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第107話:商隊結成

 陽が顔を出してから数時間後。俺はミュルトさんにギルド(跡地)で昨夜の被害を報告していた。


 ギルド(跡地)には今は仮設のテントが設置してあり、そこでマスターの代わりにミュルトさんが指揮を取っていた。


「……被害報告は以上ですね」


「はい、城壁が少し吹っ飛んだ以外は民家が数軒ほど壊されただけで、殆ど被害は無いと言ってもいいでしょう」


「それは良かったです……それにしても誰がやったのでしょうか……あれほどの龍族を短時間で倒せる人など早々いないはずなのですが……?」


「サア? ワタシ ニハ ワカリマセン ネー」


「……どうしたのですか?」


「いえ、何もありませんよ」


 昨夜の一件の事は秘密にしておこう。理由は色々あるけど、一番は「面倒だから」だ。最初がそれかよと言うツッコミをいただきそうですが、ええ、そうです。

 龍族数百人相手に、一方的に(しかもワンパンキル)をした事が分かれば必ず、それをやってのけた人を手駒にしたいと思う連中らが現れるだろう。炎狼のときだって国から使者が来たぐらいだから確実にそうなるだろう。

 もう関わらないでいいものには進んで関わりたくありません。


 二つ目は、あくまで俺の予測だが、「見えない何か」という存在の方が抑止力が強いと思ったからだ。ほら、感染症とか目に見えないからどこから感染するから分からないと言った恐怖があるだろ? あんな感じでびびってくれたらいいかなと思ったからだ。


 まあ、そんなのはなってみないと分からないので、何とも言えないのだが……。


「……まさかとは思いますがクロウさんとかじゃないですよね?」


「ハハ ソンナ コト アルワケナイ ジャ ナイデスカー」


 《ポーカーフェイス》さん頑張ってください。


「……まあ、兎に角、街に殆ど被害が無かったのは幸運でしたね」


「あれ(城壁)はどうするのですか?」


「うーん……そこは街の人との話になるでしょうね。もっとも今の状況で直す余裕があるのかという話になりますが……」


 うん、でしょうね。物流が殆ど止まってしまっているこんな時に、そんな事にまで手を回すのはちょっと難題かもしれない。


 まあ、しばらくは襲撃は無いと思うけどな。


「それより物資の方はどうですか?」


 気になったついでに聞いてみることにする。ちなみに我が家は食糧事情には困っていません。何故なら狩っているからだ。森などに行けば食べれるのも沢山あるし、もともと森などに住んでいた獣族たちの情報のお陰で調味料なども手に入るので困ってはいない。ちなみに単純計算なら1年は我が家を支えれる計算となっている。えっ、腐らないのかって? 《倉庫》に入れればいつでも新鮮な状態で出せれるので問題無い。


「あと、1週間といったところでしょうか……」


 やっぱり街にあった物資ではそれが限界か、被害が大きかった西と南地区には物資は殆ど無かったそうだし、やっぱりその辺もどうにかしないとな……。


 エルシオン周辺には農村が各地に点在をしている所でもあるが、敵が見過ごすわけも無く街周辺の農村は全滅状態だそうだ。そりゃあ空飛べれば平原の村なんてすぐに見つかりますわ。


「街の人たちに農業をさせることは出来ないのですか?」


「農業に携わっている人もいますが、今から作ったところで間に合わないと思いますよ……」


 あっ、そりゃそうだな。うーん……どうしたものかな……。流石に品種改良してすぐに実が出来る種を作れる魔法やスキルは無理だよな……。そういう生きている物を使う魔法は蘇生や即死系がどうしても関わってくるから無理なのだ。


※この世界の魔法では蘇生系や即死系など命に直結するような魔法は作れないし使えない。再生系魔法は「生きている」事が前提条件となるので、蘇生や即死とは関係ないという扱いになっている。また、急激に歳を取ったり、若返りをすることも不可能。植物の成長を促進させるのは、人間でいう「歳を取る」事と同じ意味となるので、同じように使用は出来ない。

