以下、修正中につき大きな矛盾あり
「ミゼンー、いないのかミゼンー」
むぅ、困ったな。今日は自家製の駒と盤で将棋を教えてトランプのリベンジをしようと思ったんだが……クオウさんでも誘うか?
でもこの研究所は広いからなぁ。闇雲に探し回っても迷子になるだけだし……うーん。
「おや、ハヅキ君じゃないか。ミゼンを探してるのかい?」
「あ、クオウさん。えぇ、ミゼンを探してるんですけど知りませんか?」
これで知らなかったらもうお手上げだ。今日は素直にクオウさんと将棋対決でもしよう。
クオウさんは顎に手を添えて少し考える素振りを見せてから口を開く。
「……ミゼンなら多分、外だろう。彼女、身体を動かすことが好きだからね。きっと迷い込んだ魔物でも撃退してるだろう」
「迷い込んでくる魔物って……大丈夫なんですか?」
「ん? 彼女のことなら心配ないさ。見た目は華奢な少女だが巨人族並みの腕力を持ってるし、バジリスクの魔眼にだって抵抗できるさ。それにこの辺に迷い込んでくる魔物の大半はコボルトリーダーやレッドキャップといった小型の魔物ばかりだから何の心配もないよ」
「…………」
何だろう。今まで心配でもなかったのにその言葉を聞いた途端、急にフラグが乱立したような気配がした。雑魚しか出ないから大丈夫……こういう台詞を吐くと大抵ロクなことが起きないのが異世界のテンプレ!
「俺、ちょっと見てきます。ミゼンの行く場所に心当たりとかありませんか?」
「ふむ……。それならせめて武器ぐらいは持って行った方がいいね。と言っても、あるのは君を刺したあのナイフぐらいだが……」
「構いません」
どんな武器でもないよりはあった方がいい。
クオウさんからナイフを受け取った俺はすぐに外へと出て行った。一本道だから迷うことはないと言ってたけど……何か嫌な予感がする。そしてこういう予感ってのは大抵悪い意味で当たっちまう。何事もなければいいけど……。
「あれ、意外と明るい……?」
地下だからてっきり松明が必要になるかと思ったんだが。光源を目で辿ると足下や壁に生えてるキノコや藻がうっすらと発光してるのが分かる。某ゲームに出てきた光るキノコをリアルで見るとは。……間違っても食べないし充電できるなんて思いませんよ?
ミゼンは強いから大丈夫だってクオウさんは言ってたけどやっぱ女の子の一人歩きって危ないよな。どれだけ強いかなんて分からなくても行くべきだ。杞憂で終わるのが一番だが世の中、そう上手くはいかない。
「はいはい、雑魚に用はないですよっと……」
洞窟内にも魔物が住んでいるらしく、暗闇とこちらの死角を利用して奇襲を掛けてくる小型の魔物。ナイフを一閃させるだけの簡単なお仕事。……あれ? 今気付いたけどもしかして俺が今間部食べた肉って魔物の肉?
……いや! これはきっと家畜用の魔物なんだ! だから食べても大丈夫なんだ!
足下に気をつけながらゆっくりと洞窟の奥へと進んでいくと広場の半分が土砂や岩盤で埋め尽くされた場所に出た。そして……人間よりも大きな岩をどかしているミゼンの姿。
「よぉ、何してんだこんなトコで」
「ハヅキ……」
持ち上げた岩を置いて、汗を拭いながら俺の姿を確認するミゼン。岩を運んだりしてたせいで顔や手は泥だらけ。制服や靴も酷い状態だ。
「何か無くしたのか?」
ふるふると首を振る。失せ物探しじゃないとすれば何だ? 土木工事? ……いや、奥へ通じる道は繋がってるからそれも違う気がする。
何をしているか頭を悩ませてると、ミゼンが短く答えてくれた。
「大剣……」
「大剣? それって俺が今朝尋ねたあの大剣のことか?」
こくんと頷く。ひょっとしてこの娘、自分のせいで大剣無くしたとか思ってる?
