異世界と言えば冒険者、もはやテンプレ
主人公が無双するのはあとちょっと先。
次回の戦闘辺りで主人公が持つ弱点が露呈する予定。
「赤い屋根。セダス国の紋様が入った壁。……ここで合ってるな?」
「大丈夫。依頼人の情報と合致してる」
記憶を掘り返して、目的の建物の特徴を確認し、ミゼンが肯定する。
今、俺たちがいるのは城塞都市・アルヤード。ハーレム至上主義帝国なるふざけた名前をした敵国からの侵攻対策に作られた都市だ。四方を魔法で強化・加工した壁に囲まれた都市の門は北と南にそれぞれ一カ所ずつ。主な目的は最前線を突破された時の為の防衛拠点でもあり、行商人たちの中継地点でもある……と言うのはミゼンの言い分。カンペ付き。
城塞都市というだけあって、単純な面積なら多分セダス国より広い。それ故あらゆる人が集まる。村と違い、城塞都市だから出入りする人間一人一人が検問で審査を受けるんだがこれはあっさり解決。クオウさんが事前に用意した偽装旅券と変装が役に立った。
で、どうして俺たちがこんなところに居るかと言えば、魔石購入の為である。そして今、俺たちはやたら羽振りの良い貴族からの依頼でとある建物まで来てる。
「私物の回収に幽霊退治……勢い余って引き受けたけどこれ、冷静に考えれば幽霊とか退治できるのか?」
しかも依頼人によれば回収物は絶対に人に見られてはいけないもの。そんなのがバレたら憲兵所どころか一足飛びで首を跳ねられるだろう。それでも依頼に走ってしまったのは魔石を買い込むほどの報酬に目がくらんでしまった訳で……。
「大丈夫。何が遭ってもハヅキは守る」
「あー……うん、危なくなったら頼む」
──面倒なことになったなぁ……。
ミゼンの後ろで小さく溜め息を漏らす。どうしてこんなことをしてるのか。それはクオウさんが俺に下した死亡宣告まで遡る訳で……。
「早くて明日の夕方……て言われても、実感ないんですけど」
正直、トトゥーリアに刺されたときの方がよっぽど死を実感できた。今は身体がダルいだけで特別どうこうって訳でもないけど……。
「博士、どういうこと?」
ぼんやりと話を聞いてる俺とは対照的に、ミゼンは顔面蒼白……とまではいかないが血の気が引いてる。
「私やミゼン、そして魔物たちも生きる為にはどうしても食事が必要になる。肉やパンを食べることで活動に必要なエネルギーを補充する為に。そして彼は私たちとはまた違う食事が必要なんだ」
違う食事? も、もしかして吸血鬼みたいに首筋に噛み付いて生き血を啜れというのか?!
「あぁ心配しなくていいよハヅキ君。究極を言えば別に血を吸う必要なんてないから」
「なんで分かるんですか?」
「ハヅキ、分かりやすい……」
クオウさんの言葉を補足するようミゼンが答える。そうか、俺顔に出やすいのか。
「キミが本来の食事とは別に摂取しなければならないモノ──それは魔力だ」
「魔力、ですか……」
今までの話とゲーム知識に基に推測するとこの世界において魔法や魔力は地球で言うところの科学に当てはまる。生活レベルまで浸透するにはまだ月日が足りないが、それでも魔法を使う、魔力が何かしらの形で消費されるのは一般常識なんだろう。そして俺の場合、ただ生きてるだけでも魔力を消耗し、底が尽きれば死ぬ……と言ったとこか。
……ゲーム脳で組み立てた推測なんて厨二病臭い設定しかないけど案外、異世界じゃバカにならないな、この手の設定……。
「身体の大半を魔力で構築されてる精霊・妖精なら直接魔力を取り込む術を持っているがキミは別だ。召喚される為にゲートを潜った際、身体の大半を高密度の魔力で再構築した結果、強靱的な打たれ強さを獲得した。故に、その身体を維持するのに魔力が必要ということだ」
「はぁ、なるほど……」
……ん? ちょっと待てよ?
生きていく為には魔力が必要なんだよな? それなら俺はどのぐらいの頻度で魔力を摂取しなきゃならないんだ?
