第105話:第1次エルシオン防衛戦2
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※ 3/5 誤字を修正しました。
※ 3/6 タイトルを間違えていましたので、修正しました。
※ 4/9 誤字を修正しました。
「よし……情報通りだな」
森の中で街の城壁を見つめる竜王。彼の周囲には龍族が十数名ほど完全武装をして周囲を警戒していた。
「本当に敵はこの街を放棄したのでしょうか?」
「うむ、報告によれば数日前に人の軍勢が引き上げるのを確認したらしい。冒険者らしき者もその後、ゾロゾロと出て行ったそうだ」
「つまり、例えいたとしても少数の可能性が高いのですな」
竜王は頷いた。
「あの例の小僧はどうされたのでしょうか?」
「分からぬ。だが、奴一人ではこの街を守る事など不可能であろう? 全方位から一斉攻撃を仕掛ければ終わりだ」
竜王は分析していた。確かにあの速度で移動されれば街の各地へ移動するのにそれほど時間は必要としないだろう。だが、どんなに早く動けようが一人である以上、必ず時間のロスがある。
そこを突くのだ。
敵がこの街を放棄してくれたのは幸運だった。竜王はそう考えていた。
アルダスマン国と戦争をする上でこの都市は要所になる。エルシオンは東西南北に街道が広がっており、商人たちが足を休めるところとして良く使われている。
そこを押さえるという事は、各地への物流を押さえることに繋がる。物流が途絶えれば各地で物資が不足するところが出て来て、後は敵が疲れるのを待てばいい。山岳地帯など普段使われていない場所を使われる可能性もあるが、運搬効率は確実に落ち輸送量も下がるだろう。
だからこそ、竜王はここを押さえるのが第一と判断をしたのだ。
「よし、これより再攻撃を仕掛けるぞ、各員配置に急がせ―――」
と、その時、突然周囲が明るくなった。不思議に思った竜王が上を向くと、目の前に直径30センチほどの火の玉が迫ってきていた。さらにそれは一つや二つでは無く、空を埋めるかのように大量に落ちてきていた。
「竜王様! 危ない!」
叫び声と共に部下の一人が竜王をドンッと突き飛ばした。そして、次の瞬間。竜王を突き飛ばした龍族に火の玉が辺り、爆発をした。
爆風が辺り一面に熱と共に広がっていく。さらに周囲にも続々と落ちてきているのか、あちらこちらから爆音と爆風が吹き荒れた。
直撃を免れた竜王も爆風に巻き込まれ吹き飛ばされた。数メートル空を舞ったのち地面にお尻から落ち、ワンバウンドをしたのちに無事(?)に止まった。
「くっ……な、何事だ?」
竜王の疑問に答える者はいない。立ち昇る煙が視界を邪魔してよく見えない。
やがて、煙が晴れるとそこにあったのは、同士では無くもはや言葉を発することも出来ない肉塊であった。
下半身と上半身が真っ二つに千切れている者や、胸から上がない体。逆に首だけの物、見たくもない光景がそこらじゅうに転がっていた。
さらに周囲には最早、龍族だったとは思えないような肉片もあった。肉片では無く腸が千切れてバラバラに飛んでるのもあった。
「こ、これは一体……」
何が起きたのか理解が出来ない竜王。と、そこに。
「あっ、やっぱりアンタかよ」
振り返るとエルシオンの城壁の上から誰かが降りてくるのが目に見えた。
「お主……まさか……」
「警告ってほどじゃないかもしれないが、力の差は見せたはずだ。それでもあんた等はやって来た。だから迎撃したまでだ」
「一体どうやってだ!?」
「敵にわざわざ教える必要もないだろ。俺がこれをやった。それだけだ」
クロウが言いきった、その時、ダンッと地面を蹴る音と共にクロウの目の前に竜王が現れた。そして竜王から右ストレートが飛び出した。
普通の人間ならまず回避不可能な高速技であった。だが、残念ながら相手が悪すぎた。目の前にいる者は人の領域をとっくに抜け出している男なのだから。
竜王の拳が今クロウに届くと思った瞬間、クロウは身を落としファイティングポーズを取りながら竜王の攻撃をいとも簡単に回避して見せた。
そして、そのままクロウから竜王の横腹に向けて強烈なフックが放たれた。
回避する間も無く攻撃を受けた竜王は弾き飛ばされ、綺麗な放物線を描いて地面に落ちた。
(ぐっ……なんというパワーだ。本当に人間なのか!?)