「あー、そこまで必死に探さなくても大丈夫だぞミゼン。そこまで大事なものじゃないから」
「でも……ハヅキが困る」
「んー……まぁあれば便利だけどさ……」
正直、使うならあんな無骨な大剣なんかよりミゼンが持ってる日本刀の方がいいと思うのは日本人の性だろうか?
「けど、落盤が起きたばかりで危ないだろう? ミゼンが俺の大剣を探してくれてるのは正直、すげー嬉しい。けどさ、そのせいでミゼンが怪我なんかしたら俺はすごく悲しいよ。剣は新しく買えばいいけど、ミゼンっていう友達はたった一人しかいないだろ? だからさ、研究所に戻ろうぜ。な?」
「…………なの……」
「えっ?」
「……わたし、たち…………とも、だち……?」
「そりゃ、出会って二日しか経ってないけど友達になるのに時間なんてカンケーねぇだろ?」
「……………………」
「ほら、そこ危ないから早く戻ってこいって」
それで納得したのか、ミゼンは作業を中止してこっちに近づいて来た。思いの外、聞き分けが良い娘で良かった。
「……新しいの、私が造る」
「はは、期待して待ってるよ」
そう簡単に武器が造れるのかっていう疑問は残るけどまぁいっか。
そのまま俺たちは肩を並べて研究所へ戻る──そんな風に考えていた時期が、私にもありました。
「…………」
「ミゼン? どうした」
突然、ミゼンが足を止めた。そうかと思えば無言で帯剣してた刀を抜く。さっきまでの彼女とは違う、糸を限界までピンと伸ばしたような張り詰めた緊張感、無邪気な瞳は氷のような冷たさを纏いつつも、触れれば火傷を起こしそうな熱さを帯びてる。
こんなにも真剣なミゼン、初めて見たぞ……。
「そこにいるのは誰?」
「そこって……誰かいるのか!?」
こくりと、小さく頷く。全体的に薄暗いってこともあるけど気配とかそういう厨二特有のそれに疎い俺からすればどうやってミゼンが異変を察知したのか不思議で仕方ない。
ミゼンの警告に対して相手からリアクションはない。無言で刀を構えるミゼン。打って出るつもりかと思ったそのとき、奥から何かが飛んできた!
「……っ!」
弾かれるように飛んできた何かに対してミゼンは刀を振り下ろし、彼女より一瞬遅れる形で回避行する。頬を浅く掠め、壁にぶつかると同時に水しぶきが肌に当たった。……水?
「やるわね。流石は戦闘特化に改造されたホムンクルス──いいえ、人形と言うべきかしら?」
そんな称賛と共に奥から現れたのは神官服を纏った女だが、普通の人と違って纏わり付いてる空気がもやもやしてるというか……とにかく普通じゃない。
「私にはミゼンという名前がある」
「あら、そうでしたの。でもその名前も所詮は識別コードと大差ないのではなくて?」
「……っ」
ギリッと、奥歯を強く噛み締める。かと思えば疾風のような速さで神官の頭上を取る。
速いなんてモンじゃない。殆ど瞬間移動だ。一体どうやって向こうまで移動して頭上を取ったのか全然分からない。
速さならミゼンが完全に上だ。しかも頭上からの攻撃。対処は限られている。そう思い、握り拳を作る俺。だが女の後ろから見覚えのある影が飛び出してくるのが見えた。
あれは……まずい!