「因みに、摂取のノルマとか分かりますか?」
「節約しながら過ごせば三日。戦闘や傷の治癒などの消耗を考慮すれば一日といったとこかな」
節約して三日だって?
それは明らかにおかしい。だって俺はこの世界に来てから既に一週間以上が経ってる。その間、俺は魔力の摂取らしきことは一切してない。
にも関わらず、俺は今生きてる。無意識のうちに魔力を回復する手段を取っていたのか?
「その……回復手段って何ですか?」
「本来なら召喚者が契約を結んで魔力を提供すれば済むんだが、キミの場合はそれがない。となると手段は二つ。宝石並みに高価な魔石から魔力を吸収するか、男女の営みをするかだ」
「いとな……?!」
クオウさんに言われてハッとする。まさに、謎は全て解けた! 的な感じのアレ。
クレアがやたらめったら迫っていたのはつまり、そういうことだったのか……ッ!
とにかく解決策は分かった。魔石を買うか、ヤるかすればいい。……なんか義務っぽくて嫌だな。
「残念ながらミゼンでは意味がないよ」
俺の考えを読んでの発言か、はたまたタイミングの問題か、クオウさんがばっさりと切り捨てるように言う。
「結論だけ言えば親和性の問題から来ている。キミが今日まで生き長らえてきたのは供給源と親和性があったからに他ならない。もう少し分かり易く言えばキミが魔力を補給できる対象は召喚者と親子、もしくは兄弟関係となる人間。従兄弟になると確率は五分にまで落ちる」
「魔石の場合はどうなんですか?」
「その点については問題ない。親和性は決して高くないが、体内で馴染ませることができる。効率面で言えば……そうだね、魔石の中に魔力が10あるとするなら吸収できるのは6~7ぐらいかな」
「現実的じゃないな」
だが方針は決まった。効率的でないことを承知の上での魔石採掘。購入? 無理ゲーですよ。
本当はクレアと合流できるのが一番だろう。ただ、事件のことを考えれば入国は不可能。最悪、指名手配されてかも知れない。
「地上に出る気だね?」
クオウさんの問いかけに無言で、しかし力強く頷く。
明確な意志・目標なんてない。ただこのまま死ぬのは釈然としないし、何だかんだでまだ地球には未練が残ってる。
強いて理由を挙げるとするなら死ぬ理由が見当たらない、てとこか。
「この研究所にもいくばくかの魔石があるから持って行くといい。半日程度の延命にしかならないけど、ないよりは頼もしい筈だ」
「ありがとう御座います」
謝辞を述べて、深々と頭を下げる。そして椅子から立ち上がり、部屋から出ようとしたとき、同じようにミゼンが立ち上がる。
「私もいく」
「ミゼン……」
どうしてミゼンが付き合うんだ? この問題、彼女は全く関係ない筈だ。何より俺と同行することで得られる価値なんてないと思うんだが……。
「クオウさんはいいのか? 大事な家族だろ?」
「………………………うん」
数秒間、たっぷり悩んでクオウさんを一瞥する。彼は小さく笑いかける。それだけで察したミゼンは少し躊躇いがちに返答する。
「ハヅキと、一緒がいい……」
「私からも頼むよ。ミゼンにはもっと外の世界を見て見聞を広めて欲しい。何より彼女はキミにとって大きな助けになる」
そりゃ戦う毎に寿命削られるような体質だもんなー。俺としてもミゼンが一緒なのは心強いけど。
「クオウさんは一人で大丈夫なんですか?」
「多少ではあるけど、自給自足できる環境だから問題ないさ。私としては彼女の人生をこんな穴の底で終わらせる方が心苦しいさ」
「支度してくる。ハヅキも早く……」
こうして、俺が戸惑っている間にあれよあれよと地上へ向かう準備ができたのであった。
半日の行軍を経て数日ぶりに味わった太陽の光。そのまま数時間ほど歩いて到着したのが城塞都市・アルヤード。正確な時刻は分からないが既に陽が沈みかけていた。
当然、小さな村と違い検問所を通過しなければならない。こういうところへ入る為には基本的に身分証明書がなければダメらしい。基本的、というのは無くても入れるから。但し、その場合は入場(?)料として銀貨一枚の支払いに加えて、身体検査、滞在期間や目的などの質問に答える。それが終われば二十四時間、何処に居ても居場所がバレる『監視の腕輪』というマジックアイテムの装着されて初めて入れる。
「──はい、結構です。どうぞ」
「どうも」
愛想のない憲兵と短いやり取りを交わしてアルヤードに入る。クオウさんが作ってくれた偽装証明書がなければ面倒な入場手続きをしなければならなかっただろう。
「つーか、これ一枚で入れるって実際どーよ」
手にした偽装証明書を眺めながら一人ごちる。証明書の有無だけでこんなにも扱いの差が出る。治安を預かってる人としてこの温度差は正直どうなんだ?
