第111話:現実
連日投稿ですm(_ _)m
※ 3/15 追記を書き足しました。
誤字を修正しました。
※ 3/19 誤字を修正しました。
「おい! 大丈夫か!?」
人混みを掻き分けて、俺は倒れている獣族の子供の傍に駆け寄った。
獣族の子供(少年でした)はお腹を踏まれたらしくそこを中心に真っ赤な血を流していた。おそらく馬に踏みつけられた後に馬車に轢かれてしまったのだろう。
子供だったのはある意味幸いだったかもしれない。子供が倒れている位置を鑑みるにもう少し背が高かったら顔を踏みつぶされていた可能性がある。
(……即死じゃないな)
俺はそれを確認して取りあえず一息いれる。取りあえず引いた馬車の主出てこいや。と思いながら周囲を見渡すと馬車は30メートルほど行ったところで停止をしており、こちらの様子を見ていたが、すぐにまた移動を始めようと準備をし始めていた。
「クロウ! ど、どうすればいいの!?」
近くでテリュールさんがあたふたしていたとき、俺はある事に気づいた。
(誰も近づいてこない……?)
そして、俺の疑問はすぐに解決した。近くの群集たちざわめき声の中に交じって一際目立った会話が耳の中に入って来たからだ。
「おいおい……アレ、誰が片付けるんだ?」
「同じ種族の奴らに任せとけばいいんじゃね?」
「ちょっとぉ、それまでここに置いておけってこと? あんた片付けて来なさいよ」
「はぁ!? ふざけるな俺は絶対嫌だからな!」
「私だって嫌よ! なんで獣族の死体なんか扱わないといけないのよ!」
「心配するな。あのガキが片付けるか、冒険者か誰かが焼いてくれるだろ」
「いや、それって骨が残るじゃねぇか」
「その辺の犬が持って行ってくれるんじゃね?」
そんな会話がヒソヒソ声とかでは無く普通に会話をするぐらいの声量で俺の耳に届いてくる。それも一ヶ所や二ヶ所なんてレベルじゃない。耳を澄ませてみれば、そんな会話があちらこちらから聞こえて来た。
これが現実か……。俺は改めて認識をさせられた。
この人たちからしてみればこの子の命なんて、その辺の虫と同レベルなんだろう。心を痛めることも無ければ悲しむ事も同情の気持ちも無い。それがこの世界では当たり前のことなんだろう。
やがてテリュールの耳にもそれらの会話が届いて来たのだろう。表情が強張りそのまま固まってしまった。恐らくだけど、頭で状況の整理が行われているのだろう。
そんな周りの事は放置して、俺は傷ついた獣族の子供に回復魔法をかける為に両手を合わせ子供の胸辺りにそっと添え《女神の祝福》をかけてあげる。
緑色の綺麗な光が小さな子供をそっと包み込み優しく治療をしていく。お腹にあった傷は次第に小さくなっていき、子供の顔も苦痛に歪んでいた顔が少しずつ柔いで行くのが読み取れた。
唖然とする周囲、轢き逃げをやろうとした馬車の主っぽい奴もこちらの光に気づいたのか、動きを止めこちらの方を見ていた。
そして、物の数十秒で治療は終わり、辺りに飛び散った血と轢かれたときに破けた服以外は全て元に戻すことが出来た。
何が起きたのかさっぱり分かっていない周囲のモブ。本人はアレ? アレ? と言いながら体のあちこちを触って確かめていた。
「大丈夫かい?」
俺は獣族の子供にやさしく声をかけた。子供は一瞬ビクッと震えたが「うん」と頷いてくれた。
「う゛う゛う゛……よがったあ゛あよぉ~」
俺のすぐ後ろで何故か号泣をしているテリュール。ちょっと子供が驚いて引いているじゃん、お前が泣いてどうするんだよ。
そんなテリュールを放置して俺は念のため他に外傷や異常がないかスキルで確認をしていると。
「いやぁ、素晴らしい!」
声がした方を見てみると、先程この子を轢いた馬車を操っていたおっさんがこちらに笑顔で向かって来ていた。
「見させてもらいましたよ。あの大怪我をあっという間に治したその魔法、実にすばらしい!」
おっさんは何やら物凄く豪華な服を着ており大商人か貴族の人だとすぐに分かった。
「その力、是非活用してみませんか? 私の元で働けば一生遊んで暮らせる金額がすぐに溜まりますよ?」
そんな、大富豪を余所目に、俺は少年に特に異常が無いことを確認すると、念には念を入れ《倉庫》から一本の治癒薬を取り出した。
「もう大丈夫だと思うけど、もしまた後でどこか痛くなったらこれを飲めばいい、君にあげるよ」
そう言いながら俺は獣族の子供に魔法薬を渡す。子供はそれを受け取ったが魔法薬と俺を交互に見てキョトンとするだけだ。
