四話 私は軽い女じゃない。彼だからこそ、私はその身を委ねた ──クレスメント・イリーガル・フォン・セダス
2013/7/23
本文を大幅に加筆修正。
酒に呑まれるほど下戸ではないが、何も考えずに寝たいときは瓶一本丸々飲み干してから寝る。酔っ払う訳でもないが、そうすることで大分気持ちが楽になることを経験として知っている。
だが今日に限って少しも酔いが回らない。どころか、このまま浴びるほど呑んで何もかも忘れたい気分だ。
「最悪……」
空になった空き瓶をごろんと転がし、仰向けにベッドに倒れる。一国の命運を賭けた英雄召喚。本来なら私情を挟むなど言語道断も酔いところ。理屈ではそれを理解しているが、感情が追いつかない。
(男なんて……)
男なんて、皆同じだ──
そう思うようになったのはいつからか、クリスティナは覚えてない。
先代──つまり母親の夫は大貴族の子息だった。礼儀正しくて自分の能力を自慢したりするような男ではなかったが、なんてことはない。善人を演じていたのはセダス国に伝わる召喚術を会得する為の手段だった。
そのことに酷くショックを受けた母親は以来、極度の男性不信に陥った。それは双子たちにもしっかりと受け継がれる筈だったが、残念なことにクレスメントはそんなの何処吹く風とばかりに男には勿論、外の世界にも興味津々といった様子だ。
彼女はきっと、あの男を口実に出奔するに違いない。伊達に姉妹ではないのだ。そのくらいは意思疎通を図らずとも分かる。
「あの男のことが気に入りませんか」
「トトゥーリア……」
音もなく部屋に上がり込んできた部下を見やる。
全身を白いフード付きのローブで纏った魔術師。一切の素性は分からないが彼女はいつも的確な助言を与えてくれた。そのお陰で助かったのは一度や二度ではない。
「あれを飼い慣らすにはどうすればいいと思う?」
「お言葉ですがクリスティナ様、あの男は稀代の英雄と評しても差し支えがない程の逸材。いかな私とて、あの男を飼い慣らすには相応の準備をしなければなりません。そしてそのようなことを悠長にしていられるほど、時間は残されておりません」
トトゥーリアの言い分に眉一つ動かさず、思案する。
魔王をどうにかしたい。その気持ちに偽りはない。そもそも相手は野放しにして良いような存在ではないからだ。
だが個人的な感情を抜きにしてもあの男から協力を得るのは限りなく無理だと踏んでいる。こちら側の第一印象の悪さもそうだが、何より相手も協力的な態度とは言えなかった。
「提案が御座います」
そしてそんなクリスティナの胸中を見透かしたように、フードを目深に被った魔術師が言った。
「通常、召喚術は同じ人間が立て続けに行使するのは不可能。例外があるとすれば現在召喚されてる英雄が死ぬこと。ですが、あの英雄の手綱を握るのは一筋縄では参りません。そこで、妹君に召喚術を行使させればこちらにとって都合の良い駒が手に入りましょう」
「クレアを? だけどあの娘は──」
「何もクレスメント様が自分の意思で召喚術を使う必要はありません。仮にクリスティナ様が再召喚を行ったところで、貴女の素養の高さ故に同じ鉄を踏む可能性が出て来ます。その点、妹君ならばそうした心配も御座いません」
「根本的な問題が解決してないわ。確かにあの娘も教養として召喚術は覚えているけど、無理矢理使わせることなんて──」
「それが可能であるからこそ、こうして提案しているのです。もっとも、妹君は女尊男卑の象徴たるセダスに相応しくないということで使い潰す予定で御座いますが」
「それは……ッ!」
「よろしいですね?」
目深に被ったフードの奥できらりと何かが赤く光る。一瞬で高ぶった感情は冷や水を欠けられたかのように静まり、次第に理性が麻痺していく。
彼女の言う通りにするべきだろう。妹は国益よりたった一人の異邦人を優先した。表向きの理由などいくらでも付けられる。なら、さっさと捉えて再度召喚術を行う為の捨て駒にするのが上策ではないか。
「……分かったわ、トトゥーリア。全て貴女に任せる」
「御意のままに」
フードの奥で僅かに口元を釣り上げるトトゥーリアの様子に、クリスティナが気付くことはなかった。