「証明書を持ってるということは、国が身元を証明してることの裏付け。普通の人は持ってない」
「ふぅん。パスポートみたいなモンか」
「ぱすぽーと?」
「俺の世界での身分証明書。外国行くのに絶対必要なんだ」
非リア充な俺には縁のないモノだし英語喋れないから海外行く予定もないしね!
「さて、と。まずは魔石を売ってる店を確認。次に資金調達手段の確保だな」
パッと思い付く限り、異世界では必ずと言っていいくらいお約束なアレ──要は冒険者ギルドだ。具体的な制度までは知らないがこれはあるらしい。セダス国に居たときに確認した。
ただ、これで魔石購入に必要な金額を集められるとは思えない。主にタイムリミットの関係で。
「ハヅキさえ良ければ、私が奪ってくるけどどうする?」
「そういうのは止めような? サラッと言っていいことでもないからな?」
最後の手段にしてもそれだけは避けたいと思うのは俺が日本人だからだろうか。
とはいえ、現実的に考えても稼ぎの宛がある訳じゃない。討伐の時に立ち寄った村でやったようなバイトはない。見た目人手が足りてそうだし低賃金でこき使われそうだし。
「やっぱり冒険者かなぁ」
「ハヅキ、冒険者になるの?」
「うん。まぁ他に宛ないし……。あーでも、先に宿の確保かな」
クオウさんから貰った魔石の充電分も考えると明後日の朝までには片を付けないとマズイかも知れない──そんな焦りを抱えながら俺はすれ違う人に道を訊きながら宿を目指す。
幸い、この街の宿は冒険者ギルド支部を兼業してるらしく、わざわざギルドに出向く手間が省けたのは今日一番の僥倖と言える。
「いらっしゃいませ。二名様のご利用ですか?」
「はい。あと、ここで冒険者の登録とかできますか?」
「承っております。ただ、こちらは支部となっておりますので正式登録されるまで一週間ほどかかりますが宜しいですか?」
ここから受付のお姉さんによる説明が始まった。
曰く、正式登録されてない冒険者だと受けられる依頼がフリークエスト、もしくは最低ランクのものに限られる。フリークエストとはギルドを介さずに出した依頼であって、何が起きてもギルド側からの保証は一切なしというリスキーなもの。
例えばゴブリン討伐依頼を受けたとする。依頼書にはゴブリンしか出ないと書いてあったが蓋を開ければコボルトやウルフといった未確認モンスターが出現した場合、ギルド側の過失としていくらか保証してくれるそうだ。出費とかヒーラーの手配とか。
次にランク。これはもうオーソドックスに最高がSで最低がEの六段階。ボリュームゾーンとなってるのがDとEの二つ。Cランクにもなればある程度のモンスターには勝てるだけの実力を持ってることの証明にもなるし、チャンスにも恵まれる。BランクやAランクともなればちょくちょく名指しの依頼が入り、Sランクは生き伝扱い……らしい。具体的には説国レベルで重宝されるレベル。それ故、絶対数が少ない。
他にも冒険者のライセンスについての説明もあるがそれは正式になってから……とのこと。あとEランクは最低でも月に二度は依頼を受ける義務があるとか。規則を破ると向こう数年は冒険者資格が締結される。
──こんな感じでお姉さんからの説明は終わり、仮免許という形で冒険者となった俺とミゼン。だが最後に一つだけ問題があった。
「では、こちらにお名前をどうぞ」
「名前……」
言われてから気付く。これ、本名名乗っちゃまずいんじゃないかってこと。ついでに言うと俺、どういう訳かこの世界の字の読み取りはできても書き取りはできない。仕方ないのでミゼンに偽名で名前を書いてもらうことにした。
