第100話:真夜中の戦い2
投稿する箇所を間違えておりました。大変申し訳ございません。
※ 2/23 誤字を修正しました。
「第14歩兵部隊、アルダスマン国軍詰所を完全制圧しました」
「同じく第11部隊が都市西側を完全制圧したとの報告」
「第1翼竜部隊も西側制圧を確認しました」
「第3部隊が南側の物資を回収し終えた模様。これより人間族を始めとする一般市民、および彼らの奴隷となっていました者たちの捕獲作戦を開始するとのこと」
竜王の元に各方面から知らされる報告。報告は大抵は良い知らせばかりだった。
「国軍は完全制圧。冒険者からなる傭兵部隊も制圧しつつある……これはもう勝ったも同然では」
今にも狂喜しそうな顔で部下の一人が竜王言った。
「油断するな。まだ今回の戦いは我らの奇襲と、敵軍の準備の遅さによって有利に進んでおるが、これからはそうは行かぬぞ」
だが、竜王の顔は少しも崩れなかった。相変わらず険しい表情を保っていた。その顔はまさに『勝って兜の緒を締めよ』を体現するかのようだった。
「も、申し訳ございませぬ……そうでございました」
部下の顔も再び引引き締まる。そして、そこに部下の気持ちをさらに引き締める報告が来た。
「申し上げます! 第7歩兵部隊、および第8部隊が壊滅した模様! 第2翼竜部隊の報告によると若い冒険者一人によって壊滅させられた模様!」
竜王の周りにいた部下たちがざわめき出す。だか、トップに君臨する竜王はそんな事では動揺しない。
「慌てるな。第2翼竜部隊に高い高度から《咆哮》で攻撃するよう指示を―――」
竜王が、指示を出そうとした瞬間、慌てて竜王の元へ一人の龍族が走ってきた。
「報告! 第2翼竜部隊が謎の遠距離射撃により全機撃墜されました!」
「なに?」
周囲に緊張が走る。今、壊滅させられた部隊はすべて、北地区に向かっていた部隊だ。その部隊がこの僅かな短時間で全滅させられるとは誰が予想できただろうか。さすがの竜王もこれには顔色を変えざるを得なかった。
だが、恐れている暇は無い。おそらく敵は一人。たった一人の手によって3部隊が葬られてしまったという事実を受け止め、次の手へを打つ。
「東へ向かった部隊を都市から脱出させよ。中央から北の部隊は中央に残っている物資を回収次第撤退を始める」
「て、撤退!?」
「そうだ、これ以上被害を出すわけには行かぬ。戦いはこれで終わりでは無い。一定の戦果を上げた以上、無駄な犠牲を出す前にここは引くぞ」
今回、既に龍族は南と西地区を完全掌握し尚且つ大量の物資を得れた。なら今のうちに引きこれからの持久戦の為に力を温存するべきと竜王は判断した。
竜王の判断に反対する者はいない。お互いに頷くと、無言で各方面へ散っていった。
竜王自身も撤退を開始しようとした、その時だった。
「待てよ」
振り向くとそこには一人の少年が立っていた。
「……誰だ?」
竜王がそう問いかけようとした時、急に竜王の部下の一人があわあわしながらバランスを崩し尻餅を付いたのが見えた。
「ここここ、こいつです! 第7、8部隊を壊滅させたのは!」
先程第7、8部隊の壊滅を報告した部下が震える指で少年を指さした。
「ほう……」
竜王は少年の方に向き、少年を睨み付けた。
竜王が睨みつける。たったそれだけの事であるが、辺りにとてつもない重圧が伸し掛かる。竜王の部下ですらも、体を震わせながら、竜王と素早く距離を取ったほどだ。
だが、少年はそれほどの威圧でも動じることなく堂々と立っていた。
「あんたがトップだろ?」
「だとしたらどうする?」
「今すぐエルシオンにいる全軍を撤退させろ」
「ほう、少年よ。撤退させれば我々に利益でもあるのか?」
「ああ、あるさ。これ以上無駄な被害を出さなくて済むぜ。《飛行》を使える龍族をまるっともう半分失いたいか?」
「その言葉を聞くに、北に向かった翼竜部隊を壊滅させたのはお前か?」
「壊滅? ああ、片方の翼に穴開けて落としただけだから生きてるんじゃね? あとで拾っとけよ」
「き、貴様我らの同胞にそのような蛮行をやっておいt」
「蛮行? 戦争自体が蛮行だろ? そんなのお互い様だろ? 俺もあんたらを巻き込んでしまったし、あんたらもこの街の住民を巻き込んだ。まぁ、根源は俺ですけど……」
「貴様、さっきから何をいっている!」
「……壁に隠れてそんなこと言われても迫力ないんだけど……」
少年は、壁に隠れてみている龍族に呆れ顔でツッコんだ。
とてもじゃないが龍族のトップを前にしての態度には見えない。
「……少年よ、名は?」
「……クロウ」
「ふむ、面白い奴だ。だが、相手を間違えておらぬか?」
「……《竜族を統べる者・竜王》……か」
「……何故わかる」
こんな所で動じないのは流石の竜王だ。竜王は自身の正体がいとも簡単に読まれても態度を一つも変えない。
「《神眼の分析スキル》で分かるんでね」
クロウと名乗った少年は自分の目を指しながら言った。
「それでも態度を変えぬか……面白い、一つ相手してやr」
竜王が腰に着けていた剣を抜こうとした瞬間、クロウの姿が消え次の瞬間には竜王の下顎に指を当てていた。誰の目でも捉えることなど不可能だっただろう。
「!?」
「まあまあ、ここは素直に引いてくれないか? 今回ばかりは俺にも非があるからさ」
周りにいた龍族たちは言葉を失った。自分らどころか竜王すらも反応しきれない速度で移動したことになる。
本当に人間か? と疑問を持つ者もいた。実際、その疑問は半分合っているのだが、それを知っている者はこの場において、クロウ一人だけだ。
「……いいだろう」
勝てない。竜王は咄嗟にそう判断した。気安く負けを認める性格ではない竜王だが、この時ばかりは負けを認めざる得なかった。自分と彼との差に余りの差があると感じたのだ。
「全軍、撤退の用意を―――」
と、その時だった。街の中央の方から爆音が聞こえ、それと同時にあたりが揺れた。見ると街の中央で先程までは見えなかった新たな火柱が立っているのが見えたのだった。
ということで、第100話です。
ここまでこれたのも皆様のお陰です。本当にありがとうございます!
ここに来るまでに7か月。長いようであっというまだった気がします。
物語はまだ10分の1程度終わっただけですが、これからも頑張って行きますよ。
皆様、ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。