「コレなに?」
やや、間があったのち、獣族の子供は俺に聞いてきた。
ああ、さすがに見た事無いか…… 一応市販の魔法薬(平均相場:一本、5万S)と同じ色にしたんだけど、彼らには縁の無いものだったな。
※忘れている人も多いと思うのでおさらい。クロウが第12話で泊まった《猫亭》は一泊1000Sで、これでもそれなりにお高いお値段です。一般的にこの世界で人が1日生活するには100Sほどしか必要ないので……あとは察してください。
「それは魔法薬って言って、体の傷を治す薬だよ。能力としては君にさっきかけた魔法と同じぐらいのレベルで、それも即時性だから念のため持っておくといいよ」
その言葉を聞いた、周りの群集たちが一気にざわめき出した。当然だ、この世界でこんなどこにも売っていない超高性能回復薬を獣族の子供に差し出しているのだから。
「えっ……いいの?」
流石にある程度の知識は持っていたのか、恐る恐るといった感じで俺に聞いてきた。
「いいよ。お兄さんは自分で作ってて、いっぱい持っているからさ」
その言葉を聞いた瞬間、周りで何人かが吹き出してしまっていた。まあ、こんな高性能な回復薬をただであげるうえに自分はたくさん持っていると言っているのだから吹かない方がおかしいよね。
一応補足しておくと、この治癒薬。マジで売ろうとすれば50万Sは平然と行くと思う。それで材料費はその辺の薬草から作っているんだから殆どただだから一本売ればしばらくの間生活には困らないだろう。
と、言うか今回はこれを売って資金を手に入れようとしたのだけど、別に一本ぐらいなら問題ないし、万が一無くても別の物があるから問題は無い。
「あ……ありがとう……」
獣族の子供はそういって一礼をした。
「な、何を言っているのだ!?」
馬車の主が慌てて俺を止めようと色々声をかけてくる。
「それを売れば、一生遊んで暮らせるお金なんてすぐに手に入るんだぞ!? 見た所君は若い、女とか欲しくないのか!? ワシに任せておけば国中の美女を集めれる! ワシの手にかかれば最高級の食べ物や宝石を手に入れ、豪邸に住む事も夢ではないのだぞ! さあ、もう一度考え直してワシの元へこないk―――
「うぜぇ」
そういうと、俺は急に立ち上がったかと思えば、ガッと大富豪の両こめかみを片手でワシ掴みにしてそのまま持ち上げた。ボヨンと揺れた腹が今までの食生活を物語っているかのようだ、うえぇ。
だが、そんなことはチートステータスを持っている俺には関係なく大富豪の足はあっという間に地を離れ空中でぶら下がってしまった。
「な、何をすr(ミシミシッ!)ぎゃぁぁぁぁぁ!!! 痛い痛い!!!」
俺が少し力を入れると大富豪の頭がミシミシと音を立て始め、大富豪が離せと言わんばかりにもがくが、俺の腕はピクリとも動かない。
「謝れ。今すぐこの子に轢いたことを謝れ」
低いトーンで俺は言った。周りにいた群集には俺の行動と発言の意味がきっと分かっていないのだろう。その証拠に見ていた奴らの殆どが自分の周りにいた人たちとヒソヒソと何かを話始めていた。
「な、何故謝る必要がある!? こいつは異種族だ! こいつらの命などその辺の虫けら以下じゃないか! 轢いてしまって何が悪い! さあ、そんなことは放置して私を降ろせ! そして私の元で働け! 冒険者如きが調子に乗るな!」
俺は悪くない! とあくまで自分のしたことに罪悪感は無い模様。
「はぁ? なんでお前みたいなクズの下で働かないといけないんだよ? テメェみたいなやつの下で働くぐらいならその辺の性質の悪いブラック企業に入った方がまだマシだよ」
言ってみたけど……こいつらにブラック企業の意味分かる訳ないよな。ただ、馬鹿にしているというニュアンスだけは伝わっているのか、先程より一層激しく暴れる大富豪。時折こいつの蹴りが当たるが正直痛くも痒くもない。
「き、貴様! ワシにこんなことをして良いと思っておるのか!? ワシは貴族じゃぞ! しかもただの貴族では無い! 名誉ある王族の血を引いている偉大な貴族なんだぞ! 貴様の命など消す気になればいつでも消せるのだぞ!」
へぇ、こいつ大富豪だなとは思っていたけどまさか王族の血が混ざっているとはな。
「怖いか!? そうされたくなければ今、ワシを降ろして土下座して謝れ! そうだ、普通に土下座するだけでは甘い! 服を脱ぎに裸なって謝れ。そして誓え! 未来永劫ワシに仕えるとな!」