やることが決まれば動くだけだ。思い立ったが吉日という諺があるぐらいだ。
翌朝まで待たず、汗を拭くことももどかしく思いながらクレアに渡された服を着る。コンプレックスに感じてることだが、どうも俺は中性的な顔立ちのせいで女に見間違われることがある。男としてそれは流石にどうかと思うが今回はプラスに働いたので良しとしよう。
鞄の中に最低限の荷物だけ入れて廊下に躍り出る。クレアは準備があるとか言って一足先に出ていった。
ソーラー電波タイプの腕時計に目を落とす。時刻は午前二時。普段の俺ならそろそろ寝る時間だ。流石に時間が時間なので行き交う使用人や騎士の姿は殆どない。一度だけ、巡回の兵士とすれ違ったがクレアに押しつけられた女物の服を……その、完全に着こなしているせいか、全く気にとめられなかった。
そもそも内部の人間には俺が男だと伝わっている。そういう先入観も一役買っているに違いない。
(えっと、確かこの角を曲がった先だったな)
即席の地図を頼りに目指しているのは厨房。念の為、人の気配がないか中を伺う。当然、厨房内の明かりは落ちている。誰かが居る気配もない。
それを確認した俺は姿勢を低くし、忍び足で移動する。厨房の床の一部は排水を兼ねた穴がある。パッと見た感じ、小さな排水口だが上辺には細工が施してある。それを解除すれば人が入れるぐらいの大きさになる。
教わった通りの手順で排水口の穴を広げて金網状の蓋を開けると錆び付いた梯子が姿を現す。音を立てないよう慎重に降りて、排水路に出て道なりに進んでいく。
夜の城内に響くのはパシャパシャと響く水音だけ。異臭に顔を歪めながら走り続けると行き止まりにぶち当たる。だが少し上に目を向けると何かを動かした跡がはっきりと残っている。その跡をなぞるように押し上げると清涼な空気が流れ込んできた。
そして──
「待ってたよ、ハヅキ君」
とびっきりの笑顔を浮かべたクレアが手を差し伸べていた。
何の迷いもなく、クレアの手を掴む。当然、外は真っ暗。光源らしきものは何一つ存在しない。
今、この場に居るのは俺とクレア──いや、それとあと複数の気配がする。
自分でも何故そんなことが分かるのかと言われても困る。例えるなら周りの状況を俯瞰的に観察しているような感覚か。
その中で一番強い気配のする存在が一歩前に出る。遅れてクレアがその存在に気付く。
「困りますよ、姫様。一国の姫君ともあろう御方が夜逃げも同然に国を去るなど」
「ふん。誰かと思えばトトゥーリアじゃない」
まるで視界に収めるだけでも生理的に受け付けない存在に出会ってしまったかのような反応を見せ、抜剣する。
「まどろっこしいのは性分じゃないからキッパリ言うわ。私はハヅキ君と一緒にこの国を去る」
「魔王はどうするのです? 魔王を倒せるのは異界の英雄だけです」
何だろう。この言葉のドッジボールを、あの女が意図して引き延ばそうとしているように感じるのは。あいつのすぐ側に控えている二人の護衛も手を出してくる気配がない。
「魔王討伐は国家間を超えた問題よ。そもそも私一人抜けたところで戦力的には痛くもかゆくもない。寧ろ私がいなくなれば跡目争いがなくなるんだからそっちの方が都合がいいでしょ」
「子供のような理屈を並べられても困りますよ。国家間を超えた問題だからこそ、一人一人が全身全霊を持ってあたるべき問題ではないですかな?」
トトゥーリアと呼ばれてる魔術師っぽい女に注意を向け、神経を研ぎ澄ませてみる。
外見は分からない。
話してる内容も普通。
気配──護衛二人と比べて微かだが何かが揺れ動いてる。そしてそれは少しずつ、しかし確実に大きなうねりとなっている。
良く分からないがこれはヤバい感じがする。少なくとも黙って傍観して良い展開じゃないってのはぼんやりながら理解した。
「そもそも王族の責務というのは──」
トトゥーリアの言葉に被せるように、俺はクラウチングスタートの体勢を取り、一気に加速した。模擬戦の時に渡された仮称・鉄の剣をトトゥーリア目掛けて振り下ろす。
ぱりぃいんっ! と、硝子が割れたような甲高い音が響き、出遅れた形で護衛兵が抜剣して迫る。
