第110話:商売? 狩人の間違いでは?
※ 3/15 誤字を修正しました。
「……と言う訳で帰って来てしまいました」
俺はギルドに戻り、ミュルトさんに起きたこと全てを話した。
「そうですか」
ミュルトさんの顔はどこか納得をしている顔だった。不思議に思った俺は聞いてみることにした。
「なんですかその顔は?」
「アレ? 出ていました?」
自分では気付かなかったのか、逆に聞いてくる始末。
「ええ、ハッキリと」
「まあ、予想はしていましたよ。確かに彼は商人としては良い腕を持っていますが、若者に対しては信用しない人なのですよ」
「? 年下を舐めているんか?」
「いえ、ただ昔、信用していた若者に騙されて莫大な借金を抱えた事があって、それ以来若者の言葉はめっきり信用ならなくなったみたいで……」
おいおい、それって俺は完全に被害者じゃん。俺は思わずその騙した奴の面を一発殴りたいという衝動に駆られる。
「はぁ……これだから……」
「年寄りは頭の固い奴が多くて困る」と言いかけたがやめておくことにした。どの世界にも一度騙されたらもう人が信用できないという人は少なからずいる。
ただ、風評被害とかはマジで勘弁願いたい。ただ、種族間対立が激しいこの世界では事実では無い情報が様々な種族間で飛び交っているのが当たり前なんだろう。
一度でも話したのか? 何故そう思える? 理由は? 根拠は? 人が言ったからと言ってそれが全て真実になるのか?
根拠のない嘘が真にされて飛ばされるのは俺は大っ嫌いだ。
前のいた世界でもそうだ。小さな子供たちに幼いころから人を殺すことをさせ戦争に恐怖を覚えさせないようにする洗脳教育を行う人や国家を見たり聞いたりする度にイライラしていたのを思い出す。
洗脳……この種族間対立にも関わっていることなのかな? それは前のエリラたちの反応を見たら分かる気がした。もっとも例外もあるにはあるんだけどな。サヤとか昔から一緒だった獣族たちには嫌な表情一つせず(むしろ楽しそうに)話していたな。
って、今はそんな事は置いといて。問題はこの状況をどう打破するかだ。
営業とかやったことない若手サラリーマンに物流の正しい知識などあるはずも無い。あるのはゲームや本などで培ってきた紛い物の知識だけだ。
やれるだけやってみるか? 最悪都市を破壊……ゲフンゲフン、《門》で遠くの森から食料調達をやってみればいいし。何か変な方向に思考が行きかけたが俺は某戦闘民族じゃないからそんな考えには行かないぞ、うん。
……アレ、なんか視界がぼやけるのですが……?
親の血には逆らえないようです(泣)
「取りあえず、やれるだけの手はこちらで打っておくので、ミュルトさんは住民に農作業を行うように促す事は出来ますか?」
「うーん……私の発言力がどこまでいけるかは分かりませんけど……でも、今からじゃ」
「今、繋げても後が無ければ意味が無いでしょ? 物資が完全に断たれている今、根無し草の状態で出来ることには限界があります。それに今は落ちつていますが暴徒や泥棒がいつ現れてもおかしくありませんよ」
実は俺が一番懸念している所はそこだったりする。今は戦争後なのでそんな元気は無いが、物資が完全に底を尽きれば必ずそういった奴らが現れるはずだ。現在、この街の戦力は皆無なのでそれを防ぐ手立ては無い。
そう考えたら、結構崖っぷちだよなここ……?
「……分かりました。どの道他に手はありません。やれるだけやりましょう」
ミュルトさんは理解してくれたようだ。よし、こっちもやれるだけやるとしますか。
家に帰った俺は、早速全員を集めてこうなった経緯を説明した。
「……と言う訳でこれから皆に手伝ってもらおうと思う」
「しょうばい~? なんですかそれ?」
フェイを始め、獣族の子供たちはしきりに頭を傾けている。頭の上に?マークが浮かんでいるのが見えそうだ。
「あの……私たちもそういうことについては殆ど……」
大人たちも似たような反応だった。まあ、主婦的立場の人たちが商売の事なんて分かる訳もないよね。
「商売ってなんなのですか?」
「いや、私に言われても……」
向こうの世界では商売という概念が無かったのでテリュールの好奇心センサーがビンビンに反応しているようです。エリラも知識はほぼなしか……。
「で、この中に商売なんかしたことが無い人が殆どだと思うから……そういうのは俺に任せてくれ。皆にはやってもらいたい事がある」
「やってもらいたいことー? なんですかそれはー?」
「それはな―――」
エルシオンより西に120キロ地点。
「きましたですー!」
深い森の中、獣族の子供を追いかける影が二つ。体は緑色の斑模様に角と形だけはバッファローを連想させるが、緑色をしているのでク○ーパーの牛バージョンにしか見えない。何かのmodでいなかったっけ?
