第101話:真夜中の戦い3
※ 2/23 誤字を一部修正しました。
「まだ戦っているのか? 撤退命令はどうした!?」
竜王が近くにいた部下に吼える。その威圧に多少押され気味ながらも部下が答える。
「わ、分かりません! 撤退命令は既に伝わっているはずなのですが……!」
「引き際を分かっていない者がいたか……すぐにもう一度―――」
「いや、その必要はない」
クロウは片手で竜王たちを制止し、火柱の上がった方を睨みつけながら言った。
「あんたらはこのまま引いてくれ。どうやら第3勢力のお出ましらしい」
「第3勢力だと……?」
「ああ、人間でも龍でも無い奴らがな、あんたらは引いた方がいい。後は俺が全部片づける」
それだけ言うとクロウは、普通の人間ではまず越えることは不可能であろう2階建ての建物の屋根に飛び乗り、そのまま街の中央へと消えて行った。
後に残った龍族たちは一瞬静かな間があったが、すぐに竜王の元へと集まった。
「竜王様チャンスですぞ。もし彼の言っている事が本当なら東地区の制圧までなら出来るかもしれませぬ」
部下の一人がそう進言した。それに頷く龍族もいたが、大半は苦い顔をした。そして、それは竜王も同じであった。
「馬鹿を抜かすな。撤退指示は変えぬ、むしろ奴が見逃してくれたのだから今こそ、引き時よ」
「な、何を言っておられるのですか!? 龍族の頂点に立ちし竜王様が、たかがあんな人間の小僧のいう事を聞くのですか!?」
部下の一人が竜王に詰め寄ろうと一歩前に足を踏み出した。だが、その直後、とてつもない威圧が辺りに流れた。ビクッと震えると足を踏み出した龍族はすぐに最初の位置に戻った。
「普通の人間と思うな。我も反応できぬほどの速度、そして我らの同胞の部隊を一人で撃破する力……一筋縄で行かぬことなど赤子でも分かる事だぞ!?」
「そ、それはそうですが……しかし……!」
「異論は認めん! それともなんだ、お主は人間と第三者との戦いにわざわざ参加してこれ以上犠牲を増やしたいとでもいうのか!」
「そ、それは……」
部下は言葉に詰まってしまった。それは正論だったからだ。だが、部下の心の中のプライドは納得はしていなかった。
だが、有無を言わせぬ竜王の言葉に部下はついに折れてしまった。
「……失礼しました。つい熱く……」
「よい、お主の気持ちも分からぬことはない……だが、戦いはこれだけではない。少ない同胞をこれ以上、悪戯に失う訳にはいかぬのだ。分かってくれるな?」
「ハッ!」
「よし、では再度撤退の指示を出せ! 今度は撤退の妨げになる者の排除以外の戦闘を一切禁じるのだ!」
こうして、各地に再び竜王の指示を伝えるべく部下たちが散って行った。
(クロウとやらよ……次会ったときは覚悟しておけ……)
竜王は、クロウが向かって行った街の中央の方をしばらく見つめたのち、自身もこの街を去るべく移動を始めたのだった。
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街のほぼ中央で紅蓮の火柱が吹き上がっていた。余りの熱にガラスは割れずに溶け、建物に使われている木材は灰すらも残さんとばかりに燃えていた。
そんな、光景を空で見物する者がいた。
「イッヒッヒッヒッヒッ……街のギルドも崩壊……これでこの街の防衛機能は完全に消滅しましたな……」
一人は灰色のローブを被った魔導師みたいだった。だが、人の魔導師では無い。大きさこそ人間並みだったが、ローブの隙間から見える肌の色は紫色だった。手に持っている黒い筒らしき物からは黒煙が立ち上っている。
「ふん、わざわざ龍族を使わないでよかろうに……」
もう一人は体長が3メートルほどはあろう巨大な男だった。ただ、こちらも肌の色は赤黒く、眼球には色が無く、白目であるところを見ると人間では無い者だろう。
「いえいえ、出来れば共倒れをして欲しかったのですがね……人が余りにもゴミケラでしたね、イッヒッヒッヒッヒッ……」
「まあ、後は龍族共が止めを刺すだ―――」
その時、赤黒い大男が突如上空で止まっていた位置から忽然と消えてしまった。
「!?」
紫色の魔導師はすぐに辺りを見渡そうとした、瞬間。今まで誰もいなかったはずの空間に、突如一人の人間が現れたではないか。
「なッ――――!」
「墜ちな」
人間はそれだけ言うと、紫色の魔導師の頭に強烈な回し蹴りを食らわせた。蹴りを受けた紫色の魔導師は僅かな抵抗すらも許されず、そのまま燃え盛る炎の中へと突っ込んで行った。
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やっちゃった。
ふつう、ああいう悪役っぽい奴からは情報を聞き出すとかそんなことするんだろうけど、問答無用で蹴り落としてしまった。一応《不殺》スキルを使ったから死んではいないだろう。あとでたっぷりと情報を聞き出すことにしよう。こういう時は先制が大事だよな。大事だよね? ですよね?
