第116話:忍び寄る手
※ 4/1 誤字を修正しました。
俺の意識が戻ったのはそれからしばらくしてからだった。と言っても数分程度だったらしいが。俺が気づいたとき俺はソファーの上に寝かされていた。
「く、クロ? 大丈夫?」
眼を開けたとき目の前にエリラの顔があり、ちょっと驚いた。俺は大丈夫だと一言いい、体を起き上がらせた。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
その後、俺の目の前で何度も何度もソラが謝って来た。
「いや、大丈夫だから、そんなに謝らなくていいよ。誰かさんのお陰で慣れているからさ」
「? 慣れている? そんなことあったっけ?」
無自覚エリラはとぼけているのかな? お前だよ! お前! ベットの上で投げ技決めるわ、俺の息子を街中で堂々と蹴るわで耐性付いとるわ!
無自覚って怖いですね。
「……っあ、それより! クロ! なんで私怒られたのよ!?」
急に思い出したのかプンプン怒っているエリラだが、まだ泣いた後のせいかむくれているから怖くもなんともないですが。
「さっきまで無かったけど、やっぱりあったわ」
「? 何が?」
「いや、こっちの話さ」
エリラを適当に足払って、これ以上いても問題ごとしか生まれない気がしたかので、俺はソラをお家に返しておいた。
で、結局エリラに怒られた理由の経緯を説明してあげることに。話を聞き終わったエリラから出た第一発声は「私、ただの被害者じゃないの!」だった。うん、そうだね。
「……」
その夜、ベットの中で俺は今後の事を考えていた。
正直なところ、やってしまったのは仕方がない。今後、あの街には二度と行けないと割り切ることにした。
あの街での出来事はもう忘れよう。レーグを殺しかけた報復としては少々行動に問題があったかもしれない。
次からは人の居ないところで行おうと思う。まあ、理想は助けてあとは関わらないのがいいのだろうけど、どうもそれは俺の性格的に無理なようだし。
この街の件は、間もなく到着するであろう軍が来たら問題ないだろう。竜王……だっけ? あいつが不在の今、他の集落の奴らもじきに退いてくれるだろう。いや、そうだと願いたい。
と、なると俺がしないといけない事は魔族の事か……。
今のところ理由は全く不明だが、この混乱に乗じて何かアクションを起こそうとしているのは確かだろう。
この街にやって来たのはたまたまか、それとも意図してか……。
それも気になるが、俺としては《神眼の分析》で解析できなかったあの、錠剤が気になるところだ。あれからウグラの屋敷(今は差し押さえられている)に忍び込んだりして、探してみたのだが結局見つからなかった。
セラにも一度聞いてみた所、神……つまりここではセラや歴代の神が見た事無い物は不明なままだという。そういう時は俺が、独自に調べて説明を作っても良いとのこと。今は面倒なので《魔人化薬》と命名している。
調べていないと言えば……俺からしたら大分前の話だがチェルストでのあの移転魔法。何故、俺の《魔力支配》が効かなかったのかな。セラに聞いても首をかしげるだけだったし、この世界の神ってなんか、俺が想像していた程万能じゃないんだなと思った。
ああ……アレもやらないといけないしコレもやらないといけないし……。
正直頭が痛くなりそうだよ全く。
「……クロぉ……」
ふと、聞こえた方に首を動かしてみるとエリラの気持ちよさそうに眠っている顔が映った。どうやら寝言のようだ。
「……大好き……」
……寝言だよな? 一度確認をしてみるが寝ているようで間違いない。
「……///」
うわっ……改めて聞くと恥ずかしいな……あの時は勢いとかもあったから、そんな事考える暇も無かったけど、考え直してみるとかなり、恥ずかしい事だな。
……まあ、嘘じゃないけどさ
色々あったけど、この世界で……いや、前世から合わせて見ても一番、親しみを持って接してくれているよな。まあ、その分酷い目にも合っておりますが、主に俺の身体的な面で……。
……なんかこのままだと、しゃくなので俺も返してやることにした。
「……俺も好きだぜ……」
心なしかエリラの顔が笑ったように見えた。
「……」
超! 恥ずかしいのですけど! ああ、暴れたい! 今すぐ暴れたい! と、言っても右腕をガッチリと掴んでおり出来ないのですが。
離そうものなら固め技をかけられること必至だ。(※なお本人は無自覚の模様)
……はぁ、まあいいや諦めて悶々としてやりますよ。
なんか、さっきまで考えていたのがバカらしくなって来た。
「……まあ、出来ることからやって行きますか」
その日、俺はそれ以上考えるのをやめ、眠ることにした。ただ、あんな言葉を掛けてしまったせいか、中々寝付けなかったのだが。
俺がようやく眠りに付いたのは日の出の少し前の事だった。
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南部制圧部隊出陣前夜(同時刻)
アルダスマン国のどこかの地下にて。魔法によって掘られた暗い室内で男が二人、椅子に座っていた。
そのうちの一人はハヤテだった。暗い室内でも分かるぐらいの白銀の全身鎧を身に着けており、いつでも出れるようにしていた。
「首尾はどうじゃ?」
もう一人の男がハヤテに問いかけた。もう一人の男も鎧を付けていた。だが、ハヤテの白銀の鎧とは真逆に全身を黒い鎧をつけている。顔は髭が生え、初老を思わせるような姿をしていた。
「順調です。……それにしても何故、今更ながらにあの街に兵士を……いえ、アレでは仕方ないとは思いますが」
「そうじゃの、まさか龍族600人を一瞬で葬ってしまうとは誰が予想できたか……ワシもこれには驚いておるワイ」
「それで……如何なさるので?」
「ふむ、それじゃが……小僧を狙った所で返り討ちに遭うのは目に見えておる。なら取り巻きから崩しにかかればよい。小僧がいくら強かろうと所詮は人、出来ることには限界がある。必ず隙はあるはずだ。そうだの……」
「そういえば……エリラ……と申されましたか。確か彼女はもとフロックス家の人間……まさか、今度の編成は」
「石橋を叩いて渡ると言うじゃろ? いくら助け船を出すほど情が厚かろうと所詮は奴隷の一人。国を敵にすると考えれば話は変わる……かもしれんの」
「私が思うに……返り討ちに遭うと思われますが」
「いいのじゃよ。ようは確かめるだけじゃ。行動を起こした後に切り捨てられたら元もこうも無いじゃろ。それじゃあ、ワシは一旦街に戻り仕掛けてみるとするかの」
「分かりました。では私はこれまで通り気付かれないように動きます」
「……そうじゃ、それで思い出したわ。お主監視されているぞ?」
「……人間にですか?」
「そうじゃの。まあ、あ奴らぐらい楽なもんじゃわい。第一誰が動かしていると思っておるのじゃ?」
「……そうでございました」
「一応、注意はしておけ。なあに万が一の場合は手を貸すわ」
「勿体無きお言葉……」
「では、武運を祈るぞ」
「ハッ、そちらもご気をつけて
ガラム様
」
実はかなり前からこの設定は伏線として入れていたり。