※ここはこんな事を話すサイトではないので詳しくは省略しますが、マイ○ラのmodにあります。
ズドドドドドと地鳴りを響かせながら猛追をするバッファロー(?)。獣族の子供たちとの体格差は一目瞭然だ。もし、彼らが狭い路地などで相対すれば結果は見るまでもないが、ここは森の中だ。バッファローモドキも森に生息する生き物ではあるが、獣族は森の狩人である。
細い木々の間をすり抜け、木の上を飛び乗り、つたを使ってターザ○みたいに移動をする。子供たちに取って森は自分らの庭となんら変わりは無いのである。
さらに、ほぼ毎日と言っていいほど俺を追いかけたその瞬発力と判断力はもはや、大人の獣族顔負けのステータスへと変貌をしていた。
そんな子供たち相手に勝てる筈もなくバッファローモドキは子供たちに弄ばれる始末。本能で馬鹿にされているのが分かるのか、ブォォォと唸り声を上げ猛追をする。ただ、気合いだけ入れても早くなるはずがなく、その差は開く一方だ。子供たちが手を抜いていなかったら今頃、置いてきぼりだっただろう。
やがて、走るのをやめるバッファローモドキ。ブヒブヒ言いながら息を切らしている所に
「―――そこ!」
エリラが木の上から飛び降りる。手には剣が握られている。
ズドンと言う音と共にバッファローモドキの脳天から垂直に地面へと剣が突き刺さる。一瞬だけビクンッと反応したバッファローモドキだったが、やがて動かなくなってしまった。
剣を引き抜き生きていないことを確認すると、エリラはすぐに次のターゲットへと的を切り替え、子供たちは何人かがかりでバッファローモドキを運び出す。さらにその中のリーダー格は周囲を警戒し何かあったら、すぐに逃げれる準備をしている。
まあ、この森にはこいつ以外は肉食系はいないから来たら大丈夫だとは思うが。
「取って来たのです~」
フェイをリーダーとする子供たちがバッファローモドキを抱えて戻って来た。
獣族の大人たちがお疲れ様と出迎え、大人たちは解体作業へと移る。
「解体作業なんて久しぶりね」
「そうね……またやることになるとは思わなかったわね」
獣族たちの大人はそんな事を呟きながら手慣れた様子で作業を続ける。
さて、今の流れで多少は分かったとは思うが、軽く説明をしておくと、まず獣族の子供たちが森の中でバッファローモドキを始めとする獲物を探し、可能ならおびき寄せる。
そして、ある範囲内にまでおびき寄せたあとはエリラが仕留める。エリラはレベル90以上なのでまず、しくじることは無い。
そして、子供たちがそれを大人たちのもとへと運び大人たちは解体をする。
ちなみにバッファローモドキは色こそあれだが、味は星4に相当するほどおいしい肉だ。
後は俺の《倉庫》にぶち込めば終わりだ。一応ダミーと言うか移動用に馬車を何個か拝借(廃墟となっている南地区などから奪ってきた)のを持ってきたが殆ど使っていない。
俺の《倉庫》に入れておけば腐らずに保管できるし、嵩張らないし本当スキルって便利だな。
あと、調味料などに使える薬草などの採取も獣族たちの仕事だ。森の中で生活していただけあってそのあたりの知識は俺よりか上なので任せることにした。
やっぱり、こういうのは本職や経験者に任せるに限るな。
一方、俺とテリュールはその森の近く……と言っても数キロ離れていますが、とある町に来ていた。
「ほぇ~……ここもすごい活気ですね!」
テリュールが目をキラキラさせながら辺りを見回す。あまりにキョロキョロしているので、周りの人も少し警戒気味だ。
「珍しいのは分かったから、少し落ちついて……」
やっぱり連れてきたのは失敗だったかなと俺は頭を悩ませた。どうしても行きたいと言ってきかなかったので仕方なく連れてきたのだが……。
今からでも街の外に引きずり出しておこうかな? 俺がそんなことを考えていたとき
「どけどけ! 邪魔だ! 邪魔だ!」
街の通りを駆け抜けてくる馬車が一台こちらに向かってきていた。
通りの幅は5メートルぐらいあるので、馬車が通るには差支えが無いが、この辺りは人が密集しているのでちょっと不安だった。
馬車はスピードを落とす事無く通りを駆け抜けて行く。
その時だった。バキッ! と鈍い音が響き周囲の人たちがざわめき出した。
「ん? 何が起きたんだ……?」
俺とテリュールは群衆たちをかき分け、道の中央へと出た。
すると、そこには小さな獣族の子供が道の真ん中で血を吐いて倒れていたのだった。
さて……吹っ飛ばす準備をしますか(準備運動中)
次回も、よろしくお願いします^^