消えた大男の方は上から《脅撃》をぶつけて叩き落しておいた。殺傷力は無いに等しいが魔力を込めれば当然殺傷力は上がる。
ちなみにあの大男に使った威力なら厚さ40センチ程度の鋼鉄の壁をぶち抜ける威力のはずだ。あの戦艦大和の装甲を貫けるほどと言えば分かるだろうか。
さて、説明はこれくらいにしてと。
俺はあの2名を叩き落した辺りへと着地して、辺りを探索する。ほどなくして地面で伸びている2体を見つけることが出来た。
その後、《土鎖》でしっかりとくくりつけ、紫色の奴が持っていた黒色の筒を拾い上げる。
スキル《神眼の分析》発動
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アイテム名:爆炎筒
分類:魔法武器
効果:強烈な火の弾を撃ち放つ。さらに着弾点を中心に強烈な爆発および、破片弾を周囲にまき散らす。
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「なんつー凶悪な武器なんだよ……現代の兵器としても十分使えそうな代物じゃねぇか……」
俺はそれを《倉庫》に入れると。まだ伸びている二人を起こした(殴って)
「さて、答えろ。あんたらは何もんだ? 人間でなければ龍族でもないようだが?」
「ふん、人間如きに答える訳がnアイタタタタタタ、ちょっ、小僧マテや! 指折れた! 折れたで!」
「ああ、次は片手の指の骨全部折るからな?」
まさに極悪。なんか裏の世界ではこんなことが行われてそうで、俺も黒く染まっているなと思う。あれ? なんでだろ、視界が滲んでいるような……。
「イッヒッヒッ、素が出ておるぞ?」
「う、うるさいわ!」
「おい、そんなことはどうでもいいんだ。魔族のあんたらが何でこんな所にいるんだ?」
魔族であることは既に確認済みだ。
「ヒッヒッ……何、人と龍族が争っていたから横槍を入れたまでよ」
「ふぅん……その割にはあんたら来るのが早すぎじゃねか? 人間でも準備が出来ていなかっただけどな」
「我らはお主ら人とは違う。お主らが分からないような方法で通信することぐらい容易いわい」
「まあ、単騎で乗り込んで来るあたり、軍規模では動けないようだな」
「まあ、そういうことじゃい。さて……我らをどうするつもりかの? ちなみに、我らはこれ以上何かに答えるつもりはないぞよ」
「ちっ、簡単には行かないか、じゃあこいつの骨砕いてから適当に片付ける―――」
と、その時紫色の魔族の後ろから何かが転がり落ちるのが見えた。
「ん?」
俺がなんかなと思った次の瞬間。転がり落ちた物から強烈な閃光が放たれた。
「!?」
思わず、顔を手で覆ってしまう。すぐに手をどかしたが、もうその時には奴らの姿は見えなかった。
くそっ! 逃げられた! 《土鎖》で縛っておいたから取りあえず大丈夫かなと思っていたんだけどな……。
それにしても魔族か……、あいつらはどうやって戦争の情報を掴んだんだ? 電話とかインターネットが無いこの世界では情報は波状に広がっていく。魔族がどこに勢力を持っているかは知らないが早すぎるだろ。この街に住んでいて、情報の集まるギルドにほぼ毎日顔を出しているような俺でも、今日(正しくは昨日)知ったばかりなんだぞ……。
これは調べてみる必要があるな。
と、考えごとをしている俺の、傍から急にバキバキと言う音が聞こえた。見上げてみると、火事で残った建物の骨組みが炎を纏ったままこちらに傾き始めていた。
「ちょっ、マジかよ」
俺は崩れる建物からすぐに距離を置いた。それからほどなくして、俺の立っていた場所に建物が崩れ落ちていった。
ほっとしたがこれで今やらなければならない事を突き付けられた気分だった。
「……まずは、この状況を何とかしないとな」
そういうと、俺は行動を開始した。
と言う訳で、真夜中の戦いは一応ここで決着が尽きましたが、戦争自体はまだ序盤……恐ろしいですね。
さらに魔族も介入しだしどうやらお話はただの戦争では終わらない模様。書きながら「また長くなりそうだな」と思っています。(笑)
話は変わりまして、前回無事100話到達を成し遂げたのですが、皆様からの祝福のメッセージをいただきまして本当にありがとうございます。
もう部屋で一人狂喜しておりました。端から見ると変人ですね(泣)。でも嬉しいから後悔は(ry
感想に書いてくださった皆様。本当にありがとうございます。そして皆様、次回もよろしくお願いします。
以上、黒羽からでした^^