「チッ、勘の良い奴だ。大方そこの女に口八丁で騙されたのでしょう。……やってしまいなさい」
辺りが暗闇であったことが幸いしたのか、相手は俺を男だと認識できなかったらしい。
そんなことを頭の片隅で考えながら俺は護衛兵二人を相手取る。硝子のような何かを破壊したときに押し込まれたので必然、先手は相手側となる。
右側の兵士が剣を水平に構えて、体重を乗せた突きを放つ。がぁんっ! と、側面を叩くように弾いてその勢いを利用して身体を回転させて斬り掛かる。
超スピードで振るわれた仮称・鉄の剣は簡単に護衛兵の鎧に食い込み、刀身を半分ほど食い込ませて根元からパッキリ折れる。激痛に耐える兵士にショルダータックルをかまして押し倒した際に武器を奪い、全力で顔を踏みつける。
と、そこでトトゥーリアの目が怪しく光っていることに気付いた俺は遮二無二駆けて斬り掛かる。予想以上の速さに目を見開くトトゥーリア。側に控えていた護衛兵が身を挺して盾となる。
奪った剣を自動的に振り下ろす。護衛兵とトトゥーリアと一緒に肩口に刃が食い込む。不快な手応えと顔に掛かる鮮血。不思議とパニックになることはなかった。
剣を引き戻すのももどかしく思った俺は前蹴りで二人纏めて蹴り飛ばす。血糊を払う事もせず、下段から斬り掛かる。
と、そこで背後から別の気配が迫るのを感じる。だがそれは俺が振り向くよりも早く、注意を促してきた。
「ハヅキ君避けて!」
命じられるまま、サイドステップを踏む。斬り掛かってきたのは──クレア!?
だが彼女の踏み込みは素人の俺でも分かるぐらい鈍い。足取りもしっかりしていない。一体彼女の身に何が……?
「私は、今……あの女の、魔眼に……掛かってる…………」
途切れ途切れになりながらクリアが説明してくる。その間にも斬り掛かってくるクレア。そしてそれをどうにか防ぐ俺。
「完全に、抵抗……するの、無理……だから、逃げ、て……」
「ふむ。流石は腐ってもセダス国の王族ですか。不完全な発動とはいえ、私の術にここまで抗えるとは、正直予想外です」
「お前……っ! クレアは仕えるべき相手じゃないのかっ!」
「おかしなことを言いますね。私達には成さねばならない目的があります。その為ならばどんなことでもする。当たり前でしょう?」
「……ッ」
多分、その一言が決定打になったと思う。
如月家の大黒柱である親父は所謂一流企業の社長を務めてる。強引な経営手腕も去ることながら、少しの容赦もなく社員を切り捨てる冷酷さを兼ね備えてる。
弱者は淘汰されるか搾取される為だけに存在するとは、親父の弁。そしてこのトトゥーリアという女からはその親父と同じ人間に思えてならない。
「……アンタも糞親父と同じ人間かよ…………」
熱が込み上げてくるのが分かる。だがこれに呑まれてはいけない。自分の感情をコントロールするのは専売特許だ。
いつものように一呼吸で感情を制御する。但し、その熱は全て原動力に回す。
無言で一足飛びしてクレアの隣をすり抜けてトトゥーリアへ斬り掛かる。だがその進路を阻むように目の前に現れたのは蛇の顎を象った無数の骨。直感に従って無理矢理身体を捻り、横っ飛びで回避。顎の一つが右腕に噛み付いた途端、あまりに強烈な死のイメージが頭の中に流れ込む。そのイメージに思わず身を委ねそうになった弱い心を叱責するように吼えて、更に距離を取り、自我を保ったまま襲い掛かってくるクレアの剣戟を弾く。
「ふむ。やはり即死魔術もレジストしますか。……しかし、全く効果がない訳でもないようですね」
「即死魔術……」
それはあれか。ド●クエのザラキや●Fのデス、メ●テンのムドオンみたいなやつか。
決まりさえすれば例えどんなにレベルが高くても、HPや防御力がカンストしていても、一撃であの世へ送る魔術。
……冷静に考えればこりゃチートだな。相手の強さに関係なく殺せるんだから。
「ハヅキ君、逃げて……こんな、とこ、ろで……死にたく、ないでしょ……」
必死に自我を保ちながら懇願するように訴えるクレアと、その後ろで即死の魔術を纏った顎を立て続けに飛ばしてくるトトゥーリア。
