第98話:真夜中の事件
遅れて大変申し訳ありません。
※ 2/21 誤字を修正しました。
エリラに念のため予備の武具や道具を一通り渡したのち、俺はかつて、獣族たちを助けた森に来ていた。
あの事件のあと、ここら一帯は恐怖の森へと変わり、今は殆ど人が来ない場所となっている。
依頼を見てもこの森に入る依頼が誰の手にも渡らず、掲示板に張り付いているのをよく見るようになった。
と、言っても近寄らなくなったのはここ近辺で生活をしている市民や冒険者であり、はるばる遠方から来た冒険者は依頼の為に森に入ったりはしている。
報酬が多少いいので事情を知らない人にはおいしい仕事だろう。
俺もたまにお世話になっています。
さて、何故俺がここに来たかと言うと、もう一度あの場所を調べてみる気だからだ。
もう、大分時間が経っているので、そう大した進展はないと思うが、何故あの出来事が龍族の仕業になっているのか気になったので、もう一度調べて見ることにしたのだ。
少しでも有力な情報があればいいなと思いながら、俺はあの縦穴に足を踏み入れたのだった。
「くさいな………」
洞窟内を自らの光魔法で照らしながら奥へと足を進めていた俺を待っていたのは、鼻が曲がりそうなほどの強烈な腐臭だった。
最後に火で殺菌したはずなのに……。血はよく落ちにくいと言うが、これもそういった類の一つなのだろうか?
前に下水道を通った時に《悪臭耐性》が付いてくれて本当によかったと俺は思った。(第29話参照)
洞窟内を探索すること10分。俺は洞窟内のちょっとした広場に来ていた。ここは、前バーカスとか言う奴がいた部屋だ。
ここの部隊の隊長をやっていた部屋なら何かヒントがあるかもと推測したのだ。
だが、ここも結局それらしい物は見つからなかった。
「くそっ、何もねぇじゃねぇか……」
おかしい。こんな殆ど当時の状況が分からないこの事件を、何故龍族のせいと断定したのか。それも事件が起きてから数か月もした今に。
その時、俺の頭の中にある仮説が生まれた。
もし、龍族を壊滅させたい者がいたのなら。
この世界の異種族とは合い慣れない存在として認知されている。見つけ次第平然と襲ってくるような世界だ。当然、彼らにとっては邪魔者だろう。
そして、調査部隊の中に火山地帯の龍族を消し去りたいと思う人がいるならば……。
公平などと言う言葉は無いも当然の世界だ。偽造、ねつ造があってもおかしくはない。
「……と、なるとこれはもう、ここに居ても仕方がないか」
もし、俺の仮説が当たっているならば、ここには何もないだろう。おそらく情報がどこかで改ざんされ国の上層部に伝わった可能性が高い。
だが、調べようにも時間が圧倒的に足りない。今から国の組織や指令系統を調べ、その中からこの調査に関わった人物を探し、調査の報告が誰のもとに伝わって、どう流れていったのか。
そんなことを最初から調べだしたら、絶対に戦いに間に合わない。
この世界の兵士の練度は不明だが、もし中世のヨーロッパの軍程度と仮定するならば、エルシオンからクローキ火山まで1週間も無いかもしれない。
……途中で森を抜けないといけないからもう少しかかるか? いや、どっちにせよ調べている時間は無い。
今は、どうやって戦争を止めるか。それを考えなければ。
だが、どちらかに伝手が無い以上、出来ることはほぼ無いに等しい。俺に出来ることは何だ?