「はい。ミゼンさんにヤヨイさんですね。フリークエスト用のボードはあちらにあります。必要でしたら他の宿にあるクエストの確認もできますが如何なさいます?」
「じゃあ、そっちもお願いします」
それから三十分後──
街中のフリークエストをかき集め、宿屋の一室(そこそこいい値段だが都会なだけあって設備は悪くない)で二人してクエストを吟味する。
ただ、フリークエストの内容はどれもこれもろくでもない物ばかりだったりする。
「迷子犬の捜索、庭の雑草除去……ておい、ドラゴン退治とかふざけてるだろ……ッ!」
中には犬の散歩なんて明らかにパシリレベルのものまである。しかもそれで銀貨一枚というから驚きだ。召使いにやらせろ……と思わなくもないが。
とまぁ、こんな風にふざけた内容の依頼が多いが金額だけで判断すれば魔石を買えそうな依頼もいくつか混じってる。
現実的に可能なのはバジリスク討伐。俺は戦ったことがないからアレだがミゼンは生け捕りもできると豪語している。ただ、問題はヤツの生息地。バジリスクは基本的に荒野や砂漠に生息するモンスター。どう考えても無理だから没。
次に目を付けたのが運送依頼。これなら……と一瞬思ったが条件を見てすぐに却下した。
詳細は引き受けた人のみ。それも口の堅い人限定と来た。これはもう怪しい臭いがプンプンするぜ! きっと白い粉のようなものを運ばせられる。間違いないネ!
「やっぱりこれしかない?」
「うん。これしかないね……」
そうして様々な依頼書と睨めっこしてきたけど、最終的に俺たちにでもできそうな高額依頼がこれしかなかった。
依頼人はミランダ・エストック。依頼内容は──
「私室の金庫に置き忘れた書物の回収。サブターゲットは幽霊退治」
「メインもサブも申し分ない」
「時間もないしちゃっちゃと受けて金貰いますか」
怪しくないと言えば嘘になるけどそもそもフリークエストの大半が怪しい臭いがするからそんなの気にしてたらお金なんて稼げない!
受けると決めた俺は早速受付のお姉さんにその旨を伝える。時間も時間なので今日はさっさと寝ようと思う。
……●影機もなしに幽霊退治とかできるか不安だけど。
外の世界は何度か見たことがある。だけどハヅキと一緒に見て回る世界はいつもと違った景色。前の友達の言葉を借りるとこれは『でぇと』というらしい。でぇとは男の人がリードするもの。ハヅキは今日、人混みに不慣れな私を誘導したり私に気を遣ったりしてくれた。だからこれはでぇとだ。
「ハヅキ、起きてる?」
「…………」
隣のベッドにいるハヅキに声を掛けてみたけど返事はない。相変わらず寝るのが早い。それとも疲れているのかな?
ハヅキは普通に生きることだって難しい。私の魔力を上げられたらハヅキも少しは楽できるのに。
「ゴースト討伐……できるかな」
ハヅキは知らないことだけど、私たちの世界に存在するゴーストは基本的に【物理無効】を持っている。これを看破する手段は魔法攻撃、教会で洗礼を受けた霊剣、或いは高密度の魔力を帯びた妖刀・魔剣・神剣に分類される武器による攻撃。
私の持つヒヒイロカネは妖刀に分類されるからゴースト系のモンスターにも対応できるけど、ハヅキは……。
(うん。頑張ろう……)
ぎゅっと、ベッドの中で握り拳を作る私。戦闘では私の方がお姉ちゃんなんだ。だから私がハヅキをしっかり守ってあげなきゃ。明日への決意を固めながら私の意識は落ちていく。
そう言えばハヅキと出会ってからは怖い夢、見ないな。これもハヅキのお陰かな? だったら今夜もいい夢が見れそう。そう思うと寝るのも悪くないな……。