第96話:竜王
今回より『第3章:エルシオンの戦い』が始まります。ようやく戦記らしくなって来ました。
(96話まで着といて何言ってるでしょうねー、あっ、すいませんブラウザバックしないでください)
<クローキ火山地帯_龍の住処>
「竜王様! 全軍出撃準備、整いました!」
一人の龍族が全身を鎧で包んだ姿で竜王と呼ばれた龍族の前で敬礼をしながら言った。竜王と呼ばれた龍族は木の王座に座っており、その様子はとても堂々としていた。
「そうか……うむ、では指示された通り各軍散開して、合図を待て」
「はっ!」
鎧に身を包んだ龍族は一礼をすると、早足に部屋を後にした。
部屋……正式にはゴツゴツした岩に出来た空洞内であるが。
「……人間め、勝手な事をぬかしよって……」
竜王は頭を抱えた。
つい先日の事だ。他の集落からの火急の伝令。内容は「人間が武器を揃え軍備を進めている様子。矛先はクローキ火山の模様」との事だった。
普段、龍族の集落は別々に分かれておりこのように集落ごとに連携を取るのは本当に稀な話だ。
ただ、「竜王」と呼ばれた男はその類いないカリスマ性を生かし、他の集落と連携を取ることを可能としていた。
これを聞いた竜王はすぐに開戦準備を始めた。
開戦理由など必要無い。彼らがどんな理由を持ってしても攻めてくるならば先に動かなければ敵に好き勝手にさせてしまうだけだ。
それが、争いが続くこの世界の暗黙のルールだった。
物資に乏しい龍族に用意できる物などたかが知れている。それに対し人間……今回は「アルダスマン国」は物資豊かで広大な領土を保有しており、それを生かした徴収、徴兵を行っている。
竜王が今自分で動かせる手勢は900余り。これに対しアルダスマン国軍は1万5000ともいわれる大軍を結集させており、竜王は驚いた。アルダスマン国は、数年前に起きた戦いでかなりの痛手を負っていると思っていたからだ。
もちろん回復を想定していなかった訳では無い。だが、それを考慮してもこの持ち直しの早さは異常だったのだ。
「迂闊だったか……」
いくら、個々の能力はこちらの方が上と言っても、これでは多勢に無勢。さらに火山地帯とだけあってここら一帯は地表を岩に覆われた場所だ。
つまり、森の中に隠れて奇襲するなどと言った手が殆ど使えないのだ。
「……いや、今更考えても仕方があるまい」
だからこそ、竜王は先に動いた。人間側が来る前にこちらから打って出ることにしたのだ。
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「エルシオンを奇襲!?」
「そうだ。そこを落とし物資を得て、可能なら異種族共を配下にする。そしてすぐに街に火を放ち引き返す。幸い、火山地帯とエルシオンの間には森がいくつか点在している。そこに潜伏しゲリラ戦に持っていくのだ」
「し、しかし、それで勝てる物なのでしょうか?」
「そこからは我が同士たちの出番だ。いくら人間どもの立て直しが早かろうと、あの戦いの傷を完全に癒し切れたとは思えぬ。奴らは我々は個々で掛かってくると想定しておろう。そこを突くのだ」
「同士……?」
「なに、ここから先は機密じゃ。我が指示を出す。まずは目の前のことを片付けるぞ。異論は?」
「「……」」
「……無いな……では、各自戦闘の準備をしろ……戦だ」
「「ハッ!!」」
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今回の戦いは本当にこちらからは理解できない一方的な出来事だ。
常に争っている龍族と人間だが、ここ最近は特に目立った事などは起こしていない。理由は言わずも、先の戦の傷を癒す為だ。
様々な憶測が脳内で飛び交う。だが、いつまでも自問自答を繰り返しても明確な答えは出てこなかった。
結局、竜王はこのことを考えるのはやめた。頭を切り替え目の前の戦いに思考を集中させる。
「……奴らは協力してくれるだろうか……?」
と、そこに先程とは別の龍族が部屋に入って来た。息を切らせながら竜王の前まで行くと、そこで片膝をつけ、手に持っていた物を両手で差し出した。
持ってこられたのは手紙だった。竜王はそれを受け取ると持ってきた者を下がらせ、手紙に目を下す。
「………そうか、動いてくれるか」
竜王は手紙を読み終わると、にやりと口元を動かしていた。そして、スッと王座から立ち上がり部屋の隅に置かれてあった防具縦から自慢の鎧を外し、自らに装着をし始める。
普通、このような事は部下に任せて付ける王などもいるが、竜王はそんなことはせず、自分一人でつけていた。こうすることで、ひとり集中をし戦前の昂ぶりを抑えているのかもしれない。
「見てろ人間ども……我らに戦を仕掛けた事を後悔するがよい……」
その瞳は闘志と殺意に静かに燃えていた。
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「……ん」
窓から降り注ぐ日差しに目が覚めた俺。
「……起きるか」
そう言いながら体を起こそうとしたのだが、どうやっても起き上がれなかった。
特に右腕が肩の下あたりは動きそうに無かい。代わりにやけに柔らかい感触を右腕全体で感じておりますが。
ある程度の予測は付いていた俺だったが、念のため確認をすると、予想通りエリラが俺の腕をガッチリと抱きしめていた。
はぁ、と若干の溜息を交えながら、俺はエリラを起こさぬよう静かに腕を抜こうとしたのだが、これがまた抜けない。別に痛いとかそういうのではないが、何故か抜けない。
俺が四苦八苦しながら抜こうとしたそのとき。俺の体が突然宙に浮かんだと思ったら、そのまま体ごと持ち上げられてしまった。
俺が何が起きたか理解できないうちに、俺の体は先程寝ていた場所から反対側のベットの上に俯せで着地した。(叩き落された)
一瞬の間の後、何が起きたか理解した俺は、今度は俯せの状態から体ごと時計回りに回転をした。俺のベットは壁に密着している。そしてその壁は、今俺の左側、すぐ目の前にあった。
俺の体が丁度横向きになったとき、ドンッと音と共に、俺の動きが止まった。
それと同時に俺がベットの上で持ち上げた張本人が俺の上に落ちてくる。
「っ…………ふぇ?」
まだ重たそうな瞼をゴシゴシと手で擦るエリラ。何が起きたか理解していない模様。当然と言えば当然ですが。
そして、パチパチと瞬きをしたとき、丁度俺と目が合った。
「……えっ?」
「おはようさん」
俺は軽く挨拶をしておく。
ちなみに、エリラと俺との顔の距離は10センチも無い。これでもまだ遠い方だ。何故なら俺の上に落ちてきたときは、ほぼゼロ距離でしたので。
ポカンとするエリラ。だが、段々状況を理解してくると、顔を真っ赤にしだし。
「あsdfghjkl!」
何と言っているかよく分からない言葉を発しながら、ベットを転がりだし、そのままドスゥンとベットから転がり落ちて行った。
「……今日も平和だな」
俺は素直にそう思ったのだった。
と、言うことで今回より、本格的な『戦記』が始まります。戦記物を見たかった人には大変お待たせいたしました。
もちろん、これまで見たいに個々との戦いも織り交ぜながら書かせてもらいますので、よろしくお願いします。
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