 同じ原理で不老不死になるという事も出来ない。だからこの世界では神と言われる者たちも、長い間生きるが最後には亡くなってしまうらしい。


「じゃあ狩りとかは?」


「狩りですか……確かに有効な手ではありますが、この近辺に数万の人を養えるだけの食料を得られるところなど……」


「……ある訳ないですよね」


「……はい」


 まあ、そんなラッキー地形なんて早々ある訳がないよね。食物連鎖の理はこの世界でも有効なようです。


「どうすればいいんだよ……」


「……方法は無い事はありません」


 ミュルトさんは何か閃いたのかな。


「……?」


「他の街から物資を輸送してもらうのです。幸いこのような状況でも物を売りに来る商人はいますので、それらを頼っていけば」


「なるほど……」


 そうか、その手があったか。


 どこの世界でも商人の中にはチャレンジャーがいるものだ。物資が不足していると見るや否や、早速売り込んでくる強者もいるしな。

 ただ、安価で販売してくれるはずもなく、割高で販売される。そりゃあ向こうからしてみれば命がけで売りに来ているのだから当然と言えば当然なのですが。


「早速、私が街の人たちと話してきます!」


 思い立ったら吉日。ミュルトさんはそういうと急いでどこかへと出かけて行った。まあ、それなら何とかなるかな……?





 ただ、話はそんなに簡単に進まなかった。


 商人たちが自分の物流ルートを簡単に教えるはずもなく、また商人と話がついてもそんなお金はどこからだせばいいのか。

 ギルドにあった資金は例の爆撃のせいで、ほぼ消失してしまったらしい。かと言って街にお金があるのかと聞かれたら、街自体にはほとんどお金は無いとのこと。


 結局、何も進展がないまま、2日が経過してしまった。


 竜王が消えても戦争は続いているらしく、他のいくつかの龍族たちも呼応しているとのこと。竜王が言っていた「私には止められぬ」はどうやら本当だった模様。


「はぁ……どうしましょう……」


 仮設ギルドの机に顔を伏せてミュルトさんは嘆いていた。この二日間ミュルトさんは徹夜で交渉をしてたらしく瞼の下にドス黒いくまが浮き出ていた。


「ミュルトさん……気持ちは分かりますけど、少しはお休みしたらどうですか? そのうちあなたが倒れますよ?」


 俺は素直にミュルトさんに休むことを進めた。


「でも……早くしないと……もう一回お願いに―――」


 ミュルトさんが椅子から立ち上がったと思った瞬間、フラッと体が揺れたかと思うと、そのままミュルトさんの体が傾いて行っていた。

 要は……倒れそうなのだ。


「!」


 俺は慌てて立ち上がるとミュルトさんが倒れる直前でギリギリで体を支える事に成功した。


 改めてミュルトさんの顔を間近で見ると、くま以外にも唇が青白かったりと本当にこの二日間飲まず食わず寝らずにあっちこっちで交渉をしたのが分かった。

 それ以外でも精神的な重圧もあったのかもしれない。ガラムの代わりにマスター代行として1週間奮戦していたのだ。考えればその頃から睡眠とかも殆ど取っていなかったのかもしれない。


(ガラムのおっさん……あんたは今何をしているんだ?)


 俺は心の中でおっさんからじじいへと秘かに降格(?)させた。一週間以上経っているのに、なんであんたは帰ってこないんだよ。俺は心の中で戻らないガラムに苛立ちを覚えていた。


「あっ……す、すいません……」


 ハッと意識を取り戻したミュルトさんが慌てて立ち上がろうとするのを俺は止め、そのままミュルトさんを抱きかかえると、仮設で作ってあった病室に連れて行きやや強引にベットへと寝かしつけた。


「ちょっ、離して下さい、こうしている間にも」


「でも、あなたが倒れては元もこうもないじゃないですか!」


「でも……」


 ギュッと唇をかみしめ薄らと目に涙を浮かべるミュルトさんを見て、俺はあることを決断した。これ以上ミュルトさんが壊れてしまう前に……いや、この街を助けるために……


「分かりました」


「えっ?」


「……俺が商隊を作りましょう」


 俺は力強く言った。

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