この状況下でも自分の利益だけは考えられる模様。ここまで来たら逆に褒めてあげたいわ、そのド低能っぷりに。
俺は貴族からパッと手を離した。ドスゥンと重い音と共に地面に落ちる貴族。
「ハッ、それ見ろワシの怖さに恐れをなしたか!? さあ、早速謝r
「なあ、知っているか?」
「れ……何っ?」
「男の玉ってさ……一個無くても生きていけれるんだぜ?」
俺は《土鎖》を地面から生み出し貴族の両手両足をガッチリとからめとり、大の字で地面に貼り付け動けないように固定する」
「な、何をするつもりだ!」
「何って、俺はそれを聞いたことしか無くてさ……今、目の前で確かめてやろうかなってな……」
※事実、某歴史上人物の中に子供の頃に玉を嚙まれ失った人がいるらしい。でもその人はそのあと結婚して子供も生まれているとの事。
俺はそういうと貴族の股間に一回だけ足を当て、場所を確認するとスッと足を上げ構えた。何をされるのか理解したのか貴族の顔がみるみる内に青くなっていく。
「ま、まて! 全裸で土下座は許してやる……今なら土下座だけにしてあげるぞ! それでどうだ!?」
「この期に及んでまだそんな事を言うか……まあ、何を言おうが変わらないぜ?」
「ま、まて話会おう
次の瞬間、プチッと言う音が聞こえたかと思うと、ドオォンと言う音が聞こえ、僅かに地面が振動をした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
言葉に出来ないような声を上げる貴族。だがもがきたくても《土鎖》に縛られている今、それは叶うはずも無く、この世とは思えないほどの痛みが貴族を襲った。
《不殺》スキルで死ぬことも許されず、また気絶する事すらも許されず。即死レベルの痛みは彼を延々と襲い続けた。
周りにいた群集の男たちはほぼ一斉に自分の大切な息子あたりを握りしめた。もしアレが自分だったらと思うと身の毛のよだつほどの恐怖だ。
「ああ、そうそう。土鎖半日したら自動的に消滅する仕組みになっているから、それまでそこで反省をしていな」
もっともこの言葉は彼に届いているのかは分からない。相変わらずこの世の物とは思えないような絶叫を上げ続けていた。余りに聞くに堪えなかったので(うるさかったので)音魔法で消音をおいた。(ただし全部は消さず時折、元に戻るようにも設定してある。効果は《土鎖》と同じ半日間)
「ごめんな、嫌なの見せてしまって」
俺は獣族の子供に素直に謝った。あんなのを見せられた後なので、少年もやや引き気味だったが、「ううん」と首を横のに振ってそう言った。
「じゃ……家に帰りな」
俺はそういって獣族の子供をこの場から遠ざけようとしたが、彼はうつむいたままで答えなかった。
「?」
「……帰りたくない」
子供はそう呟いた。
「……どういうことかい?」
「もういやだ……あんなところ戻りたくない……」
ああ、そういう事かと俺はすぐに察した。ここは人族の街だ。という事は彼の地位も決まってくる。その証拠に首には黒いチョーカーがしっかりと付けられていた。
泣きそうになる子供を見た俺は、仕方ないなぁと別の案を出す。
「じゃあさ……俺の所に来るか?」
「……えっ?」
「俺の所にもお前ぐらいの獣族が沢山いるんだよ。あいつらの事だからきっと笑顔で出迎えてくれるぜ」
俺はそういって獣族の子供の頭を優しくなでてあげた。
「……いいの?」
やや涙目になりながら聞いてきた。
「ああ、歓迎するぜ。俺もな」
獣族の子供は頷いてくれた。俺はよっと子供を持ち上げると、そのまま肩に乗せ、先程からフリーズしていたテリュールを無理やり現実に引き戻し、本来の目的を果たしに行こうと再び足を前に向ける。
「……なんだよ?」
俺らの周りに集まっていた群衆たちを人睨みすると群衆たちはサッと訓練されたかの如く綺麗に道を開けてくれた。
「じゃあ行くか」
こうして、俺は再びある場所を目指して歩き始めた。
だが、これが発端となり事件はこれだけでは終結しなかった。
久しぶりに一話5000文字と多く書いてしまいました。
次回もよろしくお願いします。^^
追記:PCは今の所動いているので、しばらくは問題ないかと思います。(マイ○ラにmodを入れれないのはつらい)。
ただ、いつ壊れてもおかしくないかなと思いますので、一応注意はしておきます。心配して下さった皆様、ご迷惑をおかけしましたm(_ _)m