誰だってこんな状況になれば逃げるに決まっている。頼みの綱であるクレアは操られてる。しかも相手は即死魔術なんていきなり反則級の魔術を使ってくるような敵。ゴブリンだと思って舐めてかかったら実は中級ダンジョンに登場する色違いのゴブリン、みたいな衝撃だ。
あぁそうさ。この状況、逃げたって別に恥ずかくはない。誰だって自分の命は惜しい。他人との命を天秤に掛ければ必然、自分の命が勝る。
だけど俺は知っている。その選択肢は始めから俺の中にはないってことを。
「ハヅキ君!?」
驚愕するクレアを余所に、斬撃の隙間を縫うように力任せに押しのけて最短距離でトトゥーリア目掛けてダッシュ。
俺の身に降り掛かったこの状況は確かに不幸なものかも知れない。見知らぬ世界の外には魔物が闊歩し、日本基準の平和とは縁遠い世界。
チート……と言っていいか判断に困るが、とにかく俺はこの世界じゃ簡単に死なないらしい。それでもきっと死ぬときはあっさり死ぬだろう。それは魔物との戦いが原因かも知れないし、伝染病が原因かも知れない。
だけど一つだけ、この世界には救いがある──
「おぉおおおおっ!」
飛んでくる顎に向けて矢継ぎ早に剣を振るう。打ち漏らした顎が絡みつき、内側から死の淵へ引きずり込もうとするそれを気力でねじ伏せる。
地面に縫い付けられそうな足を引き剥がしながら前進。進路を妨害する護衛兵の腕を切り落とし、殴り飛ばす。日本なら傷害罪で大騒ぎかも知れない、なんて頭の片隅で思いながら距離を詰める。
「……何故引かないのです? 私は別にあなたに用事がある訳ではないのですが。わざわざ争いに首を突っ込むなど愚者のすることですよ」
「クレアに愛想尽かされたくないからな、格好付けるなら今しかねぇだろ!」
気合い裂帛。体当たりをするように剣を突き刺すも、見えない硝子のようなものによって阻まれる。二度三度叩き付け、力業で結界を破るも、距離を取られてしまった。
埒が明かないと、即断した俺は全身全霊を込めて仮称・鉄の剣を槍投げのように投擲し、それに追随するように走る。
ほんの一瞬、結界と拮抗する。そこに拳を叩き込んで後押しして破壊。生まれる僅かな隙を逃さないように手を伸ばしてフードを掴み、引き寄せてそのまま首をがっちり固定して一息でへし折る。
躊躇いはなかったが、罪悪感はある。俺は今日、自分の意思で人を殺す選択を取った。
だが──
「えっ……?」
首を折られたその身体は突然、泥のように溶け落ちた。まるで始めから人間ではなかったかのように……。
「一体、何が……」
「始めから偽物だったんだと思う」
偽物を倒したことで呪縛から解放されたクレアの声。正直、殺すつもりでやった俺としてはちょっと拍子抜けなんだが……。
「私を操ったとはいえ、それは不完全なものだった。本物のトトゥーリアなら私の自我を乗っ取るぐらい訳もないわ」
「そう、なのか……」
何となく釈然としないが、専門家がそう言うってことはきっとそうなんだろう。
「それよりハヅキ君、どうしてあんな無茶したの? いくらハヅキ君が強いからと言っても即死魔術を何回も受けたら死んじゃうかも知れないんだよ?」
「まぁ、確かにそうだけど……」
あのとき、俺が即魔術を前にして飛び込めたのはきっと物理的に即死させる魔術じゃなかったからだと思う。耐え難い激痛を伴うような魔術なら俺はきっとクレアの言う通り、逃げてたかも知れない。
そうクレアに説明しても、彼女はまだ何処か納得してない様子。
「で、本当のところどうなの? 格好付けたいだけじゃないんじゃない?」
「……なんで分かるんだ?」
「ふふん。愛の力よ」
安い愛もあったもんだ……とは言わないでおく。
「あー……それはほら、無事セダス国から脱出してからってことで」
「むっ、正論で話を逸らしたわね。……まぁいいわ。続きはちゃんと聞かせてもらうからね」
そう言って、とびっきりの笑顔を向けるクレア。その表情は年齢イコール彼女居ない歴の俺からすれば核兵器に匹敵する破壊力だった訳で、その……ちょっと暴走して抱きつきそうになった……けど! 理性が勝ちましたよ皆さん! めっちゃ褒めて欲しいです!