「ミゼン!」
咄嗟に大声を出して注意を促す。その声に気付いたミゼンは自らの背後から迫り来る敵──地上で戦ったテラードレイクの片割れの存在に気付く。
「今更遅い! 【ウォーターブレッド】!」
神官が放つ水の攻撃魔法と、迫り来るテラードレイクの凶爪。身動きが取れない空中での挟撃。
殺される──
このままでは確実にミゼンの命は刈り取られる。攻撃を中断して防御に全神経を集中させても深手は免れない……と、思ったのだが──
「……っ」
迫る攻撃を前にしても、ミゼンは怯まなかった。目の前に障害などない……そう言わんばかり最短距離で刀を振り下ろす。防御を捨てた完全な攻撃。結果的に虚を突かれた神官は肩を斬られる。
だがミゼンも無事では済まない。爪で背中を深く抉られ、【ウォーターブレッド】の一撃を直撃したんだ。少なくとも致命傷は負ってる筈。治療はできなくても加勢──
「【ハイヒール】……っ!」
──しようと思ったらすぐに傷を癒して攻撃に回った。
ほぼワンアクションに近い動作で回復と攻撃を両立させるなんて、フィリーも強かった印象はあったけど彼女はそれ以上だ。
しかし、こうなるとナイフしか持たない俺はますますやることがない。このまま傍観に徹した方がいいだろう。下手に割り込んで邪魔するのも悪いし、何より今朝からどうも体調が優れない。
(寝不足……じゃあないよな)
なんて言うか……今朝からどうも身体全体がダルくて力が入らない。風邪を引いたときみたいな嫌悪感はない。意識もはっきりしてる。にも関わらず力が入らない。例えるならこれは身体の中に鉛を埋め込まれたような感じか、或いはネトゲーでよく見られるラグを実体験してるような違和感。
このまま加勢するべきか。それとも静観に徹するか。或いは博士に助けを求めるか?
選択肢はあった。少なくとも俺には選ぶ時間があった。
だがそれはらしくもなく横着していたせいで時間切れになった。……悪い意味ではないと言っておく。
刀を下段に構えたまま、ミゼンが消えた。
いや──消えたように見えたというべきか。一足で残像さえ浮かぶ速度でテラードレイクとの間合いを詰めた彼女はアッパー軌道で得物を振り抜く。朱色の曲線が闇の中に浮かび、塗料を付けた筆を弾いたように赤い飛沫がミゼンの服や顔、洞窟の天井や壁を染める。
ややあって、ごとりと何かが落ちる音がする。確認なんてしなくても分かる。しようとも思わない。流行りのTRPGっぽく言うとSAN値チェックして発狂とか勘弁。
テラードレイクを失い、劣勢と即断した神官は牽制にいくつも魔法を飛ばす。ミゼンはそれを気にとめることもなく、死体を足場にして跳ぶ。
火だるまならぬ水だるまになりながら刀を構え、射程に入ってすぐに振り抜き、水しぶきを上げて着地する。
「…………っ!」
この辺が限界だった。洞窟内に充満する血の臭いに嫌なモノを連想させる生温い風。目の前で直視した人の死。
今までは理性で無理矢理抑え込んでいたから首の皮一枚で耐えられた。魔物を殺してもう慣れた、という油断から生まれた慢心。
それでも耐える。口元を抑えて、みっともなく膝を付く。これ以上の失態は絶対に見せないと意地で乗り切る。
「ハヅキ……? どうしたの?」
「平気だ……何でも、ない」
ミゼンの声でいくらか落ち着きを取り戻し、苦労しながら立ち上がる。死体は直視しない。ばっさり殺られてるとは言え、見ていて気持ちののいいものじゃない。
「嘘……ハヅキ、辛そう」
真っ直ぐ俺の目を見て否定すると、両腕で脇と膝の内側を取ると苦もなくひょいと抱き上げる。
……野郎のお姫様抱っことか誰得?
「み、ミゼン?」
「ハヅキ、歩けないから運ぶ」
「だ、大丈夫だから──」
「運ぶ」
「だから大丈──」
「だめ」
結局、ミゼンに押し切られる形で研究所へ戻る形となった俺。そんなこんなで研究所に戻ってから俺はすぐに検査を受けることになった。体調不良を簡単に説明したら急にクオウが言い出したからだ。
検査と言っても特別なことはしてない。特殊なレンズで体内に流れる魔力の流れを視たり少量の血液を採取したりする、その程度の検査。
そして夕食後、クオウの口からこんな言葉が出てきた。
「このままだとキミの身体は、持って二日。早くても明日の夕方には消滅する」
拝啓、両親へ。余命一ヶ月ならぬ余命二日の息子はとんでもない親不孝者です。
順調に執筆速度が落ちてる今日この頃。展開考えても見切り発車した結果がこれだよ!