったなら、絶対に間に合わなかっただろう。
エリラに剣を返し試しに手合わせをしてみる。急に跳ね上がった能力に驚いていたようだが、それも最初だけで数分も立てば見事に使いこなしていた。
問題も特に無いみたいで、初めて剣をあげた時みたいに喜んでくれた。満面の笑みを見ると、俺も作ったかいがあったものだ。
その後、準備を簡単に済ませ、俺とエリラはギルドに向かうことにした。
仮設ギルドに来てみると馬が三頭、近くの瓦礫に首を繋がれているのが見えた。そして、その近辺にはアルダスマン国軍の正規装備を付けた兵士が数人ほど会話をしていた。兵士たちはこちらに気付いたようだったが、それでも一視しただけで、すぐに興味が無くなったのか、会話をし始めていた。
(警戒心無過ぎるだろ……)
こんな非常時に剣を携えた奴がやってくれば(しかも二人)職務質問の一つや二つすると思うのだが……。
(まぁ、無関心ならそれでいいけどな)
正直なところ、面倒事を避けられて内心嬉しかったり。
今回は念のためにと、《神眼の分析》を常時発動状態で会うことにする。一人でも怪しい奴がいたら、覚えておかないとな。このスキルで見た後は《マップ》の検索に固有名詞で使うことが出来るのは大きな。
「入るよ」
俺は、一言そういうと。仮設テントの陣幕を上げ、中へと入った。するとそこにいたのはガラムとミュルトさんと……軍服を着たおっさん一名だった。
歳は40代? 体格は太っている訳でもなければ痩せている訳でもなく、普通の体格と言ったところだろうか。
(なんだ、どうやら普通の司令官みたいだな……)
スキルを見た限りでは大した能力は無かったのでホッとする俺。だが
「あっ」
そんな声を漏らしたかと思えば、エリラが行き成り俺の真後ろに回り込んで来た。どうしたと思って見てみるとエリラはギュっと俺の服を握って俺に隠れるような体勢を取って、あちらを見ていた。見ている眼もどこか、怯えており思わず幽霊でも出たか? と聞きたくなってしまいそうだった。
「おい、どうしたんだよ?」
小声でエリラに問いかける。だが、エリラは何も言わず、じっとしているだけだった。
「―――……ん?」
ガラムと会話をしていた男がこちらの存在に気付き、ガラムとの会話を止めた。そして、こちらを見るや否や、行き成りこちらに近づき始めていた。
男が近づき始めるや否や、エリラが先ほどより、一層強く握っているのを感じた。
俺は咄嗟にエリラを後ろに庇うように手で隠し、魔法を打てる準備を取った。
「エリラか……貴様、今までどこに行っていた……」
エリラがビクッと震えた。何なんだこいつは……名前は……
咄嗟に、先ほどは見なかったスキルで名前を見て俺は何となく合点がいった。
「あなたは誰ですか?」
分かっていようとも、そういわざる得ない。
「貴様などに答える口は無い。俺が用があるのはそこにいる小娘だ」
「エリラの事か?」
「そうだ。どこで拾ってきたかは知らないが、そいつは俺の家の奴でな」
チラッと視線を動かしてみた。すると一瞬だが、ガラムの顔がニヤケているように見えた。そう思った次の瞬間には、もとの老獪さを思い立たせる顔になっていたが、俺はその顔を逃がさなかった。
(そういう事か……)
あの顔が何を意味していたかは俺には分からない。だが、今まで会ってきた中で、このような場面で笑う人とは考えにくかった。
エリラがこの街に来る前の事は一通り聞いていた。俺からしてみれば、もう何年も前の話だが、その話の事はよく覚えていた。
そして、目の前にいる男もエリラとどういう関係なのか、名前で何となくだったが予想はついた。
「ああ、そうだったのですか、で? それで? エリラに何の用ですか? 要件なら主人である俺が聞きましょう」
あえて、主人の部分の強調して、俺と話をするように連れ込みにかかる。
「主人?」
「まあ、色々理由がありまして、こういう事ですよ」
ひょいと体を逸らし、エリラの首についている証を見せる。首から垂れ下がっている朱色の宝石と同時に目に入る黒色のチョーカー。それを何を意味するか分からないはずが無い。
案の定、チッと微かに舌打ちをする男……いや、エリラの父親にあたるレシュード・フロックス。家庭では無能と評されていたらしいが、実際は短気なだけで武に秀でた猛将とのことだ。
まあ、それ以外が馬鹿なだけかもしれないが。少なくともエリラからはそう聞いていた。
「……ふむ……ならばそいつを返して貰おう」
「は? 何を言っているのですか? いくらあなたと家族関係にあろうが、《契約》をしている以上、無理を言う事は出来ないはずですが?」
《契約》で配下になっている状態では例え、国だろうが手を出すことは犯罪になる……と、表向きではそうなっているが実際、そのような決め事など合って無いような物で、実際は無理やり《契約》を解除させることも多々あるらしい。
「そうか、なら交渉といかないか?」
これで切れてくれれば良かったが、どうやら簡単には行かないようだな。
感想など気軽に待っています^^
いつも書いてくださる皆様、本当にありがとうございます。返信が遅れているのは本当にすいませんm(_ _)m