その後、クレアが用意した真っ黒で毛並みの良い、かなり大きな馬に跨がって俺たちはセダス国を出立した。クレアは一度も振り返らない。思うところもないのか、それとも感傷に浸る余裕がないのか。
「良いのか?」
馬に揺れながら、尋ねてみる。
「うん。特に大きな未練とかないし、最低限の準備しか出来なかったけど後から必要なものが出てくると思うけどそれは全部専属侍女に言っておいたから」
抜かりないな、このお姫様は。
「で、結局ハヅキ君はどうして私を助けてくれたの?」
「格好付けたかったから」
「嘘ばっかり。ハヅキ君そんな人じゃないでしょ。ほらほら、お姉さんにだけこっそり教えなさいって」
むにゅむにゅと、胸を押し当てながらの尋問に俺はひたすら耐える。隠すほど大層なものじゃない、強いて言うなら理由にすらならないような理由だと判断したから。
日本に居た頃の俺は底辺に居た。望んで底辺に落ちたのか、そこに落とされたのかは判断が付かないが、間違いなく俺は底辺の住人、つまりはマイナスだ。
だけどこの世界の俺はマイナスでもプラスでもない。ゼロから始めることができる。それが、俺がこの世界に見出した唯一の救い。
マイナスから立ち直るのではなく、ゼロからのやり直し。
ともすればこれは二度目の人生とも解釈してもいい。死んでないけど。
俺は一度、日本で失敗した。だからこそ、こっちの世界では同じ失敗をしたくない。結論から言えば、そういうことだ。
「今度こそ……」
「ん? 何か言ったかな、ハヅキ君?」
「いや、クレアって胸大きいなぁーって」
「ふふん。自由にしたいでしょう? 自由にしたかったら素直に吐いちゃいなさい?」
リア充みたいなやり取りをしながら、俺たちを乗せる馬は夜の大地を颯爽と駆けていった。
「やれやれ。欠片とは言え素質だけでここまで圧倒するとは」
遠ざかっていく馬を見送りながらフードを目深に被ったトトゥーリアは他人事のようにコメントした。葉月たちと対峙したときと寸分違わない姿をした年齢不詳の女は──いや、男とも女とも取れる声の主は闇に溶け込むかような佇まいで二人を見送る。
トトゥーリアにとって、クレスメントの確保は実のところそれほど重要なことではない。仮に首尾良く洗脳できたとしても、彼女が呼ぶ英雄の質などたかが知れている。
弱い英雄を支配下に置いて魔王と戦う──それでは困るのだ。
炉の炎にやかれるようななまくらなど論外。鉄をも溶かす炎に焼かれ、槌で叩かれること名剣となる。彼女の主が求める英雄はまさにそれだ。
現在、トトゥーリアの眼鏡に適った人柱は彼を含めて三人。だが、まだ足りない。
「まぁ、その辺は気長に探すとしましょうか」
誰に言う訳でもなく、独り言を呟く。やがて彼女の姿は漆黒の闇に溶けていった。
やる気さえ出れば半日で修正できる。
そう感じた作者でした。