第99話:真夜中の戦い1
街の各所から立ち上る煙や火を無視し、屋根を伝って家へ全速力で走り抜ける。後で考えたら飛んだ方が早かったのだが、当時の俺はそんな事など考えていなかった。
《マップ》上に映しだされる赤色のマーカーと青色のマーカー。《マッピング》は本当に便利だな。
赤色のマーカーが敵対勢力。青色がエリラやテリュール、フェイたち獣族を示している。
敵対勢力……龍族のことだ。最初は違うかと思ったが、街中に入る際人の死体がいくつか見え、傍には翼の生えたやつがいた。色は違ったが俺が龍化をした際に出来る《天駆》の際に出来る翼とほぼ同じ形をしていた。
まぁ、最終的に《神眼の分析》を使って断定したのですが。
マップを確認してみると、まだ俺の屋敷周辺に赤いマーカーは表示されておらず、取りあえず一安心だ。
屋敷内にある青いマーカーは屋敷のリビングに集中しており、全員が固まっているのが分かった。
今度はマップでこの都市の全体を表示する。赤いマーカーが都市の各地に点在しており特に、南、西地区に集中していた。
俺の屋敷がある北や東地区には、まだそれほどの数はいないようだ。
赤いマーカーの数を検索してみると全部で693個あった。少数精鋭で乗り込んできているのか? ちょっと好きな気がする。
今度は、緑色のマーカーを表記するように設定を変える。表示条件は「アルダスマン国軍兵士」だけだな。冒険者はまだ入れないようにしておこう。
検索し始めてから徐々に緑色のマーカーが表示し始める。だが、何故か中々表示されていかない。PCじゃあるまいし処理落ちとかそんなんのでは無さそうだ。今度は検索数をみると僅か19としか表示されていなかった。
どういうことだ? 余りにも少なすぎる。
普通、都市には警備兵の他に駐留兵が必ずいる。これは有事の際に動く部隊だな。エルシオンぐらいの街なら数百人はいるはずだ。
警備数でも100はいてもおかしくは無いなずなのだ。
これが意味していること、それは既に殲滅させられた可能性があるということだ。
19個の緑のマーカーは集団で固まっており、赤いマーカー2個と交錯している。と、そのとき緑のマーカーが2つ消え、数字も19から17へと減った。
あっ、アカンこれ完全にやられているパターンじゃねぇか。
だが、戦闘地点は西地区の端。かなりの距離がある。北地区にも徐々に赤いマーカーが移動し始めている以上、助けてあげる暇など無かった。
(すまん……)
心の中で戦っているであろう、緑のマーカーの兵士たちに謝った。ほどなくして緑色のマーカーはすべてマップ上から消え去ってしまった。
「間に合ったか」
なんとか北に敵が来る前に屋敷に到達することが出来た俺は、屋敷の中に飛び込み、勢いそのままに全員がいるであろう、リビングへと向かった。
扉を開け、リビングの中へと入る。するとそこにいた獣族たちが一斉にこちらを向いた。
「クロ!」
「クロウさん!」
「クロウお兄ちゃん!」
エリラ、テリュール、フェイが真っ先に叫んでくれた。そして俺の顔をみた他の獣族たちも安堵の表情を浮かべる。
「敵は―――」
「敵はまだここまで来ていないわ」
うん。知ってるけどね。でも、表示ミスとかしていたら悪いからまあ、いいか。
「取りあえず、エリラはここで皆を守っておいてくれ。他の皆も出来る限りの武装を!」
時間が無いので、指示を次々と出して行き、一通りの作業を終え、エリラとテリュールに指示を出したのち、再び外に出る。
そして、今度は「冒険者」を条件に検索を行う。
表示された数は97。だが、そのうち交戦していると思えるのは半分ぐらいしか無い。残りはそれぞれ、北と東へと逃げていく様子が伺えた。中にはどこかの家の中で移動している奴らも見受けられた。どう考えてもこれ、火事場泥棒だよな?
命と物。物のほうが大事なのかよ。
そっちに行って説教してやりたい気分だが、今はそれどころじゃないな。
ダンッと再び跳躍し屋根に飛び乗ると、そのまま付近の赤いマーカー目掛けて一直線に駆け抜ける。
一人目を見つけたとき、尻餅を付いて後ずさりをしている人が見えた。彼の目の前には龍族が剣を振り上げており、今まさに振り下ろされようとしていた。
「《脅撃》」
これは魔力を極力抑え、コントロールに重点を置いた無属性の魔弾だ。威力は結構高いが殺傷能力は殆どない。何故こんなものを使っているのかというと、いつも使っているような魔法だと、民家や一般人に被害を出す可能性があるからだ。
そこで、まず武力を無効化をし怯んだところで格闘戦に突入し無力化することにした。
指先に小さな魔方陣がいくつも現れ、それぞれが線で結びあっていた。魔法も大きくすることは大変な作業だが、小さくすることはもっと大変な作業だ。
ピンッとコインを弾いた時のような音と共に、俺の指先から直径およそ3センチ。幅、1ミリ以下の細長い魔弾が飛び出した。
そして、龍族が振り落そうとした剣の刃の側面にヒットした。
剣が龍族の手から離れ宙を舞う。突如弾き飛ばされた剣に龍族は唖然した。そして剣が飛んで行った方向を向こうとしたとき、俺は既に龍族の目の前まで来ていた。
ハッと俺に気づいた龍族だったが、その時には時すでに遅し、俺の昇○拳が龍族の溝に突き刺さり、そして弾け飛んだ。まるでボールを打った時みたいに龍族の体は綺麗な放物線を描きながら、立ち並ぶ民家のどこかへと落ちて行った。
「大丈夫ですか?」
「へっ? ……あっ、はい」
何が起きたか全く理解していないようだったが、返事をしたのでよしとしておくか。
「兎に角、北へ逃げて下さい」
俺はそれだけ言うと、さらに周囲にいた龍族たちを潰しにかかった。
幸い、龍族の多くは中央部から東部を中心に攻撃しているようで、北部。特に俺らのところまで来る龍族は殆どいなかった。
結局、30名ほどに昇○拳を食らわせた辺りで、北へ来る敵はほとんどいなくなっていた。
ここら辺は大丈夫だなと判断した俺は、今度は中央へと移動を開始した。既に冒険者の数は70名ほどにまで落ち込んでおり、もはや壊滅状態と言えるかもしれない。
それにしても、敵が来るのが早すぎたな……俺が募兵の張り紙を見たのが今日の昼(ただしくは、既に日を跨いでいるので、昨日の昼)
たった一日程度の募兵では殆ど人は集まらないだろう。あくまで俺の予想だが、他の街からに情報が流れそれをもとに街へやってくることを計算すると最低でも1週間は必要になるだろう。そこから守備位置を決めたり連携を決めたり、規律を決めていたりなどしたら、まだ時間はかかるだろう。
守備が疎かな今を狙ったということか。
しかし、何故あいつらはこんなに早く動けているんだ?
例え、募兵に時間が多少かかろうとも、それは敵も同じ。いくら常に臨戦態勢を取っていたとしても戦争をしかける情報を得るまでに数日は必要だろう。
と、実際に戦争を見たことが無い奴が言っても仕方がないか。俺は再びマップを見渡し、近場の龍族を無力化していった。
次回は、いよいよ節目の第100話です。と言ってもいつも通りの平常運転となる予定ですが、何かした方がいいかなと思っていたり。まぁ、たぶん平常運転に(ry
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m