そう考えてみると、俺の頭の中にはひとつの案しか浮かんでこなかった。
「直接介入をすれば……」
だが、介入をしたところでどうやって止める? 巨大な魔法でもつかって脅すか? いや、そんなことで簡単に止まるとは俺には思えなかった。例え、多少の効果があってもすぐに持ち直されたら時間稼ぎにしかならない。
「……駄目だ。同じ思考がグルグルと回り続けるだけか」
思わず頭をぐしゃぐしゃと掻き毟ってしまう。
結局、俺はそこで考えることをやめ、もう少し探索をしてみようと洞窟のさらに内部を探索することにしたのだった。
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「竜王様。例の地下水路を見つけました。これより全軍内部へと侵入を開始します」
「うむ、全員、周囲の索敵を怠るな。いいか、戦うよりも今は逃げて隠れることを優先しろ」
「ハッ」
暗い下水道の中、悪臭と戦いながら先へと急ぐ竜王、以下その部下たち。少数に分かれ、枝分かれしている水路の中を進む。
(エルシオンにこの抜け道があってよかった。死んだ仲間には感謝しなければな)
ここは前、潜入をしていた仲間の最後の情報だった。エルシオンは頑丈な城壁で覆われている。
奇襲をかけるには通常、この分厚い城壁を突破しなければならないが、それは夜間でも大変な作業だ。いくら《飛行》の能力を持っている龍族でも、眼の効かない夜間に飛行をすることはかなりの技術を必要としている。
そこで、当時の潜入していた仲間はこの下水道を見つけたのだ。エルシオンの隅に存在し、その存在は忘れられているそうだ。
もちろん少し前の情報なので、ここが完全に大丈夫だとは思っていない。向こうから宣戦布告をしてきたのならば、それなりの準備をしている可能性も十分にある。
ある意味では賭けだといえるかもしれない。
だが、そんな心配は無用だった。下水道を潜り抜けるとそこはどこかの古ぼけた屋敷だった。
周囲に人影は無く。壁の四隅に張ってある蜘蛛の巣が、長い間ここが放置されていることを物語っていた。
「他の奴らはどうだ?」
「《透視》で確認出来た限りですと問題はありません」
「よし、では予定通り今夜零時から作戦開始をするように命令を出せ」
「分かりました。外の仲間にもそう伝えて参ります」
そういうと、指示を受け取った龍族は受け取った指示を伝えるべく、再び下水道の中へと消えて行った。
竜王たちも、簡単に内部を探索し終えると、バレないように再び下水道の中へと戻って行った。
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「くそっ……すっかり遅くなってしまったな」
俺が洞穴から出た頃にはすっかり夕日は沈みきっており、綺麗な三日月型をした月のみが、辺りを薄く照らしている。
「この様子だと既に夜中だな……」
結局、まるっと一日使ったが洞窟内には何も残っていないことを改めて確かめる結果に終わってしまった。
こうなってくると、俺の立てた仮説はほぼ当たっているのかもしれないと思わざる得なかった。
「止めるしか無いか……」
具体的な案も決まっていない中。しょぼんとした空気のまま俺はエルシオンに戻ることになった。
森の中を一人でとぼとぼと歩きながら、どうしようかと頭を悩ます。そして、気づくと森のはずれまで来ており、エルシオンの街の城壁がすぐ近くにそびえ立っていた。
この時、俺は妙な違和感に気づいた。
(妙に騒がしいな……)
今が何時かは分からないが、月がほぼ真上にあることを見るに、時刻はおそらく深夜。もしかしたら日を跨いでいる可能性もある。
電気と言う技術が無いこの世界の就寝時間は早い。なので、時間で言うと9時ごろには既にベットに入っていてもおかしくはなかった。お陰で早寝早起きを強制的に実行させられている。サラリーマン時代にはありえない生活習慣だ。
だが、今日は妙に街のほうが騒がしかった。
お祭り? いや、この時期に祭なんてないはずだが……。
不思議に思った俺は、夜中なのをいいことに《跳躍》で20メートルにも及ぶ巨大な城壁を軽々と飛び越え、城壁上部に着地をした。
顔を上げた瞬間、俺は頭の中が真っ白になってしまった。
何故なら、俺の目に写ったのは、静かな街でも無く祭りで騒いでいる街でも無く
―――紅蓮の海だった。
今回は投稿が遅れてしまい。本当に申し訳ありませんでした。
今回はこの作品内では一番書いては消してを繰り返していた回になったと思います。(その割には内容はショボーンですが)
今後、こういうことがあんまりないように気を付けます。
では、また次回でお会いしましょう。黒羽でした。