個々の力では人間は龍族の足元にも及ばない。これがこの世界の常識だ。だからこそ、人は繋がり合い一つの国家として成り立たせることで龍族他異種族たちを退けてきた。
だが、今起きていることは全く正反対の出来事だ。数百の龍族がたった一人の人間に手も足も出ずに散って行ったのだ。
「ぐっ……お主……本当に人間なのか?」
蹴りを受けた個所を庇いながらヨロヨロと立ち上がる竜王。
「人間だよ(半分だけだけど)」
クロウは必要以上に情報を教えるのはやめておいた。無駄に情報を広げる意味は無いしな。
「さて……あんたには二つの選択権がある」
クロウは指でVサインを作って竜王に突き出した。
「二つ?」
「ああ、一つはここで切り殺されて終わりか。あんたも気づいているんだろ? 自分との差が予想以上にでかいという事を、ああ、《龍の力》とか使っても無理だからな? たぶん同じ結果になるぞ?」
(……こやつ、何故わかった……?)
《龍の力》。それは龍の奥の手ともいえる最後の切り札だ。龍族でも使える者は片手で数えれるぐらいしかいない上に一人ひとり能力が違うので詳しい事は龍族も分かっていない力だ。
「さて……二つ目だが、あんたが指揮している龍族をすべて撤退させろ、そうすればココでは見逃してやる。別の所であったら話は別だけどな」
「ふむ……残念だが2つ目の案は無理だ」
「何でだ? 自分の命を捨ててまでやる事なのか?」
「そういう訳では無い。ただ、他の所の指揮はワシには出来ぬ。指揮系統が違うからな、それだけだ」
「ふぅん……じゃあ、覚悟は出来ているのか?」
クロウが《倉庫》から剣を取り出し構えた。殺気を研ぎらせ竜王をじっと睨みつける。クロウの放つ威圧は普通の生き物なら恐怖で動くこともままならなかったかもしれない。
「フッ……フハハハハハッ!」
だが、怯えるどころか竜王は突如笑い出した。
「? 何がおかしい?」
「フッ……失礼。お主みたいな小僧にしてやられるとはな……ワシも老いたものだ」
どっこいしょと竜王は立ち上がり軽く体に付いた土を叩き、それからクロウと向き合った。その様子は冷静で目の前に敵がいる時の様子など一つも感じられない。
「さて……クロウだったかな? お主は先程『《龍の力》を使っても勝てない』と申したな?」
「……で、それがなんだ?」
「何故お主が知っているかは知らぬが……あまり舐めぬ方が良いぞ?」
その時、竜王の眼つきが変わった。今まではどことなく落ち着いた雰囲気を出していたのから一転、殺意に満ち溢れた気を放ち始め、その気は地球でいう百獣の王者と言われるライオンが放つ見た者の心を硬直させる気だった。
すぐに様子の変化を察知したクロウは、止めを刺そうと駆け出したが、一歩遅く、剣を竜王の首目掛けて振り抜いたが、既にそこには竜王の姿は存在せず、剣は虚しく空を斬っていた。
それと同時にクロウは背後から只ならぬ気を感じ取った。クロウは、振り返ることなく振り抜いた勢いを生かしたまま横へと飛び乗った。
ズドォンという音と共にあたりの地が揺れる。体勢を立て直したクロウの目に写ったのは、先程自分のいた所の地面が無くなっている光景と、破壊された城壁だった。
地面には断層が生まれ、その一部はエルシオンの城壁を軽々とぶち破り、城壁の近くにあった民家は吹き飛ばされたか木端微塵となっており、威力の凄まじさを物語っている。
「ほう……アレを回避するか」
竜王はそう呟きながら地面から片手を離した。離した手は先程までは見受けなかった爪が見て取れる。
「チッ……面倒になったな……」
思わず舌打ちをしてしまうクロウ。
「さて、お遊びはここまでだ……」
ユラリと立ち上がった竜王。その手に生えた爪は赤い光を放っていた。
「人間如きが……調子に乗るな!!!!」
次の瞬間、街の城壁には二つ目の穴が出来上がっていた。
次回、本気の竜王v.s.クロウ。
《龍の力》というスキルが始めて発動状態で登場しました。かなり初期からあったので「コレいつ使うの?」と思っていた人もいらっしゃるかもしれません(もしくは完全に忘れられていたでしょう)。
今回も読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。また次回で会いましょう。
以上、黒羽からでした。